レッドリアリティ

アタラクシア

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エピローグ

氷華

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見慣れない天井。無機質な壁。雪のように白い布団の上で私は目を覚ました。

「……」

ここはどこだろうか。窓から見えるのは見慣れない景色。あまり見る機会のなかった車がたくさん走っている。地面もコンクリート。八月村はほとんど土しかなかった。

爽やかな風が頬を撫でてくる。……痛い。つーねぇとの殺し合いで受けた頬の傷が傷んだ。

頬以外も痛い。呼吸する度にアバラは痛む。斬られた腕も痛い。もう身体中の何もかもが痛かった。ただ1番痛いのは――心だ。


まばたきをする度に思い出す。神蔵おじいちゃん。つーねぇ。大事な人を殺した時の景色を何度も思い出した。

殺した感触も手に残っている。野生動物は何回も殺した。思い出せないほど。なのに同じ人間を殺した時のことは忘れられない。つくづく都合のいい生き物だと実感した。

「……みんな」

家族はいない。桃也が生きていたということは、兄である猟虎も死んだ。何も分からない世界でひとりぼっち。考えるだけでゾッとする。

今頃になって後悔が頭をよぎった。私が始めたこと。あくまで桃也には手伝ってもらっただけ。だから全部自分のせい――後悔の重圧は私の体に深くのしかかってきた。





――それから数日後。私は色んな情報を聞くことができた。今は事情聴取しに来る刑事の人を病室で待っている。

とりあえず桃也と美結さんは無事らしい。私と同じくらいには傷だらけなので入院は免れなかったが。

凛ちゃんは無傷だった。親が親なら子も子だと思った。どうやら桃也のお父さんのところで預かってもらってるそうだ。

私はネットに疎いのでよく分からないが、巷では私や桃也たちについての悪い噂が出回っているようだ。まぁネットに疎いのでほんとうによく分かんないけど。

とにかく生きてて良かった……なんて思ってたら死んだ皆に呪い殺されそうだ。されても文句は言えない。


何度も桃也のことを思っていた。「今は何をしてるのか」とか「凛ちゃんと楽しく会話してるのかな」なんて。「もしかしたら警察から逃れるための作戦を練ってたり」とか思ったりして。

寝ても醒めても桃也のことばかりを考えてしまう。あんなに衝撃的な人はこの先の人生でも会わないだろう。

――拷問をされた。手のひらは痛いし、口の中も痛い。普通はこういう時は相手を憎むのだろう。なのにどうしても憎めなかった。

やることもないのでずっと考えてる。考えてるけど理由が思いつかない。自分のことなのに分からない。

不思議で不思議でずっとモヤモヤする。喉に小骨が刺さったような違和感だ。しかも小骨と違って取ることができない。


時折よくない想像をしてしまう。もしも桃也と出会わなかったら、なんていう甘ったれた現実逃避の妄想だ。

つーねぇを殺してなかったかもしれない。神蔵おじいちゃんを殺してなかったかもしれない。もしかしたら話し合いでどうにかできたかもしれない。無理なら一人で逃げてたかも。

考えれば考えるほど他の方法があったんじゃないかと思ってしまう。わざわざ皆殺しなんて方法を取らなくても。

私の頭が悪かったから。馬鹿だったから。思い込みが激しかったから。だから皆を殺す結末になってしまった。

――辛い。痛いよりも辛い。だけど辛さには向き合わないといけない。だって私が殺したのだから。

全部刑事さんに白状してしまえば楽だろう。私だってそうしたい。でも白状してしまうと桃也も捕まってしまう。桃也の家族がバラバラになってしまうかもしれない。

……正直、私だって捕まりたくない。刑務所というのはよく分からないけど、とにかくいい場所じゃないことは確かだ。

自分勝手。身勝手。馬鹿で悪人なのに生き残ってしまった。何人も殺したのにまだ息をしている。

でも自殺は怖い。人を殺しているのに自殺は怖い。どれだけ自分を悪く言っても、そんなことを思ってる時点で私は最低な人間なんだろう。最悪な人間なんだろう。
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