レッドリアリティ

アタラクシア

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4日目

幼馴

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――2度目の蹴り。それもまったく同じ場所。弾が貫通した脇腹を蹴った。

「あグッ――!?」

今度は耐えられない。尋常じゃない苦痛で顔が大きく歪んだ。

「でゃぁぁ!!」

そして飛びかかる。子供のような叫び声と共に。椿は反射的に刀で突きを放った。


――刀の先は氷華の唇に触れる。勢いと切れ味、椿の力。全てが合わさった結果――氷華の口は大きく切り裂かれた。

「――」

もう怯みもしない。椿は突き進んできた氷華に押し倒された。


「っっ――!!」

刀を振るおうとする右腕を踏みつける。

「がぁ――!?」

銃口は今までで1番近い距離。脳天に向けられた。もはや銃弾を当ててると言っても過言では無い状況。

重い引き金に指を入れる。――だがそう簡単には椿は殺されてくれない。


刀の柄でアバラをぶん殴る。刃で切りつけるのも手だったが、距離が近すぎて完全には切れない。ダメージが軽いとそのまま銃で撃たれていた。

だからダメージよりも行動阻止を目的とした攻撃。予想通り氷華の動きは止まった。

「ぐぅ……!!」

銃口が逸れてから銃弾が放たれる。脳天にはそ逸れたが、銃弾は椿の耳を弾き飛ばした。

「っっ――」


横にゴロンと転げる氷華。目には闘志が宿り続けたまま。椿を殺そうと本気の殺意を身体中から出している。

椿も同様。この場で氷華を殺す気だ。目は真っ赤に充血している。どちらも戦闘が開始されてからまばたきをしていない。

真っ赤に染った眼球。本来人間は反射的にまばたきをしてしまう。なのにしていない。つまり、本能を殺意で押さえ込んでいるのだ。


収まっていない殺意を攻撃に転換する。氷華は銃をコッキングし、次の銃弾を使えるようにした。

椿は即座に体を持ち上げて刀を突く。この体勢だと振るうよりも突く方が速いと椿は予測した。

――熾烈。苛烈。燃え上がりそうな、焼き焦げそうなほどの動き。ヒートアップした熱はお互いをキャンプファイヤーのように燃やし続ける。体だけではなく魂をも。

構える。突く。引き金に指は入っている。残りは1発。状況的にもチャンスはこれっきり。ここで殺せなければ自分が死ぬ。

互いに突き進んだ刃と銃口。赤い火花は両者を結びつけた――。





「……」
「――がふっ」

氷華の鎖骨辺りに刀は刺さっていた。血は出ている。だが致命傷ってほどではない。

――椿は違った。喉を銃弾が貫通している。流れ出る血は止められない。重要な血管を焼き切った。もはや助からない。


倒れたのは椿。つまり――勝ったのは氷華だ。楽勝ではなかったが、とにかく勝った。生き延びたのだ。

だけど氷華は嬉しそうな顔をしていない。当たり前だ。幼馴染みの姉的な存在を自分の手で殺したのだ。気分がいいはずない。

「……つーねぇ」

倒れている椿を抱き抱える。虫の息だ。まだギリギリ生きているが、時間の問題。

椿は軽蔑と侮蔑、そして憎悪の眼差しで氷華を見ている。それが何よりも辛かった。体の痛みよりも痛く感じた。

それでも椿が憎かったわけじゃない。もうこうするしか無かったのだ。

「ごめんね……ごめんね。つーねぇが私のことを嫌いになっても、私はつーねぇのこと大好きだから」

椿の体から力が抜けていく。とっくの昔に手から刀はすり抜けていた。

「先に地獄で待ってて……私の恨みはそこで晴らして……」

瞼はゆっくりと閉じられる。もう戦うだけの気力もない。氷華にも言えることだ。流れている血も重りのように重くなっている。

最期に椿は何かを喋ったような気がしたが――聞こえなかった。見えなかった。分からなかった。おそらくはそれでいい。氷華にとってはそれでいいのだろう。


辺りに広がる静寂。まるで責め立てるかのように木の葉が舞い上がる。通り抜ける風は氷華への罵倒のように思えた。

戦いは終わった。それだけだ。後には何も残らない。ただただ虚しい勝利。氷華は勝利を噛み締めるしかなかった。
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