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Hypnos(催眠姦・現代)※
Hypnos※
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「正木さん、正木さーん、まーさーきーさーん!」
画面を睨みつけ、キーボードを叩いていると、両肩をぽんと叩かれた。
「おわっ! な、なんだよびっくりするな」
思わず飛び上がると、俺の耳のすぐ横に後輩の晴海の端正な顔があった。近すぎて、思わずのけぞる。かっと顔が熱くなった。
「俺、何回も呼びましたよ? 正木さん、集中しすぎでしょ。一緒に休憩行きましょうよ」
晴海が眉根に軽くしわを寄せ、困ったように笑った。
「ああ、そう、だな」
俺も椅子から立ち上がった。
残業中の休憩時間には食堂が使われている。
今も別の部署から数組がお茶や菓子を食べたり、買ってきた弁当を食べたり思い思いに休憩していた。
俺は自販機でカップのコーヒーをふたつ買い、晴海に渡した。
「ありがとうございます! ごちそうさまです」
「お前、奢ってもらおうと思って俺を休憩に誘ったろ」
「ばれました?」
一杯八〇円のコーヒーで恩着せがましいったらないが、俺はえらそうにうんうんと頷いた。テーブルにつき、コーヒーを啜る。
「正木さん、お疲れですね。顔色悪いですね」
「うーん、残業続きだったしな。昨日ぼけーって帰りの電車で仕事の段取り考えてたら終点までいっちゃったわ」
「わあ、やばいですね。まあ、正木さん、ちょいちょい乗り過ごしてますけど、終点はレアですね」
「あっ、俺のことアホだと思ってるだろう」
「そんなことないですよ! 被害妄想エグいですね」
「お前の日頃の行いな」
「ええ? こんなに正木さんのこと、尊敬してるのに!」
「はいはい、わかった、わかった」
「あっ、正木さん、俺、最近マッサージの勉強してるんですよ。良かったら今度、マッサージの練習台になってくれませんか?」
「いや、俺はいいよ」
「悪いようにはしませんって、俺結構、まじめに勉強してるんですから」
「でも、なんでマッサージなんてはじめたの?」
「そりゃ、正木さんのためですよ」
「調子良いやつだな。で、本当は? まさか転職するとか?」
「転職なんかしないですよ! 正木さんのためってのは本当ですけど、俺、大学のサッカー部の仲間とフットサルやってるじゃないですか。そいつらにもスポーツマッサージしてやろうかなって」
「へえ、なるほどねえ」
「だから練習に付き合ってくださいよ」
「ほんとバキバキだし、悪いし、いいよ」
「バキバキな方が勉強になっていいんじゃないですか」
「いいって」
「じゃあ手始めに肩でもお揉みしましょうか、結構評判いいんですから」
「いいって!」
晴海が立ち上がったところに、晴海の同期の鏑矢がやってきた。
「なになに、何の話っすか?」
「正木さんにマッサージの練習台になってって頼んでるんだけど、全然オッケーしてくれなくて」
ガタイのいい中高大と柔道部の鏑矢は、立ち上がっている晴海の肩を抱くと、俺が保証します、とでも言うようにをもう一方の手でサムズアップした。
「晴海はまじでうまいっすよ、俺もこの前やってもらったんすけど、ゴッドハンドっすよ! 正木さんもやってもらった方がいいっすよ」
やめろ、鏑矢。余計なこと言うな。断りにくくなるだろう。
というか、正木さんのため、とか言って他のやつにもやってやってるんじゃないか。いや、別にすねているわけじゃないが、ちょっとは面白くない。
その時、顔面の良すぎる晴海の上目遣いのお願いきらきらビームが炸裂した。少し首をかしげ、悲しそうな目をして見せる。
「全然ゴッドハンドじゃないですけど……正木さん、だめ、ですか?」
俺は良い顔に弱いのかもしれない。俺はついつい、じゃあお願いしようかな、なんて口走ってしまった。
土曜日。
俺は妙にそわそわしながら、晴海の家の呼び鈴を押した。端正な顔に満面の笑みを浮かべ、ルームウェアの晴海がドアを開けた。
「いらっしゃいませ、どうぞ!」
中に案内されて正方形の洒落たテーブルにつく。お茶が出されて一口飲んだ。
斜向かいに座った晴海がにこやかに聞いてくる。
「どうですか、昨日はよく眠れました?」
「いや……昨日ばりばりに金縛りになって、あんま眠れた気がしない」
「えっ、俺、なったことないですよ、どんなでした?」
「どんな、か。俺は、昔から疲れたり夜ふかしすると結構なるんだよな。ビシって動けなくなってさ、大勢がなんかざわざわ耳元でこそこそ話してる声が不快で、このままじゃ呪い殺されるって思ってもがいてさ、悪霊よ去れ、とか心の中で叫んだりしてるうちに、なんとか頑張って動けるようになるんだよな」
「なんですか、それ……悪霊よ去れしか残んないんですけど」
「お前もなってみろって、絶対そう思うから!」
それから少し話して、じゃあ早速はじめましょうか、と下着姿になってベッドに横になるように言われる。
「ええ、まじで……?」
「男同士なんですから別によくないですか」
「まあ、そうか」
脱いだ服を軽くたたんで差し出されたかごにいれる。しかし、人様のベッドに寝る、っていうのは抵抗がある。
「ベッドっていうのは……彼女さんとかに、悪くない?」
「彼女なんていませんから、気にしないでください」
なんだか、すごく申し訳ないというか、悪いことをしている気がして、心臓がばくばくいっている。
晴海の前だと、俺は少しあがってしまう。鏑矢の前だったら全然あがらないのに。晴海の顔を直視できない時がある。
晴海がいい男すぎるからかもしれない。
下着姿で後輩のベッドに横になる日が来るとは。かすかに晴海のやわらかな匂いがした気がする。
うつ伏せに横になると、晴海が俺の背骨沿いの筋肉から足の方へ揉みほぐしていった。
他人に触れられるのは落ち着かないが、マッサージ自体はとても気持ちがよかった。だんだんと揉まれたところが温かくなっていくのがわかる。
「やばい、あっ、そこっ……めっちゃ気持ちいい……んっ……うっ……」
「ここはどうですか?」
「あっ、そこも、いいっ……! んっ、はうっ!」
キモい声が出てしまう、それは許してほしい。
体を揉みほぐすと、晴海は俺のこり固まった背中やら脇腹やら尻やら足やら関節回りやらをストレッチし始めた。相変わらず晴海の手が触れるのが落ち着かないが、体が伸びていくのが気持ちいい。
「どうですか、痛くないですか?」
「痛くない、すっげ……気持ちいい」
「よかったです」
時間を掛けて、晴海は全身を使って、俺の凝り固まった体をほぐしてくれた。まじでちゃんとしたマッサージだった。ストレッチも気持ちがいい。
途中、ちょっと股間が誤反応で勃ちそうになって焦ったけど。彼女もここ三年いないし、風俗も嫌だしで、ご無沙汰だからか? 人肌に飢えているんだろうか。
「すごいな、ほんとすっきりしたよ。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ勉強させてもらいました」
お金を払うのもなんとなく違う気がして、マッサージ後、俺は宅配のピザを頼み、持ってきたビールで夕飯にした。適当にテレビをつけて、ごちゃごちゃ話しながら過ごした。
見ていた番組のあと始まったのが、LGBTQの特集で、職場の同僚や学校の同級生を好きになってしまった苦悩を話しだした。
なんとなく気まずくて見ていられなくて、チャンネルを回して欲しい旨を告げる。
晴海がチャンネルを回しながら聞いてきた。
「正木さんってゲイが嫌いなんですか?」
「いや、別にそう言うんじゃないけど」
「じゃあ、もし……ゲイに告白されたら、どうします?」
俺はビールが気道に入ってむせてしまった。
「大丈夫ですか!?」
晴海が俺の背中をばしばしと叩いた。
「わるい、大丈夫」
「よかった……それで、どうします?」
「なんだよ、この話つづけんの?」
「それだけ慌てられると気になるんで」
「慌ててねえよ、別に」
気になるってなんだよ。
しかし、あんまりにも答えたがらないっていうのも、意固地で変に思われるかもしれない。
「んー、ゲイって、俺みたいなヒョロガリじゃなくて、鏑矢みたいな、ザ・柔道部みたいなのがすきなんじゃないの」
「たしかに鏑矢はモテそうですけどね。ゲイだって好みは色々だと思いますよ? それで、どうなんです?」
「しつこいなあ、お前」
「いいじゃないですか」
「なんだよ、答えるまで終わんないわけか。んー……そう……だなあ……俺はホモじゃないし……男なんか絶対に無理だし、告白なんかされても困る、よな」
本心だけど、必要以上に強く否定しすぎてしまった気がして焦る。なんだか、心苦しい。俺は異性愛者だけど、ゲイをことさら差別する気なんかないのに。
「へえ……じゃあ、ホモなんて気持ち悪い?」
「いや、そこまで言ってないだろ! その人の自由なんだから、相手が俺じゃなきゃいいよ。というかさ、何を俺に言わせるつもりよ? 俺は差別主義者じゃないからな。そういうお前はよ?」
「うーん……俺も……正木さんと同じ……かな」
「……だよな。まあ……結局はそういうことだよな」
晴海も俺と同じ、男相手なんて考えられない、か。
結局、そういうことだよな。自分で言った言葉に、自分でなんとなく苦しくなって、ビールをあおる。俺は、思った以上にゲイに感情移入していたのだろうか? なんだか、変に腹の中がもやもやする。
「いい番組ないですね……あ、お笑いやってますよ」
ザッピングしていた晴海がお笑い番組でチャンネルを止めた。
「お、このコンビ最近よく見るよな」
俺は自分をごまかすように、大げさにげらげら笑った。
それから、晴海があまりにこっているからと、週末ごとに俺をマッサージしてくれるので、俺はあまりに気持ちがいいのでそれに甘えていた。
もう、五週連続で晴海の家に通っている。
「晴海さーん、最近ちょっとつれないんじゃないの? 正木さんばっか贔屓してません?」
帰りのロッカーでたまたま会った鏑矢が不満そうに俺と晴海に言った。
「あのな、正木さんは、すごくこってるから優先なんだよ」
「……ああ、おじさんだからね……」
鏑木がわざとらしく憐れむ目で俺を見る。
「お前と俺じゃ、三つしか変わんないだろうが」
某アニメでおなじみの母親がが両手の拳で幼稚園児の息子の頭をぐりぐりするやつを、ほんの軽く鏑木にしてやる。
「わー、正木さん、やめてくださいよー! セット乱れるじゃないですか!」
「その頭でセットもなにもあるか」
鏑矢は嬉しそうにきゃーきゃー言っている。でかい図体してまだまだ子供だな、まったく。
晴海のマッサージも今日で六回目だ。そろそろビールと食事の宅配だけでは心苦しくなってきた。
マッサージが気持ちいいし疲れが取れるっていうのは実感したので、今度からプロのところに通おうかなというのを引き止められてずるずるきてしまった。さすがによくないよな。
今日が最後にしよう。終わったら言おう。
いまだに晴海の前で下着のシャツとパンツ姿になるのには抵抗がある。
「正木さん、始める前にちょっといいですか? リラックス効果あるらしくて、一緒に深呼吸しましょうか。いいですか、俺の目を見てくださいね」
「なんか、小っ恥ずかしいんだけど」
「まあ、ちょっと恥ずかしいですけどね」
照れくさいな、それにしても。晴海って本当に綺麗な目をしてる。黒曜石みたいな透き通るような黒で、白目が青みがかってて、見つめていると吸い込まれそうだ。
「はーい、吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー」
でも、なんだろう、目を合わせて一緒に深呼吸するうちに、なんだかよくわからないが、少しぼうっとしてくる。
晴海の声だけがクリアに響いて、周りの音が消えたような。なんか、頭にもやがかかったみたいな。嫌な感じではないけど。ふわふわしてる感じ。疲れてるのもあるんだろうな。
「じゃあ、ベッドに横になってください」
「うん」
「正木さんはベッドに横になっています。頭も、背中も、足も、ベッドについて、シーツが肌に触れています。だーんだん、余計な力が抜けていきまーす」
不思議と、ベッドに気持ちよく吸い寄せられていくみたいだった。
「それじゃあ、『いつもどおり』マッサージをはじめていきますね」
「……うん」
「正木さん、これから、新しいこと試しますけど、少しくすぐったかったり、少し苦しかったり、少しきついことがあるかもしれませんが、正木さんに危険はありませんから安心してくださいね。俺の手が触れるところから気持ちよくなっていきますから」
「うん」
「それじゃあ、初めていきますね」
晴海の手が胸に置かれる。
「まずは胸筋をほぐしていきます。がちがちだ。こりをほぐしていきましょうね」
胸筋を揉まれて、その慣れない感覚に少し戸惑うが、そんなに悪くないかもしれない。むしろ、気持ちがいいかも、とすら思えてくる。
「あうっ!」
きゅっと乳首をつままれて、声が出た。
「ま、待って、な、なんで!?」
「ここがこると、巻き込み肩や猫背になるんですよ」
「そ、そうなんだ」
ちっとも変なことじゃないんだ、マッサージなんだから。新しいことを試すって言ってたのに、変に反応して恥ずかしい。
晴海の指がシャツの上から乳首をつまむ。こりこりとつままれて、引っ張られて、またこりこりとつままれて、右に左に倒される。
「んっ、はる、み……! ふっ……!」
「正木さん、声、我慢しなくていいですよ。そのほうが緊張が取れるので」
「う、ん……はうっ、あっ、はっ、んんっ! あっ、ああっ……!」
本当だ、声を出すほうが解放感があって気持ちがいい。
「正木さん、上手ですよ」
胸筋と乳首のマッサージを交互にどれだけ続けられたのだろう。気持ちよくて、じれったくて、身をよじり、くねらせる。
「ああ、勃起してますね」
ぼっき? ぼっき……ってなんだっけ?
「マッサージ中に勃起するのは自然な反応ですからね。ただ、全身の緊張を取るためにはよくないので、一回鎮めましょうか。腰上げてください、はい、いいですよ、ありがとうございます」
ニット地のトランクスがするりと脱がされた。
外気に触れると少しひやりとした。
俺、何してるんだ?
晴海の手が、片方は陰茎をしごき、片方は会陰を押し上げながら睾丸を優しく転がした。
「カウパーが出てきましたね、いいですよ、正木さん。一回出しちゃいましょうね」
陰茎をしごきながら、晴海の親指がカウパーを亀頭に塗り拡げる。あっという間に睾丸がせり上がってくる切ない感覚が起こる。
「んっ、あっ、ああ、うっ……あっ、ああ~~ッッ!!!」
なに、なにが起きている? 頭が一瞬真っ白になる。マッサージ、気持ち良すぎる。
晴海に言われるまま、土下座して尻だけ高く突き出すような格好になる。腹の下に大きなクッションと枕を入れてくれたので、姿勢は楽だ。
「じゃあ、こりをとっていきましょう」
今度は何だろう。ぼうっと待っていると、なんだか冷たいものが、尻の穴に触れた。
「はるみ、なに?」
少しだけ、不安になる。
「今、温感のジェルを塗りました。すぐ温かくなってきますよ。正木さんの体の中心の大事なところをほぐしていきますね、ここが緊張していると全身に悪影響があるんですよ」
「へえ、そうなんだ」
「はい、力が抜けていきますよ、そう、いい感じです」
晴海の指が、俺の尻の穴をほぐしてくれている。ジェルが温かくなってきた。
やわやわと優しく押し込まれるうちに、指の先端が中に入った。ゆっくりとぬぷぬぷと抜き差しされる。それからくるくると円を描くように広げられていく。
「んっ、あっ……うっ……ふっ……!」
なにこれ、すごく変な感じだ。
「は、るみ? これ、変な、感じする!」
「新しいことだから戸惑いますよね。でも大丈夫ですよ、どんどん解れて良くなってきますからね」
「わ、わかった」
「正木さん、息を吸ってー」
言われたとおり、息を吸う。
「吐いてー」
言われたとおりに、吐く。
「そう、いいですよ、力が抜けていきます」
ジェルを足しながら、晴海の指がぬぷぬぷと少しずつもぞとぞと奥に進んでいく。
「はうっ……あっ……ああ……ふっ……うう……」
指が根本まで入ったのがわかった。ぴくぴくと、指を締め付けてしまう。やっぱり少し恥ずかしい。
「正木さん、俺の指に意識を集中して……ゆっくり締めてください」
「で、できない、無理」
「正木さん、俺が気持ちよくないこと、したことありますか?」
「……ない」
「そうですよね、安心してください。息を吸いながらゆっくり締めてー」
「そう、上手ですよ。今度は息を吐きながらゆっくり力を抜いて……はい、また息を吸いながら締めてー」
体内の晴海の指の存在をまざまさと感じてしまう。
「はい、緩めて。少しスピードを上げましょうね。はい、締めて、そう、緩めて。上手」
「やっ、あっ、ふあっ……んんっ!」
「はい、もういいですよー。それでは、正木さんのこりの原因がこれでわかったので、ほぐしていきますね」
晴海の指先が、とんとある一点を軽く押した。
「うっ……!?」
「ああ、大分こってますねー」
とんとんと優しく叩かれ、やわやわと押し込まれる。ここはおかしい、ここは変だ。俺は頭を横に振った。
「は、るみ、そこ、やだっ」
「少し苦しいですか? それがこってる証拠ですよ。血流が改善されてきましたね、いい感じですよ」
……そう、なんだろうか。
「やっ、あっ……! はひっ!」
「はい、だんだんと血行が良くなって、じんじんしてきます、ひくひく震えてきます、だーんだん気持ちよくなってきます」
たしかに、だんだんと熱くなってきた。晴海の言う通りなんだ。
晴海が、辛抱強くこりをほぐしてくれる。
指の腹で優しく左右に動かされ、前後に掻き出すようにされるとたまらない。
徐々に何か風船のようなものが膨らんでいく感覚があり、それがついに弾けた。
どくんどくんとしこりが脈打ち、激しく収縮と弛緩を繰り返すのを感じる。それに合わせて、直腸もうねり、晴海の指を食い締めた。
頭の中がちかちかとフラッシュを焚かれたように、激しく明滅しているように感じた。
「はひっ、ンあッ! はうっ! ふぎっ……! ひっ、い゛っ、あうっ、あっ、あ゛あ゛~~ッッ!」
「はい、とっても上手でしたね」
指が抜かれる。それでも、まだ指を締め付けるように中がひくついている。
「それではね、今度は、奥の方のこりを取っていきますので、特殊な棒を使います」
特殊な、棒?
ぬめりを帯びた棒が、尻の穴にぴたりとあてがわれる。
その棒が、尻の穴をぐぐとゆっくりと押し込んでいく。
「待って、な、なに!? う、ああっ、はる、み!? ふっ、あ゛、ぐっ、はううう……ッッ!」
尻の穴が限界まで広がって、ぬぷ、と棒の先端が俺の体内に侵入を果たした。
「正木さん、とっても上手ですよ。これで奥のこりを取っていきます」
「ううっ! はるみ、こわい、こわい!」
「ちょっとだけ我慢してくださいね、すぐに良くなってきますからねー」
ずぶずぶと棒はゆっくりと奥へと進んでいく。指とは桁違いの質量だ。苦しい。
「正木さん、息を吸ってー、吐いてー……そうそう、いいですよ」
俺は呼吸がおろそかになっていたみたいだと、晴海に言われて気がついた。
「はい、棒が奥まで入りましたよ、頑張りましたね」
腹の奥まで、俺の中が目一杯広げられ、完全に棒で満たされている。
「それじゃあ、さっき指にしたみたいに、吸ってるときに締め付けて、吐いてるときに緩めてください、はい、吸ってー、吐いてー」
「む、むりっ」
「出来る範囲でいいですからね、ああ、いいですよ、出来てますよ」
そうこうするうちに、棒が馴染んできたのを感じた。はじめほどの苦しさはない。
「はい、もういいですよ。今度は棒をゆーっくり動かしていきます。棒の動きに集中してください」
棒が小さく前後に動き出す。
「あうっ……! はっ……うっ……! んっ、んんっ……!!」
「どーんどん気持ちよくなっていきますよー」
気持ちいいのだろうか? もしかすると、気持ちがいいのかもしれない。
「はい、棒の動きを大きくしていきまーす」
「あっ、ああっ!! はうっ、やっ、んっ、はひっ、ひっ、うっ、ンッ……!! お゛っ、あ゛あ~~ッッ!!」
「不思議な感覚がしてきましたね、いい兆候ですよ。お腹がうずくような感じがしてきます。続けると奥がひくひくしてきて、どんどん気持ちよくなっていきます」
「う゛っ、ふぐっ……! あ゛っ! あ゛あ゛ッッ~~!」
「はーい、奥のこりを揉み込んでほぐしていきますよー」
棒がぐぐぐ、と奥を押し込んだ。そのまま、棒の先端で奥を捏ねだした。
「は、る゛みっ、へん、や、やだ!」
「変な感じがしますよね、でもこれがすぐに良くなってきますよ」
「む、むり、に゛ゃに、これっ、ふぎゃッッ! ン゛あ゛ああ~~~ッッ!!!」
中がぎゅんぎゅんと締まり、棒を締め上げる。棒が奥を揉みほぐすほどに、俺は俺でなくなっていく。体がびくびくと痙攣している。
「いい、ですよ、正木さん……上手に出来てます、出来過ぎ、かな……」
頭の中は白いペンキをぶちまけられたみたいに真っ白で、体内の棒の感覚と晴海の声だけが俺の全てだった。
「正木さんはマッサージを受けてすっきりとしています。どんなマッサージだったかも思い出せませんが、とてもすっきりとしていて体が軽く感じます」
「一から十までゆーっくり数えると、疲れが取れて自然に気持ちよーく目覚めます。いーち、にい、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅう、じゅう……」
「ん……あ、れ……? ごめん、俺、寝てた……?」
マッサージ中に、どうやら寝てしまっていたらしい。ゆっくりと体を起こすと、いつになくすっきりしていた。
晴海が、少し心配そうに俺を覗き込んだ。
「どうです? 大丈夫ですか?」
「ああ、うん、なんか、すげえすっきりしてるし、めちゃくちゃ体軽いよ」
「よかった。じゃあ、また来週、しましょうね」
晴海が、それはそれは綺麗な笑顔を浮かべている。
断らなくては。
もう、申し訳ないからこれで最後にするつもりだったのに。
俺は、気づけばうなずいていた。
おわり
初出:2024/05/04
画面を睨みつけ、キーボードを叩いていると、両肩をぽんと叩かれた。
「おわっ! な、なんだよびっくりするな」
思わず飛び上がると、俺の耳のすぐ横に後輩の晴海の端正な顔があった。近すぎて、思わずのけぞる。かっと顔が熱くなった。
「俺、何回も呼びましたよ? 正木さん、集中しすぎでしょ。一緒に休憩行きましょうよ」
晴海が眉根に軽くしわを寄せ、困ったように笑った。
「ああ、そう、だな」
俺も椅子から立ち上がった。
残業中の休憩時間には食堂が使われている。
今も別の部署から数組がお茶や菓子を食べたり、買ってきた弁当を食べたり思い思いに休憩していた。
俺は自販機でカップのコーヒーをふたつ買い、晴海に渡した。
「ありがとうございます! ごちそうさまです」
「お前、奢ってもらおうと思って俺を休憩に誘ったろ」
「ばれました?」
一杯八〇円のコーヒーで恩着せがましいったらないが、俺はえらそうにうんうんと頷いた。テーブルにつき、コーヒーを啜る。
「正木さん、お疲れですね。顔色悪いですね」
「うーん、残業続きだったしな。昨日ぼけーって帰りの電車で仕事の段取り考えてたら終点までいっちゃったわ」
「わあ、やばいですね。まあ、正木さん、ちょいちょい乗り過ごしてますけど、終点はレアですね」
「あっ、俺のことアホだと思ってるだろう」
「そんなことないですよ! 被害妄想エグいですね」
「お前の日頃の行いな」
「ええ? こんなに正木さんのこと、尊敬してるのに!」
「はいはい、わかった、わかった」
「あっ、正木さん、俺、最近マッサージの勉強してるんですよ。良かったら今度、マッサージの練習台になってくれませんか?」
「いや、俺はいいよ」
「悪いようにはしませんって、俺結構、まじめに勉強してるんですから」
「でも、なんでマッサージなんてはじめたの?」
「そりゃ、正木さんのためですよ」
「調子良いやつだな。で、本当は? まさか転職するとか?」
「転職なんかしないですよ! 正木さんのためってのは本当ですけど、俺、大学のサッカー部の仲間とフットサルやってるじゃないですか。そいつらにもスポーツマッサージしてやろうかなって」
「へえ、なるほどねえ」
「だから練習に付き合ってくださいよ」
「ほんとバキバキだし、悪いし、いいよ」
「バキバキな方が勉強になっていいんじゃないですか」
「いいって」
「じゃあ手始めに肩でもお揉みしましょうか、結構評判いいんですから」
「いいって!」
晴海が立ち上がったところに、晴海の同期の鏑矢がやってきた。
「なになに、何の話っすか?」
「正木さんにマッサージの練習台になってって頼んでるんだけど、全然オッケーしてくれなくて」
ガタイのいい中高大と柔道部の鏑矢は、立ち上がっている晴海の肩を抱くと、俺が保証します、とでも言うようにをもう一方の手でサムズアップした。
「晴海はまじでうまいっすよ、俺もこの前やってもらったんすけど、ゴッドハンドっすよ! 正木さんもやってもらった方がいいっすよ」
やめろ、鏑矢。余計なこと言うな。断りにくくなるだろう。
というか、正木さんのため、とか言って他のやつにもやってやってるんじゃないか。いや、別にすねているわけじゃないが、ちょっとは面白くない。
その時、顔面の良すぎる晴海の上目遣いのお願いきらきらビームが炸裂した。少し首をかしげ、悲しそうな目をして見せる。
「全然ゴッドハンドじゃないですけど……正木さん、だめ、ですか?」
俺は良い顔に弱いのかもしれない。俺はついつい、じゃあお願いしようかな、なんて口走ってしまった。
土曜日。
俺は妙にそわそわしながら、晴海の家の呼び鈴を押した。端正な顔に満面の笑みを浮かべ、ルームウェアの晴海がドアを開けた。
「いらっしゃいませ、どうぞ!」
中に案内されて正方形の洒落たテーブルにつく。お茶が出されて一口飲んだ。
斜向かいに座った晴海がにこやかに聞いてくる。
「どうですか、昨日はよく眠れました?」
「いや……昨日ばりばりに金縛りになって、あんま眠れた気がしない」
「えっ、俺、なったことないですよ、どんなでした?」
「どんな、か。俺は、昔から疲れたり夜ふかしすると結構なるんだよな。ビシって動けなくなってさ、大勢がなんかざわざわ耳元でこそこそ話してる声が不快で、このままじゃ呪い殺されるって思ってもがいてさ、悪霊よ去れ、とか心の中で叫んだりしてるうちに、なんとか頑張って動けるようになるんだよな」
「なんですか、それ……悪霊よ去れしか残んないんですけど」
「お前もなってみろって、絶対そう思うから!」
それから少し話して、じゃあ早速はじめましょうか、と下着姿になってベッドに横になるように言われる。
「ええ、まじで……?」
「男同士なんですから別によくないですか」
「まあ、そうか」
脱いだ服を軽くたたんで差し出されたかごにいれる。しかし、人様のベッドに寝る、っていうのは抵抗がある。
「ベッドっていうのは……彼女さんとかに、悪くない?」
「彼女なんていませんから、気にしないでください」
なんだか、すごく申し訳ないというか、悪いことをしている気がして、心臓がばくばくいっている。
晴海の前だと、俺は少しあがってしまう。鏑矢の前だったら全然あがらないのに。晴海の顔を直視できない時がある。
晴海がいい男すぎるからかもしれない。
下着姿で後輩のベッドに横になる日が来るとは。かすかに晴海のやわらかな匂いがした気がする。
うつ伏せに横になると、晴海が俺の背骨沿いの筋肉から足の方へ揉みほぐしていった。
他人に触れられるのは落ち着かないが、マッサージ自体はとても気持ちがよかった。だんだんと揉まれたところが温かくなっていくのがわかる。
「やばい、あっ、そこっ……めっちゃ気持ちいい……んっ……うっ……」
「ここはどうですか?」
「あっ、そこも、いいっ……! んっ、はうっ!」
キモい声が出てしまう、それは許してほしい。
体を揉みほぐすと、晴海は俺のこり固まった背中やら脇腹やら尻やら足やら関節回りやらをストレッチし始めた。相変わらず晴海の手が触れるのが落ち着かないが、体が伸びていくのが気持ちいい。
「どうですか、痛くないですか?」
「痛くない、すっげ……気持ちいい」
「よかったです」
時間を掛けて、晴海は全身を使って、俺の凝り固まった体をほぐしてくれた。まじでちゃんとしたマッサージだった。ストレッチも気持ちがいい。
途中、ちょっと股間が誤反応で勃ちそうになって焦ったけど。彼女もここ三年いないし、風俗も嫌だしで、ご無沙汰だからか? 人肌に飢えているんだろうか。
「すごいな、ほんとすっきりしたよ。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ勉強させてもらいました」
お金を払うのもなんとなく違う気がして、マッサージ後、俺は宅配のピザを頼み、持ってきたビールで夕飯にした。適当にテレビをつけて、ごちゃごちゃ話しながら過ごした。
見ていた番組のあと始まったのが、LGBTQの特集で、職場の同僚や学校の同級生を好きになってしまった苦悩を話しだした。
なんとなく気まずくて見ていられなくて、チャンネルを回して欲しい旨を告げる。
晴海がチャンネルを回しながら聞いてきた。
「正木さんってゲイが嫌いなんですか?」
「いや、別にそう言うんじゃないけど」
「じゃあ、もし……ゲイに告白されたら、どうします?」
俺はビールが気道に入ってむせてしまった。
「大丈夫ですか!?」
晴海が俺の背中をばしばしと叩いた。
「わるい、大丈夫」
「よかった……それで、どうします?」
「なんだよ、この話つづけんの?」
「それだけ慌てられると気になるんで」
「慌ててねえよ、別に」
気になるってなんだよ。
しかし、あんまりにも答えたがらないっていうのも、意固地で変に思われるかもしれない。
「んー、ゲイって、俺みたいなヒョロガリじゃなくて、鏑矢みたいな、ザ・柔道部みたいなのがすきなんじゃないの」
「たしかに鏑矢はモテそうですけどね。ゲイだって好みは色々だと思いますよ? それで、どうなんです?」
「しつこいなあ、お前」
「いいじゃないですか」
「なんだよ、答えるまで終わんないわけか。んー……そう……だなあ……俺はホモじゃないし……男なんか絶対に無理だし、告白なんかされても困る、よな」
本心だけど、必要以上に強く否定しすぎてしまった気がして焦る。なんだか、心苦しい。俺は異性愛者だけど、ゲイをことさら差別する気なんかないのに。
「へえ……じゃあ、ホモなんて気持ち悪い?」
「いや、そこまで言ってないだろ! その人の自由なんだから、相手が俺じゃなきゃいいよ。というかさ、何を俺に言わせるつもりよ? 俺は差別主義者じゃないからな。そういうお前はよ?」
「うーん……俺も……正木さんと同じ……かな」
「……だよな。まあ……結局はそういうことだよな」
晴海も俺と同じ、男相手なんて考えられない、か。
結局、そういうことだよな。自分で言った言葉に、自分でなんとなく苦しくなって、ビールをあおる。俺は、思った以上にゲイに感情移入していたのだろうか? なんだか、変に腹の中がもやもやする。
「いい番組ないですね……あ、お笑いやってますよ」
ザッピングしていた晴海がお笑い番組でチャンネルを止めた。
「お、このコンビ最近よく見るよな」
俺は自分をごまかすように、大げさにげらげら笑った。
それから、晴海があまりにこっているからと、週末ごとに俺をマッサージしてくれるので、俺はあまりに気持ちがいいのでそれに甘えていた。
もう、五週連続で晴海の家に通っている。
「晴海さーん、最近ちょっとつれないんじゃないの? 正木さんばっか贔屓してません?」
帰りのロッカーでたまたま会った鏑矢が不満そうに俺と晴海に言った。
「あのな、正木さんは、すごくこってるから優先なんだよ」
「……ああ、おじさんだからね……」
鏑木がわざとらしく憐れむ目で俺を見る。
「お前と俺じゃ、三つしか変わんないだろうが」
某アニメでおなじみの母親がが両手の拳で幼稚園児の息子の頭をぐりぐりするやつを、ほんの軽く鏑木にしてやる。
「わー、正木さん、やめてくださいよー! セット乱れるじゃないですか!」
「その頭でセットもなにもあるか」
鏑矢は嬉しそうにきゃーきゃー言っている。でかい図体してまだまだ子供だな、まったく。
晴海のマッサージも今日で六回目だ。そろそろビールと食事の宅配だけでは心苦しくなってきた。
マッサージが気持ちいいし疲れが取れるっていうのは実感したので、今度からプロのところに通おうかなというのを引き止められてずるずるきてしまった。さすがによくないよな。
今日が最後にしよう。終わったら言おう。
いまだに晴海の前で下着のシャツとパンツ姿になるのには抵抗がある。
「正木さん、始める前にちょっといいですか? リラックス効果あるらしくて、一緒に深呼吸しましょうか。いいですか、俺の目を見てくださいね」
「なんか、小っ恥ずかしいんだけど」
「まあ、ちょっと恥ずかしいですけどね」
照れくさいな、それにしても。晴海って本当に綺麗な目をしてる。黒曜石みたいな透き通るような黒で、白目が青みがかってて、見つめていると吸い込まれそうだ。
「はーい、吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー」
でも、なんだろう、目を合わせて一緒に深呼吸するうちに、なんだかよくわからないが、少しぼうっとしてくる。
晴海の声だけがクリアに響いて、周りの音が消えたような。なんか、頭にもやがかかったみたいな。嫌な感じではないけど。ふわふわしてる感じ。疲れてるのもあるんだろうな。
「じゃあ、ベッドに横になってください」
「うん」
「正木さんはベッドに横になっています。頭も、背中も、足も、ベッドについて、シーツが肌に触れています。だーんだん、余計な力が抜けていきまーす」
不思議と、ベッドに気持ちよく吸い寄せられていくみたいだった。
「それじゃあ、『いつもどおり』マッサージをはじめていきますね」
「……うん」
「正木さん、これから、新しいこと試しますけど、少しくすぐったかったり、少し苦しかったり、少しきついことがあるかもしれませんが、正木さんに危険はありませんから安心してくださいね。俺の手が触れるところから気持ちよくなっていきますから」
「うん」
「それじゃあ、初めていきますね」
晴海の手が胸に置かれる。
「まずは胸筋をほぐしていきます。がちがちだ。こりをほぐしていきましょうね」
胸筋を揉まれて、その慣れない感覚に少し戸惑うが、そんなに悪くないかもしれない。むしろ、気持ちがいいかも、とすら思えてくる。
「あうっ!」
きゅっと乳首をつままれて、声が出た。
「ま、待って、な、なんで!?」
「ここがこると、巻き込み肩や猫背になるんですよ」
「そ、そうなんだ」
ちっとも変なことじゃないんだ、マッサージなんだから。新しいことを試すって言ってたのに、変に反応して恥ずかしい。
晴海の指がシャツの上から乳首をつまむ。こりこりとつままれて、引っ張られて、またこりこりとつままれて、右に左に倒される。
「んっ、はる、み……! ふっ……!」
「正木さん、声、我慢しなくていいですよ。そのほうが緊張が取れるので」
「う、ん……はうっ、あっ、はっ、んんっ! あっ、ああっ……!」
本当だ、声を出すほうが解放感があって気持ちがいい。
「正木さん、上手ですよ」
胸筋と乳首のマッサージを交互にどれだけ続けられたのだろう。気持ちよくて、じれったくて、身をよじり、くねらせる。
「ああ、勃起してますね」
ぼっき? ぼっき……ってなんだっけ?
「マッサージ中に勃起するのは自然な反応ですからね。ただ、全身の緊張を取るためにはよくないので、一回鎮めましょうか。腰上げてください、はい、いいですよ、ありがとうございます」
ニット地のトランクスがするりと脱がされた。
外気に触れると少しひやりとした。
俺、何してるんだ?
晴海の手が、片方は陰茎をしごき、片方は会陰を押し上げながら睾丸を優しく転がした。
「カウパーが出てきましたね、いいですよ、正木さん。一回出しちゃいましょうね」
陰茎をしごきながら、晴海の親指がカウパーを亀頭に塗り拡げる。あっという間に睾丸がせり上がってくる切ない感覚が起こる。
「んっ、あっ、ああ、うっ……あっ、ああ~~ッッ!!!」
なに、なにが起きている? 頭が一瞬真っ白になる。マッサージ、気持ち良すぎる。
晴海に言われるまま、土下座して尻だけ高く突き出すような格好になる。腹の下に大きなクッションと枕を入れてくれたので、姿勢は楽だ。
「じゃあ、こりをとっていきましょう」
今度は何だろう。ぼうっと待っていると、なんだか冷たいものが、尻の穴に触れた。
「はるみ、なに?」
少しだけ、不安になる。
「今、温感のジェルを塗りました。すぐ温かくなってきますよ。正木さんの体の中心の大事なところをほぐしていきますね、ここが緊張していると全身に悪影響があるんですよ」
「へえ、そうなんだ」
「はい、力が抜けていきますよ、そう、いい感じです」
晴海の指が、俺の尻の穴をほぐしてくれている。ジェルが温かくなってきた。
やわやわと優しく押し込まれるうちに、指の先端が中に入った。ゆっくりとぬぷぬぷと抜き差しされる。それからくるくると円を描くように広げられていく。
「んっ、あっ……うっ……ふっ……!」
なにこれ、すごく変な感じだ。
「は、るみ? これ、変な、感じする!」
「新しいことだから戸惑いますよね。でも大丈夫ですよ、どんどん解れて良くなってきますからね」
「わ、わかった」
「正木さん、息を吸ってー」
言われたとおり、息を吸う。
「吐いてー」
言われたとおりに、吐く。
「そう、いいですよ、力が抜けていきます」
ジェルを足しながら、晴海の指がぬぷぬぷと少しずつもぞとぞと奥に進んでいく。
「はうっ……あっ……ああ……ふっ……うう……」
指が根本まで入ったのがわかった。ぴくぴくと、指を締め付けてしまう。やっぱり少し恥ずかしい。
「正木さん、俺の指に意識を集中して……ゆっくり締めてください」
「で、できない、無理」
「正木さん、俺が気持ちよくないこと、したことありますか?」
「……ない」
「そうですよね、安心してください。息を吸いながらゆっくり締めてー」
「そう、上手ですよ。今度は息を吐きながらゆっくり力を抜いて……はい、また息を吸いながら締めてー」
体内の晴海の指の存在をまざまさと感じてしまう。
「はい、緩めて。少しスピードを上げましょうね。はい、締めて、そう、緩めて。上手」
「やっ、あっ、ふあっ……んんっ!」
「はい、もういいですよー。それでは、正木さんのこりの原因がこれでわかったので、ほぐしていきますね」
晴海の指先が、とんとある一点を軽く押した。
「うっ……!?」
「ああ、大分こってますねー」
とんとんと優しく叩かれ、やわやわと押し込まれる。ここはおかしい、ここは変だ。俺は頭を横に振った。
「は、るみ、そこ、やだっ」
「少し苦しいですか? それがこってる証拠ですよ。血流が改善されてきましたね、いい感じですよ」
……そう、なんだろうか。
「やっ、あっ……! はひっ!」
「はい、だんだんと血行が良くなって、じんじんしてきます、ひくひく震えてきます、だーんだん気持ちよくなってきます」
たしかに、だんだんと熱くなってきた。晴海の言う通りなんだ。
晴海が、辛抱強くこりをほぐしてくれる。
指の腹で優しく左右に動かされ、前後に掻き出すようにされるとたまらない。
徐々に何か風船のようなものが膨らんでいく感覚があり、それがついに弾けた。
どくんどくんとしこりが脈打ち、激しく収縮と弛緩を繰り返すのを感じる。それに合わせて、直腸もうねり、晴海の指を食い締めた。
頭の中がちかちかとフラッシュを焚かれたように、激しく明滅しているように感じた。
「はひっ、ンあッ! はうっ! ふぎっ……! ひっ、い゛っ、あうっ、あっ、あ゛あ゛~~ッッ!」
「はい、とっても上手でしたね」
指が抜かれる。それでも、まだ指を締め付けるように中がひくついている。
「それではね、今度は、奥の方のこりを取っていきますので、特殊な棒を使います」
特殊な、棒?
ぬめりを帯びた棒が、尻の穴にぴたりとあてがわれる。
その棒が、尻の穴をぐぐとゆっくりと押し込んでいく。
「待って、な、なに!? う、ああっ、はる、み!? ふっ、あ゛、ぐっ、はううう……ッッ!」
尻の穴が限界まで広がって、ぬぷ、と棒の先端が俺の体内に侵入を果たした。
「正木さん、とっても上手ですよ。これで奥のこりを取っていきます」
「ううっ! はるみ、こわい、こわい!」
「ちょっとだけ我慢してくださいね、すぐに良くなってきますからねー」
ずぶずぶと棒はゆっくりと奥へと進んでいく。指とは桁違いの質量だ。苦しい。
「正木さん、息を吸ってー、吐いてー……そうそう、いいですよ」
俺は呼吸がおろそかになっていたみたいだと、晴海に言われて気がついた。
「はい、棒が奥まで入りましたよ、頑張りましたね」
腹の奥まで、俺の中が目一杯広げられ、完全に棒で満たされている。
「それじゃあ、さっき指にしたみたいに、吸ってるときに締め付けて、吐いてるときに緩めてください、はい、吸ってー、吐いてー」
「む、むりっ」
「出来る範囲でいいですからね、ああ、いいですよ、出来てますよ」
そうこうするうちに、棒が馴染んできたのを感じた。はじめほどの苦しさはない。
「はい、もういいですよ。今度は棒をゆーっくり動かしていきます。棒の動きに集中してください」
棒が小さく前後に動き出す。
「あうっ……! はっ……うっ……! んっ、んんっ……!!」
「どーんどん気持ちよくなっていきますよー」
気持ちいいのだろうか? もしかすると、気持ちがいいのかもしれない。
「はい、棒の動きを大きくしていきまーす」
「あっ、ああっ!! はうっ、やっ、んっ、はひっ、ひっ、うっ、ンッ……!! お゛っ、あ゛あ~~ッッ!!」
「不思議な感覚がしてきましたね、いい兆候ですよ。お腹がうずくような感じがしてきます。続けると奥がひくひくしてきて、どんどん気持ちよくなっていきます」
「う゛っ、ふぐっ……! あ゛っ! あ゛あ゛ッッ~~!」
「はーい、奥のこりを揉み込んでほぐしていきますよー」
棒がぐぐぐ、と奥を押し込んだ。そのまま、棒の先端で奥を捏ねだした。
「は、る゛みっ、へん、や、やだ!」
「変な感じがしますよね、でもこれがすぐに良くなってきますよ」
「む、むり、に゛ゃに、これっ、ふぎゃッッ! ン゛あ゛ああ~~~ッッ!!!」
中がぎゅんぎゅんと締まり、棒を締め上げる。棒が奥を揉みほぐすほどに、俺は俺でなくなっていく。体がびくびくと痙攣している。
「いい、ですよ、正木さん……上手に出来てます、出来過ぎ、かな……」
頭の中は白いペンキをぶちまけられたみたいに真っ白で、体内の棒の感覚と晴海の声だけが俺の全てだった。
「正木さんはマッサージを受けてすっきりとしています。どんなマッサージだったかも思い出せませんが、とてもすっきりとしていて体が軽く感じます」
「一から十までゆーっくり数えると、疲れが取れて自然に気持ちよーく目覚めます。いーち、にい、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅう、じゅう……」
「ん……あ、れ……? ごめん、俺、寝てた……?」
マッサージ中に、どうやら寝てしまっていたらしい。ゆっくりと体を起こすと、いつになくすっきりしていた。
晴海が、少し心配そうに俺を覗き込んだ。
「どうです? 大丈夫ですか?」
「ああ、うん、なんか、すげえすっきりしてるし、めちゃくちゃ体軽いよ」
「よかった。じゃあ、また来週、しましょうね」
晴海が、それはそれは綺麗な笑顔を浮かべている。
断らなくては。
もう、申し訳ないからこれで最後にするつもりだったのに。
俺は、気づけばうなずいていた。
おわり
初出:2024/05/04
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