レッドリアリティ

アタラクシア

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4日目

隠鬼

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小屋の中には大量の箱が置いてあった。箱だけじゃない。壺やタンス、とにかく隠れれそうな場所が沢山ある。ありすぎて逆に困るくらいだ。

すぐさま扉を閉める。だが義明はすぐにこの場所に気がつくだろう。それまでに隠れなければならない。

「……どうしよっか?」
「キー」

凛の体格なら壺の中にでも隠れられる。小屋は広いので奥の方にまで箱はあった。普通に考えて手前より奥の方が見つかりにくい。

しかし残念ながら時間がない。それに奥に行けば形跡が見つかる。こんな場所で見つかったら1発アウトだ。もう逃げられないと思っていい。

ひたすら隠れるしかないのか。桃也や氷華と違って、凛には戦闘能力はない。武器もないので反撃も不可。

――なら方法は1つ。完全にここで撒く必要がある。それしかない。





小屋の扉が開けられた。隠れている凛の体が小さく震える。入ってきたのはもちろん義明。顔には血管が浮かんでいた。

「……」

口を抑え、体を縮こめる。できるだけ音を出さないように。できるだけ存在感を消すように。


義明は目を滑らせていた。昼なのに薄暗い小屋の中をゆっくりと歩く。古い木の床は歩く度にギシギシと音を立てた。

まるで怪物の吐息のように。義明の呼吸は凛を涙目にさせる。恐怖を引き立てる。

『かくれんぼ』と言えばそうだが、凛が友人とやっていたような『かくれんぼ』じゃない。まさしく命を賭けたデスゲームだ。

涙と共に汗も流れる。わずが五歳にして冷や汗。子供でここまでの経験をするのは珍しいだろう。

(見つからないで……見つからないで……)

何度も何度も頭で復唱する。この歳でゲシュタルト崩壊を経験するほどに。

顎からポトリと汗が落ちた。荒くなる呼吸をなんとか押さえ込んだ。段々と鬱血していくのが分かる。



――ガタッ。

動いた。義明から斜め後ろの箱が。中に生物が入っているかのように。

「……ふん」

声と共に心臓が跳ね上がった。震える体はマナーモードのスマホのように震え続ける。歯をカチカチと何度も噛み締める。

近づいてくる足音。確実に歩いてきている。緊張と恐怖。唾すら飲み込むことができない。

手を伸ばす先は音の出た箱だ。追い詰めた。確信した義明に迷いや戸惑いなどない。箱の蓋に手をかけた――。



「――は?」

。箱は動いたのだ。音も鳴った。聞き間違いなんかじゃあない。

周りも覗き込んで見るが、何も無い。ネズミかはたまた通り風か。どれにしろ紛らわしいものである。

――いいや違う。そんなわけない。この場でこの状況において、動いたのがたまたまなんてことがあるわけがない。

「どこだクソガキ――!!??」

確信した。この場所にいると。叫ぼうとした瞬間――。


――なんと小屋の扉が開いた。ちゃんと入る時には閉めたはず。

「ちっ……!!」

扉の近くにあった壺。最初は蓋が閉められてあったのであろう。木製の板が地面に落ちていた。凛はそこに隠れていたのだ。

「無駄に頭を回らせやがって……」

壺を蹴り壊して、すぐさま外へと駆ける。出たのは直前。走れば間に合う。今度は逃がさない――。





静寂の小屋の中。広いが、窓や通気口すらないので圧迫感を感じる。だが今は嵐が去った後のような解放感をどことなく感じることができた。

その理由は義明だろうか。自身の緊張だったのだろうか。それとも恐怖か。――どの理由にしても、今の凛にとっては苦い思い出としか残らない。


「――あ、あぶなかった」

壺から箱2つ分くらい後ろにあった鋼鉄の像。凛は後ろからのそのそと這い出てきた。

「鳴かないでありがとうね、お猿さん」
「キー」

凛の背中にしがみついた猿は呼応するように鳴き声を出した。



凛は大人である義明との知恵比べに勝利した。それは桃也からの遺伝か。それとも美結からの遺伝か。

最初に凛は、義明が怪しんだ箱の近くにいた。そしてあえて義明が近くを通ったタイミングで音を出したのだ。それなら必ず箱を調べてくると予想してのこと。箱に集中してくれれば少しは大胆に動ける。

次に扉の近くまで移動。壺の蓋を外しつつ扉を開ける。その後は素早く慎重に像の裏まで移動すれば――義明は引っかかる。

土壇場での閃き。子供とは思えない冷静で正確な行動力。まさしく桃也と美結の子。将来が楽しみである。
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