レッドリアリティ

アタラクシア

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5日目

凶悪

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キッチンのフライパンを投げつけた。今更そんなもの効かない。軽く手で払う。――軽い牽制だ。何も殺せるなんて思っていない。

もう1つフライパンを掴み、距離を詰めた。合わせるように義明の蹴りが放たれる。

「ふっっ――」

蹴りで片足立ちになる。蹴りは外れて桃也の髪を切り裂き、軸足となった左脚のつま先にフライパンを叩きつけた。


襟足を掴んで持ち上げる。捕まった猫のようだ。顔には痛みが見えない。つま先は神経が通っているはずだが、あまり効かなかったようだ。

――腹部にアッパーが突き刺さる。ちょっとは鍛えていた腹筋は軽く貫かれた。

またキッチンまでぶっ飛んだ。苦しいが動ける。飛び出そうとした瞬間――義明の手が顔面を掴んだ。

「うぉ――!?」

シンクに後頭部を叩きつけられる。材質は石。針が脳に刺さったような感覚。手足が痺れた。


そのまま引きずられる。桃也の頭で蛇口を壊し、たまたま置いてあった酒瓶を倒し割った。

「――」

まだ意識は保っている。痺れはすぐに取れた。手元にあった皿の破片を掴み、義明に突き刺す――。


首に刺さる寸前に手のひらで防御。白い皿が真っ赤に染っていく。片手は桃也、片手は破片。両手は塞がった。

――体を跳ねさせて後頭部を蹴り飛ばす。広がる痺れで手から離れることができた。

「ぐ……ちっ……がぁ!!」

もう一発。酒瓶で頭をぶん殴る。切れ口は乱雑に尖り、鋭く光った。


さらにもう一発。瓶の尖った部分を義明の脇腹に突き刺した。頭を殴られて力が抜けていたのか。軽く刺さった。

「うぅ――ああああ――!!」

右のハイキックをしゃがんで避ける。砕けるシンクの欠片が頭に降りかかった。

型を繋げるように脚を上げ、カカト落としを脳天に落とした――これも回避。床に穴を開ける。


「っっ……」

揺れた頭を無理やり動かした反動が来ている。かき氷を一気食いした時のような頭痛がする。頭が砕けそうだ。


床から脚を引き抜く。脇腹の出血は目に見えて酷い。相当深く刺さったようだ。――それでも止まることはない。

ノーモーションでハイキックが放たれる。それに合わせて瓶を突き刺す。刺さったのは足首だ。

「くそっ……!!」

――瓶は刺さったまま。飛び蹴りを顎にぶち当てた。

「ぶぐっっ――!?」

両者ともに地面に倒れる。


「ググ……」
「しつこい……ヤツめ……」

もう脳が揺れるのも慣れた。顔を振って意識を戻す。手元を探って武器を掴んだ。

「しつこいのはお互い様だ――!!」



手に取ったのは木の破片。立ち上がろうとした義明の首に振りかぶる。

体力の限界か。防御が間に合わずに首に刺さる。頸動脈――からはズレた。だがダメージはある。


痛みに耐えながら桃也の腹部にキック。天井近くまで打ち上げられる。――痛い。しかし耐える。耐えつつ天井の蛍光灯を掴んだ。

地面へと落ちる勢いを使って義明をぶん殴る。蛍光灯は砕けた宝石のように壊れた。

「――」

目は桃也から離さない。頭から流れる血が目に入っても。蛍光灯の破片が目に入っても。目を離さずにロックオンをする。


――本日数度目の右ストレート。渾身の攻撃。瓦礫を壊しながら外へと殴り飛ばさた。

「ぐ――あ――」

腹が吹っ飛んだ。消し飛んだ気分だ。内蔵が全部出てくる。出てきそうだ。

もう――限界。口の中が血で真っ赤になる。口の中が血の味で染まる。鉄の飴を舐めてる気分がする。

「あ――あ――あ――」

最後。走馬灯も流れない。死ぬ間際は時間が遅く感じるらしい。――それもない。完全な限界だ。


それは義明も同じ。この攻撃で体力が完全に消し飛んだ。もう一発同じものを放て、と言われても無理である。

しかしこのチャンスを逃すのはもっと無理なことだ。地面に赤い血の痕をつけながら歩く。

桃也に近づくにつれて刺された部位から血が溢れてくる。細胞が「羽衣桃也を殺せる」と喜んでいるのか。



その背中は小さく。悪魔のように思えた男は弱々しい背中を見せつけていた。

「――」

壊れた左手がダランと垂れている。ピクリとも動かせない。

「――遺言はあるか?」

せめてもの敬意だ。ここまで戦ってきた情もある。最悪な男だったが、戦いに関しては楽しかった。

それに興味もあった。このような男がどんな言葉を最期に残すのか。死ぬ間際にどんな姿を見せるのか。

もちろん警戒はしている。距離は離れたまま。武器を隠し持ってる可能性もあるからだ。近くに銃はない。離れていれば何をしても当たらないだろう。

義明の言葉は死刑宣告と同義だった。



「……――」
「ん?」

ボソボソとなにか聞こえる。耳には入ってこなかった。

「――――」

何を言っているのか。

「――――」

何を話しているのか――。










「――よき人生を」
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