レッドリアリティ

アタラクシア

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5日目

決着

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膝が地面に引き付けられる。体が異様に重い。地球の重力はこれほどまでに重かったのか。疑問が頭に入ってきた。

呼吸がままならない。恋でもしたかのように胸が痛い。骨が折れたとかじゃなく、体の生命維持装置が壊れたような。そんな感覚だ。

そうだ。桃也はどうなった。生きているのか。渾身の一撃を与えたのだ。あとほんの少し殴れば倒せるはず。


――桃也は生きていた。義明に何かを向けている。黒い炭筒。先端から出る煙。どこかで見たことのある形状。

(あぁ――そうか)

全てが分かった。今の今まで隠し持っていた奥の手。本当に最後の手段。それは――拳銃だった。


小次郎が所有し、使っていた拳銃。託された思いと共に受け取っていた物。

桃也は情などない。何も感じることはない。ただ長く一緒に過ごしただけの仲。ただ永く。兄弟のような時間を。

心で否定したとしても。頭で否定したとしても。何も感じなくても――桃也は本能で『仇討ち』を実行した。

意図せずして行ったことだ。この先も桃也は『仇討ち』をした事実を知らないまま生きる。しかしやり遂げた。やり遂げたのだ。



「はぁはぁ……」

消えていく意識の中。義明は立ち上がる桃也の姿を見た。

冷たい眼差しだ。死ぬ間際くらい暖かくありたい。それは身勝手だ。散々人を苦しめた自分にはこのくらいが丁度いい末路。

「……はは」

両親。幼馴染。嫁。子供。姪。過去の記憶がフラッシュバックする。どれもこれも美しく儚い思い出たち。

幸せは長く続かないのがセオリーだ。幸福はすぐに止まるのが世の定めだ。ましてや自分なんかが満ち足りた死を迎えられるはずがない。

「そうかそうか……なるほど……」

走馬灯は思い出すだけじゃない。過去の行いを思い出し、見直し、反省する。償いはもうできない。だからせめて反省する。

義明は反省することが沢山あった。閻魔様から舌を何百回抜かれてもまだ足りないくらいに。

脳内時間は流れ――ここ数日のことを思い出す。日常では起きることのないスリルのある戦いを楽しませてもらった。

斬られた。
撃たれた。
殴られた。
投げられた。
刺された。

耐え続けた。自分には効かないと思っていた。――でも効いた。それはとてつもなく

「……これが『痛み』か」

自分が捕まえた者が拷問されている姿を見た。義明は「自分なら耐えられる」と思っていた。現に戦いの中なら耐えられていただろう。

だが全てが終わった時に受けた胸への銃撃。これは――耐えられないほど痛かった。泣きそうなほど痛かった。

自分でも耐えられないのなら、今まで儀式を受けた人たちはどれほど痛かったのだろう。想像に筆舌しがたい。

「――どうりで皆――嫌がるわけだ」





約20秒後。義明の心臓は停止した。それでも倒れることなく座ったままであった。

「……」

桃也は立ち上がる。そして自分を救ってくれた拳銃に目を向けた。


『――っっかァァァ!!連勤明けのビールは最高だな!!』
『ただのサラリーマンにゃ分かんねぇよ』
『何年一緒にいたと思ってる。お前の嘘くらいは分かってるんだ』
『俺らの友情が無くなるかもしれないぞ』
『――分かった分かったよ!!助けに行く!!』
『……分かったよ。必ず2人を守る』
『状況を考えろ。殺人鬼のお前が非情にならないでどうする』


『桃也――お前は俺の親友だ。例え地獄に落ちるくらいの悪人でもな』





情などない。情などあるはずがない。あの男はただの知り合い。ちょっと付き合いが長いだけ。ちょっと一緒に居ただけ。

ここ最近も会ってなかった。久々に会って話が盛り上がる程度に会っていなかった。そんな男に情なんて持つはずがない。

ただ利用しただけだ。使っただけだ。私利私欲のため。そのために小次郎を死なせた――壊してしまっただけ。

なにも悲観的になるほどじゃない。美結も生きてる。おそらく凛も生きてる。予想するに、小次郎が守って――いや、自分が思い通りに使っただけだ。

なのに。それなのに。なんで。なんで――涙が出てくるのか。我慢しようとしても止まらないのか。

「……小次郎」

拳銃を握り締める。もう戻ってこない親友の名前を呼ぶ。

「――ありがとう」

感謝などやっても小次郎には届かない。届かなくても桃也はしたかった。自分の親友にしたかった。

――ありがとう。その言葉はとても優しく、とても穏やかな口調だった。桃也が殺人鬼だとは誰も気が付かないであろうほどに。
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