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4日目
親愛
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蔵の扉を開ける。銃の場所、あらゆる武器の配置。全てが頭に入っている。小さい頃からずっと暮らしていたからだ。
壁に立てかけられている銃を掴む。近くの箱にあった狩猟用の服と道具を引き寄せた。
――装備を身につけた。銃も手入れされている自分のを選んだ。今度はナイフではなくマチェットを持つ。
「ふぅ……」
ボサボサになってしまった髪をいったん解く。多少汚れてしまったが、まだ髪は美しい水色だ。
髪をまた後ろに結ぶ。――気合いは入った。水色のダイヤモンドのような瞳を見開く。
蔵の外へ出る。とりあえずは桃也を助けに行かないといかない。兄の強さは誰よりも知っている。桃也に対して殺意を持っているのならばなおさらだ。
森へ戻ろうと振り向いた時――居間から音が聞こえてきた。何人もの足音、金属音。おそらく執行教徒だ。数は10から11ほどか。
これは流石に分が悪い。ライフル1つでこの数を相手にするのは無理がある。逃げるが勝ちだ――。
「あっ――」
――見てしまった。見えてしまった。居間に倒れている神蔵。その神蔵を抱きしめている椿の姿を。
「――」
「――」
走る音に気がついた椿。振り向いたその顔は――悲しみと怒りに満ちていた。
「――殺せ」
殺意。全てを込めた黒い言葉。それを聞いたと同時に執行教徒たちが氷華の方へと顔を向けた。
もはや仲間でも同士でもない。敵となった氷華にかける情けなどない。どす黒い怒りがこもった集団は氷華の元へと走ってきた。
相手にできないのはさっきから分かりきっていたこと。せめて戦うなら自分のフィールドでだ。つまり山。氷華は山に向かって走り始めた。
「はぁはぁはぁ……!!」
走る。走る。走り抜ける。後方から向かってくる足音は一向に離れてくれない。それでも走り続ける。
立ち止まれば殺される。殺されるだけならまだいい。もっと悲惨な目にあう。山は自分の、狩人のフィールド。いくら数の勝る執行教徒でも追いかけ続けるのはキツい。
しかし――先に限界を迎えそうなのは氷華の方だ。体力が万全の執行教徒たちと違い、昨日からずっと動きっぱなしだからだ。
消耗していた体力に比例するように、精神面にも限界が近づいてくる。大切な人。かけがえのない人を殺した。その重圧が来ている。
止まれない。止まりたくない。先へ進まないと。今まで犠牲になった人の命を解放しなくては。それが今の生きる理由だ。
(せめて……あそこまで……)
数では敗北。罠を作ろうにも時間がない。いくらライフルでも10人ちょっと相手では全員を倒すのは難しい。
だから奥の手を使う。できれば使いたくなかった。下手したら自分も死ぬ。――しかしやるしかない。
「――ぁ!!」
倒れた。揺れる髪の毛と同時に木の葉が舞う。脚が鉛のように動かない。体が鉄のように動かない。もう動く気配がない。
目の前には木と洞窟。潜り込んで隠れようとしたが、直前でダウン。惜しいところで倒れてしまった。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
肩で息をする。酸素をできるだけ補充するため。とにかくエネルギーを回復させる。
――執行教徒はそんな暇も与えない。すぐに氷華の元へと追いついた。――椿もだ。
「……氷華」
執行教徒たちの後ろから顔を、体を出す。既に鞘からは刀が抜かれてある。2日目の時と同じ。桃也と戦闘になった時と同じ二刀流だ。
「つ……つーねぇ……」
「よくそんなに馴れ馴れしい呼び方ができるね」
氷華は銃を握る。そして怒りに満ちた表情を見せている椿に銃口を向けた。
「おじいちゃんを殺したでしょ。なんで?」
「……」
「理由によっては、今ここで殺してあげる」
銃を向けられている。なのに怯みすらしない。むしろ慈悲すらかけている。怒りに完全に飲まれている証拠だ。
撃てば殺せる……だがそれは氷華だけ。他の執行教徒に抑えられてそのまま拷問部屋へ――。つまり結果はあまり変わらない。下手したら酷くなる。
それならば。どうせならば。本当のことを話す。どうせ変わらぬ結末なら、せめて少しでもいい方向へと進めたい。
「――仕方なかった」
「わかった。もういい」
椿は刃じゃなく峰を前にして構える。――捕らえるつもりだ。殺すのではなく、捕まえる。
慈悲を与えるつもりなど初めからなかったのかもしれない。今となってはどっちでもいい。どうでもいいことなのだ。
「……つーねぇ覚えてる?昔に一緒にこの森で遊んでくれたよね」
「……それがどうしたの」
「最初はつーねぇの方が森に詳しかったけど……私も大人になったんだよ。猟師として一人前にもなったんだよ。もう――私はつーねぇよりもこの森に詳しい」
――氷華は銃を空に向かって発砲した。
壁に立てかけられている銃を掴む。近くの箱にあった狩猟用の服と道具を引き寄せた。
――装備を身につけた。銃も手入れされている自分のを選んだ。今度はナイフではなくマチェットを持つ。
「ふぅ……」
ボサボサになってしまった髪をいったん解く。多少汚れてしまったが、まだ髪は美しい水色だ。
髪をまた後ろに結ぶ。――気合いは入った。水色のダイヤモンドのような瞳を見開く。
蔵の外へ出る。とりあえずは桃也を助けに行かないといかない。兄の強さは誰よりも知っている。桃也に対して殺意を持っているのならばなおさらだ。
森へ戻ろうと振り向いた時――居間から音が聞こえてきた。何人もの足音、金属音。おそらく執行教徒だ。数は10から11ほどか。
これは流石に分が悪い。ライフル1つでこの数を相手にするのは無理がある。逃げるが勝ちだ――。
「あっ――」
――見てしまった。見えてしまった。居間に倒れている神蔵。その神蔵を抱きしめている椿の姿を。
「――」
「――」
走る音に気がついた椿。振り向いたその顔は――悲しみと怒りに満ちていた。
「――殺せ」
殺意。全てを込めた黒い言葉。それを聞いたと同時に執行教徒たちが氷華の方へと顔を向けた。
もはや仲間でも同士でもない。敵となった氷華にかける情けなどない。どす黒い怒りがこもった集団は氷華の元へと走ってきた。
相手にできないのはさっきから分かりきっていたこと。せめて戦うなら自分のフィールドでだ。つまり山。氷華は山に向かって走り始めた。
「はぁはぁはぁ……!!」
走る。走る。走り抜ける。後方から向かってくる足音は一向に離れてくれない。それでも走り続ける。
立ち止まれば殺される。殺されるだけならまだいい。もっと悲惨な目にあう。山は自分の、狩人のフィールド。いくら数の勝る執行教徒でも追いかけ続けるのはキツい。
しかし――先に限界を迎えそうなのは氷華の方だ。体力が万全の執行教徒たちと違い、昨日からずっと動きっぱなしだからだ。
消耗していた体力に比例するように、精神面にも限界が近づいてくる。大切な人。かけがえのない人を殺した。その重圧が来ている。
止まれない。止まりたくない。先へ進まないと。今まで犠牲になった人の命を解放しなくては。それが今の生きる理由だ。
(せめて……あそこまで……)
数では敗北。罠を作ろうにも時間がない。いくらライフルでも10人ちょっと相手では全員を倒すのは難しい。
だから奥の手を使う。できれば使いたくなかった。下手したら自分も死ぬ。――しかしやるしかない。
「――ぁ!!」
倒れた。揺れる髪の毛と同時に木の葉が舞う。脚が鉛のように動かない。体が鉄のように動かない。もう動く気配がない。
目の前には木と洞窟。潜り込んで隠れようとしたが、直前でダウン。惜しいところで倒れてしまった。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
肩で息をする。酸素をできるだけ補充するため。とにかくエネルギーを回復させる。
――執行教徒はそんな暇も与えない。すぐに氷華の元へと追いついた。――椿もだ。
「……氷華」
執行教徒たちの後ろから顔を、体を出す。既に鞘からは刀が抜かれてある。2日目の時と同じ。桃也と戦闘になった時と同じ二刀流だ。
「つ……つーねぇ……」
「よくそんなに馴れ馴れしい呼び方ができるね」
氷華は銃を握る。そして怒りに満ちた表情を見せている椿に銃口を向けた。
「おじいちゃんを殺したでしょ。なんで?」
「……」
「理由によっては、今ここで殺してあげる」
銃を向けられている。なのに怯みすらしない。むしろ慈悲すらかけている。怒りに完全に飲まれている証拠だ。
撃てば殺せる……だがそれは氷華だけ。他の執行教徒に抑えられてそのまま拷問部屋へ――。つまり結果はあまり変わらない。下手したら酷くなる。
それならば。どうせならば。本当のことを話す。どうせ変わらぬ結末なら、せめて少しでもいい方向へと進めたい。
「――仕方なかった」
「わかった。もういい」
椿は刃じゃなく峰を前にして構える。――捕らえるつもりだ。殺すのではなく、捕まえる。
慈悲を与えるつもりなど初めからなかったのかもしれない。今となってはどっちでもいい。どうでもいいことなのだ。
「……つーねぇ覚えてる?昔に一緒にこの森で遊んでくれたよね」
「……それがどうしたの」
「最初はつーねぇの方が森に詳しかったけど……私も大人になったんだよ。猟師として一人前にもなったんだよ。もう――私はつーねぇよりもこの森に詳しい」
――氷華は銃を空に向かって発砲した。
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