レッドリアリティ

アタラクシア

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エピローグ

影響

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――八月村崩壊から数日後。戦後のように焼け落ちた八月村には多くの警察官と報道関係者が訪れていた。

焼けた死体から発する吐き気を催すほどの悪臭は徐々に消えつつある。死体は片付けられ、次に何があったのかの捜査が始まった。

「――な、なんなんだこれは」

驚くのも無理はない。数ある死体には不審な点が多くあった。

拷問を受けた形跡のある死体。何者かに撃たれた形跡のある死体。そして――殴り殺されている牧野刑事の死体。

村から離れた山奥にも死体があった。近くの熊の死体から、熊にやられたのだと結論付けされたが、納得できない人も多くいる。



――真実はその場にいた警察官、そして上層部のみが知ることとなった。

元鴨島家の場所から発見された『鴨島亜依』の手記から様々なことが明るみになった。

村の発端から始まり、儀式についてのことや執行教徒、炎渦登竜舞のことまで事細かに記されていた。

誰も実際に見たことのない物。嘘や空想と言ってしまえば楽だ。しかし手記は驚くほどに現実的で、そう過程すれば辻褄が合うことばかりであった。


このことは他言することがタブーとされた。理由は

儀式の被害を受けた死体は一人しか発見できていないが、今後死体を発見した場合、被害者家族に多大な影響を及ぼすと考えたためである。


八月村の崩壊。これから逃げ切った人たちも居た。『年齢が14歳以下の子供たち9人』と『羽衣家族』、そして『坂野氷華』である。

羽衣家族と坂野氷華は、現在病院で治療を受けていた。全員とても酷い状態。事情聴取を受けるのは先のことだ。

――子供たちの事情聴取を担当した刑事たちは頭を悩ませることになる。その理由は子供たち全員が『極夜様を見た』と言っているからである。

極夜様とは八月村に古くから言い伝えられている妖怪であり、悪いことをした子供の首を切り取ると言われている。――それを全員が目撃したと言うのだ。


後日、極夜様が封印されている箱の場所へ警察官が訪れた。箱の中身は――なんてことない。ごく普通の林檎が置かれてあった。

ただ1つ気がかりなことがあった。箱は何年も開けられた様子などないのに、林檎はとても綺麗な状態だったのだ。腐るどころか熟れて食べ頃。ホコリだらけの箱の中にそんな物が入っていた。

不自然極まりない。指紋を採取しても反応なし。触られた形跡も存在しない。何らかの超常現象が発生していると考える方が自然だ。



不穏な噂を持つ村が突如崩壊。村人はほとんどが殺され、家屋もひとつ残らず焼け落ちた。

こんなのを報道するなという方が酷である。事件はたちまち日本中へと広がり、あらゆる場所で論争や陰謀論が立ち上がった。

『八月村に恨みを持つ何者かが仕組んだ』
『村人同士の殺し合いが起きた』
『山から出てきた野生動物にやられた』
『妖怪がやった』

などと中途半端に根拠のある説が幾つも唱えられた。

興味を持った若者やYouTubeはこぞってこのことを発信。遠くから八月村まで訪れる者までいたそうだ。

事態は混乱を極めた。見物人によって現場を踏み荒らされ、残っていた証拠や金目の物を盗まれる事件も発生。あまりにも数が多すぎるので、警察の対応も追いつかなくなっていた。

そんな警察に対する誹謗中傷も後を絶たず……わずか人口500名ほどの村が、日本全体を混乱と恐怖の渦に巻き込んでいた。





ここに八月村事件の捜査に意欲的な刑事が居た。名は奏乃立志そのりつし。小次郎の同僚である。

彼は小次郎殺しの犯人をひたすら追っていた。無念を晴らすため。そして小次郎の家族を安心させるためだ。

村の中で何が起こったのかもマトモに判明していない。当たり前のように調査は難航。ほとんど手がかりを得ることもできずにいた。


――そんな時。坂野氷華の状態が安定したことを立志は知った。子供たち以外で唯一の村出身の生き残り。

年齢も16歳と子供たちよりかは信頼できる歳だ。最期に残ったチャンス。これを逃す手はない。そう考えた立志は病院へと脚を運んだ。
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