レッドリアリティ

アタラクシア

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エピローグ

尋問

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――自己嫌悪に陥っていた時。病室の扉が静かに開かれた。中に入ってきたのは穏やかな顔をした男の人。

スーツ姿からして刑事の人だ。小次郎さんと服装が似ている。雰囲気もどこか似ていた。刑事の人はみんなそうなのだろうか。

目に隈ができている。もう疲れているのがひと目で分かった。多分本人は気がついていないのも感じ取れる。


「こんにちは。体調はどうですか?」

優しい口調で聞いてくる。さっきまでの自己嫌悪が消えていく感じがした。

「悪くはないです。まだ体は痛いですけど……」
「突然ですみません。どうしても話が聞きたくて」
「大丈夫ですよ」

――ここは重要な場面だ。下手な芝居はすぐバレる。誤魔化すにしても頭を使わないと。それに変なことを言いすぎると、桃也との話が矛盾してしまう。

真実を交えつつ重要な部分は嘘で塗り固める。今の私に出来るか不安だが、やるしかない。


「私は奏乃立志です」
「坂野氷華です」
「体調が悪くなったらすぐに言ってください。無理はさせられませんから」
「お気遣いなく」

少し冷たかったかも。いや流石に考えすぎか。

「じゃあ早速。自分がどこで倒れてるかは聞きましたか?」
「村の入口手前……だった気が」
「そうです。村の入口の手前で倒れているのを近くの街に住んでいる人が発見したんです。『山奥がなんか明るい』と不思議に思った人がね」

そりゃそうだ。あんな派手に燃やしたらバレる。むしろ今までバレなかったことの方が不思議だ。

「なんでそこにいたんですか?」
「……あまり覚えて無くて」
「そうですか……じゃあ最後に覚えてることは?」
「最後に覚えていること――家が燃えてて、村のみんなが逃げ惑っているところ……ですかね」
「はいはい。燃えている理由とかは?」
「それは分かりま――」
「――炎渦登竜舞」


――知られてた。予想はしていたが思わぬ所で言ってきたので、心臓がドキッと鳴った。

「……」
「これの影響……ですかね?」
「……はい」

ここで嘘をついても意味ない。本当のことを言おう。

「儀式の内容は調べてあります。でも火災の対策はしていたのでは?」
「その時に私は手伝ってなかったので分かりませんが、おそらく対策が不十分だったんだと思います」
「何年も続けられて来たのに?」

いやらしい言い方だ。これも仕事なのだろう。普通に腹が立つことには変わりないけど。

「……たまたまですよ」
「死体の中には焼死以外に、誰かに殺害された形跡もありました。なにか心当たりは?」
「ないです」
「村の中に不満を持っている人とかは?」
「いませんでした」
「――氷華さんはどうだったんですか?」
「私は……正直に言うと嫌でした。儀式も祭りも。人が苦しんでいるのを見るのは気分が悪かったです」

本心だ。今も変わらない本心。嘘偽りない本心だ。

「はは……嫌味に聞こえたら謝りますが、あの村に住んでいてその感性は凄いと思います」
「そうですか……」
「……やっぱり失礼でしたね。すみません」
「大丈夫ですよ。私も同じことを思ってましたから」

やっぱりこの人は悪い人じゃない。気がちょっとだけ楽になった。


「山奥の死体についてはご存知で?」
「いいえ初耳です――」

「猟虎さんの死体についてなんですが」
「兄がなにか――」

「牧野小次郎についてはなにか――」
「いいえ何も――」

「亜依さんの手記によりますと――」
「そうですか。亜依ちゃんが――」


当たり障りのない質疑応答だった。私が予想していた質問も多くあったし、アドリブでも一応は答えられた。もしかしたら矛盾もあったかも。

時間はすぐに過ぎた。立志さんも「そろそろですね」と言って切り上げる素振りも見えた。最後まで安心はできない。心臓は未だに鼓動を強めていた。

「じゃあ最後に――羽衣桃也さんについて」
「羽衣……桃也」
「知りませんか?」
「あーいや、知ってます。何回かお話させていただいて」
「……なにか不審な点はありましたか?」
「――」

――言ってしまえば楽になる。悪魔がそんな言葉を囁いてきた。人によっては天使の言葉かもしれない。

事実だ。ここで全てをさらけ出せば楽になれる。こんな自己嫌悪に悩まなくて済む。死んだ人も報われるかもしれない。

今から一人で生きていくのは無理だ。ならせめて刑務所からスタートすれば少しはマシになるかも。

私は。私はどうすれば。私は。私は――。
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