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4日目
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「これからどうしよっか」
小屋からは出ていない。まだ近くに義明がいるからだ。
「パパ……ママ……会いたいよぉ」
散々降りかかったストレス。重圧。全てから開放された今。ようやく凛には泣くことのできる余裕ができていた。
――小屋の扉が開かれた。凛はすぐに声を殺して像の後ろに隠れる。
「……」
傷だらけの体。裂けた頬。足は引きずっている。痛々しい姿だ。まだ小さい子供。中学生くらいに見える。
「……凛ちゃん。いる?」
外から凛を見つけたのだろう。弱々しい声を出している。
雰囲気で敵ではない、と凛は察した。だが同時に小次郎の言葉も思い出す。
『凛ちゃんは一人で逃げるんだ。いいかい?パパとママと僕、そして氷華っていう女の子以外は信用しちゃダメだ。どれだけ優しくしてきても、その人のことは信用したらダメ。すぐに逃げるんだ。いいね?』
まだ凛は確証を得られていない。自分を呼んでいる声が味方である確証が。確証を得ないと、凛は出るわけにはいかなかった。
「私は……氷華。会ったことは……そーいえば寝てたっけ」
――氷華だ。水色の髪。水晶のような瞳。顔や体の傷以外は何も変わっていない。
「……!!」
小次郎の言葉にあった名前だ。『氷華』って言うやつ。全く知らない人が出てきていたので凛の頭の中にこびりついていた。
信用していい。確信した凛は像の後ろから出てきた。ゆっくりと凛の元まで歩いていく。
「……君が凛ちゃん」
「うん……」
氷華は凛を――抱きしめた。折れた肋骨が死ぬほど痛いが我慢する。安心感に包まれた凛は堰を切ったように泣き出した。
孤独から解放され、ようやく信頼できる人を見つけた。抱きしめてもらえた。子供が泣く理由としては十分だ。
もちろん氷華は優しく抱き締め続ける。折れた肋骨は死ぬほど痛いけど。「よかった。よく頑張ったね」と囁きながら抱き締めていた。
――鴨島家の地下。木製の椅子に蓮見は座っていた。椅子はボロボロなのか、少し動く度にギシギシと音を立てている。
蓮見の隣に立っているのは猟師の男だ。さっき帰ってきたようで、服にはひっつき虫がまばらに引っ付いていた。
「それで――本当に殺したのか」
「はい。羽衣桃也は死亡していました。仮に私が死亡確認した後に生きていたとしても、残った猟虎が殺してると思います」
「まぁだろうな。さっきから山で銃声がしてるし」
事後報告。よく仕事でもこんな景色を見かけるはずだ。しかし中身はまるで違う。かなり物騒な話をしていた。
「怪我人はいるか?」
「1人死亡、もう1人は重傷です。おそらくあの傷だと死んでると……」
「つまり実質死者2名……なんだか呆気ないな」
「だから猟虎も残ったのだと……」
「まぁ1番恨んでそうだしな」
蓮見は立ち上がった。
「残るは氷華。それと羽衣桃也のガキだ。義明が手こずってるらしい」
「氷華?氷華はまだ生きてるんですか?」
「執行教徒のほとんどを殺した。猟虎の妹なだけはある。予想以上に面倒臭いぞ」
「……そう……ですか」
「とにかくお前は残った猟師を連れて2人の捜索に回れ――」
「はい」と走って出ていこうとする猟師を蓮見は止めた。
「それと――村人を何十人か連れてきてくれ。適当でいい」
「……アレですか?」
「ああ――」
全て剥がされた爪。何本も腕や脚に刺さった釘。下に落ちている幾本の歯。どれをとっても惨たらしい。
それら全ては同一人物。蓮見の前で椅子に拘束されている美結だ。全て美結が拷問で受けた産物である。
「まだへばるなよ……ガキを逃がしたんだ。そう簡単には殺してやらない」
「……」
「良かったな。地味には死なない。ド派手にお前は死ぬ事ができるぞ」
髪を掴んで顔を持ち上げる。目線を無理やり蓮見の方に向け――蓮見は言い放った。
「――お前は炎渦登竜舞の生贄に選ばれた。村人全員の前で、娘の目の前で。地獄の苦しみを味あわせてやるからな」
その顔は笑っている。しかし目は笑っていない。心底怒りに満ちた目で。美結を見つめていたのだった。
小屋からは出ていない。まだ近くに義明がいるからだ。
「パパ……ママ……会いたいよぉ」
散々降りかかったストレス。重圧。全てから開放された今。ようやく凛には泣くことのできる余裕ができていた。
――小屋の扉が開かれた。凛はすぐに声を殺して像の後ろに隠れる。
「……」
傷だらけの体。裂けた頬。足は引きずっている。痛々しい姿だ。まだ小さい子供。中学生くらいに見える。
「……凛ちゃん。いる?」
外から凛を見つけたのだろう。弱々しい声を出している。
雰囲気で敵ではない、と凛は察した。だが同時に小次郎の言葉も思い出す。
『凛ちゃんは一人で逃げるんだ。いいかい?パパとママと僕、そして氷華っていう女の子以外は信用しちゃダメだ。どれだけ優しくしてきても、その人のことは信用したらダメ。すぐに逃げるんだ。いいね?』
まだ凛は確証を得られていない。自分を呼んでいる声が味方である確証が。確証を得ないと、凛は出るわけにはいかなかった。
「私は……氷華。会ったことは……そーいえば寝てたっけ」
――氷華だ。水色の髪。水晶のような瞳。顔や体の傷以外は何も変わっていない。
「……!!」
小次郎の言葉にあった名前だ。『氷華』って言うやつ。全く知らない人が出てきていたので凛の頭の中にこびりついていた。
信用していい。確信した凛は像の後ろから出てきた。ゆっくりと凛の元まで歩いていく。
「……君が凛ちゃん」
「うん……」
氷華は凛を――抱きしめた。折れた肋骨が死ぬほど痛いが我慢する。安心感に包まれた凛は堰を切ったように泣き出した。
孤独から解放され、ようやく信頼できる人を見つけた。抱きしめてもらえた。子供が泣く理由としては十分だ。
もちろん氷華は優しく抱き締め続ける。折れた肋骨は死ぬほど痛いけど。「よかった。よく頑張ったね」と囁きながら抱き締めていた。
――鴨島家の地下。木製の椅子に蓮見は座っていた。椅子はボロボロなのか、少し動く度にギシギシと音を立てている。
蓮見の隣に立っているのは猟師の男だ。さっき帰ってきたようで、服にはひっつき虫がまばらに引っ付いていた。
「それで――本当に殺したのか」
「はい。羽衣桃也は死亡していました。仮に私が死亡確認した後に生きていたとしても、残った猟虎が殺してると思います」
「まぁだろうな。さっきから山で銃声がしてるし」
事後報告。よく仕事でもこんな景色を見かけるはずだ。しかし中身はまるで違う。かなり物騒な話をしていた。
「怪我人はいるか?」
「1人死亡、もう1人は重傷です。おそらくあの傷だと死んでると……」
「つまり実質死者2名……なんだか呆気ないな」
「だから猟虎も残ったのだと……」
「まぁ1番恨んでそうだしな」
蓮見は立ち上がった。
「残るは氷華。それと羽衣桃也のガキだ。義明が手こずってるらしい」
「氷華?氷華はまだ生きてるんですか?」
「執行教徒のほとんどを殺した。猟虎の妹なだけはある。予想以上に面倒臭いぞ」
「……そう……ですか」
「とにかくお前は残った猟師を連れて2人の捜索に回れ――」
「はい」と走って出ていこうとする猟師を蓮見は止めた。
「それと――村人を何十人か連れてきてくれ。適当でいい」
「……アレですか?」
「ああ――」
全て剥がされた爪。何本も腕や脚に刺さった釘。下に落ちている幾本の歯。どれをとっても惨たらしい。
それら全ては同一人物。蓮見の前で椅子に拘束されている美結だ。全て美結が拷問で受けた産物である。
「まだへばるなよ……ガキを逃がしたんだ。そう簡単には殺してやらない」
「……」
「良かったな。地味には死なない。ド派手にお前は死ぬ事ができるぞ」
髪を掴んで顔を持ち上げる。目線を無理やり蓮見の方に向け――蓮見は言い放った。
「――お前は炎渦登竜舞の生贄に選ばれた。村人全員の前で、娘の目の前で。地獄の苦しみを味あわせてやるからな」
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