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夢ならば、どうか覚めないで(死に戻り・オメガバース・ファンタジー)※
夢ならば、どうか覚めないで※
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アガメス王国のオメガの王子である僕は、明日、隣国デスカンタレラスの王太子に嫁ぐ。
僕は、夜、そっと自分の部屋を抜け出して、ずっと片思いをしていた、ドラグーン公爵家の小公爵であり、近衛騎士団長でもあるゼフィルス・ドラグーンの部屋を訪ねた。
近衛騎士団長は、城の中で寝起きし、王族を常に警護してくれている。
小さくノックすると、ドアが開かれた。
「ネル様? どうなされました?」
「ゼフィルス、中に入れて」
ゼフィルスはさっと廊下に目を走らせ、僕を部屋に招き入れた。
「それで、どうなさったのです? 明日はお早いでしょう」
僕は、ごくりと唾を飲み込んだ。
それから、意を決して口を開いた。
「……初めては、ゼフィルスがいいんだ。ゼフィルス……僕を……抱いてくれ」
ゼフィルスが、困ったような、怒ったような顔をする。
「そんなことは、間違ってもおっしゃいますな」
「お願いだ」
「早く部屋にお帰りなさいませ」
「ゼフィルス!」
僕はとっさに彼の衣服の胸元を掴んだ。
ゼフィルスはそれを、丁寧に、しかし有無を言わさず離させてから、言った。
「……ネル様、私たちは主と臣下、それ以上でもそれ以下でもございません。見咎められる前に、どうぞお帰りを」
その目にあるのは、怒りと軽蔑?
僕は、自分が完全に間違っていたことを知った。
「そうだよね……ごめん……ごめんなさい……」
泣いたらだめなのに。僕は、走って自分の部屋に戻り、ベッドに突っ伏して泣いた。
恥ずかしくて、哀しくて、涙はいつまでも止まらなかった。
ゼフィルスは、僕たちの先祖であるアガメス家が千年前に王国を建てたときの最大の功臣、ドラグーン公の末裔だ。
初代ドラグーン公ロンは、ドラゴンだった、なんて言わている。身の丈は人の倍あって、二百年生きたなんて言われているが、人間離れして強かったからそんな風に言われるようになったのだろう。
建国以来、ドラグーン公爵家は、王国の近衛騎士団の団長を代々務めている。
僕たち王子たちに乗馬や剣術を教えてくれたのがゼフィルスだった。当時は彼はひらの騎士団員で、彼の父上が団長だった。ゼフィルスの父上の現公爵は今は団長を引退して、公爵領の経営に専念している。
八歳年上のゼフィルスと交流するなかで、彼も僕のことを好いてくれてるんじゃないかと、勘違いしてしまっていた。近衛騎士団長だから王子に優しくしてくれていただけなのに。
こんな不細工、相手にされるはずがないのに。
ゼフィルスはドラゴンの末裔だって信じてしまうほどの美丈夫だし、引く手あまたなのだ。
剣術の腕も、弓も槍も、何を扱わせても上手い。馬に乗れば、一騎当千。
恵まれた体躯に、精悍で美しい顔立ち。
それに、金地に赤の星が散った目は神秘的で、まるで宝石のよう。
なんで、あんな勘違いをしてしまったのだろう。
僕は、年に二度は互いの国の建国祭で会う、婚約者のカンタル王太子が大嫌いだった。
もともと僕らの婚約が相成ったのは、カンタルの祖父の今は亡き前王が、オメガを迎えると国が栄えるとの古い伝承を信じていたため、孫の相手にと僕を強く望んだからだ。
カンタルはとてもきれいな顔をしているが、冷たい男だ。絶対にあちらも僕のことを嫌っている。嫌いというか、見下している?
毎度のお茶会のとき、視線も話しぶりも小馬鹿にしていて、冷たくて、不愉快だった。いくら鈍感、脳天気って言われてる僕でもわかるくらいだった。
それでも、僕は彼に嫁ぐしかない。ずっと前から決まっていたことだから。僕が出家してアガメスを貶めるか、それとも僕が死ぬか、逃れる道は他にない。どちらも僕には選べなかった。
僕はゼフィルスに拒絶された苦しみを引きずったまま、アガメス王国を、華燭の典に出席する父上と母上と共にたち、デスカンタレラス王国の王都に向かった。
王都に着いた翌日、僕とカンタル王太子は盛大に華燭の典を挙げた。
王子は誓いのキスで、僕の唇に合わすのをすんでのところで止めた。皆にはキスをしたように見えただろうが。
この結婚はうまく行かないことを、僕は改めて思い知った。
初夜、僕は裸になってうつ伏せになって、尻をつき上げろと命じられた。
そんなことできませんというと、頬を打たれた。
僕はこれまで、そんなことをされたことがなくて、痛いこと以上に、非常に強い衝撃を受けて動揺した。
醜い顔を見せるな、泣くな、声も出すな、とも言われた。
僕が従うと、カンタル王太子は、僕の突き上げた尻に、無遠慮にペニスを突き立てた。僕があまりの痛みに声をあげると、彼は僕の尻をしたたかに幾度も打った。
僕が歯を食いしばって耐えていると、王太子は乱暴に腰を振って、果てた。
そして、役目は果たしたと言わんばかりに部屋を出ていった。
すぐに知ったが、カンタルには公然と愛人がいた。
僕は、跡継ぎを産む、という機能以外は全て無視された。
発情期のたびに、カンタルは僕に尻を突き上げる体勢を取らせ、乱暴に挿入し、抜き差しして、射精して、出ていく。あんな行為でもわずかばかり感じてしまうが、虚しく悲しいだけだった。
デスカンタレラスでは、僕の味方は一人もいなかった。デスカンタレラスの慣習で、こちらの侍女や使用人や騎士は連れてこられなかったのだ。
唯一、連れてくることが出来たのは、犬のジョーイだけだった。
しかし、ジョーイは王太子に、うなり吠えたことで、彼に蹴り殺された。
僕の味方は、これで誰一人いなくなった。
最初の二年は、建国の宴で家族に会うことは出来た。それでも、ひどい目にあっているとは言えなかった。言えばよかったのかもしれないが、当時は言えばもっと状況が悪くなると思っていた。
そして、結婚の三年目から、僕は体調を崩していった。異常に疲れやすくなり、頻繁に熱が出て、食欲もなくなっていった。
四年目についに、ベッドに寝たきりになった。僕は別棟に移され、おばあさんがひとり、僕の世話をしてくれていた。が、彼女は耳が悪く、目も悪く、僕が粗相するといつも怒っていて怖かった。
僕は、じわじわと死んでいった。
いよいよというときに、カンタルはやってきた。
最後に家族に会いたいという願いは鼻で笑われた。
「いいか。お前のようなオメガは存在そのものが罪なのだ。いいな、大人しく死ねよ」
カンタルが、笑いながらそう言った。
その時、僕は彼に殺されたのだとはっきりと、悟った。
そして、僕は、闇に引きずり込まれるようにして、死んだ。
と思ったのに。
僕は、夢を見ているのか?
あの日の夢だ。
夜、騎士団長ゼフィルスの部屋に行き、彼に迫って、拒絶される夢。
ゼフィルスが僕の前に立っている。
ランプの灯りが、彼の端正な容貌をゆらゆらと照らし出す。
「初めては、ゼフィルスがいいんだ。ゼフィルス……抱いてくれ」
ああ、勝手に口が動いてる。
言ってしまった。
今ならわかる、僕は子供だった。まったく浅はかだった。
ゼフィルスが僕なんかのことを、好きなわけがない。もう、痛々しくて、恥ずかしいったらない。それに、臣下の鑑たるゼフィルスが、同情でだって輿入れ前日の王子を抱くだなんてことをするはずないのだ。
死にゆく者の走馬灯に、この場面を選ぶのは残酷すぎるのではないか。
もっと彼とのいい思い出があるはずなのに。
いや、走馬灯でゼフィルスを見せてくれただけありがたいか。
僕は彼が好きだ。結局、今でもずっと。思い出して苦しくて悲しい気持ちになるけど、やめられなかった。
このあと、間違ってもそんなこと言うなと、彼にはねつけられる。きっぱりと拒絶される。
ああ、二度も聞きたくないのに。耐え難い。
しかし、聞こえたのは別の言葉だった。
「ネル様……愛しています」
「え?」
と思っているうちに、力強く抱きしめられた。
「言うべきでした、愛していると。もう、あなたをどこにも行かせはしません」
なんだ、このご都合主義の走馬灯は。
そうか、きっと、冥土の土産に願望を見せてくれる走馬灯なのだ。
だって、都合が良すぎる。
でも、今は幻影に甘えたっていいじゃないか。
僕は、死んだのだから。
「ネル様」
カンタルが拒絶した僕とのキスを、走馬灯の中のゼフィルスはいとも簡単に成し遂げた。
彼の唇が僕の唇を塞いだ。角度を変えて何度も重ね合わせた。
僕の下唇を彼が優しく食む。
唇が、こんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
それから彼の熱くなめらかな舌が、僕の口内に入ってきた。
「んっ!? んっ、んんっ……?」
僕は、こんなキス、知らない。誰ともしたことがない。
体験したことがなくても、こんなに生々しく感じられるもの、なのか?
ゼフィルスが僕の舌に彼の舌を絡めたり、僕の舌を吸ったりした。
恥ずかしいけど、気持ちがいいのは、確かだ。どうせ夢だし、と僕も彼を 真似てみた。
溢れる唾液はどうするのだろう。飲み込んでしまっていいものなのか?
飲み込んだところでゼフィルスの口が離れた。やはり間違っていたのだろうか。
「ネル様」
「なに?」
ゼフィルスが軽々と僕を抱き上げて、ベッドに下ろした。
「優しくいたします」
そう言って僕に覆いかぶさると、そっと唇を塞いだ。
ゼフィルスが僕の首筋に顔を埋めている。
舐めあげて、甘噛して、肌を吸う。
「はっ……ん……」
すごく、ぞくぞくする。首がこんなに敏感だとは。
その間に、ガウンがはだけさせられ、薄い肌着がまくり上げられる。
直接、彼の大きな手のひらが僕の素肌を撫でた。脇腹を、腹を、胸を。
胸を撫でる手が、乳首をかすめた。
「うっ……!」
はじめたまたまかと思ったが、どうやら違うらしい。
ゼフィルスが乳首をきゅっと摘んだ。
「あっ!」
優しく親指と人指でくりくりと刺激されると、甘い痺れが走った。
親指の腹でそっと潰されて、爪の先でかりかりと引っかかれる。
どんどんじんじんして、下腹に痺れが溜まっていく。発情期のときのように、体が火照っていく。
「ああっ……あっ……んんっ……!」
声を押さえないと。カンタルはこの声を嫌った。
「かわいらしい。もっと鳴かせたくなる」
いくらご都合主義の走馬灯とはいえ、それはないだろう。
この顔も、この声も、醜くて出してはいけないものなのだから。
僕は枕を手探りで探して、顔の上に乗せた。
ゼフィルスは、それをさっと取り上げた。
「ネル様の全てを私に見せてくださらないと」
「だ、だって……」
なんだか泣きたくなった。
この城に生まれ育って、父上も母上も兄上も姉上も妹も、みんな綺麗な顔をしているのに。
僕はみんなに愛されて育ったから、自分だけ不器量なことが、そこまで気にならずに大人になった。
しかし、ゼフィルスに拒絶されて、デスカンタレラスの王城で蔑まれて、カンタルにはその顔を見せるなとまで言われて、僕は自分の容貌がすっかり嫌になってしまった。
「ネル様、あなたの心も体も、全てを愛しています。どうか、ネル様の全てを、私にください」
なんて都合のいい夢。
僕の涙に、ゼフィルスがキスを落とした。
僕の足を開かせて、ゼフィルスが小さな瓶からクリームを指にとって、僕のすぼまりに塗りつけた。
走馬灯の中の僕は、処女なのだろうか。わからないが、もうそこが淫らにひくついているのがわかる。恥ずかしい。彼は、どう思っているのだろう。
カンタルにはもう何も感じなくなっていた羞恥心が、ゼフィルスに対しては湧き上がる。
彼の指が、そっと穴を押した。それを幾度も繰り返す。恥ずかしいのに、気持ちいい。
ぬぷ、と彼の指の先が中に入った。指がぬぷぬぷ、ぬちぬちと、ごく浅いところを刺激する。
くるくると円を描く動きは特に羞恥を誘った。
「んっ、やだっ……それっ……」
「かわいいですよ、ネル様」
「かわいくなんてっ……!!」
「かわいいです」
かわいいと、ゼフィルスに言ってほしかったのか、僕は?
これは、自分の心の奥底にある願望なのか?
「はひっ! あうっ……!!」
指が、更に奥へと進んでいく。
「ネル様は、かわいいです」
「あっ……! ああ!!」
かわいいはずないのに、そう言われたいとも願っていないはずなのに、ゼフィルスからかわいいと言われると、じんと下腹が疼いてしまう。
彼の指が、しこりに触れた。
カンタルとの行為では見向きもされなかったそこは、結婚後の発情期には自分で道具を使って慰めていた。
走馬灯の中のゼフィルスは、そこを見逃しはしなかった。
「ここがよろしいですか?」
「わ、わからない」
とっさに知らないふりをしてしまった。
「それでは、わからせて差し上げます」
彼は笑うと、乳首を口に含んだ。
「えっ!? あっ……! んんっ!」
舌先で、ぴんと弾かれる。
くちゅくちゅと甘く噛まれて、ちゅっと吸われる。
それと、同時に中のしこりの表面を優しく撫でた。
「あっ、うそっ、ゼフィルス……! はうっ、うっ……!」
乳首が気持ちよくて、つらいくらい気持ちがよくて、中のしこりもだんだん気持ちいいのが溜まってきて、たまらず腰を逃がそうにも、ゼフィルスは逃げるのを許してくれない。
体が熱い。
くり、とわすがに強くしこりを押し込まれて、溜まりに溜まっていた快楽が、弾けた。
目の前が真っ白になって、快楽が脳天からつま先までを駆けめぐる。
どくん、と僕の肉が収縮するのがわかる。どくんどくんと、体内の指を締め付けている。
「はひっ! あっ、ああっ……!!」
「ネル様は覚えがいい」
そう言って、ゼフィルスが僕の頬にキスしてくれた。
クリームを足したゼフィルスの長い指が、しつこいくらいに、指の届く最奥から、抜けるぎりぎりまでの抜き差しを繰り返す。
一本の指から始まったそれは、今三本の指になっていた。
「あっ……あ、ああ、んっ、うっ!」
僕の肉は恥ずかしげもなく彼の指に絡みついて締め付け、快楽をねだっている。
大好きなゼフィルスの指が、肉を擦るのが気持ちいい。
それが、僕の作り出した幻想だとしても。
しかし、僕は、ゼフィルスをなんだと思っているのだろう。この幻想の中の彼は、ものすごく、ねちっこい、と言えばいいのか。
延々と抜き差しを繰り返され、思い出したように前立腺をとんとんと押し込まれ、気が変になりそうだ。
どちらかと言えば、僕は、ゼフィルス対して、性的にあっさりしてそうというか、淡白な印象をなんとなく持っていたと思うのだが。
「あっ、はうっ! はっ、ああ、ああっ……ゼフィルス、ゼフィルス……!!」
それでも、このしつこいくらいの前戯は必要なのだろう。
寝間着のローブを押し上げている彼の男性の象徴は、はるかにカンタルのそれを超えている。
でも、もう限界だ。
「んっ……! ゼフィ、ルス、もうっ……!」
挿れて欲しいとは言えない。察して欲しい。
彼はふっと笑い、ローブに隠れていた陰茎をあらわにする。
これが、ゼフィルスの。
思わず、頬がぴくりと引きつる。恐怖を覚えるほど、大きい。
僕の足を左右に大きく開かせた。そして、その先端が僕の穴にあてがわれた。
「ネル様、失礼いたします」
こんなときに、馬鹿丁寧な。
少し怖いが、これは僕が望んだことだ。
僕がうなずくと、ゼフィルスがぐぐぐと力を掛けた。
「うっ……ぐっ……」
ぐずぐずにほぐされた穴が、開かれていく。
ぐぷと、亀頭が入り込む。
みちみちと音を立てて、中を少しずつ進んでいった。中がゼフィルスで満たされていく。
負担を掛けまいという、彼の気遣いが感じられた。
僕はカンタルにとっては、肉の筒でしかなかった。肉の筒に気遣いなどいらないから。
ゼフィルスの優しさが嬉しかった。
「ネル様、痛い、ですか?」
「えっ?」
僕はぽろぽろと泣いていた。
「痛く、ない。嬉しいから」
「ネル様」
ゼフィルスが、キスをしてくれた。
痛くはないけど、あまりの質量の大きさに苦しいのはある。甘いキスはそれを和らげてくれた。
つながっていく。ゼフィルスと。
彼が、最奥に到達する。
押し上げられている。じんわりと熱い子宮を、彼の亀頭が、押し上げている。
圧迫されるだけで、じんと熱くなる。体がひくつき、肉が締まる。
こんなところ、知らない。こんなところ、カンタルでは届かなかった。道具でも、ここには触らなかった。
こんな感覚、知らない!
「ゆっくり、動きますから」
「へっ!? あっ!? ん゛んん……!!」
ゆっくり、子宮を優しく小突かれて、突き上げられて、捏ねられているだけなのに。
僕はどんどんおかしくなっていく。
「ゼフィ、ルス!!」
こわい、知らない、知らない、こんなの!
「苦しいですか? ここを触ったら楽になるかもしれません」
ゼフィルスが、心配そうな顔をして、僕の乳首を摘んだ。
くりくりと優しく転がされると、体の奥で、乳首と子宮が一直線につながるのがわかった。
「はひっ! あっ! ゼフィ、はぐううっ……!!」
だめだ、これ、だめだ。
「あ゛っ、お゛、お゛ッ……!! んひっ! ひっ!!」
ゼフィルスの抜き差しが、少しずつ、速さを増して、力強くなっていく。
乳首も、子宮も、前立腺も、いっしょくたに、気持ちがいい。
彼にがっちりと押さえ込まれて、快楽の逃げ場がない。
僕は怖くて彼に抱きついた。溺れるものがしがみつくように。
来る、大きいのが、来る!
「ふに゛ゃっ、ンあッ! あ゛あ゛ーーッ!!」
僕、変な絶頂している。
大きくて、深い絶頂。
肉を打つ音が速まる。
ぐっと一際強く子宮を突き上げられて、ゼフィルスが最奥で果てた。
ぐったりする僕の身支度をゼフィルスが甲斐甲斐しくしてくれた。
中から大量の白濁を掻き出してくれた。
体を濡れた布で綺麗にしてくれ、服を着せてくれた。
それから、僕を抱きかかえて、僕の部屋のベッドまで運んでくれた。
「愛しています、ネル様」
おやすみなさいと、そっとキスをしてくれた。
瞼が重い。
眠りに落ちて、このまま目が覚めませんように。走馬灯は、ここでおしまいがいい。
ゼフィルス、愛しているよ。大好きだよ。ここで、終わりがいい。
また、デスカンタレラスでの苦しかった暮らしなんて見たくないから。
翌朝、目が覚めた。
まだ、走馬灯の中にいるのか?
寝ぼけ眼の僕のところに、父上と母上と、デスカンタレラス王国に駐在している大使の知らせを持った外交官が真っ青な顔をしてやってきた。
夜を徹して、馬を替えながら走ってきたのだという。
僕の結婚相手のデスカンタレラスのカンタル王太子が、愛人と一緒にいるところを賊に殺された、のだそうだ。
僕は、呆然として、部屋に一人にしてもらった。不安げに父上も母上も出ていく。
メイドのガーベラも、洗顔用の水だけ置いて出ていこうとしていた。
「ガーベラ、ちょっと待って」
「はい?」
「僕の頬を思いっきりひっぱたいてみてくれないか?」
「は、はい!? む、むりです! そんなこと!」
じゃあ、仕方がないか。
僕は、自分の頬をおもいっきり叩いた。
バチーン。
痛い。ものすごく痛い。手も痛い。もしひっぱたいてもらっていたら、ガーベラに痛い思いをさせるところだった。
「な、何やってるんです!? ネル様!」
ガーベラが酷く驚いて、ぎょっとして僕を見た。
「……いや、痛いかなって」
「ええ、痛いに決まってますわ!」
そうか、痛いに決まっているのか。
次に、枕元の短剣を鞘から抜いた。
ガーベラは、完全に乱心だと思ったようで、部屋を普段なら考えられないようなどたばたとした足取りで出ていった。
指先に刃を当てると痛みが走り、ぷつっと皮膚が切れて、血が滲んだ。
「痛いな。まるで現実だ……」
まじまじと皮膚の切れた様子と、赤い玉となった血を見た。
「これ、夢じゃない? のか?」
わからない、どうなっているんだろう。
腰もじんわりと重い。昨晩の行為の名残だ。あの快感は、現実のものとしか思えない。
ばたばたと、ガーベラに連れられて、騎士団長のゼフィルスがあらわれる。
「おはようございます、ネル様」
ゼフィルスが微笑んでいる。
「お加減はいかがですか?」
昨晩のことを想起させられ、恥ずかしい。顔が熱くなる。
でも、ゼフィルスはいつもどおりの涼し気な顔している。
やっぱり、あれは現実ではなかったのか?
僕は、もう死んでいるのだし。わからない。わからない。
ゼフィルスの背後に、王太子のイザーク兄上がいる。
兄上だ!
懐かしい! 兄上だ! 会いたかった!
「兄上!」
「ネル、はやまるな! カンタル王子のあとを追う気か!? そりゃ、結婚目前の婚約者が亡くなったとあってつらいだろうが……!!」
お元気そうだ兄上。しかし、カンタルの後を追う……その発想は僕にはなかった。
「お兄様、剣を置いて!」
兄上の後ろから、妹のレイラがちょこんと顔を出した。
「レイラ! ああ! 僕のかわいいレイラ!」
僕はベッドを降りて、レイラを抱きしめようと近寄った。しかし、腰が、抜けそうだ。力がうまく入らない。
「きゃあ! お兄様! 剣、剣を置いて!!」
「ああ、ごめんごめん」
僕は剣を鞘に収めて、近くのテーブルに置いた。
「久しぶりだなあ! イザーク兄上! レイラ!」
目頭が熱くなって、涙が出てきた。
恐る恐る近寄ってきた二人に、僕も近寄って、二人を抱きしめた。
「久しぶりって……昨日の夕食で会ったろう」
「そうよ、お兄様、ずいぶん会ってないみたいに」
嬉しい。夢でもいい。二度と会えないと思ってた。
「姉上がいらっしゃれば完璧なのになあ!」
「お姉様ならちょうど里帰りして城にいるけど……」
ああ、そうだったそうだった、クローネ姉上は公爵家に嫁いで、今里帰りしているのだった。
「今から会いにいってもいいかな!?」
「いや、今のお前は妊婦に会わせられる精神状態ではないぞ!?」
そのとき、足元に何かがすり寄った。
「ワフッ!」
足元には、夢のなかで、カンタル王子に蹴り殺されて死んだはずの犬のジョーイがいた。
遊んで遊んでと、僕を見上げている。
「わあ! ジョーイ! ジョーイ、会いたかった!」
僕はしゃがんでジョーイを抱きしめ、おいおいおいおい泣いた。ジョーイは抱きしめるんじゃなくて遊んでくれと訴えている。
「お兄様がおかしくなってしまったわ……」
「ああ、完全に錯乱している……」
「婚約者が死んでしまうなんて……無理もないけど……」
夢なら覚めないでくれ。こんなに嬉しいことはないから。
ああ、騎士団のみんな、コック長、庭師に、馬丁に、宮廷画家、メイドに、司書に、みんな、みんな。
みんなに会いたかった。
それから、僕は、降嫁してゼフィルスと結婚した。
都合の良すぎる夢がいつまでも続いている。
あの、カンタル王太子との結婚生活と、死は、なんだったのだろう? こんなに鮮明に覚えているのに。
王都の大聖堂で執り行った華燭の典で、僕の大好きな人たちが見守るなか、僕とゼフィルスは指輪を交換して、永遠の愛を誓い合った。
「ネル様、愛しています。世界中の誰よりも。もう二度と、二度とあなたを離しません」
ゼフィルスが、キスしてくれる。カンタルが拒んだ僕の唇に。
僕は、誓いのキスの相手がゼフィルスでよかったと、心の底から思った。あの日、カンタルに拒まれたのは今日という日のためだったように思えた。
参列者が手に手に持った、色とりどりの花びらが舞う。
この美しい光景と、隣のゼフィルスの微笑みを目に焼き付ける。
夢ならば、どうか覚めないで。
そう、祈りながら。
おわり
初出:2024/06/29
僕は、夜、そっと自分の部屋を抜け出して、ずっと片思いをしていた、ドラグーン公爵家の小公爵であり、近衛騎士団長でもあるゼフィルス・ドラグーンの部屋を訪ねた。
近衛騎士団長は、城の中で寝起きし、王族を常に警護してくれている。
小さくノックすると、ドアが開かれた。
「ネル様? どうなされました?」
「ゼフィルス、中に入れて」
ゼフィルスはさっと廊下に目を走らせ、僕を部屋に招き入れた。
「それで、どうなさったのです? 明日はお早いでしょう」
僕は、ごくりと唾を飲み込んだ。
それから、意を決して口を開いた。
「……初めては、ゼフィルスがいいんだ。ゼフィルス……僕を……抱いてくれ」
ゼフィルスが、困ったような、怒ったような顔をする。
「そんなことは、間違ってもおっしゃいますな」
「お願いだ」
「早く部屋にお帰りなさいませ」
「ゼフィルス!」
僕はとっさに彼の衣服の胸元を掴んだ。
ゼフィルスはそれを、丁寧に、しかし有無を言わさず離させてから、言った。
「……ネル様、私たちは主と臣下、それ以上でもそれ以下でもございません。見咎められる前に、どうぞお帰りを」
その目にあるのは、怒りと軽蔑?
僕は、自分が完全に間違っていたことを知った。
「そうだよね……ごめん……ごめんなさい……」
泣いたらだめなのに。僕は、走って自分の部屋に戻り、ベッドに突っ伏して泣いた。
恥ずかしくて、哀しくて、涙はいつまでも止まらなかった。
ゼフィルスは、僕たちの先祖であるアガメス家が千年前に王国を建てたときの最大の功臣、ドラグーン公の末裔だ。
初代ドラグーン公ロンは、ドラゴンだった、なんて言わている。身の丈は人の倍あって、二百年生きたなんて言われているが、人間離れして強かったからそんな風に言われるようになったのだろう。
建国以来、ドラグーン公爵家は、王国の近衛騎士団の団長を代々務めている。
僕たち王子たちに乗馬や剣術を教えてくれたのがゼフィルスだった。当時は彼はひらの騎士団員で、彼の父上が団長だった。ゼフィルスの父上の現公爵は今は団長を引退して、公爵領の経営に専念している。
八歳年上のゼフィルスと交流するなかで、彼も僕のことを好いてくれてるんじゃないかと、勘違いしてしまっていた。近衛騎士団長だから王子に優しくしてくれていただけなのに。
こんな不細工、相手にされるはずがないのに。
ゼフィルスはドラゴンの末裔だって信じてしまうほどの美丈夫だし、引く手あまたなのだ。
剣術の腕も、弓も槍も、何を扱わせても上手い。馬に乗れば、一騎当千。
恵まれた体躯に、精悍で美しい顔立ち。
それに、金地に赤の星が散った目は神秘的で、まるで宝石のよう。
なんで、あんな勘違いをしてしまったのだろう。
僕は、年に二度は互いの国の建国祭で会う、婚約者のカンタル王太子が大嫌いだった。
もともと僕らの婚約が相成ったのは、カンタルの祖父の今は亡き前王が、オメガを迎えると国が栄えるとの古い伝承を信じていたため、孫の相手にと僕を強く望んだからだ。
カンタルはとてもきれいな顔をしているが、冷たい男だ。絶対にあちらも僕のことを嫌っている。嫌いというか、見下している?
毎度のお茶会のとき、視線も話しぶりも小馬鹿にしていて、冷たくて、不愉快だった。いくら鈍感、脳天気って言われてる僕でもわかるくらいだった。
それでも、僕は彼に嫁ぐしかない。ずっと前から決まっていたことだから。僕が出家してアガメスを貶めるか、それとも僕が死ぬか、逃れる道は他にない。どちらも僕には選べなかった。
僕はゼフィルスに拒絶された苦しみを引きずったまま、アガメス王国を、華燭の典に出席する父上と母上と共にたち、デスカンタレラス王国の王都に向かった。
王都に着いた翌日、僕とカンタル王太子は盛大に華燭の典を挙げた。
王子は誓いのキスで、僕の唇に合わすのをすんでのところで止めた。皆にはキスをしたように見えただろうが。
この結婚はうまく行かないことを、僕は改めて思い知った。
初夜、僕は裸になってうつ伏せになって、尻をつき上げろと命じられた。
そんなことできませんというと、頬を打たれた。
僕はこれまで、そんなことをされたことがなくて、痛いこと以上に、非常に強い衝撃を受けて動揺した。
醜い顔を見せるな、泣くな、声も出すな、とも言われた。
僕が従うと、カンタル王太子は、僕の突き上げた尻に、無遠慮にペニスを突き立てた。僕があまりの痛みに声をあげると、彼は僕の尻をしたたかに幾度も打った。
僕が歯を食いしばって耐えていると、王太子は乱暴に腰を振って、果てた。
そして、役目は果たしたと言わんばかりに部屋を出ていった。
すぐに知ったが、カンタルには公然と愛人がいた。
僕は、跡継ぎを産む、という機能以外は全て無視された。
発情期のたびに、カンタルは僕に尻を突き上げる体勢を取らせ、乱暴に挿入し、抜き差しして、射精して、出ていく。あんな行為でもわずかばかり感じてしまうが、虚しく悲しいだけだった。
デスカンタレラスでは、僕の味方は一人もいなかった。デスカンタレラスの慣習で、こちらの侍女や使用人や騎士は連れてこられなかったのだ。
唯一、連れてくることが出来たのは、犬のジョーイだけだった。
しかし、ジョーイは王太子に、うなり吠えたことで、彼に蹴り殺された。
僕の味方は、これで誰一人いなくなった。
最初の二年は、建国の宴で家族に会うことは出来た。それでも、ひどい目にあっているとは言えなかった。言えばよかったのかもしれないが、当時は言えばもっと状況が悪くなると思っていた。
そして、結婚の三年目から、僕は体調を崩していった。異常に疲れやすくなり、頻繁に熱が出て、食欲もなくなっていった。
四年目についに、ベッドに寝たきりになった。僕は別棟に移され、おばあさんがひとり、僕の世話をしてくれていた。が、彼女は耳が悪く、目も悪く、僕が粗相するといつも怒っていて怖かった。
僕は、じわじわと死んでいった。
いよいよというときに、カンタルはやってきた。
最後に家族に会いたいという願いは鼻で笑われた。
「いいか。お前のようなオメガは存在そのものが罪なのだ。いいな、大人しく死ねよ」
カンタルが、笑いながらそう言った。
その時、僕は彼に殺されたのだとはっきりと、悟った。
そして、僕は、闇に引きずり込まれるようにして、死んだ。
と思ったのに。
僕は、夢を見ているのか?
あの日の夢だ。
夜、騎士団長ゼフィルスの部屋に行き、彼に迫って、拒絶される夢。
ゼフィルスが僕の前に立っている。
ランプの灯りが、彼の端正な容貌をゆらゆらと照らし出す。
「初めては、ゼフィルスがいいんだ。ゼフィルス……抱いてくれ」
ああ、勝手に口が動いてる。
言ってしまった。
今ならわかる、僕は子供だった。まったく浅はかだった。
ゼフィルスが僕なんかのことを、好きなわけがない。もう、痛々しくて、恥ずかしいったらない。それに、臣下の鑑たるゼフィルスが、同情でだって輿入れ前日の王子を抱くだなんてことをするはずないのだ。
死にゆく者の走馬灯に、この場面を選ぶのは残酷すぎるのではないか。
もっと彼とのいい思い出があるはずなのに。
いや、走馬灯でゼフィルスを見せてくれただけありがたいか。
僕は彼が好きだ。結局、今でもずっと。思い出して苦しくて悲しい気持ちになるけど、やめられなかった。
このあと、間違ってもそんなこと言うなと、彼にはねつけられる。きっぱりと拒絶される。
ああ、二度も聞きたくないのに。耐え難い。
しかし、聞こえたのは別の言葉だった。
「ネル様……愛しています」
「え?」
と思っているうちに、力強く抱きしめられた。
「言うべきでした、愛していると。もう、あなたをどこにも行かせはしません」
なんだ、このご都合主義の走馬灯は。
そうか、きっと、冥土の土産に願望を見せてくれる走馬灯なのだ。
だって、都合が良すぎる。
でも、今は幻影に甘えたっていいじゃないか。
僕は、死んだのだから。
「ネル様」
カンタルが拒絶した僕とのキスを、走馬灯の中のゼフィルスはいとも簡単に成し遂げた。
彼の唇が僕の唇を塞いだ。角度を変えて何度も重ね合わせた。
僕の下唇を彼が優しく食む。
唇が、こんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
それから彼の熱くなめらかな舌が、僕の口内に入ってきた。
「んっ!? んっ、んんっ……?」
僕は、こんなキス、知らない。誰ともしたことがない。
体験したことがなくても、こんなに生々しく感じられるもの、なのか?
ゼフィルスが僕の舌に彼の舌を絡めたり、僕の舌を吸ったりした。
恥ずかしいけど、気持ちがいいのは、確かだ。どうせ夢だし、と僕も彼を 真似てみた。
溢れる唾液はどうするのだろう。飲み込んでしまっていいものなのか?
飲み込んだところでゼフィルスの口が離れた。やはり間違っていたのだろうか。
「ネル様」
「なに?」
ゼフィルスが軽々と僕を抱き上げて、ベッドに下ろした。
「優しくいたします」
そう言って僕に覆いかぶさると、そっと唇を塞いだ。
ゼフィルスが僕の首筋に顔を埋めている。
舐めあげて、甘噛して、肌を吸う。
「はっ……ん……」
すごく、ぞくぞくする。首がこんなに敏感だとは。
その間に、ガウンがはだけさせられ、薄い肌着がまくり上げられる。
直接、彼の大きな手のひらが僕の素肌を撫でた。脇腹を、腹を、胸を。
胸を撫でる手が、乳首をかすめた。
「うっ……!」
はじめたまたまかと思ったが、どうやら違うらしい。
ゼフィルスが乳首をきゅっと摘んだ。
「あっ!」
優しく親指と人指でくりくりと刺激されると、甘い痺れが走った。
親指の腹でそっと潰されて、爪の先でかりかりと引っかかれる。
どんどんじんじんして、下腹に痺れが溜まっていく。発情期のときのように、体が火照っていく。
「ああっ……あっ……んんっ……!」
声を押さえないと。カンタルはこの声を嫌った。
「かわいらしい。もっと鳴かせたくなる」
いくらご都合主義の走馬灯とはいえ、それはないだろう。
この顔も、この声も、醜くて出してはいけないものなのだから。
僕は枕を手探りで探して、顔の上に乗せた。
ゼフィルスは、それをさっと取り上げた。
「ネル様の全てを私に見せてくださらないと」
「だ、だって……」
なんだか泣きたくなった。
この城に生まれ育って、父上も母上も兄上も姉上も妹も、みんな綺麗な顔をしているのに。
僕はみんなに愛されて育ったから、自分だけ不器量なことが、そこまで気にならずに大人になった。
しかし、ゼフィルスに拒絶されて、デスカンタレラスの王城で蔑まれて、カンタルにはその顔を見せるなとまで言われて、僕は自分の容貌がすっかり嫌になってしまった。
「ネル様、あなたの心も体も、全てを愛しています。どうか、ネル様の全てを、私にください」
なんて都合のいい夢。
僕の涙に、ゼフィルスがキスを落とした。
僕の足を開かせて、ゼフィルスが小さな瓶からクリームを指にとって、僕のすぼまりに塗りつけた。
走馬灯の中の僕は、処女なのだろうか。わからないが、もうそこが淫らにひくついているのがわかる。恥ずかしい。彼は、どう思っているのだろう。
カンタルにはもう何も感じなくなっていた羞恥心が、ゼフィルスに対しては湧き上がる。
彼の指が、そっと穴を押した。それを幾度も繰り返す。恥ずかしいのに、気持ちいい。
ぬぷ、と彼の指の先が中に入った。指がぬぷぬぷ、ぬちぬちと、ごく浅いところを刺激する。
くるくると円を描く動きは特に羞恥を誘った。
「んっ、やだっ……それっ……」
「かわいいですよ、ネル様」
「かわいくなんてっ……!!」
「かわいいです」
かわいいと、ゼフィルスに言ってほしかったのか、僕は?
これは、自分の心の奥底にある願望なのか?
「はひっ! あうっ……!!」
指が、更に奥へと進んでいく。
「ネル様は、かわいいです」
「あっ……! ああ!!」
かわいいはずないのに、そう言われたいとも願っていないはずなのに、ゼフィルスからかわいいと言われると、じんと下腹が疼いてしまう。
彼の指が、しこりに触れた。
カンタルとの行為では見向きもされなかったそこは、結婚後の発情期には自分で道具を使って慰めていた。
走馬灯の中のゼフィルスは、そこを見逃しはしなかった。
「ここがよろしいですか?」
「わ、わからない」
とっさに知らないふりをしてしまった。
「それでは、わからせて差し上げます」
彼は笑うと、乳首を口に含んだ。
「えっ!? あっ……! んんっ!」
舌先で、ぴんと弾かれる。
くちゅくちゅと甘く噛まれて、ちゅっと吸われる。
それと、同時に中のしこりの表面を優しく撫でた。
「あっ、うそっ、ゼフィルス……! はうっ、うっ……!」
乳首が気持ちよくて、つらいくらい気持ちがよくて、中のしこりもだんだん気持ちいいのが溜まってきて、たまらず腰を逃がそうにも、ゼフィルスは逃げるのを許してくれない。
体が熱い。
くり、とわすがに強くしこりを押し込まれて、溜まりに溜まっていた快楽が、弾けた。
目の前が真っ白になって、快楽が脳天からつま先までを駆けめぐる。
どくん、と僕の肉が収縮するのがわかる。どくんどくんと、体内の指を締め付けている。
「はひっ! あっ、ああっ……!!」
「ネル様は覚えがいい」
そう言って、ゼフィルスが僕の頬にキスしてくれた。
クリームを足したゼフィルスの長い指が、しつこいくらいに、指の届く最奥から、抜けるぎりぎりまでの抜き差しを繰り返す。
一本の指から始まったそれは、今三本の指になっていた。
「あっ……あ、ああ、んっ、うっ!」
僕の肉は恥ずかしげもなく彼の指に絡みついて締め付け、快楽をねだっている。
大好きなゼフィルスの指が、肉を擦るのが気持ちいい。
それが、僕の作り出した幻想だとしても。
しかし、僕は、ゼフィルスをなんだと思っているのだろう。この幻想の中の彼は、ものすごく、ねちっこい、と言えばいいのか。
延々と抜き差しを繰り返され、思い出したように前立腺をとんとんと押し込まれ、気が変になりそうだ。
どちらかと言えば、僕は、ゼフィルス対して、性的にあっさりしてそうというか、淡白な印象をなんとなく持っていたと思うのだが。
「あっ、はうっ! はっ、ああ、ああっ……ゼフィルス、ゼフィルス……!!」
それでも、このしつこいくらいの前戯は必要なのだろう。
寝間着のローブを押し上げている彼の男性の象徴は、はるかにカンタルのそれを超えている。
でも、もう限界だ。
「んっ……! ゼフィ、ルス、もうっ……!」
挿れて欲しいとは言えない。察して欲しい。
彼はふっと笑い、ローブに隠れていた陰茎をあらわにする。
これが、ゼフィルスの。
思わず、頬がぴくりと引きつる。恐怖を覚えるほど、大きい。
僕の足を左右に大きく開かせた。そして、その先端が僕の穴にあてがわれた。
「ネル様、失礼いたします」
こんなときに、馬鹿丁寧な。
少し怖いが、これは僕が望んだことだ。
僕がうなずくと、ゼフィルスがぐぐぐと力を掛けた。
「うっ……ぐっ……」
ぐずぐずにほぐされた穴が、開かれていく。
ぐぷと、亀頭が入り込む。
みちみちと音を立てて、中を少しずつ進んでいった。中がゼフィルスで満たされていく。
負担を掛けまいという、彼の気遣いが感じられた。
僕はカンタルにとっては、肉の筒でしかなかった。肉の筒に気遣いなどいらないから。
ゼフィルスの優しさが嬉しかった。
「ネル様、痛い、ですか?」
「えっ?」
僕はぽろぽろと泣いていた。
「痛く、ない。嬉しいから」
「ネル様」
ゼフィルスが、キスをしてくれた。
痛くはないけど、あまりの質量の大きさに苦しいのはある。甘いキスはそれを和らげてくれた。
つながっていく。ゼフィルスと。
彼が、最奥に到達する。
押し上げられている。じんわりと熱い子宮を、彼の亀頭が、押し上げている。
圧迫されるだけで、じんと熱くなる。体がひくつき、肉が締まる。
こんなところ、知らない。こんなところ、カンタルでは届かなかった。道具でも、ここには触らなかった。
こんな感覚、知らない!
「ゆっくり、動きますから」
「へっ!? あっ!? ん゛んん……!!」
ゆっくり、子宮を優しく小突かれて、突き上げられて、捏ねられているだけなのに。
僕はどんどんおかしくなっていく。
「ゼフィ、ルス!!」
こわい、知らない、知らない、こんなの!
「苦しいですか? ここを触ったら楽になるかもしれません」
ゼフィルスが、心配そうな顔をして、僕の乳首を摘んだ。
くりくりと優しく転がされると、体の奥で、乳首と子宮が一直線につながるのがわかった。
「はひっ! あっ! ゼフィ、はぐううっ……!!」
だめだ、これ、だめだ。
「あ゛っ、お゛、お゛ッ……!! んひっ! ひっ!!」
ゼフィルスの抜き差しが、少しずつ、速さを増して、力強くなっていく。
乳首も、子宮も、前立腺も、いっしょくたに、気持ちがいい。
彼にがっちりと押さえ込まれて、快楽の逃げ場がない。
僕は怖くて彼に抱きついた。溺れるものがしがみつくように。
来る、大きいのが、来る!
「ふに゛ゃっ、ンあッ! あ゛あ゛ーーッ!!」
僕、変な絶頂している。
大きくて、深い絶頂。
肉を打つ音が速まる。
ぐっと一際強く子宮を突き上げられて、ゼフィルスが最奥で果てた。
ぐったりする僕の身支度をゼフィルスが甲斐甲斐しくしてくれた。
中から大量の白濁を掻き出してくれた。
体を濡れた布で綺麗にしてくれ、服を着せてくれた。
それから、僕を抱きかかえて、僕の部屋のベッドまで運んでくれた。
「愛しています、ネル様」
おやすみなさいと、そっとキスをしてくれた。
瞼が重い。
眠りに落ちて、このまま目が覚めませんように。走馬灯は、ここでおしまいがいい。
ゼフィルス、愛しているよ。大好きだよ。ここで、終わりがいい。
また、デスカンタレラスでの苦しかった暮らしなんて見たくないから。
翌朝、目が覚めた。
まだ、走馬灯の中にいるのか?
寝ぼけ眼の僕のところに、父上と母上と、デスカンタレラス王国に駐在している大使の知らせを持った外交官が真っ青な顔をしてやってきた。
夜を徹して、馬を替えながら走ってきたのだという。
僕の結婚相手のデスカンタレラスのカンタル王太子が、愛人と一緒にいるところを賊に殺された、のだそうだ。
僕は、呆然として、部屋に一人にしてもらった。不安げに父上も母上も出ていく。
メイドのガーベラも、洗顔用の水だけ置いて出ていこうとしていた。
「ガーベラ、ちょっと待って」
「はい?」
「僕の頬を思いっきりひっぱたいてみてくれないか?」
「は、はい!? む、むりです! そんなこと!」
じゃあ、仕方がないか。
僕は、自分の頬をおもいっきり叩いた。
バチーン。
痛い。ものすごく痛い。手も痛い。もしひっぱたいてもらっていたら、ガーベラに痛い思いをさせるところだった。
「な、何やってるんです!? ネル様!」
ガーベラが酷く驚いて、ぎょっとして僕を見た。
「……いや、痛いかなって」
「ええ、痛いに決まってますわ!」
そうか、痛いに決まっているのか。
次に、枕元の短剣を鞘から抜いた。
ガーベラは、完全に乱心だと思ったようで、部屋を普段なら考えられないようなどたばたとした足取りで出ていった。
指先に刃を当てると痛みが走り、ぷつっと皮膚が切れて、血が滲んだ。
「痛いな。まるで現実だ……」
まじまじと皮膚の切れた様子と、赤い玉となった血を見た。
「これ、夢じゃない? のか?」
わからない、どうなっているんだろう。
腰もじんわりと重い。昨晩の行為の名残だ。あの快感は、現実のものとしか思えない。
ばたばたと、ガーベラに連れられて、騎士団長のゼフィルスがあらわれる。
「おはようございます、ネル様」
ゼフィルスが微笑んでいる。
「お加減はいかがですか?」
昨晩のことを想起させられ、恥ずかしい。顔が熱くなる。
でも、ゼフィルスはいつもどおりの涼し気な顔している。
やっぱり、あれは現実ではなかったのか?
僕は、もう死んでいるのだし。わからない。わからない。
ゼフィルスの背後に、王太子のイザーク兄上がいる。
兄上だ!
懐かしい! 兄上だ! 会いたかった!
「兄上!」
「ネル、はやまるな! カンタル王子のあとを追う気か!? そりゃ、結婚目前の婚約者が亡くなったとあってつらいだろうが……!!」
お元気そうだ兄上。しかし、カンタルの後を追う……その発想は僕にはなかった。
「お兄様、剣を置いて!」
兄上の後ろから、妹のレイラがちょこんと顔を出した。
「レイラ! ああ! 僕のかわいいレイラ!」
僕はベッドを降りて、レイラを抱きしめようと近寄った。しかし、腰が、抜けそうだ。力がうまく入らない。
「きゃあ! お兄様! 剣、剣を置いて!!」
「ああ、ごめんごめん」
僕は剣を鞘に収めて、近くのテーブルに置いた。
「久しぶりだなあ! イザーク兄上! レイラ!」
目頭が熱くなって、涙が出てきた。
恐る恐る近寄ってきた二人に、僕も近寄って、二人を抱きしめた。
「久しぶりって……昨日の夕食で会ったろう」
「そうよ、お兄様、ずいぶん会ってないみたいに」
嬉しい。夢でもいい。二度と会えないと思ってた。
「姉上がいらっしゃれば完璧なのになあ!」
「お姉様ならちょうど里帰りして城にいるけど……」
ああ、そうだったそうだった、クローネ姉上は公爵家に嫁いで、今里帰りしているのだった。
「今から会いにいってもいいかな!?」
「いや、今のお前は妊婦に会わせられる精神状態ではないぞ!?」
そのとき、足元に何かがすり寄った。
「ワフッ!」
足元には、夢のなかで、カンタル王子に蹴り殺されて死んだはずの犬のジョーイがいた。
遊んで遊んでと、僕を見上げている。
「わあ! ジョーイ! ジョーイ、会いたかった!」
僕はしゃがんでジョーイを抱きしめ、おいおいおいおい泣いた。ジョーイは抱きしめるんじゃなくて遊んでくれと訴えている。
「お兄様がおかしくなってしまったわ……」
「ああ、完全に錯乱している……」
「婚約者が死んでしまうなんて……無理もないけど……」
夢なら覚めないでくれ。こんなに嬉しいことはないから。
ああ、騎士団のみんな、コック長、庭師に、馬丁に、宮廷画家、メイドに、司書に、みんな、みんな。
みんなに会いたかった。
それから、僕は、降嫁してゼフィルスと結婚した。
都合の良すぎる夢がいつまでも続いている。
あの、カンタル王太子との結婚生活と、死は、なんだったのだろう? こんなに鮮明に覚えているのに。
王都の大聖堂で執り行った華燭の典で、僕の大好きな人たちが見守るなか、僕とゼフィルスは指輪を交換して、永遠の愛を誓い合った。
「ネル様、愛しています。世界中の誰よりも。もう二度と、二度とあなたを離しません」
ゼフィルスが、キスしてくれる。カンタルが拒んだ僕の唇に。
僕は、誓いのキスの相手がゼフィルスでよかったと、心の底から思った。あの日、カンタルに拒まれたのは今日という日のためだったように思えた。
参列者が手に手に持った、色とりどりの花びらが舞う。
この美しい光景と、隣のゼフィルスの微笑みを目に焼き付ける。
夢ならば、どうか覚めないで。
そう、祈りながら。
おわり
初出:2024/06/29
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