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4日目
希望
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それから毎日のように2人は隣合わせで食事をするようになった。
最初の頃はなかった会話。次第に会話は増えていき、美結の表情もどこか明るくなっていく。優しくなっていく。
段々と美結は他人にも話しかけられるようになってきた。今までは話しかけるなオーラのような物が滲み出ていたが、今はそんなもの出ていない。ただの可愛い大学生だ。
会話をしていく内に桃也のことも分かってきた。桃也は水産学部に所属しており、ダイビングサークルでやいやい言わせてること。友人とも合わせてもらった。
愉快な人だ。おそらく頭もいい。自分が教えてないことを何度か当ててきた。人の考えてることが分かるそうだ。
だから少し――怖かった。明るくなったとはいえ、父親からの暴力は終わっていない。もし桃也にバレたら……なんて考えるだけで背筋が痛くなってしまう。
美結は桃也のことを意識し始めていた。異性としてだ。父親に強姦された日から、一度も好意を感じたことなどない。欠落していた感情が復活した気分だった。実際にそうだった。
自分のことを知って欲しい。でも知られたくない。そんな矛盾が体を蝕んでいく。包んでいく。汚染していく。
この好意を桃也に伝えれば返してくれる。認めてくれるはずだ。桃也には彼女もいないし、彼女が欲しいと聞いたことがある。
でもそうなると……父親が許さない。逃げてもだだっ広い情報網を使って見つけてくる。過去にそんなこともあった。それで数少ない友人が追い詰められて自殺している。
だから隠すしかなかった。また蓋を閉めなくてはならなかった。この桃也を守るため。自分の心を守るために――。
――そんなある日のこと。その日は2人で夕食を食べに行っていた。別になんてことないファミレス。金のない桃也に合わせた選択だ。美味しいものはいくらでも食べてきた美結だが、桃也と食べる食事が1番美味しい。
そうして楽しんだ後に家路へと着いた。空は曇り。もうすぐで雨が降りそうだった。まるで自分の心の中を表しているように。
「知ってるか?りんご酢ってダイエットにいいらしいぞ」
「そんなこと聞くね」
「いやぁいつもはムキムキを維持してるんだけどな?最近は潜れてないから太っちゃって……」
「確かに丸くなってきたね」
「ハッキリ言うなよ」
最近は心の底から笑えてきている。だが桃也はもっと昔から笑えただろう。ちょっと羨ましい。
そんな考えも自己嫌悪の一端となる。「もっとこんな幸せな時間が続けばいい」と思いながらも、「もう話したくない」ということも考えてしまう。
嫌な気分だ。嫌な状態だ。桃也の笑顔が輝いて見える。前よりも。会う度に。自分の心の傷と共に。
空から雨粒が降ってきた。自分の心とリンクしているかのように。
「わー!?降ってきたな!!」
「傘持ってないんだけど」
「……じゃあ俺ん家来るか?」
「――え?」
思わぬ提案。時間は7時くらい。空は薄暗いが、雲の影響だ。
「家はここから遠いんだろ?止むまで待ってから帰ればばいいじゃん?」
「……うん。そうする」
時間はまだ大丈夫。桃也も本心から言ってるはずだ。別にそういうことにはならない。する気もないだろう。
だから問題はない。ただ雨宿りするだけだ。濡れた桃也の背中にドキドキする。思わず微笑んでしまう。雨の中で走りながら、恋する乙女のようなことを思った。
――なんてことないアパートの一室だ。自分の家と比べても遥かに小さい居間。なんなら自分の部屋よりも小さいくらい。
乱雑に敷かれた布団。丸いテーブル。その上に散乱しているコンビニの容器。ゴミ箱にはコンビニの袋が使われている。
思っていたよりも普通の大学生。ゴミはきちんと捨てているようで、よくあるゴミ屋敷のゴミ袋は見当たらない。なんとなくゴミ屋敷を想像していた。
「狭いけどゆっくりしてってよ」
キッチンも綺麗にしてある。衛生管理も問題なさそうだ。
「……部屋汚そうと思ってたんだけどなぁ」
「失礼だな」
居間にちょこんと座る。他人の家に入るのは初めてだ。それこそ他人の家に居る猫のようにソワソワとしている。
ごく普通だ。桃也にとっては普通に生きているんだろう。こんなことも考えていない。
「……」
――泣きそうになった。でも泣いたって変わらない。もう子供ではないのだ。
全部さらけ出してしまえば楽なんだろう。桃也も動いてくれるはずだ。だけど――どうせ意味ない。裏から手を回されて無意味になる。むしろもっと酷くなる。
せめて……好きな人には迷惑をかけたくない。何も考えずに幸せになって欲しい。昔の友人みたいに、自殺なんてしてほしくない。
「――美結」
流れそうになる涙。悟られぬように、疑問に思われぬように。手首で目元を擦りながら――桃也の方に振り向いた。
「――悪いな」
最初の頃はなかった会話。次第に会話は増えていき、美結の表情もどこか明るくなっていく。優しくなっていく。
段々と美結は他人にも話しかけられるようになってきた。今までは話しかけるなオーラのような物が滲み出ていたが、今はそんなもの出ていない。ただの可愛い大学生だ。
会話をしていく内に桃也のことも分かってきた。桃也は水産学部に所属しており、ダイビングサークルでやいやい言わせてること。友人とも合わせてもらった。
愉快な人だ。おそらく頭もいい。自分が教えてないことを何度か当ててきた。人の考えてることが分かるそうだ。
だから少し――怖かった。明るくなったとはいえ、父親からの暴力は終わっていない。もし桃也にバレたら……なんて考えるだけで背筋が痛くなってしまう。
美結は桃也のことを意識し始めていた。異性としてだ。父親に強姦された日から、一度も好意を感じたことなどない。欠落していた感情が復活した気分だった。実際にそうだった。
自分のことを知って欲しい。でも知られたくない。そんな矛盾が体を蝕んでいく。包んでいく。汚染していく。
この好意を桃也に伝えれば返してくれる。認めてくれるはずだ。桃也には彼女もいないし、彼女が欲しいと聞いたことがある。
でもそうなると……父親が許さない。逃げてもだだっ広い情報網を使って見つけてくる。過去にそんなこともあった。それで数少ない友人が追い詰められて自殺している。
だから隠すしかなかった。また蓋を閉めなくてはならなかった。この桃也を守るため。自分の心を守るために――。
――そんなある日のこと。その日は2人で夕食を食べに行っていた。別になんてことないファミレス。金のない桃也に合わせた選択だ。美味しいものはいくらでも食べてきた美結だが、桃也と食べる食事が1番美味しい。
そうして楽しんだ後に家路へと着いた。空は曇り。もうすぐで雨が降りそうだった。まるで自分の心の中を表しているように。
「知ってるか?りんご酢ってダイエットにいいらしいぞ」
「そんなこと聞くね」
「いやぁいつもはムキムキを維持してるんだけどな?最近は潜れてないから太っちゃって……」
「確かに丸くなってきたね」
「ハッキリ言うなよ」
最近は心の底から笑えてきている。だが桃也はもっと昔から笑えただろう。ちょっと羨ましい。
そんな考えも自己嫌悪の一端となる。「もっとこんな幸せな時間が続けばいい」と思いながらも、「もう話したくない」ということも考えてしまう。
嫌な気分だ。嫌な状態だ。桃也の笑顔が輝いて見える。前よりも。会う度に。自分の心の傷と共に。
空から雨粒が降ってきた。自分の心とリンクしているかのように。
「わー!?降ってきたな!!」
「傘持ってないんだけど」
「……じゃあ俺ん家来るか?」
「――え?」
思わぬ提案。時間は7時くらい。空は薄暗いが、雲の影響だ。
「家はここから遠いんだろ?止むまで待ってから帰ればばいいじゃん?」
「……うん。そうする」
時間はまだ大丈夫。桃也も本心から言ってるはずだ。別にそういうことにはならない。する気もないだろう。
だから問題はない。ただ雨宿りするだけだ。濡れた桃也の背中にドキドキする。思わず微笑んでしまう。雨の中で走りながら、恋する乙女のようなことを思った。
――なんてことないアパートの一室だ。自分の家と比べても遥かに小さい居間。なんなら自分の部屋よりも小さいくらい。
乱雑に敷かれた布団。丸いテーブル。その上に散乱しているコンビニの容器。ゴミ箱にはコンビニの袋が使われている。
思っていたよりも普通の大学生。ゴミはきちんと捨てているようで、よくあるゴミ屋敷のゴミ袋は見当たらない。なんとなくゴミ屋敷を想像していた。
「狭いけどゆっくりしてってよ」
キッチンも綺麗にしてある。衛生管理も問題なさそうだ。
「……部屋汚そうと思ってたんだけどなぁ」
「失礼だな」
居間にちょこんと座る。他人の家に入るのは初めてだ。それこそ他人の家に居る猫のようにソワソワとしている。
ごく普通だ。桃也にとっては普通に生きているんだろう。こんなことも考えていない。
「……」
――泣きそうになった。でも泣いたって変わらない。もう子供ではないのだ。
全部さらけ出してしまえば楽なんだろう。桃也も動いてくれるはずだ。だけど――どうせ意味ない。裏から手を回されて無意味になる。むしろもっと酷くなる。
せめて……好きな人には迷惑をかけたくない。何も考えずに幸せになって欲しい。昔の友人みたいに、自殺なんてしてほしくない。
「――美結」
流れそうになる涙。悟られぬように、疑問に思われぬように。手首で目元を擦りながら――桃也の方に振り向いた。
「――悪いな」
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