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4日目
斬幕
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――またもや回避。刀は隣の襖を切り裂く。
こんなことではへこたれない。回避の距離はさっきよりも短い。まだまだ刀が届く範囲。しかも体勢が整ってないときた。
体を回転させて威力を高める。ただでさえ強い力をさらに強化し、氷華の頭に叩きつけた――。
「――ぐふっ!?」
――なんと先に攻撃が当たったのは神蔵の方。近づけなかったのはお互い様。刃の折れたナイフでも殺傷力は全然ある。
射程と重さのある刀より、小型のナイフの方は速いのは子供でも分かるだろう。薄い腹部に突き刺さったナイフはそんなことを言っているかのようだった。
追撃の突進。体を崩させて更に攻撃を加えるつもりだ。――しかし不覚はこれ1度のみ。もう二度とない。
刀の柄を氷華の後頭部に叩きつける。骨から脳へ。目玉が揺れるかと思うほどの衝撃が氷華を襲う。
「っ――」
今度は膝蹴り。突進によって低くなった体。ちょうどいい位置に氷華の鼻があった。
「ぐっ――!?」
鼻血が神蔵の袴に付着する。痛みで削がれた集中力。そこにさらなる追撃が加わった。
鞘での一撃だ。袴に刺していた鞘を氷華の腹部に突き刺す。もちろん重い。刀ほどではないにしろ、必要過分の殺傷力があった。
「が――」
距離が離れる。刀の射程距離内。だが神蔵は構えていない。なぜなら加える攻撃は刀によるものではないからだ――。
回し蹴り。小柄な体を回転させて氷華の頬を足が貫く。衝撃が頭を揺らした。巨人につままれたように、氷華は頭から襖を破って居間へと蹴り飛ばされた。
崩れ落ちる体。消えかかる意識。朦朧とする頭の中で思い出す。
(そうだ……おじいちゃんは強いんだ……)
神蔵は遠藤家の元当主。今は当主の座を義明に譲っているものの、その強さと貫禄は今なお健在。そこいらの野生動物よりも圧倒的に強いはずだ。
(正統法で勝てるわけない……)
初めから分かっていた。だから――策を弄したのだ。
確信。神蔵は確かな勝利の自信を得ていた。これはいつもの光景。最近は見ていなかったが、当主の時代では日常の風景だった。
村の供物として人を攫う。その使命を預かっていた。――誘拐の際には抵抗する者もいる。その制圧に何度も刀を振るった。
殺してしまった時は鴨島家に怒られた。だから殺さないように。かといって抵抗もできないくらいにまで痛めつける場合もある。
ガクガクと震えている氷華。恐らく恐怖からじゃなく、何度も頭にダメージを喰らった影響だろう。――このような状態に何度も人間を追い詰めた。
「……すまない」
刀を振り上げる。もう当主の座からは降りた。苦行を行う必要はない。
昔からずっと見てきた。もはや孫も同然。そんな子を拷問させる、なんてことはできない。身勝手。きっと今まで攫ってきた人は全員がそう思ってるはずだ。
自分だけこんなことをするのは身勝手なのは分かっている。……許して貰おうなどとは思っていない。せめて苦痛は地獄で。被害者たちの恨みは地獄で晴らして欲しい。
神蔵はそう願った。そう思った。しわくちゃの顔から涙が流れる。だが躊躇いはしない。氷華の首に刀を振り下ろした――。
――血が流れる。首からだ。切り裂いた動脈から滝のように、津波のように血が溢れ出す。
「――」
その血は誰のものか。流れを見れば氷華の物だと予測できる。――しかし予測は必ず当たるものではない。
「――ガブッ」
血は――神蔵の物だ。氷華は体を起こしていた。そして神蔵の首に何かを突き刺している。銀色に輝く――刃だ。
片手で刀の柄を抑え、もう片方の手で神蔵の首に刃を突き刺す。状況だけならおかしな点はない。だが直前までの行動を見ていれば不可思議な光景だ。
(どこから――こんなものを――)
神蔵の頭を巡る疑問。氷華が神蔵の首を横に切り裂いた時、初めて疑問の答えに気がついた。
(――折れた刃か)
初めに神蔵が斬り折ったナイフの刃。氷華はいつの間にか拾って隠し持っていたのだ。そしてチャンスを待った。神蔵が勝ちを確信して近づいてくる時を。
命の鎖。生命維持に欠かせない動脈を切られた。体は倒れる。畳は神蔵の血で赤く染まっていく。
「はぁはぁはぁ……」
真っ赤になった刃をその場に捨てる。横には神蔵の亡骸。……供養してあげたいところだが、時間があまりない。
「ごめんね……ごめんね……」
フラフラと立ち上がった氷華。流れそうになる涙を拭いながら、おぼつかない足取りで蔵へと向かっていった。
こんなことではへこたれない。回避の距離はさっきよりも短い。まだまだ刀が届く範囲。しかも体勢が整ってないときた。
体を回転させて威力を高める。ただでさえ強い力をさらに強化し、氷華の頭に叩きつけた――。
「――ぐふっ!?」
――なんと先に攻撃が当たったのは神蔵の方。近づけなかったのはお互い様。刃の折れたナイフでも殺傷力は全然ある。
射程と重さのある刀より、小型のナイフの方は速いのは子供でも分かるだろう。薄い腹部に突き刺さったナイフはそんなことを言っているかのようだった。
追撃の突進。体を崩させて更に攻撃を加えるつもりだ。――しかし不覚はこれ1度のみ。もう二度とない。
刀の柄を氷華の後頭部に叩きつける。骨から脳へ。目玉が揺れるかと思うほどの衝撃が氷華を襲う。
「っ――」
今度は膝蹴り。突進によって低くなった体。ちょうどいい位置に氷華の鼻があった。
「ぐっ――!?」
鼻血が神蔵の袴に付着する。痛みで削がれた集中力。そこにさらなる追撃が加わった。
鞘での一撃だ。袴に刺していた鞘を氷華の腹部に突き刺す。もちろん重い。刀ほどではないにしろ、必要過分の殺傷力があった。
「が――」
距離が離れる。刀の射程距離内。だが神蔵は構えていない。なぜなら加える攻撃は刀によるものではないからだ――。
回し蹴り。小柄な体を回転させて氷華の頬を足が貫く。衝撃が頭を揺らした。巨人につままれたように、氷華は頭から襖を破って居間へと蹴り飛ばされた。
崩れ落ちる体。消えかかる意識。朦朧とする頭の中で思い出す。
(そうだ……おじいちゃんは強いんだ……)
神蔵は遠藤家の元当主。今は当主の座を義明に譲っているものの、その強さと貫禄は今なお健在。そこいらの野生動物よりも圧倒的に強いはずだ。
(正統法で勝てるわけない……)
初めから分かっていた。だから――策を弄したのだ。
確信。神蔵は確かな勝利の自信を得ていた。これはいつもの光景。最近は見ていなかったが、当主の時代では日常の風景だった。
村の供物として人を攫う。その使命を預かっていた。――誘拐の際には抵抗する者もいる。その制圧に何度も刀を振るった。
殺してしまった時は鴨島家に怒られた。だから殺さないように。かといって抵抗もできないくらいにまで痛めつける場合もある。
ガクガクと震えている氷華。恐らく恐怖からじゃなく、何度も頭にダメージを喰らった影響だろう。――このような状態に何度も人間を追い詰めた。
「……すまない」
刀を振り上げる。もう当主の座からは降りた。苦行を行う必要はない。
昔からずっと見てきた。もはや孫も同然。そんな子を拷問させる、なんてことはできない。身勝手。きっと今まで攫ってきた人は全員がそう思ってるはずだ。
自分だけこんなことをするのは身勝手なのは分かっている。……許して貰おうなどとは思っていない。せめて苦痛は地獄で。被害者たちの恨みは地獄で晴らして欲しい。
神蔵はそう願った。そう思った。しわくちゃの顔から涙が流れる。だが躊躇いはしない。氷華の首に刀を振り下ろした――。
――血が流れる。首からだ。切り裂いた動脈から滝のように、津波のように血が溢れ出す。
「――」
その血は誰のものか。流れを見れば氷華の物だと予測できる。――しかし予測は必ず当たるものではない。
「――ガブッ」
血は――神蔵の物だ。氷華は体を起こしていた。そして神蔵の首に何かを突き刺している。銀色に輝く――刃だ。
片手で刀の柄を抑え、もう片方の手で神蔵の首に刃を突き刺す。状況だけならおかしな点はない。だが直前までの行動を見ていれば不可思議な光景だ。
(どこから――こんなものを――)
神蔵の頭を巡る疑問。氷華が神蔵の首を横に切り裂いた時、初めて疑問の答えに気がついた。
(――折れた刃か)
初めに神蔵が斬り折ったナイフの刃。氷華はいつの間にか拾って隠し持っていたのだ。そしてチャンスを待った。神蔵が勝ちを確信して近づいてくる時を。
命の鎖。生命維持に欠かせない動脈を切られた。体は倒れる。畳は神蔵の血で赤く染まっていく。
「はぁはぁはぁ……」
真っ赤になった刃をその場に捨てる。横には神蔵の亡骸。……供養してあげたいところだが、時間があまりない。
「ごめんね……ごめんね……」
フラフラと立ち上がった氷華。流れそうになる涙を拭いながら、おぼつかない足取りで蔵へと向かっていった。
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