レッドリアリティ

アタラクシア

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4日目

害獣

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(な、何を――!?)

一見すると訳の分からない行動。氷華を除く全員が理解できなかった。――だがそれも一瞬。行動の意味が分かるまでは5秒もかからなかった。


氷華たち執行教徒は一般人と比べれば山について詳しい。しかしその道のプロである猟師と比べれば、知識量は劣ってしまう。

ましてや相手は疲労困憊の少女一人。全員が油断してしまう。誰もが『追いかけてる』と思っていた。『誘導されている』と言っても、今の彼女らは信じないだろう。


彼らの前にあるのは洞窟。墨で塗りつぶされているかのように黒い。奥は見えない。そこに何がいるかも見えない。

――かつて氷華は桃也に話した。この近くには『喰走り』の巣があると。

桃也はそれを嘘だと思い、実際に洞窟の中にまで入った。事実その影響で八月村への不信感が強まることとなる。

だが――嘘ではないのだ。『喰走り』は存在する。人を喰らって走り去る。その言葉に嘘偽りはない。あくまでも死体の処理を喰走りにさせていただけだ。だから桃也に近づくなと言ったのだ。

桃也が巣に訪れた時はたまたまいなかっただけ。それを確認して氷華は発砲した。――今度は違う。

爆音を聞いて錯乱状態となった喰走り。それは襲われたと勘違い、もしくは単純に全てが敵に見えるかのようにして動き出す。



洞窟からゆっくりと這い出てくる熊。ツキノワグマながら、体は2mを超える。巨大な体躯だ。この中の誰も比肩しうる者はいない。

目は赤く染まっている。敵意、野生の殺意。銃を持ってようやくギリギリ相手にできる動物が目の前にいる。自分の武器は……刀のみ。

深い深い絶望感と恐怖が執行教徒たちを襲ってきた。――椿も例外ではない。体がセメントで固められたのかと思うほどに動けない。


これを狙っていた氷華はすぐさま草むらへと隠れた。執行教徒の全員が固まっているおかげで、誰からも気が付かれずに行動できる。

まさに狙い通り。運と実力と機転が産んだ奇跡だ。この後に氷華が想像している惨劇も、全くの寸分狂いなく起こることとなる――。





その頃。鴨島家地下の拷問部屋では、美結に対する拷問が行われていた。

「……っっ!!」

美結の長く伸びた爪。ヤスリがけもされている綺麗な爪だ。そんな爪を――剥がす。

無機質な灰色のペンチだ。血が付着している。これまでに何人もこの器具で拷問してきたのだろう。

見るだけでこれまでの悲惨な拷問の光景が頭に浮かんでくる。恐怖を駆り立てる。ズキズキと痛む指が現実だと教えてくれる。

「これで八枚目……大丈夫か?」
「うぐッッ……ぜんっぜん平気!!」
「そうか」

――薬指の爪を剥がした。ミチっと爪に引っ付いていた肉が引きちぎれる音がする。痛みの感覚は同時にやってきた。

「ッッッくぅ……」
「別に声を出したらダメとは言ってないだろ。俺はあくまでも『ギブアップしたら娘を拷問する』と言ったんだ。無理しなくていいんだぞ?」
「……うるさい。あんたのようなヤツは大嫌い。だから痛がってる姿を見せたくないの。そんな姿を見て喜ばれても困るしね」
「はぁ……あんなのが夫なら、妻もそれに見合うヤツだよな」

――最後の小指。痛みで顔の筋肉がピクピクと動いた。耐えるのもやっと。下唇を噛んで痛みになんとか耐える。

できることなら叫びたい。泣き叫びたい。床に這いつくばって悶えたい。誰かに助けを請いたい。でもそんなことをすれば蓮見の思うツボだ。それは腹が立つ。

だから耐える。こんなヤツの思いどおりにはなりたくない。そんなことを美結は思っている。


「指は全部終わったな。……どうする?選ばせてやるよ」
「な、なにが……」
「爪は手だけにあるものじゃない。足もある。今度は足の爪を剥がしてもいいんだが……その前に指を折るのも悪くない。痛いぞー、指を折られるのは」

悪趣味な選択肢だ。どちらにしろ地獄のような責め苦だ。

「……好きにして」
「連れないな。まぁ結局はどっちもやるし、どうでもいいか」

ペンチを親指の方へと持っていく。どうやら先に指を折るようだ。痛いのは当たり前だ。どれくらい痛いのか。美結は想像できない。

少なくとも死ぬほど痛いはずだ。どんな痛みか。ズキズキするのか。ジーンとするのか。はたまた効果音では表せないような痛みか。

……もはやどうでもいい。凛がこんな目に合わなくてよかった。あとは自分が耐えるだけ。それだけで凛は――。
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