レッドリアリティ

アタラクシア

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4日目

狙撃

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「ぐふっ、くくくく――見つけた」

貫通した脇腹には激痛が走っている。痛みで悶えない方がおかしいくらいだ。それだというのに――椿は痛みよりも早く走り出した。


「……」

氷華は淡々としていた。コッキングをして次の弾の用意。これは椿との距離が離れているからこそできることだ。

狙いは頭。近づいてくれば更に当たる可能性は高まる。だが――。


――それは動かなければの話。視界に氷華が移れば椿のターン。鳥のような視力で氷華が引き金を引く姿を見ることができた。

狙いがこちらなら後はタイミングを計るだけ。氷華が引き金を引く、と同時に椿は右へと移動した。

銃弾は椿に当たることなく山の中を通過していく。見事な反射神経。人外じみている。

「ちっ」

距離にして50m。近接戦闘は避けたい氷華。ここで逃亡するのも手のひとつ。

だが今の氷華はスタミナ切れもいいとこだ。相手も満身創痍とはいえ、すぐに追いつかれる。その後の攻撃はいなせない。

だったらここで受けて立つ。まだ距離も空いている。あと1発は撃てる。


コッキング。そしてもう一度構えた。二度は外さない。今度は避けられるのも加味して銃を放つ。

(まだこっちが圧倒的に優位な場所。落ち着け私)

引き金に指を入れる。ここで仕留めなければ不利になる。避けないといけない事態だ。だからこその焦りもある。

野生動物とはまた違った緊張感。意志を持った生物が自分に明確な殺意を持って殺しに来ている。いつもとは違う種類の恐怖だ。


ただ椿の方も焦りを感じていた。このままヒットアンドアウェイでの戦法をされてはジリ貧。こちらが先に潰れてしまう。

運のいいことにスピードではこちらの方が上だ。近づけば勝率は高まる。現状では勝てる可能性が0%だ。


両者にとっても緊張の一瞬。重くなる引き金。重量を増す刀。うるさい森の音がほんの少しの間だけ――静まり返った。


――放たれた銃弾。あえて狙いをズラした。先程は右にズレた。真正面から来るのは椿も避けたいはず。

だからもう一度右へズレる。今度当てるのは脳天。考える暇だって与えない。


椿は――しゃがんだ。地面から生えていた草を引っ張ったのだ。どうやら想像以上に草は地面に根を張っていたらしい。

引っ張ったはずなのに、椿がようになった。単純にしゃがむよりもこっちの方が素早い。

銃弾は椿の額を少し掠めた。直撃はしていない。額から流れる血で椿はそれを認識した。

(避けれた……!!)
(避けられた……!!)

椿の姿はまるでクラウチングスタート。これは意図してしたことじゃないが、功を奏した。――しゃがんだことによって止まったスピード。それが再加速を果たしたのだ。


蹴りあげる地面。舞い上がる土と葉。ゴキブリと見間違う程の初速スピード。銀色の二刀が氷華の体をようやく写した。

誤算。避けられるにしても誤算だ。この避け方は想定していなかった。1度止まって再加速。変則的な動きに思考が追いつかない。

――距離は残り10m。この時点でようやくコッキングを終えた。また狙うのか。いやそれでは間に合わない。

距離はかなり縮まってしまった。不測の事態。最悪の事態だが、受け入れなくてはならない。相手の土俵に踏み込むしかない。


取り出したのはマチェット。ナイフよりかは心強い。だが相手は日本刀。日本が誇る、日本を代表する武器。射程距離でも硬度でも負けている。

だがマチェットの有利な点は切れ味。椿に当てさえすれば大ダメージを与えることだって夢じゃない。

それはそれとして真っ向勝負はダメだ。マチェットで防御しつつ銃で隙を作る。そこを――叩く。最前の手と言えよう。

(いつも剣の練習してるとこしか見てなかった……どの程度の威力かは分かんない)

まずはこの防御。これでどのくらいの力かを推し量る。


――刀の射程距離はもう少し。だから椿は踏み込んだ。さっきのクラウチングスタートとは比較にならないほど。

射程距離に届いた。右に体を捻り、最大まで力を溜める。

捻りの力。
日本刀の重さ。
そして助走によるスピード。

3つの溜まった力が合わさった結果――マチェットと刀が触れ、氷華の方にマチェットの峰がくい込んだ。

「――」

そのまま刀を押し込む。重量は軽くない。重いものが肋骨部分に衝突した。骨は耐えきれずに――砕ける。

「っっぎっ――!!??」

溜まった力は全て解放しきれていない。さらに押し込んで、野球ボールを打ち返すかのごとく、刀を振り切った。


2mほど後方。大木に氷華の背中が衝突する。激痛。例えようのない痛みが氷華を襲った。

「かっ――はっ――!?」

まだ攻撃は収まらない。さらなる踏み込み。椿は木を背にしている氷華に向かって刀を振るう。

先程よりからスピードが落ちる。痛みに支配されていた氷華だが、死の恐怖はそれを上回った。即座に転がって刀を回避する。


地面と転がる。折れた骨の場所を地面に付けた。結果的に見ればいい判断だったが、氷華の体はそれをNOと言った。

「いっっ――っっっっ!!」

とにかく痛い。痛み。何よりも痛み。歯がガチガチと震えるほど。持っているものが壊れそうになるほど握りしめる。


これはチャンスだ。しかし椿もまた動けない。単純なヤツダメージ量は椿の方が上だ。しかも無理な動きを何度も行ったのだ。

「く……そ……」

仇が近くにいる。殺すべき者が近くにいる。なんから隙を晒している。なのに動けない。体が一時的に限界を迎えてしまっていた。
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