レッドリアリティ

アタラクシア

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4日目

凶撃

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刀をブンブンと振り回しながら歩く。事前の練習か。なかなかに重たい刀に手こずっている様子だ。

2歩ほど前にいる氷華は特に気にせず歩いている。目的地は坂野家。特に裏切る理由もない桃也を警戒する必要はない。だから何も気にせずに歩き続ける。

「……ねぇ」

だとしてもだ。無言は気まづい。そんなことを言ってる余裕はないとは思っても、なんとなく話したくなる。

「なんだ?」
「小次郎さんのこと……心配じゃないの?」
「まぁそりゃ心配っちゃ心配だ。生きてるならアイツも助ける」
「そう……」

また無言になる。桃也はずっと刀を降っていた。疲れてきたのか、振るスピードが少しずつ遅くなっている。

「どうして急に?」
「なんとなく……」
「そうか」
「……美結さんと凛ちゃんを愛してるのはわかった。けど小次郎さんのことはどうなの?」

「んー」と考える声を出す。刀を振るのをやめ、顎に手を当て考える。

「お世辞にも桃也は他人を好きになるタイプじゃないでしょ?」
「酷いな」
「じゃなきゃ私のこと拷問なんてしない」
「まぁ反論はしないけど」
「小次郎さんは特別なの?」
「どうだろうな。小さい頃から一緒だったってだけだし。俺からしたら他人と変わらないかも」
「ふーん。変だね」

氷華の後ろから「ムッ」と声が聞こえた。

「変なのはお前もだぞ。俺はお前のこと拷問したってのに……お前、俺に対して怒っても怖がってもないだろ」
「怖いのは怖いよ」
「怖がってたの最初だけだろ」
「そ、そうだっけ?」
「普通はもっと怖がるもんだぞ。状況が違うとはいえ、少なくとも今まで拷問してきたヤツらは怖がってた」
「……そんなにいっぱい拷問したの?」
「うん」

……やはりこの男は怖い。心の中で思い直す。しかしそれでも桃也のことを嫌いになることも、怒ることもできない。

尽きることのない疑問の中――氷華は1つの可能性を見つけた。それは決していいものとは言えない。人に誇れるようなものではない。

だがそう思ってしまったら、もうそうとしか思えなくなってしまった。――桃也の顔を見る。思いついた考えは、桃也の顔を見る回数に比例して、より強固なものへと変わっていった。

「私は――」





――爆裂する火薬音。炸裂する銃弾。桃也の斜め前にあった木に銃弾がめり込んだ。

「まじか――!?」

木を壁にして隠れる。銃弾は南南西から放たれた。だから北北東へと身を隠す。桃也の反応に合わせて氷華も隠れた。

冷や汗が背中を伝う。緩んだ空気が鞭を打ったように引き締まった。

「当たらなかったのは幸いだな……」
「……多分んだと思う」
「え?どういうことだ?」
「森の中。そしてライフルでの狙撃。おそらく相手は――」





「――羽衣桃也!!!!」

猟虎の声が森中に響き渡る。さっきの銃声よりも体感は大きい。

「声がデケェよ!!叫ばなくても聞こえてる!!」
「今すぐ氷華を引き渡せ!!そしたら楽に殺してやる!!」
「そんなつもりもないくせに……」

刀を握りしめる。不敵な笑い。まるで獣のような殺意を見せる桃也を氷華は心配そうに見つめる。


「……ここに来て『やっぱ殺したくない』はナシだぞ」
「そんなことない。もう覚悟は決めた」
「ならその覚悟を揺らがせないようにしないとな――お前は先に行け」

合理的な判断。間違いとは言えない判断。しかし氷華は首を縦に振らない。

「む、無茶だよ。銃もないのにお兄ちゃんに勝てるわけない」
「そこはどうにかする。それに覚悟したといっても、兄貴相手にしたら必ず躊躇するだろ」
「それは……」
「幸い、アイツの目的は俺だ。お前なら楽にこの状況から逃げられる。――行ってくれ。頼む」


――氷華はまた覚悟を決める。兄を見殺し……言い方が違うような気もするが、とにかく兄とは決別する。

銃弾に注意しつつ、氷華は木の影から走り出した。後ろは振り向かない。これから起こる戦いに、氷華は興味を持たなかった。



銃を構えようとする猟師。銃身を握って猟虎はそれを止める。

「氷華はいい。殺すな。それよりも――」

猟虎が見つめるは一点。その先は桃也が隠れている木。

「今すぐそこから引きずり出してやるよ。羽衣桃也」


大きく息を吐く。生まれた緊張を吐き捨てるように。抑えきれない笑みを浮かべながら、桃也は持ってきていた仮面を付けた。

「ならこっちはお前の臓物を引きずり出してやるよ」
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