無職で何が悪い!!―Those days are like dreams―

アタラクシア

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1章 血塗れになったエルフ

第16話 優位などぶち抜け!

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ヘキオンは焚き火の前に立った。エルフとの距離は20~30m。水の推進力を使えば3歩で詰められる距離だ。

武器から見て遠距離型。ならばシンプルに近距離戦が苦手なはず。接近戦で勝負を決める。

その為には最初の1発が重要だ。おそらく近づく前に撃たれる。撃たれる前に倒せればいいが、今のヘキオンにそれほどの実力はない。

回避しつつ距離を詰める。その場で回避では2発目を撃たれる危険性がある。さらに距離まで離されれば目も当てられない。

リスクを最小限にし、勝率を最大限にする。勝負は一瞬。唾をゴクリと飲み、緊張を押さえつける――。





――どこかで鳥が羽ばたいた。それが勝負開始の合図となる。

破裂音と共に接近するヘキオン。エルフは弓を構えて狙いを付けた。

速いのは――やはりエルフ。パチッと電気が矢の先端で弾けた。

(雷属性か……ヘキオンとは相性がよくなさそうだな)


――矢が発射された。雷を纏った矢は空気を切り裂きながら突き進む。

スピードは落としたくない。加速を付けたまま攻撃したい。なら止まるわけにはいかない。

電撃の矢は徐々に迫ってくる。心臓の音は鼓膜にどんどん近づいてくる。唾を飲み込んでる暇はない。

迫る。迫る。迫る。迫ってくる。
30cmもない。
20cmを切った。
10cmまで近づく。
あと3cmに――。


ここで回避。狙われていたのは顔だ。だから動きを最小限にした。顔を少しずらす。矢は頬を少し切って奥へと飛んでいった。

「――!?」

避けられると思っていなかった。それよりも完全に当たったと思っていた。思考している間にヘキオンは間合いまで詰めていた――。

アクアブロー水殴り!!」

拳はエルフに突き刺さ――らない。体勢をわざと崩して攻撃を回避する。

予想内。次に水は足へと集中する。

アクアインパクト水衝撃!!」

――これも回避。ふくらはぎで電気が弾けたと同時に、兎のように横へジャンプする。


体をヘキオンの方へ滑らせながら矢をつがえる。攻撃後の硬直を狙われた。これは避けられない。

「くっ――」

水が手に集約。攻撃は互いに同時となった。


矢が放たれる。水が放出される。

ウォータースプラッシュ水放出!!」

水は矢の軌道を変えるほどの威力。本来なら胸を貫いていたはずの矢は、ヘキオンの左アバラを1ミリほど掠って飛んでいった。



仕切り直し、となる。ヘキオンは攻撃のために水をまとめようとする。エルフも同じ。だが目的は分かっていても、予測できない行動をした。

またふくらはぎに電気が走る。それと同時にエルフは大きく飛び上がった。

「え――!?」

弓は既に相手へ。引ききった弦はギリギリ音を立てる。矢は電気にまとわりつかれて黄色に光っていた。

収束する狙い。その間は隙だらけだ。だがここに来て臆してしまった。

「うっ――ウォーターウォール水の壁!」

前方から高圧の水が勢いよく飛び出す。それはさながら水の壁。他に例えようようのない水の壁が出現した。


「――レイジングブラスト雷纏う四重の矢

弓の先端。さっきまで矢のつがえてあった場所から四本のビームが飛び出す。

四本のビームはそれぞれの方向に蛇のように動き回る。統率なんて取れていない。しかし狙いだけは決まっていた。


二本は壁に当たって消滅。残りの二本は壁から回り込んできた。

「うわぁ――!?」

咄嗟。脊髄反射が機能したおかげで、1本はかわせた。しかし最後の1本はかわしきれずに太ももを掠る。


撃たれてしまったのはしょうがない。直撃しなかったのは運が良かった。今度は同じ行動をしない。ヘキオンは水の壁を解いた――。


――いない。いない。空中にいたエルフがどこにも見当たらない。消えたのか。消滅したのか。はたまた逃げたのか。

ありえない妄想が顔を出しては隠れていく。
あらゆる可能性を引き出しては片付けていく。

何が起きているのかも分からない表情のまま――ヘキオンは自分の後ろで光る雷を視界に収めた。


エルフの体に雷が走っていた。髪、肌、爪。中に入って、皮膚、脂肪、筋肉、骨、神経、血管。全ての部位に稲妻が跡をつけていく。

目には黄色の閃光。熱を帯びる体表面。スピードは格段に上昇していた。近距離戦が苦手なのなら、その対策をするのは普通だ。

それがこの技。身体中に電気を纏い、自身のスピードを上昇させる――。

「――エレキニックブラスト巡る雷

手に握られた矢はヘキオンに向かう。もう避けられない。軌道も変えられない。当たるのは確実。そして不変だ。

刺さる場所は胸近く。大ダメージは必須。下手したら死ぬ。というのに――カエデは動く気配がない。

臆したか?反応できないか?――どっちも違う。この時点でわかっていたのだ。
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