美形×平凡 短編BL小説集

鯛田オロロ

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カラフル(アパートの隣同士・現代)

カラフル2※

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丁寧だが、表情に乏しい人。

それが戸川さんの印象だった。ゴミ捨ての時に遭遇しても、玄関前でばったり会っても、その印象は変わらなかった。

それが、パンツを届けたときに一変した。

生真面目そうな顔を、恥ずかしがって真っ赤にしている様子に、興味を持った。この人と、仲良くなりたい、と思った。

思えば、あの時から俺は、戸川さんに惹かれていたのかもしれない。



俺と戸川さんは付き合うことになった。

北原夏輝だから夏輝くん、戸川順平だから順平さんと、そう呼び合うことにした。

性行為は、付き合って二週間後に、した。

俺も男相手は初めてだが、順平さんは誰ともしたことがないという。俺は、俺のために残しておいてくれたように感じた。

キスしても、服を脱がせても、前戯をしても、後ろを解しても、順平さんは顔を真っ赤にして泣きそうな顔をして、恥ずかしがった。

実際、少し泣かせてしまった。

申し訳ないと思いながらも、泣いて恥ずかしがって、初めての感覚に戸惑う順平さんは、とても可愛かった。

俺は、十代のころみたいにがっついてしまって、順平さんを引かせた、と思う。

でも、またしましょうね、って言ったら、恥ずかしそうに小さくうなずいてくれた。

それからすぐ、俺は、何でもない日に順平さんにボクサーパンツを贈った。

「ごめんね……俺のが……よれよれだから……」

俺の送った三枚のパンツを片手に持ちながら、順平さんが申し訳無さそうに、不安げに自らの頬を撫でた。

順平さんは不安なときに、頬を撫でるくせがあるようだ。

「違うよ」

そう、俺たちは敬語もやめた。段々と恋人らしくなってきたと思う。

順平さんは、小首を傾げた。

「脱がしたいから、あげたの」

数秒後、俺が何を言っているのかわかった順平さんが、顔を真っ赤にしてパンツを手から落とした。

早速履かせて、早速脱がせた。



それから、一緒にジョギングもするようになったし、車を借りて高速道路をひたすら走って富士山の麓まで行ってうどんも食べたし、俺の実家にも泊まってもらった。

恋人と紹介したわけではないけど、なんとなく伝わったと思う。

順平さんの親は保守的だから、親には紹介できないかもしれない、と言われたけど、俺は俺の親に会ってくれたことが嬉しくて、それで十分だった。

俺が無神経で落ち込ませることもあるけど、概ねうまく行っている、と思う。

テレビに映る女性芸能人を美人だとか、かわいいだとか言うと、順平さんは怒るとか拗ねるではなく、一人で静かに落ち込んでしまう。

順平さんが一番かわいいに決まっているのに。バウムクーヘンを一枚一枚フォークで丁寧に剥がしながら食べる順平さんが、世界で一番かわいいに決まっているのに。

順平さんは、俺の妹を彩花ちゃんと呼ぶのだが、それに俺は意味不明な嫉妬をしているのだから、それとどっこいどっこいか。



順平さんと付き合いだして、一年。

俺は、順平さんに飽きるということがなかった。

これまでの恋愛では、いつもどこかで面倒だなと感じてしまっていた。それで、そう思う俺はひどい男だと感じていた。

なんで、彼女たちを大事にできないんだろうと、いつしか恋愛を避けていた。

そうしたら、会社の人間関係が大惨事になったのだが。



土曜の夜、行為の前にシャワーを浴びて、我慢できずに兜合わせなんかしてしまったら、順平さんが恥ずかしいよと首を振った。

もう一年経つのに、幾度も体を重ねたが、順平さんの恥じらいはまだ擦り切れていない。

「明るいから? でも、気持ちいいでしょ? がちがちだもんね」

まとめてしごくと、順平さんはびくんと体を強張らせて俺にしがみついて、果てた。

「あうっ……!!」

どくどくとペニスが脈打っている。

その達したばかりのペニスに俺のペニスを擦り付ける。苦しいのか、順平さんががくがくと震えている。

「なつ、きくん……!! きつい……!! だめ、それっ!! あ゛っ!! んんんっ……!!!」

その声で、俺も射精に至る。

夏輝くん、ひどいよ。胸を大きく喘がせながら、そう言いたげないじらしい潤んだ目で俺を見る。

自覚がないのだろうか、それが俺を煽るのに。



ベッドの上で、順平さんが乱れていく。

部屋を明るいままにして、裸の順平さんの乳首を見せつけるように舐め、甘噛して引っ張る。

わざと羞恥を煽るように、じゅっと音を立てて吸う。

「夏、輝くん……!」

快感に耐える声がたまらない。

乳首を口に含みながら、尻の穴を解していく。二本の指で膨らんだ前立腺をやわやわと押し上げる。

「ひっ……!! あっ、ああッッ……!!」

順平さんの粘膜が、ぎゅんぎゅんと指を食いしめて絶頂を伝えた。どこもかしこも感じやすくてかわいい。

俺は、わざと、ぐちゅぐちゅと音を立ててかき回し、彼の尻の穴を解した。

乳首も音を立ててくちゅくちゅと口内で転がす。

「なつ、き、くん……!! うっ! や、やだっ……んっ……だめっ……! ああっ……んんッッ……!!!」

がくがくと体を震わせ、直腸がひくひくして、とろとろの熱い粘膜が二本の指を淫らに締め付けける。

ちゅっと音を立てて、硬く立ち上がった乳首を解放する。

見下ろす順平さんの顔は、眉を八の字にして、目を潤ませて、真っ赤でどこかぼうっとしていて、はあはあと喘いでいる。

世界中の誰も、順平さんがこんなに敏感でエロくて、かわいいことを知らない。俺だけが、知っている。

順平さんの足を開かせると、俺は限界を迎えつつあるペニスをゆっくりと順平さんの熱く潤んだ体内へと埋めていった。



「ああっ……んぐっ……! やっ……んっ! あ、ああっ……!!」

いいところをえぐると、順平さんがひっきりなしに鳴く。

順平さんは、過ぎた快感を恐れるように、正気にしがみついている。

俺は、セックスはこれまで、単純で明るくて楽しいものだ、と思っていた。

それも間違いではないと思うのだが、愛しい相手をどろどろに溶かして、自分もどろどろになって溶けあいたい。俺の中にそんな欲望があったことに驚いた。

腰を使って、順平さんの正気を壊していく。

「はうっ、ひっ、あっ、んんんーーッッ!! ふぎッッ! ンああーーーッッ……!!」

順平さんの目が、とろんと完全に快楽にとろけていく。

この瞬間が好きだ。

喘ぎつづける唇にキスをして、俺より体温の低い舌を吸う。順平さんがキスに応えてくれる。

「んっ……んんっ……!」

順平さんの腰が跳ね、ペニスを受け入れている直腸が一層いやらしくうねり締め付けを増す。

俺は、たまらず抜き差しを速める。

好きだ、好きだ、好きだ。

そして、ぐっと最奥を押し上げて、射精した。



シャワーを浴びて、部屋着を着ると、順平さんはもういつも通りだ。

今度は寝るためにベッドに入る。なんだか少し悔しくて、順平さんに抱きついた。

華奢でもない、女顔でもない、直線的な体に。

でも、この世で一番ほっとする。

「明日は、どうしようか」

そう言いながら、順平さんが俺の頭を撫でる。気持ちがいい。俺と変わらない、男の大きな手だ。

「海が見たいな」

俺は、ドラマで言いそうな、気恥ずかしいことを言った。

たまに、きらきらとした海を眺め、潮風に吹かれ、波の音を聞きたくなる。隣に順平さんがいれば、最高。

二人で交代で運転して海に向かう。俺は、運転している順平さんの横顔が好きだった。

「いいね」

順平さんは馬鹿にしたりせず、そう言って、静かに笑った。



おわり



初出:2024/07/19
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