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4日目
決別
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後方から銃声が聞こえてくる。当たったのだろうか。立ち止まって考えたいが、そんな時間は無い。
氷華はひたすら走る。山を降りれば直ぐに自宅へと着く。包囲されているか封鎖されているか……。どちらにしろ行くしか残された道はない。
持っているのはナイフ1本。これだけでは戦いにならない。全てを終わらせるため、氷華は山を滑るように降り続けた。
「――良かった。封鎖も包囲もされてない」
坂野家。肩を揺らして呼吸をしながら、その表札を眺めていた。周りに村人はいない。どこかに集まっているか、家の中に引きこもっているか。それとも逃げたか……。
逃げている方がありがたい。数が少ないほど状況はよくなる。
「変わっているところはない……鍵も空いてる」
周りに注意しながら扉を開ける。目の前に現れた景色は昔と何ら変わらない。だが久しぶりに訪れたような気分だ。
「……長居はできない」
言葉は事実だ。自分の家に長居はできない。覚悟していたことだ。
――自分の知り合いと戦うことになることも。
「神蔵おじいちゃん……」
居間。初めて桃也が坂野家へと訪れた際、氷華に連れていかれた場所だ。
そこに居たのは遠藤神蔵。紫の袴、白髪の生えた髪。そして鬼神の如き表情を氷華に見せている。黒い眼光は今にも死にそうな老人と思えないほどの威圧感を放っていた。
まるでオーラが出ているかのような。まるで陽炎のような。神蔵の周りの空気が歪んでいるかのような。少なくとも氷華の眼からはそう見えた。
「……氷華」
腰に携えた刀。柄を氷華の方向へ向ける。『今からお前を斬り殺す』とでも言わんばかりだ。そのオーラからほとんど確実と言ってもいいほど感じ取れる。
「戦わないって選択肢はある?」
「ある……お前が抵抗せずに儂に斬られてくれれば戦わなくて済む」
「そう。つまりないってことね」
やるしかない。ナイフを取り出して前に構える。対人戦などしたことないが、それでも後には引けない。
「すまないな氷華。こうするしかない」
「いいよ。おじいちゃんも私のためを思ってなんでしょ。拷問をさせないために殺そうとしてる」
「……」
「でも殺される気も捕まる気もない。ましてや拷問される気もね。止まる気がないなら――おじいちゃんも殺す」
「それでいい。無駄話はこれまでだ――」
――刹那の金切り声。同時に氷華の体が後方へと飛んだ。
「――!!」
刀は抜かれている。鞘から抜く瞬間が見えなかった。小次郎の時にも見せた居合切りだ。
「――やっぱり速い」
氷華は見てから避けたのではなく、ほとんど予知じみた予測で避けた。十分神業。運もある。それでも完全に避け切ることはできなかったようだ。
速さとは力。高速で抜かれた刀と衝突したナイフは力に耐えきれなかった。鋼の刃は直線の跡をつけてへし折られている。
それだけでは無い。自分の胸部。服と薄皮を少し切り裂いていた。あと半歩でも前に踏み込んでいれば致命傷は必然だった。
命が助かった余韻に浸っている場合ではない。神蔵は再度構える。今度は刀を鞘に収めない。狙ってくる場所は脳天――。
――受け止められない。兎のように真横へと飛んで回避する。
回避は成功。刀は下の畳に突き刺さった。――好機。着地と同時に踏み込む準備をしておく――。
「ぬぅ――!!」
畳をえぐりとるように刀を捻った。そのまま上へ。つまり切り上げるようにして刀を振るう。
「――」
――咄嗟の判断。山で鍛えられた危機察知能力が役に立った。すぐさま動き直して、また後方へと飛ぶ。
「っっ――!!」
襖を破って縁側へ。いきなり動きを変えたので着地が間に合わずに体勢を崩した。
これもまた隙。チャンスを逃がすほど老いてはいない。細い脚に極限まで力を入れて踏み込む。そして刀を振るう――。
「――っあ!!」
下半身に力を入れて床から反発。後転するようにして刀を避けた。
「昔からそうだったな。お前はいつもすばしっこい……!!」
「若さの象徴だね」
攻撃は終わらない。軽口を叩く氷華の首を断ち切ろうと、神蔵の刀が振るわれる。
氷華はひたすら走る。山を降りれば直ぐに自宅へと着く。包囲されているか封鎖されているか……。どちらにしろ行くしか残された道はない。
持っているのはナイフ1本。これだけでは戦いにならない。全てを終わらせるため、氷華は山を滑るように降り続けた。
「――良かった。封鎖も包囲もされてない」
坂野家。肩を揺らして呼吸をしながら、その表札を眺めていた。周りに村人はいない。どこかに集まっているか、家の中に引きこもっているか。それとも逃げたか……。
逃げている方がありがたい。数が少ないほど状況はよくなる。
「変わっているところはない……鍵も空いてる」
周りに注意しながら扉を開ける。目の前に現れた景色は昔と何ら変わらない。だが久しぶりに訪れたような気分だ。
「……長居はできない」
言葉は事実だ。自分の家に長居はできない。覚悟していたことだ。
――自分の知り合いと戦うことになることも。
「神蔵おじいちゃん……」
居間。初めて桃也が坂野家へと訪れた際、氷華に連れていかれた場所だ。
そこに居たのは遠藤神蔵。紫の袴、白髪の生えた髪。そして鬼神の如き表情を氷華に見せている。黒い眼光は今にも死にそうな老人と思えないほどの威圧感を放っていた。
まるでオーラが出ているかのような。まるで陽炎のような。神蔵の周りの空気が歪んでいるかのような。少なくとも氷華の眼からはそう見えた。
「……氷華」
腰に携えた刀。柄を氷華の方向へ向ける。『今からお前を斬り殺す』とでも言わんばかりだ。そのオーラからほとんど確実と言ってもいいほど感じ取れる。
「戦わないって選択肢はある?」
「ある……お前が抵抗せずに儂に斬られてくれれば戦わなくて済む」
「そう。つまりないってことね」
やるしかない。ナイフを取り出して前に構える。対人戦などしたことないが、それでも後には引けない。
「すまないな氷華。こうするしかない」
「いいよ。おじいちゃんも私のためを思ってなんでしょ。拷問をさせないために殺そうとしてる」
「……」
「でも殺される気も捕まる気もない。ましてや拷問される気もね。止まる気がないなら――おじいちゃんも殺す」
「それでいい。無駄話はこれまでだ――」
――刹那の金切り声。同時に氷華の体が後方へと飛んだ。
「――!!」
刀は抜かれている。鞘から抜く瞬間が見えなかった。小次郎の時にも見せた居合切りだ。
「――やっぱり速い」
氷華は見てから避けたのではなく、ほとんど予知じみた予測で避けた。十分神業。運もある。それでも完全に避け切ることはできなかったようだ。
速さとは力。高速で抜かれた刀と衝突したナイフは力に耐えきれなかった。鋼の刃は直線の跡をつけてへし折られている。
それだけでは無い。自分の胸部。服と薄皮を少し切り裂いていた。あと半歩でも前に踏み込んでいれば致命傷は必然だった。
命が助かった余韻に浸っている場合ではない。神蔵は再度構える。今度は刀を鞘に収めない。狙ってくる場所は脳天――。
――受け止められない。兎のように真横へと飛んで回避する。
回避は成功。刀は下の畳に突き刺さった。――好機。着地と同時に踏み込む準備をしておく――。
「ぬぅ――!!」
畳をえぐりとるように刀を捻った。そのまま上へ。つまり切り上げるようにして刀を振るう。
「――」
――咄嗟の判断。山で鍛えられた危機察知能力が役に立った。すぐさま動き直して、また後方へと飛ぶ。
「っっ――!!」
襖を破って縁側へ。いきなり動きを変えたので着地が間に合わずに体勢を崩した。
これもまた隙。チャンスを逃がすほど老いてはいない。細い脚に極限まで力を入れて踏み込む。そして刀を振るう――。
「――っあ!!」
下半身に力を入れて床から反発。後転するようにして刀を避けた。
「昔からそうだったな。お前はいつもすばしっこい……!!」
「若さの象徴だね」
攻撃は終わらない。軽口を叩く氷華の首を断ち切ろうと、神蔵の刀が振るわれる。
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