32 / 44
雪残る山を越えて(カントボーイ・ファンタジー)※
雪残る山を越えて※
しおりを挟む
ゴルト帝国は、従来の傭兵隊頼みの軍隊からの脱却をはかる途上である。
皇帝の号令のもと、常備軍の創設が進められたが、それは多分に乱暴なやり方を伴った。
募兵将校は部下を連れて各村々をを歩きまわり、屈強な若者を、時には言葉巧みに騙し、時には散々に酒を飲ませて拉致し、常備軍に組み込んでいった。
無理やり兵士にされた者が逃亡しようとすれば、厳しい鞭打ち刑が待っていた。
それは道の両側に兵士たちが鞭をもって向かい合って並び、その間を、雨のように鞭を浴びながら通過しなければならないというものだった。
逃亡を企てた男の皮膚は裂けて酷い有様だった。
ゴルト帝国の常備軍は皇帝直下の組織であり、規律は非常に厳格であった。
しかし、兵士たちから前時代の悪しき習慣を完全に取り除くのは容易ではなかった。
戦場での略奪、婦女暴行はどれだけ取り締まってもなくすことは出来なかった。
旧弊を払うひとつとして、兵站部隊が組織された。金払いが悪ければ金の切れ目が縁の切れ目と消えてしまう酒保商人のかわりに、常備軍の内部に兵站部隊を組織したのだ。
これまでの軍隊は現地調達が主で、戦争と略奪とは切っても切れぬものであった。
兵站部隊が軍隊への必需品の補給と後方の維持を行うことで、軍隊は戦いに専念することができるようになった。
問題は、婦女暴行である。
近世まで、軍隊には、酒保商人とその後ろをぞろぞろとついてくる娼婦が必ずいた。少なからず、兵士の色欲を発散させる効果があった。
娼婦は軍隊にとってなくてはならないものであるとされた。色欲は締め付けるばかりでは暴発するとされたのである。
常備軍にも、娼婦の代替を用意することが急務とされた。
そこで、考えられたのが、アンドロモーフの活用である。アンドロモーフとは、外見は男であるが、女性器を持つ男性のことである。
帝国は、教会に協力させ、洗礼者名簿からアンドロモーフのリストを作成させた。
かくして、貴族の血筋と僧籍を除く、十八歳から二五歳のアンドロモーフは募兵将校らによって、虱潰しに、強制的に、軍隊に取られることになったのであった。独身者、既婚者の別もなかった。
募兵将校らは、人さらいと大差がなく、ひたすらに恐れられた。
現在、ゲルト帝国は、長年の宿敵、ロメリア王国と交戦中であった。
ロメリア王の死去、新王の即位に伴い、ゲルトは自国のロメリア王位継承権を主張していた。
ゲルト帝国は山を越えて谷を越えて、国境を流れる大河までやってきた。
そして大河を挟み、両軍は対峙している。
ゲルト帝国の宣戦布告後、ロメリアは大河にかかる橋を残らず爆破した。
ゲルト帝国は攻めあぐねている。あちらが石を投げてくれば打ち返す、そのくらいの小競り合いとも言えないやりとりがあるだけだ。
そのくらい戦線は膠着していた。
戦場の前線から離れて、幕舎がいくつも並んで設営され、その前に兵士たちが列をなしている。
非番の兵が交代で訪れていた。
「おい、早くしろよ、この遅漏野郎! いつまで待たせやがんだよ!」
「うるせえ! 出るもんも出なくなるだろうが!」
男たちは、慰撫部隊の奉仕を受けるために並んでいるのだった。すなわち、アンドロモーフと性行為をするための列である。
幕舎の中からは、アンドロモーフの哀切な喘ぎが漏れていた。
アンドロモーフは、全軍の共有の備品である。アンドロモーフは妊娠阻害の効果のあるヴィンターキルシェの根を煎じた薬を飲まされている。
乱暴な使い方は禁止されていたが、五日に一度の休みのほかは、朝から夕まで一日に何十人と相手をさせられる。彼らの女性器は腫れて、捏ねくり回され続けた乳首は触れられれば痛いばかりだった。
兵士は好みのアンドロモーフの列に並ぶことができ、中性的な美形のアンドロモーフの人気が高かった。
顔などどうでも良いというものは、気立てや具合の良さで選んだ。
どこの列でもすいていればいい、という者もいた。
「おいブス、こんなに大勢にマンコ使って貰えて幸せだなあ?」
「うっ、あっ……!!」
「お前みたいなドブスがよ」
「うぐっ、はひっ、い゛っ……お゛、あ゛ううッッ!!」
「おい、答えろ、幸せだよなあ?」
「し、幸せで、す、はひっ、ふぎいいッッ!!」
慰撫部隊でもっもと醜いアンドロモーフであるカドーは、酔った兵士に手酷く犯されていた。
本当は痛くて苦しくてたまらない。
男が乱暴に腰を振るたび、摩擦されつづけて腫れ上がった膣の粘膜が酷く痛んだ。
朝からいじられ続けて腫れ上がった両の乳首を、男に無遠慮に引っ張り上げられた。
「お゛!! ん゛ぎッッ、はううっっ、ぐひいッ!」
「気持ちいいだろ、ブス」
「は、はい、ぐうっ……!」
生き地獄だった。
醜いカドーは、酷い兵士にあたることが、他のアンドロモーフに比較して多かった。
犯され続け、膣からは愛液も分泌されなくなっている。滑りの悪くなったそこをひたすらに、男の陰茎が摩擦する。
「くっ、うぐっ! 兵士様、オイルを、オイルを足して、いただけませんか?」
「俺は、オイルは嫌いなんだ」
早く、早くイッてくれ。カドーは願った。
「手伝ってやるから濡らしてみろ」
男がカドーのいじられすぎて敏感なクリトリスを、無造作につまむ。
「あっ! まって、まって……!!」
嫌な予感は、すぐに的中した。
男は、親指と人差し指でカドーのクリトリスを力任せにぎゅっと潰した。
その後、ねじって、引っ張り上げた。
「ひぎゃあ゛あああーーーッッッ!!!」
カドーは、あまりの痛みに断末魔の獣のように絶叫した。
「おい、静かにしろ!」
男は激昂して、カドーの頬を殴打した。
カドーは、鼻血を垂らし、白目をむきながら、びくびくと痙攣して小便をもらした。
その時、幕舎の入口ががばりとめくられた。
男がなんだと振り返ると、そこに立っていたのは、対ロメリア王国軍軍規担当官、ライネルト・フェン・アプソルテだった。
男が慌ててペニスをカドーの体から抜いたとき、それは赤く血に染まっており、ライネルトは不快な光景を冷たく見おろした。
乱暴をはたらいた兵は、懲罰房である幕舎に隔離された。
カドーは軍医の診察と治療を受け、一ヶ月の就労免除となった。膣粘膜は酷く傷つき、性交の相手が務まる状況ではなかった。
殴られた顔は、奥歯がぐらついて腫れ上がっていて、カドーの平素より醜い顔をさらに醜くした。
そのカドーを、ライネルトが聴取かたがた見舞った。
上官であるライネルトの訪問に、カドーは身をおこそうとしたが、ライネルトが留めた。
「そのままでよい」
カドーの顔を見て、ライネルトは氷のようと称される美貌を顰めた。この美しい上官には、カドーの醜さは耐えがたいのであろうとカドーはぼんやりと思った。
男相手に股を開く慰撫部隊を、ライネルトは快く思っていないという噂はあった。
カドーもライネルトの冷たい軽蔑の目をで見られたと感じることがあった。それは、醜いアンドロモーフであるカドー個人に対する生理的嫌悪なのかもしれないが。
ライネルトは、兵卒の間ではその厳しさで恐れられていた。
しかし、その美貌のために、兵士の中には、ライネルトをぶち犯したいなどと言う不逞の輩も存在した。とある兵士は、カドーを犯しながら、「アプソルテ大尉と一発ヤりたい」と不用意にも口走っていた。
「話せるのか」
「はい」
顔は腫れ上がり、痛みもある。熱も出ているが、なんとか話すことは出来そうだった。
「確認になるが、ヤンガー一等兵は、使用が義務付けられているオイルを使用せず交接し、君の膣粘膜に重大な外傷を負わせた。事実か?」
「はい」
「君の乳首および陰核に尋常ならざる力を加えて負傷させ、君が悲鳴をあげるや頬を殴打した。これも相違ないな」
「はい」
「こたびのことは、軍規を徹底できなかった私の責任である。ヤンガー一等兵には相応の罰を与える」
ライネルトは踵を返して、姿勢正しく去っていた。
翌日、ヤンガーは軍法会議に掛けられ、例の鞭打ち刑に処せられた。見せしめの意味がある。今一度、アンドロモーフの扱い方を全兵卒肝に銘じたのだった。
ライネルトは、翌日、再びカドーのもとを訪れた。
「君は、大学で学んでいたそうじゃないか」
「はい」
「何を学んでいたのかね」
「神学を」
その在学中にカドーは拉致され、慰撫部隊に無理やり編入させられたのだ。
最初の二週間は、ごく当たり前の新兵としての訓練を受けた。軍規を叩き込まれ、銃の扱いを学び、銃剣での格闘、負傷兵の応急処置を教えられた。
あとの一週間で、娼妓によって手ほどきを受けて男を喜ばせる技をしこまれた。男根を喉まで招き入れて楽しませるすべや、陰嚢や肛門への愛撫の仕方を学んだ。
また、処女のアンドロモーフは張形と、実地訓練によって、未使用の狭い膣道を広げられた。
怒り、屈辱、恥辱、無力、諦念、あらゆる負の感情を味わい尽くした。
そうして、軍に正式に配属されると、人を人とも思わぬ生き地獄で、肉体も精神も蹂躙された。
慰撫部隊に配属されたアンドロモーフたちは、自死を選ぶものも多かった。
カドーを踏みとどまらせたのは、自死者は天の門をくぐれないという教えだけだった。
しかし、神への疑念がこのところ心を苛む。
自死したアンドロモーフは、自死したものとして忌まれて従軍司祭から弔われもせず、無造作に穴に埋められる。
「あーあ、もったいねえ、せっかくの美人のおまんこがよ」
そう言って、墓掘りに金を握らせ、埋める前の死体を犯し、辱める者がいる。
おぞましさに吐き気を催す。
「おいカドー、美人薄命ってのはほんとだな。おめえみたいなブスマンコは死なねえってのに」
カドーも思う。何故、私は生きるのかと。
自死者は天の門をくぐれないなんて、おかしいではないか。
このような地獄から逃れるために死んでいった者が、天国に入れないなんて。
「カドー二等兵、辞令だ」
いつのまにか、物思いに耽っていたカドーは、ライネルトの言葉にはっとする。
「はい」
「君は、今日付けで私の従卒になってもらう。いいね」
その晩から、カドーはライネルトの幕舎でともに寝起きするようになった。
夜、困ったことがあった。カドーは、軍医から一日に一度塗るようにと渡された傷薬を腟内に塗り込めるのに難儀していた。
ライネルトとカドーは同じ幕舎で寝起きしており、彼のいるところでは薬を塗るのも憚られたのだ。
夜間、そっと痛みに耐えながら幕舎を抜け出そうとしたところ、ライネルトに呼び止められた。
「何をしている」
その声の冷たいこと。カドーは、やましいことがないにも関わらず震え上がった。
「よ、用を足しに…… 」
「ついていこう」
脱走か、それとも間者かと疑われているのかもしれない。思わず、足を止める。
「なんだ、行かないのか」
「その、大尉のお手を煩わせることでは」
「小一時間も用を足すのであるまい」
何故行かないのか。ライネルトは腕組みをしている。ゆらゆらと揺れるランプの灯りに照らし出された冷たい目が、カドーを射すくめる。
この目で見られては、嘘はつけない。
「訂正、させてください」
ライネルトが顎で続きを促す。
「傷薬を……塗らなくては、なりませんので」
「ここで塗ればいい」
困り果てて、俯いていると、ライネルトの手が目の前に差し出された。
わけがわからないカドーは真意を確かめるために、ライネルトの顔を見た。
「薬を渡しなさい」
上官命令だ。言われるままに薬を渡す。
ライネルトは、薬の容器を一旦机に置くと、洗面器の水で手を洗い、タオルで拭いた。
「カドー、ズボンを脱げ」
カドーは身を強張らせた。
ライネルトは、まさか性処理のためにカドーを使う気なのかと、考えがよぎった。
そんなことがあるはずないと思いながらも疑念は捨てきれず、カドーは痛みを堪えながら、ズボンを脱いだ。
「ここに座って、足を開きなさい」
ライネルトは、シーツに藁を詰めた自身の寝床をさし示した。
言われたように、羞恥を感じながら足を開く。
ライネルトは蓋を外して傷薬を指先に取った。
「た、大尉! 自分で、塗れます!」
「静かにしなさい」
ライネルトは傷薬を腫れて痛む外陰部にそっと塗った。
カドーの虐待されずきずきと痛む陰核にも優しく塗り込んだ。
続いて、腫れ上がった小陰唇に膏薬をなじませていく。
カドーは、息を呑み、歯を食いしばって、痛みと羞恥に堪えていた。
何故、自分が知り合って間もない上官に恥ずべき女性器を晒し、薬を塗られているのか、全く理解が追いつかなかった。
ライネルトは再び傷薬を指先に取ると、腫れあがり傷ついた膣口に慎重に薬を塗りつけた。
爪を短く綺麗に整えたライネルトの指が、極めて繊細にカドーの腟内に入ってくる。
「……!」
恐怖に身がこわばる。傷口を暴かれ、痛みが走る。
ライネルトは最大限の慎重さで、ゆっくりと腟内に薬を塗りつけていった。
形の良い長い指が子宮口を優しく撫でながら薬をなじませる。
どんなに優しい手つきであっても、傷ついた状態では拷問に等しかった。
ライネルトがそっと指を引き抜くと、カドーは詰めていた息を吐き出した。
しかし、自分ではこんなにきちんと奥深くまで薬を塗れるとは思えなかった。
「ありがとう、ございます」
カドーが礼を言うと、ライネルトは軽く頷き、水で再び手を洗い清めた。
ライネルトにとっては性的な意味合いはまったくなく、部下の傷の手当に過ぎないのだと、カドーは知った。
ライネルトが、醜いアンドロモーフに劣情を催すはずがないのだ。
それに、カドーには欲情するライネルトは全く想像がつかなかった。
カドーは、ライネルトの食事を用意し、お茶を淹れ、軍靴を磨き、軍服や武器の手入れをし、彼の口頭で告げる本国の陸軍本部への報告書を代筆した。
傷が塞がってきてからは小間使いとして走り回るようになった。
ライネルトは代筆の報告書に目を通すと、頷いてサインをした。
彼は口数少なく常に無表情ではあるが、カドーの彼への恐れは日に日に消えていった。
それは、彼の軍規違反の指摘は常に正しかったからである。
近くの村まで行って村の娘を強姦したもの、村の畑の農作物を脅し取ったものなどに適正な罰を与えたに過ぎない。
そして、夜には、ライネルトはカドーに薬を塗った。痛めつけられた乳首と、女性器に。
「ここにも必要だろう」
そう言って、軟膏を手にとって、ライネルトは優しく傷ついた乳首に薬を塗った。
「そこは、自分で……!!」
「気にすることはない」
傷が徐々に癒えてくると、困ったのはカドーだった。
痛みゆえではない。
ライネルトが優しく入念に乳首に薬をぬるたびに、陰核に薬を塗り込めるたびに、陰核の根本にも入念になじませるたびに、小陰唇を優しく摘んで余すことなく薬を行き渡らせるたびに、膣口をそっと開いて、襞の一つ一つに至るまでくまなく薬を塗りこむたびに、性的な快感を覚えるようになった。
ライネルトには性的な意図がないことは分かりきっている。
彼の指が腹側を僅かに押し上げるたびに、子宮口をそっと撫でるたび、カドーは快感のために息を殺した。
それなのに、カドーの肉体は快楽に正直で、ライネルトの指を不随意にびくびくと締め付け、愛液が分泌される。
「くふ……うっ……んっ……!」
ライネルトが何も思っておらず、無表情のまま機械的に手を動かすのがせめてもの救いだった。
ライネルトの指示によって本国の陸軍本部に送る書類を通信兵に渡した帰りだった。
カドーは、男によって林に引っ張り込まれた。
それは、カドーが慰撫部隊所属時に、何度か相手した兵士だった。
「な、何するんですか」
「いたいた、おブスちゃん。淋しかったぜ。お前さんが一番具合が良くてよ」
男が、カドーの下半身に勃起した自身を押し当てた。
「金ならやるから、一発ヤラせろよ」
男はカドーに無理やりコインを握らせた。
「や、やめてください」
「へへ、おぼこじゃあるまいし」
男がカドーを組み敷き、無理やりズボンを引きずり下ろした。カドーのようやく治りかけた女性器が外気にさらされた。
カドーは、手酷く犯された記憶が蘇って、声も出ず硬直してしまう。
それを男は同意と取ったようだった。男も自身のズボンを下ろすと、すでに勃起した男根がぶるりと飛び出した。
のしかかっていた男の体重が、ふっと軽くなった。
固くつむっていた目を見開くと、男の首根っこを掴んで、ライネルトが立っていた。
「同意の上か」
カドーはどうにか、首を横に振った。
「そりゃねえぜ、おブスちゃん! 大尉! こりゃ、何かの間違いですぜ、おい、なんとか言えよ!」
男が抗議の声を上げたが、ライネルトは男を地面に叩きつけた。
「カドー、衣服を整えなさい」
震える手でようやく衣服を整えると、ライネルトは部下を呼んで、男を引っ立てていった。
ゲルト帝国軍は、動きを隠しながら秘密裡に渡河の可能な場所を見つけ、大砲も通過可能な橋をつくることに成功した。
ライネルトはこの作戦の立案に関わっていた。ライネルト曰く、橋の作成法は古代ロメリアの技術の応用であるという。現ロメリアでは喪われた技術だというのだから、歴史の皮肉か。
ロメリア側に気付かれぬよう現地の木を切り倒し、あっという間に工兵たちによって橋は組み立てられたのだった。
ロメリア王国軍が気づいた時には、時すでに遅し。
夜が明けようというころ、ゲルト帝国軍は橋をぞろりぞろりと音を殺して渡りはじめた。
カドーもライネルトの従卒として、大砲や、銃弾の飛び交い、刃が切り結ばれ、銃剣が突き出される戦場は恐ろしくとも、ついて行きたかった。
カドーは今や、ライネルトに心酔していた。ライネルトは神を信じられなくなったカドーの新たな神であった。
しかし、ライネルトは許さなかった。
川の向こう岸で、大砲の音が鳴り響く。銃声が続く。
地響きのような鬨の声が上がり、銃剣突撃が始まる。
遠くに軍楽が聞こえる。
戦況はゲルト帝国軍の優勢だったが、次々に、負傷兵が後方に担ぎ込まれきた。
軍医が重症度によってトリアージしていく。
大砲によって手足やふっ飛ばされたもの、内臓が傷つけられたもの。ぶどう弾で穴だらけにされたもの。銃剣で刺されて血が止まらないもの。
カドーは、死を待つばかりの重体のものの苦痛を長引かせないために、軍医の指示のもと、致死量の阿片を与えて回った。
帝国軍の勝利が決したのは夕刻だった。
日も沈もうというころ、カドーをずたずたに痛めつけたヤンガー一等兵が運び込まれてきた。
彼は素人目にも助からないことがわかった。
「ああ、俺は、あんたに、どうしても会いたかったんだ……」
彼は苦しげに、カドー相手に告解をした。
「あんときゃ悪かった。俺が軍隊に取られてんのによ、女房のやつ、浮気して、ガキをこさえたんだとよ、別れてくれってよ……ずっとあんたに謝りたかったんだ、悪かったよ……」
ヤンガーは土気色の顔して、うつろな目には涙が浮かんでいた。
「……あなたを赦します」
ヤンガーは、ふっと微笑んで、こと切れた。
カドーは思った。
ここは、地獄だ。最低の地獄だ。
ヤンガーは、おそらく良い市民だった。
黙ってヤンガーの傍らにひざまずくカドーの後ろには、いつのまにかライネルトが立っていた。
敗残兵を散々に追い散らして、一旦、川向こうから帰ってきたのだ。
「カドー、明日も早いぞ」
カドーは、ばっと振り返り、ライネルトの無事を喜んだ。
「大尉……! お怪我はないですか」
「ああ」
カドーの目から涙が溢れた。
ライネルトは、抱き締めて慰めた。
夜の明けきらぬ内から進軍し、帝国軍はロメリアの王都を攻め落とした。ロメリア王は家族とともに亡命していた。
ゲルト帝国とロメリア王国の戦は、ゲルト帝国の勝利に終わった。
ゲルト帝国皇帝の弟がロメリア王に即位することとなり、空となっていた玉座を埋めた。
ロメリアの王党派の残党を叩く駐留軍が残され、ライネルトとカドーは軍務を解かれて帝国に帰還した。
途中の宿で、ライネルトはもうほとんど治ったと言っていい、カドーの女性器に傷薬を塗っていた。
「た、大尉、もう、本当に、自分で塗れます」
「このように奥までか?」
軟膏をまぶしたライネルトの中指がカドーの膣口を侵入し、粘膜を刺激する。指先が子宮口に触れた。
同時に、ライネルトはもう一方の手で陰核にも薬を塗り込んだ。
「あっ、うっ……!!」
ライネルトの手のひらが、外性器を揉み込む。
「くうっ……!! はぐっ……んっ……!」
上官の指示とはいえ、カドーは首を横に振った。愛液が溢れ出して、薬はすっかり流てしまいそうだ。
カドーはライネルトに薬を塗られるたび、気をやるようになっていた。
浅ましくも腰が勝手に動いて、ライネルトの指にいいところを擦り付けようとするのを必死に抑えようとする。
カドーはもどかしさを感じてしまっていた。指を増やして欲しい、腹側のいいところを押し込まれたい。
陰核にライネルトが薬を丁寧に塗り込む。そこは、もう完治したと伝えてあるのに。
親指と人差し指に摘まれて、表面を撫でられる。
膣に挿入された指先が、快感に降りてきた子宮口をくりくりと撫で回す。
「んんっ、あっ、あうっ……!!」
襞のひとつひとつに、薬を塗り込むために、わずかに指が抜き差しされる。
「大尉、大尉ッッ!」
「カドー、こらえなさい。薬が流れてしまうよ」
「はっ、うぐっ、んああーッッ!」
子宮が熱い。快感に全身が上気し、がくがくと震えている。
カドーは、また達して、咥え込んだライネルトの指を食い締めた。
気が狂いそうなばかりに、ライネルトが欲しい。
皇都へ帰還して、ライネルトは皇帝自らの手でゲルト騎士団勲章を授与された。階級も、少佐に昇進した。
戦争の終結にともない、伯爵家の嫡男であるライネルトは予備役となった。
「カドー、君は、神学校に戻りたいか」
ライネルトの問いに、カドーは首を振った。もう、今更神の真理を探求し、生涯神に仕えようとは思えなくなっていた。
戦場での体験から信心深くなるものもいれば、公言はせずともカドーのように無神論に陥るものもいた。
「カドー、君は、私と結婚するべきだと思う」
ライネルトが突拍子もなく言った。
「はい? な、何を仰るのです?」
「今後また、戦が起これば、またアンドロモーフ狩りが起こるであろう。その時、僧籍でも貴族の血縁でもないと君は連れ去られてしまう」
ライネルトが親切心で、その突拍子もない申し出をしているのがわかった。
「申し出はありがたいのですが、少佐と私とでは身分が違いすぎます」
「私に、私の従卒を見殺しにしろというのか。私はアンドロモーフによる慰撫部隊などというものには、はじめから反対だったのだ」
従卒。カドーはライネルトの従卒だ。それは、カドーにとって嬉しくもあり、悲しくもあった。
ただの従卒に対して、もったいない言葉だというのに。
「身分など理由にするな。大公と料理番の女性が結婚したためしもある」
カドーはライネルトに押し切られる形で、皇都で結婚許可証を手に入れて両家の親族にも知らせずに結婚した。
皇都の屋敷を買って、カドーとライネルトは暮らしはじめた。
カドーは、家族に結婚のことをどう伝えたらよいのかわからず、取り急ぎ手紙で、無事で生きており、今は貴人の家に身を寄せていると伝えた。
ライネルトは言った。
「私は子供が欲しいのだが、君はどうか。無理にとは言わないよ」
カドーは、真意をはかりかねた。伯爵家の嫡男が無理に子は望まない、とはどういうことなのか。カドーとの子はいてもいなくても構わない、ということか。
カドーは問い返した。
「少佐、それは少佐が子供は特別必要ない、ということですか?」
「私は、欲しいと言ったはずだよ。それに、少佐ではないよ、ライネルトと呼ぶように」
少佐は、ただの従卒に子を産ませ、名を呼ばせたいのですか。
カドーは出かかった言葉を飲み込んだ。目の前がくらくらした。泣き出したい気持ちに襲われた。
その晩、使用人に風呂の準備をさせ、体を清め、カドーは夫婦の寝所で待っていた。
まだ若いメイドは好奇の視線を完全に隠せてはいない。
それだけ、ライネルトとカドーは奇異な組み合わせの夫婦であった。
美しい貴族の男と、醜い平民の男。醜い男はアンドロモーフだという。
幸い、ライネルトが面接して採用した若いメイドには分別があった。カドーにも礼儀正しく丁重に接し、この奇異な夫婦のことを、口さがない人々の話のねたに提供することはなかった。
多分に、ライネルトへの恐怖心があってのことではあるが。
風呂からあがり、ローブを纏い、所在なくカドーはベッドに腰掛けた。もう、ヴィンターキルシェの根の服用はやめている。行為をすれば、子を作ることは可能だろう。
しかし、このような気持ちで、子を作っても良いものだろうか。
ライネルトは、カドーのような男と子を成して、後悔しないのだろうか。
将来、本当にライネルトに相応しい愛するものが現れたとき、カドーはどうなるのか。
その時、扉が開いて、ライネルトが寝所に入ってきた。
早速、言葉もなくカドーとまじわろうとするライネルトを、カドーは止めた。
「少佐」
「ライネルトだ」
「……ライネルト」
この時が、カドーが名前を呼んだ初めてだった。
ライネルトは、花がほころぶように、笑みを浮かべた。
その笑顔に、カドーは面喰らう。このかたは、このように笑うことができたのかと。氷の微笑と呼ばれるものは見たことがあったが、これは違う。
「もっと呼んでくれないか」
「ライネルト」
ライネルトが笑みを深くする。緊張に早まっていたカドーの胸が一層高鳴る。
ライネルトは、カドーの唇に自らの唇を重ねた。
優しく唇をはんでいたキスは、いつしか深いものに変わっていった。
ライネルトの舌がカドーの舌に情熱的に絡む。舌を吸われて甘く噛まれる。
そのキスが、カドーに勇気を与えた。
「ライネルトは、私を、どう思っているのですか?」
「愛している」
「何故、言ってくださらなかったのですか」
「言っていなかったか?」
「……はい」
「君からも、聞いていないよ」
「愛しています」
ライネルトは、とろけるような笑みを浮かべて、またキスをした。
キスしながら、ライネルトがローブの合わせ目から手を入れた。
カドーの既に立ち上がった胸のとがりをつまみ、そっと転がす。カドーがそのたびに、びくりと震えた。
甘い痺れが広がって、下腹部が切なく疼く。
「ふっ、くっ……んんっ……!!」
キスと胸への愛撫で十分に潤ったカドーの秘裂にライネルトの指が添わされる。
それを、ライネルトがゆるゆると動かすと、陰核、尿道口、小陰唇が刺激される。
快楽に腰をくねらせると、つぷりとライネルトの中指がカドーの体内に侵入を果たした。
膣のひだひとつひとつがライネルトの指に快楽をねだるように絡みつく。
すでに幾度も探って知り尽くしたカドーのいいところを刺激して、掻き回して、カドーの性感を的確に高めていく。
カドーの弱点の膣壁の上部をやわやわと押し上げられると、カドーは悩ましげに顔を歪めた。
もう一方の手が、ぴんと立ち上がった陰核をそっと撫で回す。
内と外から愛撫されて、カドーの腰が淫らに跳ねる。
一際高い声で鳴くと、カドーは気をやった。子宮が疼いて、膣が大きくうねり、愛液がさらに分泌される。
指を増やして、抜き差しすると、じゅぶじゅぶと卑猥な音を立てた。
降りてきた子宮口を突き上げると、カドーはいやいやと首を振った。
「はうっ、あっ! ああっ! やっ……いや、もう、お願い、です」
ライネルトはカドーの足を開かせて、自身をカドーの中にゆっくりと埋めていった。
「あっ、はうっ、あっ、んんっ! あっ、ああッッ!」
カドーの肉体も、精神も歓喜の声を上げる。ずっとこの瞬間を望んでいた。
カドーの熱い濡れそぼった肉が、ライネルトを包み込み、幾度も強く締め付ける。
カドーの中は、ライネルトの陰茎に襞もなくなるほど広げられ、満たされていた。カドーの性感帯は圧迫されたままになる。ライネルトの亀頭は、じんわりと子宮口を押し上げている。
膣壁全てが性感帯となっていて、抜き差しせずとも、さざなみのような小さな絶頂が起こった。
カドーの様子を見ながら、ライネルトが抜き挿しを、徐々に速めていく。
散々に子宮口を捏ねられ、突かれて、カドーの子宮の疼きは耐えがたいものとなっていた。
ライネルトが子宮口に白濁をぶちまけた直後、カドーもまた絶頂を迎えた。
「はぐっ、く、る、あっ、ああーーッッ!!」
「君は、アルプの山越えを覚えているか」
「ええ、もちろん」
ライネルトの胸に抱かれて、カドーは思い出していた。
ロメリアへの行軍中、徒歩でアルプの山を越えた。雪の残る峻厳な山は歴戦の兵士とっても苦しいものだった。
それが狩り集められてきたアンドロモーフにとっては、地獄の苦しみだった。
「私は、そこで君が、自身も苦しいだろうにアンドロモーフの仲間たちを励ましているのを見た」
あの時のライネルトの冷たい一瞥を思い出した。足手まといに思ってのことだろうと思ったが、どうやら違ったらしい。
そのあと、部下たちに命じて私たちアンドロモーフの荷物の一部を持たせてくれたのだ。
「その時から、君に惹かれていたのだと思う」
おわり
初出:2025/01/01
皇帝の号令のもと、常備軍の創設が進められたが、それは多分に乱暴なやり方を伴った。
募兵将校は部下を連れて各村々をを歩きまわり、屈強な若者を、時には言葉巧みに騙し、時には散々に酒を飲ませて拉致し、常備軍に組み込んでいった。
無理やり兵士にされた者が逃亡しようとすれば、厳しい鞭打ち刑が待っていた。
それは道の両側に兵士たちが鞭をもって向かい合って並び、その間を、雨のように鞭を浴びながら通過しなければならないというものだった。
逃亡を企てた男の皮膚は裂けて酷い有様だった。
ゴルト帝国の常備軍は皇帝直下の組織であり、規律は非常に厳格であった。
しかし、兵士たちから前時代の悪しき習慣を完全に取り除くのは容易ではなかった。
戦場での略奪、婦女暴行はどれだけ取り締まってもなくすことは出来なかった。
旧弊を払うひとつとして、兵站部隊が組織された。金払いが悪ければ金の切れ目が縁の切れ目と消えてしまう酒保商人のかわりに、常備軍の内部に兵站部隊を組織したのだ。
これまでの軍隊は現地調達が主で、戦争と略奪とは切っても切れぬものであった。
兵站部隊が軍隊への必需品の補給と後方の維持を行うことで、軍隊は戦いに専念することができるようになった。
問題は、婦女暴行である。
近世まで、軍隊には、酒保商人とその後ろをぞろぞろとついてくる娼婦が必ずいた。少なからず、兵士の色欲を発散させる効果があった。
娼婦は軍隊にとってなくてはならないものであるとされた。色欲は締め付けるばかりでは暴発するとされたのである。
常備軍にも、娼婦の代替を用意することが急務とされた。
そこで、考えられたのが、アンドロモーフの活用である。アンドロモーフとは、外見は男であるが、女性器を持つ男性のことである。
帝国は、教会に協力させ、洗礼者名簿からアンドロモーフのリストを作成させた。
かくして、貴族の血筋と僧籍を除く、十八歳から二五歳のアンドロモーフは募兵将校らによって、虱潰しに、強制的に、軍隊に取られることになったのであった。独身者、既婚者の別もなかった。
募兵将校らは、人さらいと大差がなく、ひたすらに恐れられた。
現在、ゲルト帝国は、長年の宿敵、ロメリア王国と交戦中であった。
ロメリア王の死去、新王の即位に伴い、ゲルトは自国のロメリア王位継承権を主張していた。
ゲルト帝国は山を越えて谷を越えて、国境を流れる大河までやってきた。
そして大河を挟み、両軍は対峙している。
ゲルト帝国の宣戦布告後、ロメリアは大河にかかる橋を残らず爆破した。
ゲルト帝国は攻めあぐねている。あちらが石を投げてくれば打ち返す、そのくらいの小競り合いとも言えないやりとりがあるだけだ。
そのくらい戦線は膠着していた。
戦場の前線から離れて、幕舎がいくつも並んで設営され、その前に兵士たちが列をなしている。
非番の兵が交代で訪れていた。
「おい、早くしろよ、この遅漏野郎! いつまで待たせやがんだよ!」
「うるせえ! 出るもんも出なくなるだろうが!」
男たちは、慰撫部隊の奉仕を受けるために並んでいるのだった。すなわち、アンドロモーフと性行為をするための列である。
幕舎の中からは、アンドロモーフの哀切な喘ぎが漏れていた。
アンドロモーフは、全軍の共有の備品である。アンドロモーフは妊娠阻害の効果のあるヴィンターキルシェの根を煎じた薬を飲まされている。
乱暴な使い方は禁止されていたが、五日に一度の休みのほかは、朝から夕まで一日に何十人と相手をさせられる。彼らの女性器は腫れて、捏ねくり回され続けた乳首は触れられれば痛いばかりだった。
兵士は好みのアンドロモーフの列に並ぶことができ、中性的な美形のアンドロモーフの人気が高かった。
顔などどうでも良いというものは、気立てや具合の良さで選んだ。
どこの列でもすいていればいい、という者もいた。
「おいブス、こんなに大勢にマンコ使って貰えて幸せだなあ?」
「うっ、あっ……!!」
「お前みたいなドブスがよ」
「うぐっ、はひっ、い゛っ……お゛、あ゛ううッッ!!」
「おい、答えろ、幸せだよなあ?」
「し、幸せで、す、はひっ、ふぎいいッッ!!」
慰撫部隊でもっもと醜いアンドロモーフであるカドーは、酔った兵士に手酷く犯されていた。
本当は痛くて苦しくてたまらない。
男が乱暴に腰を振るたび、摩擦されつづけて腫れ上がった膣の粘膜が酷く痛んだ。
朝からいじられ続けて腫れ上がった両の乳首を、男に無遠慮に引っ張り上げられた。
「お゛!! ん゛ぎッッ、はううっっ、ぐひいッ!」
「気持ちいいだろ、ブス」
「は、はい、ぐうっ……!」
生き地獄だった。
醜いカドーは、酷い兵士にあたることが、他のアンドロモーフに比較して多かった。
犯され続け、膣からは愛液も分泌されなくなっている。滑りの悪くなったそこをひたすらに、男の陰茎が摩擦する。
「くっ、うぐっ! 兵士様、オイルを、オイルを足して、いただけませんか?」
「俺は、オイルは嫌いなんだ」
早く、早くイッてくれ。カドーは願った。
「手伝ってやるから濡らしてみろ」
男がカドーのいじられすぎて敏感なクリトリスを、無造作につまむ。
「あっ! まって、まって……!!」
嫌な予感は、すぐに的中した。
男は、親指と人差し指でカドーのクリトリスを力任せにぎゅっと潰した。
その後、ねじって、引っ張り上げた。
「ひぎゃあ゛あああーーーッッッ!!!」
カドーは、あまりの痛みに断末魔の獣のように絶叫した。
「おい、静かにしろ!」
男は激昂して、カドーの頬を殴打した。
カドーは、鼻血を垂らし、白目をむきながら、びくびくと痙攣して小便をもらした。
その時、幕舎の入口ががばりとめくられた。
男がなんだと振り返ると、そこに立っていたのは、対ロメリア王国軍軍規担当官、ライネルト・フェン・アプソルテだった。
男が慌ててペニスをカドーの体から抜いたとき、それは赤く血に染まっており、ライネルトは不快な光景を冷たく見おろした。
乱暴をはたらいた兵は、懲罰房である幕舎に隔離された。
カドーは軍医の診察と治療を受け、一ヶ月の就労免除となった。膣粘膜は酷く傷つき、性交の相手が務まる状況ではなかった。
殴られた顔は、奥歯がぐらついて腫れ上がっていて、カドーの平素より醜い顔をさらに醜くした。
そのカドーを、ライネルトが聴取かたがた見舞った。
上官であるライネルトの訪問に、カドーは身をおこそうとしたが、ライネルトが留めた。
「そのままでよい」
カドーの顔を見て、ライネルトは氷のようと称される美貌を顰めた。この美しい上官には、カドーの醜さは耐えがたいのであろうとカドーはぼんやりと思った。
男相手に股を開く慰撫部隊を、ライネルトは快く思っていないという噂はあった。
カドーもライネルトの冷たい軽蔑の目をで見られたと感じることがあった。それは、醜いアンドロモーフであるカドー個人に対する生理的嫌悪なのかもしれないが。
ライネルトは、兵卒の間ではその厳しさで恐れられていた。
しかし、その美貌のために、兵士の中には、ライネルトをぶち犯したいなどと言う不逞の輩も存在した。とある兵士は、カドーを犯しながら、「アプソルテ大尉と一発ヤりたい」と不用意にも口走っていた。
「話せるのか」
「はい」
顔は腫れ上がり、痛みもある。熱も出ているが、なんとか話すことは出来そうだった。
「確認になるが、ヤンガー一等兵は、使用が義務付けられているオイルを使用せず交接し、君の膣粘膜に重大な外傷を負わせた。事実か?」
「はい」
「君の乳首および陰核に尋常ならざる力を加えて負傷させ、君が悲鳴をあげるや頬を殴打した。これも相違ないな」
「はい」
「こたびのことは、軍規を徹底できなかった私の責任である。ヤンガー一等兵には相応の罰を与える」
ライネルトは踵を返して、姿勢正しく去っていた。
翌日、ヤンガーは軍法会議に掛けられ、例の鞭打ち刑に処せられた。見せしめの意味がある。今一度、アンドロモーフの扱い方を全兵卒肝に銘じたのだった。
ライネルトは、翌日、再びカドーのもとを訪れた。
「君は、大学で学んでいたそうじゃないか」
「はい」
「何を学んでいたのかね」
「神学を」
その在学中にカドーは拉致され、慰撫部隊に無理やり編入させられたのだ。
最初の二週間は、ごく当たり前の新兵としての訓練を受けた。軍規を叩き込まれ、銃の扱いを学び、銃剣での格闘、負傷兵の応急処置を教えられた。
あとの一週間で、娼妓によって手ほどきを受けて男を喜ばせる技をしこまれた。男根を喉まで招き入れて楽しませるすべや、陰嚢や肛門への愛撫の仕方を学んだ。
また、処女のアンドロモーフは張形と、実地訓練によって、未使用の狭い膣道を広げられた。
怒り、屈辱、恥辱、無力、諦念、あらゆる負の感情を味わい尽くした。
そうして、軍に正式に配属されると、人を人とも思わぬ生き地獄で、肉体も精神も蹂躙された。
慰撫部隊に配属されたアンドロモーフたちは、自死を選ぶものも多かった。
カドーを踏みとどまらせたのは、自死者は天の門をくぐれないという教えだけだった。
しかし、神への疑念がこのところ心を苛む。
自死したアンドロモーフは、自死したものとして忌まれて従軍司祭から弔われもせず、無造作に穴に埋められる。
「あーあ、もったいねえ、せっかくの美人のおまんこがよ」
そう言って、墓掘りに金を握らせ、埋める前の死体を犯し、辱める者がいる。
おぞましさに吐き気を催す。
「おいカドー、美人薄命ってのはほんとだな。おめえみたいなブスマンコは死なねえってのに」
カドーも思う。何故、私は生きるのかと。
自死者は天の門をくぐれないなんて、おかしいではないか。
このような地獄から逃れるために死んでいった者が、天国に入れないなんて。
「カドー二等兵、辞令だ」
いつのまにか、物思いに耽っていたカドーは、ライネルトの言葉にはっとする。
「はい」
「君は、今日付けで私の従卒になってもらう。いいね」
その晩から、カドーはライネルトの幕舎でともに寝起きするようになった。
夜、困ったことがあった。カドーは、軍医から一日に一度塗るようにと渡された傷薬を腟内に塗り込めるのに難儀していた。
ライネルトとカドーは同じ幕舎で寝起きしており、彼のいるところでは薬を塗るのも憚られたのだ。
夜間、そっと痛みに耐えながら幕舎を抜け出そうとしたところ、ライネルトに呼び止められた。
「何をしている」
その声の冷たいこと。カドーは、やましいことがないにも関わらず震え上がった。
「よ、用を足しに…… 」
「ついていこう」
脱走か、それとも間者かと疑われているのかもしれない。思わず、足を止める。
「なんだ、行かないのか」
「その、大尉のお手を煩わせることでは」
「小一時間も用を足すのであるまい」
何故行かないのか。ライネルトは腕組みをしている。ゆらゆらと揺れるランプの灯りに照らし出された冷たい目が、カドーを射すくめる。
この目で見られては、嘘はつけない。
「訂正、させてください」
ライネルトが顎で続きを促す。
「傷薬を……塗らなくては、なりませんので」
「ここで塗ればいい」
困り果てて、俯いていると、ライネルトの手が目の前に差し出された。
わけがわからないカドーは真意を確かめるために、ライネルトの顔を見た。
「薬を渡しなさい」
上官命令だ。言われるままに薬を渡す。
ライネルトは、薬の容器を一旦机に置くと、洗面器の水で手を洗い、タオルで拭いた。
「カドー、ズボンを脱げ」
カドーは身を強張らせた。
ライネルトは、まさか性処理のためにカドーを使う気なのかと、考えがよぎった。
そんなことがあるはずないと思いながらも疑念は捨てきれず、カドーは痛みを堪えながら、ズボンを脱いだ。
「ここに座って、足を開きなさい」
ライネルトは、シーツに藁を詰めた自身の寝床をさし示した。
言われたように、羞恥を感じながら足を開く。
ライネルトは蓋を外して傷薬を指先に取った。
「た、大尉! 自分で、塗れます!」
「静かにしなさい」
ライネルトは傷薬を腫れて痛む外陰部にそっと塗った。
カドーの虐待されずきずきと痛む陰核にも優しく塗り込んだ。
続いて、腫れ上がった小陰唇に膏薬をなじませていく。
カドーは、息を呑み、歯を食いしばって、痛みと羞恥に堪えていた。
何故、自分が知り合って間もない上官に恥ずべき女性器を晒し、薬を塗られているのか、全く理解が追いつかなかった。
ライネルトは再び傷薬を指先に取ると、腫れあがり傷ついた膣口に慎重に薬を塗りつけた。
爪を短く綺麗に整えたライネルトの指が、極めて繊細にカドーの腟内に入ってくる。
「……!」
恐怖に身がこわばる。傷口を暴かれ、痛みが走る。
ライネルトは最大限の慎重さで、ゆっくりと腟内に薬を塗りつけていった。
形の良い長い指が子宮口を優しく撫でながら薬をなじませる。
どんなに優しい手つきであっても、傷ついた状態では拷問に等しかった。
ライネルトがそっと指を引き抜くと、カドーは詰めていた息を吐き出した。
しかし、自分ではこんなにきちんと奥深くまで薬を塗れるとは思えなかった。
「ありがとう、ございます」
カドーが礼を言うと、ライネルトは軽く頷き、水で再び手を洗い清めた。
ライネルトにとっては性的な意味合いはまったくなく、部下の傷の手当に過ぎないのだと、カドーは知った。
ライネルトが、醜いアンドロモーフに劣情を催すはずがないのだ。
それに、カドーには欲情するライネルトは全く想像がつかなかった。
カドーは、ライネルトの食事を用意し、お茶を淹れ、軍靴を磨き、軍服や武器の手入れをし、彼の口頭で告げる本国の陸軍本部への報告書を代筆した。
傷が塞がってきてからは小間使いとして走り回るようになった。
ライネルトは代筆の報告書に目を通すと、頷いてサインをした。
彼は口数少なく常に無表情ではあるが、カドーの彼への恐れは日に日に消えていった。
それは、彼の軍規違反の指摘は常に正しかったからである。
近くの村まで行って村の娘を強姦したもの、村の畑の農作物を脅し取ったものなどに適正な罰を与えたに過ぎない。
そして、夜には、ライネルトはカドーに薬を塗った。痛めつけられた乳首と、女性器に。
「ここにも必要だろう」
そう言って、軟膏を手にとって、ライネルトは優しく傷ついた乳首に薬を塗った。
「そこは、自分で……!!」
「気にすることはない」
傷が徐々に癒えてくると、困ったのはカドーだった。
痛みゆえではない。
ライネルトが優しく入念に乳首に薬をぬるたびに、陰核に薬を塗り込めるたびに、陰核の根本にも入念になじませるたびに、小陰唇を優しく摘んで余すことなく薬を行き渡らせるたびに、膣口をそっと開いて、襞の一つ一つに至るまでくまなく薬を塗りこむたびに、性的な快感を覚えるようになった。
ライネルトには性的な意図がないことは分かりきっている。
彼の指が腹側を僅かに押し上げるたびに、子宮口をそっと撫でるたび、カドーは快感のために息を殺した。
それなのに、カドーの肉体は快楽に正直で、ライネルトの指を不随意にびくびくと締め付け、愛液が分泌される。
「くふ……うっ……んっ……!」
ライネルトが何も思っておらず、無表情のまま機械的に手を動かすのがせめてもの救いだった。
ライネルトの指示によって本国の陸軍本部に送る書類を通信兵に渡した帰りだった。
カドーは、男によって林に引っ張り込まれた。
それは、カドーが慰撫部隊所属時に、何度か相手した兵士だった。
「な、何するんですか」
「いたいた、おブスちゃん。淋しかったぜ。お前さんが一番具合が良くてよ」
男が、カドーの下半身に勃起した自身を押し当てた。
「金ならやるから、一発ヤラせろよ」
男はカドーに無理やりコインを握らせた。
「や、やめてください」
「へへ、おぼこじゃあるまいし」
男がカドーを組み敷き、無理やりズボンを引きずり下ろした。カドーのようやく治りかけた女性器が外気にさらされた。
カドーは、手酷く犯された記憶が蘇って、声も出ず硬直してしまう。
それを男は同意と取ったようだった。男も自身のズボンを下ろすと、すでに勃起した男根がぶるりと飛び出した。
のしかかっていた男の体重が、ふっと軽くなった。
固くつむっていた目を見開くと、男の首根っこを掴んで、ライネルトが立っていた。
「同意の上か」
カドーはどうにか、首を横に振った。
「そりゃねえぜ、おブスちゃん! 大尉! こりゃ、何かの間違いですぜ、おい、なんとか言えよ!」
男が抗議の声を上げたが、ライネルトは男を地面に叩きつけた。
「カドー、衣服を整えなさい」
震える手でようやく衣服を整えると、ライネルトは部下を呼んで、男を引っ立てていった。
ゲルト帝国軍は、動きを隠しながら秘密裡に渡河の可能な場所を見つけ、大砲も通過可能な橋をつくることに成功した。
ライネルトはこの作戦の立案に関わっていた。ライネルト曰く、橋の作成法は古代ロメリアの技術の応用であるという。現ロメリアでは喪われた技術だというのだから、歴史の皮肉か。
ロメリア側に気付かれぬよう現地の木を切り倒し、あっという間に工兵たちによって橋は組み立てられたのだった。
ロメリア王国軍が気づいた時には、時すでに遅し。
夜が明けようというころ、ゲルト帝国軍は橋をぞろりぞろりと音を殺して渡りはじめた。
カドーもライネルトの従卒として、大砲や、銃弾の飛び交い、刃が切り結ばれ、銃剣が突き出される戦場は恐ろしくとも、ついて行きたかった。
カドーは今や、ライネルトに心酔していた。ライネルトは神を信じられなくなったカドーの新たな神であった。
しかし、ライネルトは許さなかった。
川の向こう岸で、大砲の音が鳴り響く。銃声が続く。
地響きのような鬨の声が上がり、銃剣突撃が始まる。
遠くに軍楽が聞こえる。
戦況はゲルト帝国軍の優勢だったが、次々に、負傷兵が後方に担ぎ込まれきた。
軍医が重症度によってトリアージしていく。
大砲によって手足やふっ飛ばされたもの、内臓が傷つけられたもの。ぶどう弾で穴だらけにされたもの。銃剣で刺されて血が止まらないもの。
カドーは、死を待つばかりの重体のものの苦痛を長引かせないために、軍医の指示のもと、致死量の阿片を与えて回った。
帝国軍の勝利が決したのは夕刻だった。
日も沈もうというころ、カドーをずたずたに痛めつけたヤンガー一等兵が運び込まれてきた。
彼は素人目にも助からないことがわかった。
「ああ、俺は、あんたに、どうしても会いたかったんだ……」
彼は苦しげに、カドー相手に告解をした。
「あんときゃ悪かった。俺が軍隊に取られてんのによ、女房のやつ、浮気して、ガキをこさえたんだとよ、別れてくれってよ……ずっとあんたに謝りたかったんだ、悪かったよ……」
ヤンガーは土気色の顔して、うつろな目には涙が浮かんでいた。
「……あなたを赦します」
ヤンガーは、ふっと微笑んで、こと切れた。
カドーは思った。
ここは、地獄だ。最低の地獄だ。
ヤンガーは、おそらく良い市民だった。
黙ってヤンガーの傍らにひざまずくカドーの後ろには、いつのまにかライネルトが立っていた。
敗残兵を散々に追い散らして、一旦、川向こうから帰ってきたのだ。
「カドー、明日も早いぞ」
カドーは、ばっと振り返り、ライネルトの無事を喜んだ。
「大尉……! お怪我はないですか」
「ああ」
カドーの目から涙が溢れた。
ライネルトは、抱き締めて慰めた。
夜の明けきらぬ内から進軍し、帝国軍はロメリアの王都を攻め落とした。ロメリア王は家族とともに亡命していた。
ゲルト帝国とロメリア王国の戦は、ゲルト帝国の勝利に終わった。
ゲルト帝国皇帝の弟がロメリア王に即位することとなり、空となっていた玉座を埋めた。
ロメリアの王党派の残党を叩く駐留軍が残され、ライネルトとカドーは軍務を解かれて帝国に帰還した。
途中の宿で、ライネルトはもうほとんど治ったと言っていい、カドーの女性器に傷薬を塗っていた。
「た、大尉、もう、本当に、自分で塗れます」
「このように奥までか?」
軟膏をまぶしたライネルトの中指がカドーの膣口を侵入し、粘膜を刺激する。指先が子宮口に触れた。
同時に、ライネルトはもう一方の手で陰核にも薬を塗り込んだ。
「あっ、うっ……!!」
ライネルトの手のひらが、外性器を揉み込む。
「くうっ……!! はぐっ……んっ……!」
上官の指示とはいえ、カドーは首を横に振った。愛液が溢れ出して、薬はすっかり流てしまいそうだ。
カドーはライネルトに薬を塗られるたび、気をやるようになっていた。
浅ましくも腰が勝手に動いて、ライネルトの指にいいところを擦り付けようとするのを必死に抑えようとする。
カドーはもどかしさを感じてしまっていた。指を増やして欲しい、腹側のいいところを押し込まれたい。
陰核にライネルトが薬を丁寧に塗り込む。そこは、もう完治したと伝えてあるのに。
親指と人差し指に摘まれて、表面を撫でられる。
膣に挿入された指先が、快感に降りてきた子宮口をくりくりと撫で回す。
「んんっ、あっ、あうっ……!!」
襞のひとつひとつに、薬を塗り込むために、わずかに指が抜き差しされる。
「大尉、大尉ッッ!」
「カドー、こらえなさい。薬が流れてしまうよ」
「はっ、うぐっ、んああーッッ!」
子宮が熱い。快感に全身が上気し、がくがくと震えている。
カドーは、また達して、咥え込んだライネルトの指を食い締めた。
気が狂いそうなばかりに、ライネルトが欲しい。
皇都へ帰還して、ライネルトは皇帝自らの手でゲルト騎士団勲章を授与された。階級も、少佐に昇進した。
戦争の終結にともない、伯爵家の嫡男であるライネルトは予備役となった。
「カドー、君は、神学校に戻りたいか」
ライネルトの問いに、カドーは首を振った。もう、今更神の真理を探求し、生涯神に仕えようとは思えなくなっていた。
戦場での体験から信心深くなるものもいれば、公言はせずともカドーのように無神論に陥るものもいた。
「カドー、君は、私と結婚するべきだと思う」
ライネルトが突拍子もなく言った。
「はい? な、何を仰るのです?」
「今後また、戦が起これば、またアンドロモーフ狩りが起こるであろう。その時、僧籍でも貴族の血縁でもないと君は連れ去られてしまう」
ライネルトが親切心で、その突拍子もない申し出をしているのがわかった。
「申し出はありがたいのですが、少佐と私とでは身分が違いすぎます」
「私に、私の従卒を見殺しにしろというのか。私はアンドロモーフによる慰撫部隊などというものには、はじめから反対だったのだ」
従卒。カドーはライネルトの従卒だ。それは、カドーにとって嬉しくもあり、悲しくもあった。
ただの従卒に対して、もったいない言葉だというのに。
「身分など理由にするな。大公と料理番の女性が結婚したためしもある」
カドーはライネルトに押し切られる形で、皇都で結婚許可証を手に入れて両家の親族にも知らせずに結婚した。
皇都の屋敷を買って、カドーとライネルトは暮らしはじめた。
カドーは、家族に結婚のことをどう伝えたらよいのかわからず、取り急ぎ手紙で、無事で生きており、今は貴人の家に身を寄せていると伝えた。
ライネルトは言った。
「私は子供が欲しいのだが、君はどうか。無理にとは言わないよ」
カドーは、真意をはかりかねた。伯爵家の嫡男が無理に子は望まない、とはどういうことなのか。カドーとの子はいてもいなくても構わない、ということか。
カドーは問い返した。
「少佐、それは少佐が子供は特別必要ない、ということですか?」
「私は、欲しいと言ったはずだよ。それに、少佐ではないよ、ライネルトと呼ぶように」
少佐は、ただの従卒に子を産ませ、名を呼ばせたいのですか。
カドーは出かかった言葉を飲み込んだ。目の前がくらくらした。泣き出したい気持ちに襲われた。
その晩、使用人に風呂の準備をさせ、体を清め、カドーは夫婦の寝所で待っていた。
まだ若いメイドは好奇の視線を完全に隠せてはいない。
それだけ、ライネルトとカドーは奇異な組み合わせの夫婦であった。
美しい貴族の男と、醜い平民の男。醜い男はアンドロモーフだという。
幸い、ライネルトが面接して採用した若いメイドには分別があった。カドーにも礼儀正しく丁重に接し、この奇異な夫婦のことを、口さがない人々の話のねたに提供することはなかった。
多分に、ライネルトへの恐怖心があってのことではあるが。
風呂からあがり、ローブを纏い、所在なくカドーはベッドに腰掛けた。もう、ヴィンターキルシェの根の服用はやめている。行為をすれば、子を作ることは可能だろう。
しかし、このような気持ちで、子を作っても良いものだろうか。
ライネルトは、カドーのような男と子を成して、後悔しないのだろうか。
将来、本当にライネルトに相応しい愛するものが現れたとき、カドーはどうなるのか。
その時、扉が開いて、ライネルトが寝所に入ってきた。
早速、言葉もなくカドーとまじわろうとするライネルトを、カドーは止めた。
「少佐」
「ライネルトだ」
「……ライネルト」
この時が、カドーが名前を呼んだ初めてだった。
ライネルトは、花がほころぶように、笑みを浮かべた。
その笑顔に、カドーは面喰らう。このかたは、このように笑うことができたのかと。氷の微笑と呼ばれるものは見たことがあったが、これは違う。
「もっと呼んでくれないか」
「ライネルト」
ライネルトが笑みを深くする。緊張に早まっていたカドーの胸が一層高鳴る。
ライネルトは、カドーの唇に自らの唇を重ねた。
優しく唇をはんでいたキスは、いつしか深いものに変わっていった。
ライネルトの舌がカドーの舌に情熱的に絡む。舌を吸われて甘く噛まれる。
そのキスが、カドーに勇気を与えた。
「ライネルトは、私を、どう思っているのですか?」
「愛している」
「何故、言ってくださらなかったのですか」
「言っていなかったか?」
「……はい」
「君からも、聞いていないよ」
「愛しています」
ライネルトは、とろけるような笑みを浮かべて、またキスをした。
キスしながら、ライネルトがローブの合わせ目から手を入れた。
カドーの既に立ち上がった胸のとがりをつまみ、そっと転がす。カドーがそのたびに、びくりと震えた。
甘い痺れが広がって、下腹部が切なく疼く。
「ふっ、くっ……んんっ……!!」
キスと胸への愛撫で十分に潤ったカドーの秘裂にライネルトの指が添わされる。
それを、ライネルトがゆるゆると動かすと、陰核、尿道口、小陰唇が刺激される。
快楽に腰をくねらせると、つぷりとライネルトの中指がカドーの体内に侵入を果たした。
膣のひだひとつひとつがライネルトの指に快楽をねだるように絡みつく。
すでに幾度も探って知り尽くしたカドーのいいところを刺激して、掻き回して、カドーの性感を的確に高めていく。
カドーの弱点の膣壁の上部をやわやわと押し上げられると、カドーは悩ましげに顔を歪めた。
もう一方の手が、ぴんと立ち上がった陰核をそっと撫で回す。
内と外から愛撫されて、カドーの腰が淫らに跳ねる。
一際高い声で鳴くと、カドーは気をやった。子宮が疼いて、膣が大きくうねり、愛液がさらに分泌される。
指を増やして、抜き差しすると、じゅぶじゅぶと卑猥な音を立てた。
降りてきた子宮口を突き上げると、カドーはいやいやと首を振った。
「はうっ、あっ! ああっ! やっ……いや、もう、お願い、です」
ライネルトはカドーの足を開かせて、自身をカドーの中にゆっくりと埋めていった。
「あっ、はうっ、あっ、んんっ! あっ、ああッッ!」
カドーの肉体も、精神も歓喜の声を上げる。ずっとこの瞬間を望んでいた。
カドーの熱い濡れそぼった肉が、ライネルトを包み込み、幾度も強く締め付ける。
カドーの中は、ライネルトの陰茎に襞もなくなるほど広げられ、満たされていた。カドーの性感帯は圧迫されたままになる。ライネルトの亀頭は、じんわりと子宮口を押し上げている。
膣壁全てが性感帯となっていて、抜き差しせずとも、さざなみのような小さな絶頂が起こった。
カドーの様子を見ながら、ライネルトが抜き挿しを、徐々に速めていく。
散々に子宮口を捏ねられ、突かれて、カドーの子宮の疼きは耐えがたいものとなっていた。
ライネルトが子宮口に白濁をぶちまけた直後、カドーもまた絶頂を迎えた。
「はぐっ、く、る、あっ、ああーーッッ!!」
「君は、アルプの山越えを覚えているか」
「ええ、もちろん」
ライネルトの胸に抱かれて、カドーは思い出していた。
ロメリアへの行軍中、徒歩でアルプの山を越えた。雪の残る峻厳な山は歴戦の兵士とっても苦しいものだった。
それが狩り集められてきたアンドロモーフにとっては、地獄の苦しみだった。
「私は、そこで君が、自身も苦しいだろうにアンドロモーフの仲間たちを励ましているのを見た」
あの時のライネルトの冷たい一瞥を思い出した。足手まといに思ってのことだろうと思ったが、どうやら違ったらしい。
そのあと、部下たちに命じて私たちアンドロモーフの荷物の一部を持たせてくれたのだ。
「その時から、君に惹かれていたのだと思う」
おわり
初出:2025/01/01
30
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる