ゲーム少年Takeshiの欲望

Yoshinari F/Route-17

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 マミと父、母、そしてタケシは〇×病院へ収容された。
 マミの父も母も一命をとりとめた。2人とも1ヶ月間の入院となった。
 タケシに至っては出血が多すぎた。一時は重体となったが〇×病院の優秀な医師や看護師たちの懸命の治療の甲斐あって一命を取り止め、全治3カ月と診断された。
 3人が入院している間、マミは1人で皆の看病をした。
 星雄に刺され傷ついた足で〇×病院へ毎日通った。医師からも看護師からも両親と「恋人」を看病をする優しい娘だと評判だった。
 立て籠り事件はメディアによって全国的に報道されたため、マミは悲劇のヒロインとしてその名を知られることになってしまった。
 マミの学校一のルックスと献身的に両親と幼馴染の世話をする姿を全国の男どもが放っておくわけがなかった。学校へラブレターやプレゼントを持って現れたり、病院にまでやって来るデリカシーのない者もいた。毎日現れる訪問者は日増しに増えアイドルの追っかけのようになっていた。
 マミは辟易していた。 
 そんな中、病院前でバスを降りた時に道路で大勢に囲まれてしまった。
「すいません、通してください!。もう来ないでください!!」
 何度そう言って断っても聞き入れられなかった。
「マミさん、デートしてくれ!」だの、「食事しましょう!」だの、突然背後で「好きだ~!!!!」と大声で叫ぶ者までいて、あまりの身勝手さに恐ろしくなる。
 さらに「マミちゃん、怪我した足は大丈夫ぅぅ?」とスカートの上から触ってくる不貞の輩まで現れた。
「や、やめて下さい!!」
「うへへへへ…。」
これでは、いつ星雄のような変態が現れるか分からない。苛立ちと不安が入り混じってマミは泣きそうになった。
 その時だった。一頭の漆黒の動物が人垣の中に割り込んだ。
  マミの周囲を一周し変態どもを一歩遠ざけた。それは小型犬ほどの大きさではあるが、あの狂獣だった。
 立て籠り事件の際、狂獣はメディアにその姿を見せてはいない。当然その存在を知る者はいない。見たこともない謎の生物、狂獣の出現に、マミを取り囲んでいた男たちは驚いて一斉に後ずさった。
 狂獣の長い漆黒の体毛は風が無くてもゆらゆらと揺れた。まるで地獄からの黒い焔に靡(なび)いているかのようだった。
「あ、たけし!。迎えに来てくれたの?、いいこだねー。」
マミの表情がパッと明るくなり「たけし」と呼ばれた生物の頭を優しく撫でる。マミは「たけし」の事を気に入っていた。小さな狂獣も嬉しそうに尾を振った。マミにしっかり懐いていた。
 タケシ…だって?。人垣の中の誰かが呟いた。
 事件の時タケシは映像に捕らえられていた。全国が震撼した。血まみれの姿で現れ、男性レポーターの首元を掴み、警察の静止を振り切り非常線を越え、犯人と人質のいる店舗に突入したのだ。そのわずか数分後に、血達磨にされた犯人星雄が窓から放り出されて事件が解決している。
 店内で何があったのかは明らかにされていないがこの男が事件をひっくり返したことは間違いない。
 そのキーマンの名が、確か…タケシ!!。
 マミの美談で忘れられがちだがこの〇×病院に入院しているのは、その重要人物タケシなのである。
「あぁ~っ!!!!」と叫び声を上げた男がいた。
 病院の窓を指さしていた。窓からこちらを見ている者がいる。タケシだった。タケシが鬼の形相でこちらを睨みつけていた。
「(マミにちょっかい出す奴は殺す!!)」
「ひぃぃぃぃ…」男たちは怯えた。
 狂獣は牙を剥き出しにして男たちを威嚇していた。それをマミがなだめている。両手で狂獣の首元を力強く撫でながら「まだよ。それから、殺しちゃだめよ(笑)。」と注意している。それから「よし!、追い払って!!」と合図した。
 狂獣は迷惑な変態男たちの群れに跳びかかった。小さな体のままで半分遊んでいるようだった。それでも男たちは命からがら一目散に逃げた。一人残らず。
 大勢の男どもから解放されたマミはタケシがいる窓に向かって右手の親指を立てた。そして小さな声でこう言った。
「タケシ(たけし)、グッジョブ!」
 窓の向こうでタケシが少し笑ったような気がした。

 マミはまだ包帯が痛々しい足で歩き始めた。タケシとマミの両親がいる病院へ向かって。
 その後ろを、男どもを追い払った「たけし」も小さな体で続いた。
 やがて病院へ着く手前で「たけし」の躰は静かに消えた。

**

 ひと月ほど経ったある日の深夜。
 〇×病院の屋上。闇夜に浮かぶ満月の軟らかな光がそこに据えられている巨大な給水タンクを浮かび上がらせていた。
 病院スタッフの目を盗んで煙草を吸うタケシの前に真紅の占い師、麗羅が現れた。
 麗羅は給水タンクの上に立っていた。いつからそこにいたのか、いや、こんな時間にどうやって病院に侵入したのか、タケシには理解できない事ばかりだった。頭上では真円を描く満月が麗羅を照らす。麗羅はまるで羽毛のようにタケシの前に静かに舞い降りた。人間離れした身体能力だった。
「マミさんに…」麗羅はゆっくり口を開いた。「…あの娘に感謝しなさいね、それから守ってあげなさい。」
「どういう意味だ?」タケシ。
「彼女に再び災いが迫ってるわ…。」
「何だって!!」
簡単には信じられなかった。
 だが、麗羅はタケシのゲーム運の喪失を予言し、実際にタケシは力を失っている。
 星雄の籠城事件の際には事件発生とほぼ同時にタケシに知らせている。その時大きな水晶玉に現場の映像を映している。どうやったのかは分からないが、麗羅の力が本物であることを疑う余地はなかった。
 再びマミのもとに災いが迫っていると言われれば、その言葉を信じるしかない。
「わ、わかった…。」
「マミさんね、毎日私に会いに来るのよ。アナタに何が起きてるのか教えて欲しいって。ゲーム運を失った謎が知りたいって。それから、あなたを救ってあげて欲しいって。足を刺されて歩くだけでも大変なのにね。ホントに優しい娘ね。」
「…!!!!」
 マミが傷ついた足で毎日麗羅のもとへ通ってくれている。タケシのために…。
 マミは毎日病院へ来てくれる時、そんな素振りは見せないのに。マミはいつも自分の事より他の人の事を考えている。タケシは胸が一杯で鼻の奥がツンと熱くなった。



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