美形×平凡 短編BL小説集

鯛田オロロ

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この瞬間に死ねたらいいのに(同級生・現代)

この瞬間に死ねたらいいのに※

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「お前さ、ホモだろ」

高校の同級生の中邑雄吾は、掃除当番の最中、周りに人がいないのを見計らって、そっと俺に耳打ちをした。

風が強く吹いて、中庭の木々がざざと音を立てた。

俺は目を見開いた。竹箒を握りしめる手に知らず力が入る。

確かにそうだ、何故わかったのだろう。

「違うよ」

きっぱり否定しようと思ったのに、声はわずかに震え、上ずってしまった。いつも中邑をちらちらと目で追ってしまっていたのが良くなかったのかもしれない。

「嘘つくなよ、俺もホモだし」

その突然の告白に、これ以上見開けないと思っていた俺の目が、さらに大きく開いた。

「今日うちに来いよ」

「え?」

「お前みたいな不細工はさ、一生誰ともセックスできずに死ぬだろうから、可哀想だから俺が経験させてやる」



放課後、教えられた住所に俺はのこのこと出向いた。目的地についた俺は、瀟洒なオートロックの高層マンションを見上げて圧倒された。中邑は、高校生にも関わらず、ここに一人で住んでいる、らしい。

インターホンを押す。

部屋の中には中邑のがらの悪い仲間も待機していて、俺を取り囲んでコケにするのかもしれない。そして脅されて金品を巻き上げられるかもしれない。

そんな最悪の想像をしながら、なんでここまで来てしまって、インターホンを押したのか。

やはり引き返そうかと思った矢先、中邑からの応答がありエントランスのドアが解錠された。

エレベーターに乗り、目的の階で降りた。

中邑の部屋のインターホンを押すと、玄関ドアが開いた。

見慣れたほとんど金髪が気だるげに姿を見せた。

髪を明るく染め、ピアスの穴が複数開いている中邑は、公立の進学校では特異な存在だ。それに、実に男らしい整った容姿をしているので大変目立っている。

身長も平均以上はある俺よりも高い。軽く一八〇を超えているだろう。

「入れよ」

俺は気圧されながらも、おずおずと中邑の家に上がった。見回すが他に仲間が隠れている気配はないようでとりあえずほっとする。

あまり物のない部屋だ。味気ない、と思った。

中邑の言う通り、俺はきっと誰とも性行為を経験せずに死ぬことになる。

中邑が経験させてくれると言うなら、またとない貴重な体験ができるかもしれないと思って馬鹿みたいにここに来てしまったのだ。

俺がそわそわと所在なく立っていると、中邑はソファにどすんと腰を下ろした。

「脱げよ」

顎を上げて中邑が言う。

どこかに隠しカメラがあって、その映像をもとに脅されるのかもしれない。

しかし、言われるままに服を脱いだ。中邑の声には俺を從わせてしまう何かがあった。

下着も脱げと言われ裸になった。中邑は品定めするように俺の全身に目を走らせた。かっと肌が燃えるように熱くなる。

俺が中邑のめがねに叶うわけがない。俺は今日、恥をかかされに呼ばれたのかもしれない。身の程知らずに思い知らせてやるために。

「ま、イケなくもねえか。ここんとこ溜まってるし」

どうやら、セックスはぎりぎりできるようだった。

ベッドに横たわり、足を開くように指示される。性器や肛門周りが丸見えになることき抵抗感はあったが指示されたとおりにした。

ああ、俺の陰茎は恥ずかしいことに勃起してしまっている。縮こまっていてもいいはずなのに。

中邑が俺の陰茎に手を伸ばし、面倒そうにしごいた。本来なら中邑のような見目のいい男が間違っても触れないだろう、不細工の陰茎を。

「お前、ブスのくせに性欲強いのかよ」

中邑が鼻で笑う。

いくら事実でも不細工と面と向かって言われて、傷つかない訳では無い。それなのに、俺の陰茎はますます張り詰めて俺を困惑させた。

雁の部分を親指と人差指で作った輪で刺激される。尿道口から滲み出したカウパーを亀頭に塗りひろげられる。

くちゅくちゅと音が立つ。

「ふっ、あっ……な、かむら、でる、でる! あっ、ああっ!」

俺はあっという間に追い上げられ、腰をへこつかせて、射精してしまった。

「はっや」

中邑は、つまらなそうにティッシュで俺の吐き出した汚物を拭った。

中邑は指サックのようなものをはめ軟膏を塗りたくった。その指が尻の穴に、触れた。

力んだ肛門をくちくちとなだめすかした。

わずかに弛んだ隙をついて、中邑の長くすんなりとした指が俺の体内に侵入してきた。

「い、痛い」

「じゃあ力抜け」

一本二本と指が増やされていく。

快不快でいえば、間違いなく不快だったが、尻の穴は着実に解されていった。

「おい、しゃぶれ」

中邑がまるで興奮していない自身のペニスを指し示した。俺は、困惑しながら、中邑の股間をまじまじと見た。意外に慎ましいサイズだ。

俺は、恐る恐る舌を這わせた。ちろちろとおっかなびっくりに舐める。

「へたくそ。そんなんで勃つかよ。口開けろ」

言われてぱくりと口に含んだ。亀頭のつるつるした粘膜は可愛らしくすら感じた。

舌で亀頭を撫でる。

少しずつ中邑のものが芯をむくむくとち立ち上がってくると、自分が育てたようで喜びを感じた。自分が触れたら気持ちのいい雁の部分を、口をすぼめて上下させ刺激した。

が、すぐに口に収まる大きさではなくなった。顎が外れそうだ。

「もういい」

口を離すと、勃起したペニスの全貌が見えた。

膨張率の凄まじさにため息が漏れた。雁の張り出した充実した亀頭に、硬さも太さも長さもある。

中邑は勃起したペニスにコンドームを慣れた手付きで装着した。俺は、足を持ち上げられて、真下に突き刺すように挿入された。

「はっ、うっ……!」

凄まじい圧迫感だ。肛門括約筋がぴんと限界まで張った。

亀頭がめりめりと肛門を押し開き、やがでぐっぽりと肛門の輪を通過すると、ぐいぐいと中邑が奥へ奥へと押し入ってくる。

「おい、全部入ったぞ」

中邑はいくらか満足そうな顔をして、その柔らかな陰毛と陰茎の根元の肌を押し付けた。

俺はこれでもう、未体験ではなくなったのかと強烈な違和感、圧迫感の中で思った。

抜き差しが始まった。肛門がめくれ上がるのを感じる。ひりつくような痛みを感じた。おそらく耐えきれず切れたのだろう。

俺は内臓が突き上げられ、引き出されるときには持っていかれるような苦痛を感じた。ただただ苦しい。内臓をえぐられ、胃液が胃の噴門を逆流する。

中邑も眉根に皺を寄せ、キツい、とうめいていた。

中邑の抜き差しのスピードが上がると苦しさは更に増した。一際奥まで押入ると、腰をぐっと押し付け、ぶるりと体を震わせ、俺の中で射精に至ったようだ。

中邑は射精するときのしかめた顔も美しかった。優美な顎を滴る汗も。ふ、と漏れた吐息さえも。これには一見の価値があると思った。俺の体にも中邑を射精に至らせる能力があるのだと、嬉しくも思った。

しかし、これがセックスなら、全然気持ちのいいものではない、俺はそう思った。

これが俺の初体験だった。



行為後、中邑は、また気が向いたら呼んでやる、と親切にも申し出てくれた。

それからLINEを交換して、中邑の溜まっているときに気まぐれに呼び出されるようになった。

俺は、中邑が射精する瞬間が見たくて、ほいほい中邑とセックスをした。

高校を卒業して、大学生になった今も。



どういうつもりで中邑が俺と性行為をするのかは知らない。都合のいい、人の形をしたオナホと言ったところだろう。中邑は、オナホには美しさを求めないらしい。

中邑は、手慰みに俺の乳首や陰茎を刺激する。

ブスのよがってる顔は面白いと、乳首を延々と甘噛され舌ピアスで嫐られる日もあれば、亀頭をローションガーゼで責められ幾度も潮を噴かされる日もある。

機嫌の悪い時は延々と前立腺を責められ、もう無理だとこちらが言っても聞き入れてくれない日もある。

そもそも、中邑がしたいときにしたいようにするだけなのだ。俺は従うだけ。

耳もうなじも脇腹も太ももの内側もそんなところが自分の性感帯だとは知らなかった俺に、中邑が教えた。

俺の眠っていた性感は次々と中邑によって掘り起こされていった。中邑とセックスしなければ知ることもなかっただろう。

今日も講義の後に中邑に呼び出された俺は、中邑に最奥を一定のリズムで穿たれ、結腸の生み出す狂おしい快感に翻弄されていた。

中邑が俺を見下ろして言う。

「歩夢は、本当に、ブスだな。よがってる顔もブス過ぎんだよな」

「あうっ、ふぎっ、はっ、はひっ! あっ、ああっ」

中邑の亀頭が、結腸をぐぽぐぽと出入りする。俺の直腸及び結腸は勝手に締まって、中邑の亀頭をしゃぶり、陰茎に絡みつく。絶頂につぐ絶頂に、全身がびくびくと止められない痙攣を繰り返していた。

気が狂いそうだ。

「かわいい名前に、完全に、負けちゃってるもん、な、歩夢」

中邑が、俺の平ら胸をどうにか揉みながら乳首を親指でくりくりと転がした。ちくちくと、時折爪を立てた。

乳首からじゅわあと快感のさざなみが放射線状に全身を走り、一段と脳と下腹部の悦楽を深くした。

「おぐ、だめ゛え、んぎっ、あ゛う、ふぎゃ、うっ、あ、あ゛あ、ふに゛ゃ、あ゛あ゛ああぁぁっっ……!!」

「声もブス」

中邑が笑う。

「白目剥いてんじゃん、やば、超ブス」

中邑の亀頭が、俺を壊していく。

「ふごっ、んぎっ……!! ふぎゃっ、お゛っ……!! あ゛、あ゛あ゛ああ~~ッッ!!!」

「歩夢、お前みたいな、ドブスと、ヤれるのは、世界中で俺だけだから」

見上げる中邑の目が翳っている。時々その翳りはあらわれ、それを見ると胸が苦しくなる。

俺は抱き締めて背中を撫でてやりたいと思うのだが、オナホの分際で分をわきまえなければ、中邑はきっと怒るだろう。

「わかった?」

俺は黙ってこくこくとうなずいた。その通りだ。中邑だけだ。

こんな不細工に好かれても迷惑だろうが、俺は中邑が好きだ。一人ぼっちでこの広い部屋に住む中邑が。

不細工と罵られ、玩具のように遊ばれ、気まぐれに呼び出されているくせに、馬鹿みたいに。

中邑の口が、快楽によって弛緩した俺の口に重ねられる。

奥を犯されながら、力の入らない舌を吸われた。滑らかな舌にあって異質な金属の硬質な感触に痺れる。

唇と唇が離れると、中邑は抜き差しを速くした。

中邑の汗が、俺の胸に滴る。

中邑が俺の最奥を突き上げる。

そのまま奥に押し込んで動きを止めた。

中邑が顔をしかめる。

中邑がうめく。

中邑がぶるりと震える。



ああ、この瞬間に死ねたらいいのに。



おわり



初出:2023/07/04
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