レッドリアリティ

アタラクシア

文字の大きさ
97 / 119
4日目

過去

しおりを挟む
それからだった。悠介のタガが外れたのは。毎日のように美結を襲いはじめたのだ。

段々と暴力も振るい始め、美結の体にはアザが出てくるようになった。初めは背中。次に足。顔も腫れることがあった。

周囲がそれに気づかないわけがない。しかし悠介は弁護士だ。周りも正義感が強い……正確にはことは知ってる。

誰も夢にも思わなかった。悠介が美結のことを襲っているなど、誰も考えもしなかったのだ。そして教えさせなかった。

荒っぽくなっていく性格に美結は恐怖を覚えた。だが逃げることはできない。誰かに教えようとすると、悠介の顔が浮かんで身がすくんでしまう。完全にトラウマとなっていた。


親子と言えど性行為をすれば子供はできる。妊娠は9年間で6回。全て中絶を行っている。金ならあった。

体へと負担は計り知れなかったが、それよりも美結にダメージを与えたのは精神の方だ。

嫌な記憶とはいえ子供を殺す。産まれてもない我が子を殺す。自分が殺したのと実質一緒だ。

なによりも嫌だったのが、中絶の回数が増えるにつれて精神的苦痛が減ってきている面だった。辛くなくなってきていた。もう人間性すら消えかかっているかのようだった。

(私は……何のために……なんで……生きてるんだろう)

地獄。悪夢。そんな言葉じゃ言い表せない。毎日のように吐いた。毎日のように自殺しようと考えた。

だけど自分が死ぬのは怖かった。直前でいつも止まってしまった。死にたいはずなのに「死にたくない」と考えてしまう。

もうトラウマになる精神力も残っていない。父親による強姦も最初と比べて苦にもならなくなってきていた。

(誰か……私を……)

勉強して、犯される。殴られる。
勉強して、犯される。殴られる。
勉強して、犯される。殴られる。
勉強して、犯される。殴られる。
勉強して、犯される。殴られる。

永遠にも思える時間をループ。今が何月何日で何曜日で、今が何時かも、どんな天気かも分からなくなる。

どうでも良くなる。晴れた日の空も。曇りも。雨も。雪も。何も感じなくなる。自分が殺した命に対する想いも。消えかかってきていた。

(――殺して)

もう誰も。誰のことも。美結は頼らなくなっていた。頼る気もなくなっていた。





――美結が19歳の時。止まっていた歯車は流れ出る血と共に回り出した。


その時の美結は大学2年生だ。青い春を楽しむような時期だが、美結にそんな余裕はない。サークルにも入らずにポツンと1人で居た。

顔はいい。身長が低めで童顔。男には割とモテていた。何度かセックスもしたことがある。特に何も美結は感じなかったが。

同性からは嫉妬されることもあった。だが父親と比べたら何も問題はない。むしろ自分を見て構ってくれてるだけ幸運だ。


ただサークルにも入らず、誰とも会話しないようなら、どれだけ可愛くてもぼっちになってしまう。

中学も高校も対して友人はいなかった。大学もそうだ。しかし美結は気にしていない。気にする余裕もない。



それは昼ご飯の時間だった。美結は食堂で1人、カウンターでご飯を食べていた。カレーうどんだ。安くて味が濃い。腹にも溜まるのでよく食べていた。

「――隣いいですか?」
「え――あ、はい」

別段混んでいる日でもなかった。なのにわざわざ横へと座った。まぁつまり――ナンパだ。何度か美結は経験してきた。

横に座った男はトレーを机に置くと、いきなりコップの水を全部飲み干した。

(……飲むの早)

そんなことを思いつつ麺をすする。男は何も言わない。黙々とトンカツ定食を口に運んでいた。

数分。数十分。両方とも一口が小さいようで、食べるのがなかなかに遅い。その間も会話はなかった。


先に食べ終わったのは男の方だ。定食のキャベツも全て食べ切り、更には米粒一つも残っていない。

空になったトレーを持って席を立ち上がった。そしてキッチンの横にあるトレーを返す所へと――。

「――え、え?」
「……え?」

――普通にナンパだと思っていた美結だったが、まさか話すらしないと思わなかった。

食堂はガラガラだ。席なんていくらでも空いてる。なのに自分の隣に座ってきた。これは普通にナンパだろう。

過去の経験則から導き出した答えだ。外すとは思っていなかった。だとしたらなんで横に座ったのだろうか。

ともかく意図せずして呼び止めてしまう形となってしまった。話すことを考えていなかったので脳も体もフリーズしてしまう。

「……」
「……」
「……」
「……えっと、どうかした?」

しばらく他人と話す機会がなかったからか、言葉が出てきてくれない。流石に「ナンパじゃないんですか?」なんて自意識過剰な言葉は出せない。


「え……あ……な、名前」
「ん?俺の名前?」

特に考え無しで出てきた言葉。男の問いに美結はコクコクと頷いた。

「俺は――」





「――羽衣桃也。変な名前だろ?」

桃也は美結にニコッと笑いかけた。人生で2個目の忘れられない記憶ができたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。 荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

処理中です...