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後章 終わらぬ雨なら止めてやる
第56話 叫べ。そして掴め
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残されたのは4人。ここでできることはもうない。やるとすれば祈ることだけ。無事に2人が帰ってくるようにと。
「時雨。足はどうだ?」
「痛い……」
「歩けそうにはないね」
傷は悪化こそしていないが、かといって良くはなっていない。変わらず痛々しいままだ。
「新しい包帯に変えとこう。下手に放置して菌が入ったら危ないしな」
「そうだね――――」
――バン。
もう聞き慣れてしまった音。しかし反射的に体は跳ねる。
――ギギギギギ。
今度は壁を引っ掻く音が。今までとは違う。入ってこれないのは本当なようだ。
「……」
心臓が高鳴る。もしかしたら2人が外へ出たことがバレたかも。追いかけられるとマズイ。
引っ掻き音は上から下へ。下から上へ。右から左へ――。この小屋の周りを移動しているかのようだった。
『お前。生きていい、なんて思ってるのか』
声が。聞こえてきた。
――時雨は覚えている。忘れるわけがない。八重と光もどこか聞き覚えがあった。
「――村――姉」
それは村雨の声であった。村雨は死んでいる。だから声が聞こえることは普通ありえない。
しかしこの状況の時点で普通じゃないのだ。声が聞こえたっておかしくもない。問題はその内容だ。
『必死になって頑張ってた私になんて言ったか覚えてるか』
時雨が震えている。恐れているのだ。それ以上に辛いのだ。過去のトラウマを掘り返されて。
『お前は私を罵倒した。そして逃げた。お前があんなことを言わなければ助かったかもしれない。なのにお前は逃げた。私はお前を守ろうとしたのに』
「ぅ……ぁ……!」
震える。落ち着かせようと八重が抱きしめる――が効果はない。震えはより一層強くなっていく。
現在の時雨は精神が不安定な状態だ。ネガティブな感情を抱いてしまえば相手の思うツボ。下手すればさらに相手を強くしてしまう。
だがトラウマはそう簡単に忘れされるものでもなく。落ち着かせる言葉の出ない八重を無視して罵倒は続く。
『お前のせいだ。お前が産まれてこなければパパとママは生きていた。お前が居なければお爺ちゃんとお婆ちゃんは死なずにすんだ。お前が生きていなければ――私は幸せだった』
「ごめん……なさい……!」
「時雨!耳を傾けるな!!」
――違う。絶対に違う。ただ時雨の過去を聞いた八重でも分かる。村雨はこんなことを言うような人じゃない。
それでも――時雨は揺らぐ。そんな人じゃないと1番分かっているはずなのに。それなのに――。
『ママとパパに謝ろうとは思わないか。お爺ちゃんとお婆ちゃんに申し訳ないと思わないか』
「ごめんなさい……ごめんなさい……わた、私が――悪いの……!!」
『本当は安心しているんだろう。「殺されたのが他の家族で良かった」と。「姉でよかった」と。卑劣だな。最低だな。そんな奴がよくもまぁ幸せになろうと思ったものだ』
「ごめ……んなさい……なろうとは思わないから……幸せになろうなんて思わないから……!!」
「時雨――クソっ!!」
『お前が幸せになることなんて許されない。苦しめ。苦しみぬけ。地獄ですら生ぬるいと思うくらいに。地獄ですら天国だと思うくらいに。苦しめ』
これが人間ならばぶん殴っていた。これが生きているのならば止めに行けた。だが相手は幽霊。むしろ返り討ちにされる。
抵抗なんてできない――それが分かっているから言葉は続く。
『お前は生きてちゃダメな人間だ。お前は死ななくてはいけない人間だ。ましてや幸せになろうとなんて……周りを不幸にするお前がなぜ幸せになれると思った?』
「私は……私はっ……!!」
『自分でも分かっているだろう。分かっていないのなら言ってやる。お前に「幸福」は似合わな――――』
「――――黙れ……!!」
――口を開いたのは光だった。
「なにが……なにが『時雨のせい』だ。お前が!!お前が時雨の家族を襲ったのが全ての元凶だろ!!」
村雨――否、雨宮がいるであろう扉の前に立つ。
脚は震えていた。体は震えていた。涙も出ていた。それでも立った。それでも叫んだ。
「お前があんなことをしなければ時雨の家族は死ななかった!!お前が関わらなければ時雨は幸せに暮らしていた!!だいたい時雨の家族を殺したのはお前だろ!!」
時雨が大切だから。大切な親友だから。大好きな親友だから。親友を罵倒されて――黙っていられるはずがない。
「時雨は何も悪くない!!時雨の家族だって何も悪くない!!――全部お前の責任だ!!時雨の不幸はお前の責任だ!!」
涙を飛ばして。喉を鳴らして。ずっと思っていたことを口にする。
「時雨は!!絶対に!!なにも!!悪くない!!」
「時雨。足はどうだ?」
「痛い……」
「歩けそうにはないね」
傷は悪化こそしていないが、かといって良くはなっていない。変わらず痛々しいままだ。
「新しい包帯に変えとこう。下手に放置して菌が入ったら危ないしな」
「そうだね――――」
――バン。
もう聞き慣れてしまった音。しかし反射的に体は跳ねる。
――ギギギギギ。
今度は壁を引っ掻く音が。今までとは違う。入ってこれないのは本当なようだ。
「……」
心臓が高鳴る。もしかしたら2人が外へ出たことがバレたかも。追いかけられるとマズイ。
引っ掻き音は上から下へ。下から上へ。右から左へ――。この小屋の周りを移動しているかのようだった。
『お前。生きていい、なんて思ってるのか』
声が。聞こえてきた。
――時雨は覚えている。忘れるわけがない。八重と光もどこか聞き覚えがあった。
「――村――姉」
それは村雨の声であった。村雨は死んでいる。だから声が聞こえることは普通ありえない。
しかしこの状況の時点で普通じゃないのだ。声が聞こえたっておかしくもない。問題はその内容だ。
『必死になって頑張ってた私になんて言ったか覚えてるか』
時雨が震えている。恐れているのだ。それ以上に辛いのだ。過去のトラウマを掘り返されて。
『お前は私を罵倒した。そして逃げた。お前があんなことを言わなければ助かったかもしれない。なのにお前は逃げた。私はお前を守ろうとしたのに』
「ぅ……ぁ……!」
震える。落ち着かせようと八重が抱きしめる――が効果はない。震えはより一層強くなっていく。
現在の時雨は精神が不安定な状態だ。ネガティブな感情を抱いてしまえば相手の思うツボ。下手すればさらに相手を強くしてしまう。
だがトラウマはそう簡単に忘れされるものでもなく。落ち着かせる言葉の出ない八重を無視して罵倒は続く。
『お前のせいだ。お前が産まれてこなければパパとママは生きていた。お前が居なければお爺ちゃんとお婆ちゃんは死なずにすんだ。お前が生きていなければ――私は幸せだった』
「ごめん……なさい……!」
「時雨!耳を傾けるな!!」
――違う。絶対に違う。ただ時雨の過去を聞いた八重でも分かる。村雨はこんなことを言うような人じゃない。
それでも――時雨は揺らぐ。そんな人じゃないと1番分かっているはずなのに。それなのに――。
『ママとパパに謝ろうとは思わないか。お爺ちゃんとお婆ちゃんに申し訳ないと思わないか』
「ごめんなさい……ごめんなさい……わた、私が――悪いの……!!」
『本当は安心しているんだろう。「殺されたのが他の家族で良かった」と。「姉でよかった」と。卑劣だな。最低だな。そんな奴がよくもまぁ幸せになろうと思ったものだ』
「ごめ……んなさい……なろうとは思わないから……幸せになろうなんて思わないから……!!」
「時雨――クソっ!!」
『お前が幸せになることなんて許されない。苦しめ。苦しみぬけ。地獄ですら生ぬるいと思うくらいに。地獄ですら天国だと思うくらいに。苦しめ』
これが人間ならばぶん殴っていた。これが生きているのならば止めに行けた。だが相手は幽霊。むしろ返り討ちにされる。
抵抗なんてできない――それが分かっているから言葉は続く。
『お前は生きてちゃダメな人間だ。お前は死ななくてはいけない人間だ。ましてや幸せになろうとなんて……周りを不幸にするお前がなぜ幸せになれると思った?』
「私は……私はっ……!!」
『自分でも分かっているだろう。分かっていないのなら言ってやる。お前に「幸福」は似合わな――――』
「――――黙れ……!!」
――口を開いたのは光だった。
「なにが……なにが『時雨のせい』だ。お前が!!お前が時雨の家族を襲ったのが全ての元凶だろ!!」
村雨――否、雨宮がいるであろう扉の前に立つ。
脚は震えていた。体は震えていた。涙も出ていた。それでも立った。それでも叫んだ。
「お前があんなことをしなければ時雨の家族は死ななかった!!お前が関わらなければ時雨は幸せに暮らしていた!!だいたい時雨の家族を殺したのはお前だろ!!」
時雨が大切だから。大切な親友だから。大好きな親友だから。親友を罵倒されて――黙っていられるはずがない。
「時雨は何も悪くない!!時雨の家族だって何も悪くない!!――全部お前の責任だ!!時雨の不幸はお前の責任だ!!」
涙を飛ばして。喉を鳴らして。ずっと思っていたことを口にする。
「時雨は!!絶対に!!なにも!!悪くない!!」
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