双翼の陰陽師〜追放された落ちこぼれ陰陽師、滅亡寸前の日本を救う!いくら僕達が強くなったからって今さら媚を売るのは筋ちがいでは?

八ッ坂千鶴

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7話

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 ~雪音家、中庭~


 沙月さんを追いかけると、出かける前に閉じたはずの、マガノに通じる門が開けられていた。

 だが、周りを見渡しても、追いかけていたはずの沙月さんの姿がない。となると、これを開けたのは沙月さんで、そのままこの中に入ったんだろう。

 なら、僕も入るまでだ。

「っと。あれ、瑞稀⁉︎」

「お兄ちゃん! 沙月先生が入ってくのを見て追いかけてみたんだけど……ここどこ?」


 そうか、瑞稀はマガノに入ったの初めてだったな。でも、沙月さんは本当にどこ行ったんだ?


「沙月さんはどこ行ったか分かるか?」

「先生なら、あっち行ったよ」


 瑞稀が指差した方向は、僕が沙月さんと一緒に訪れた、一点に光が差し込む場所だった。


「あそこか。瑞稀は危ないから戻ってろ!」

「……いやだ」

「は? 今、なんて言った?」

「いやだ。私、逃げるだけなんていや!」


 今までの瑞稀とは思えない意地を見せている。あぁ、瑞稀は強くなったんだ。それに比べて僕はどうだ。少しでも変わったのか?

 今の僕じゃ、瑞稀を止める権利はない。でも、やっぱり危険でもある。なら微力ながらにも僕が付き添ったほうが良いだろう。
 そして、朝に沙月さんと訪れた場所へ行くと、やっぱりそこに沙月さんがいた。

「やっと来たね。ちょっとまずいことになったから急いで来ちゃった」
「まずいことって、なんですか?」
「大翔くん、あれあれ」

 沙月さんがピシッと指差したのは、あの光。そこへ向かって、コウモリのような翼を広げたマガツキが群がっていた。

「マガツキに翼⁉︎」
「中鬼になれば翼を持つの。しかもそれ以上になると、人間みたいになる……って、話してる暇じゃないね」

 沙月さんは手に握っていた鞘から刀を抜き、瞼を閉ざして精神を研ぎ澄ますように深く息を吸い込んだ。


「沙月先生…?」
「大翔くん、いくよ!」
「え、えぇ⁉︎」

 沙月さんは僕を置いて勢いよく駆け出した。中級のマガツキは翼を持っている。地上戦しかできない沙月さんはどう戦うのか?
 僕も戦えるようになったらしいけど、戦い方がよく分からない。沙月さんみたいな刀は持ってない。そもそも僕には武器がなかった。
 沙月さんは足早にマガツキに近づくと、力強く一閃。すると、さすがは翼を持つマガツキ。空中に避難して沙月さんの攻撃から逃れた。

「大翔くんも加勢して、これあたし一人でもやっとなんだから」
「だ、だけど僕。詳しい戦い方知らないし、急に力を使えと言われても……」
「大丈夫だよ。今の大翔くんなら」

(今の僕ならって……)

「大翔くんは殴ったことってある?」
「な、殴る⁉︎ 殴られたことならありますけど……」
「なら大体わかるよね。あたしが刀で叩き落とすから、怯んでるところを狙って殴って!」
「ぼぼ、僕が⁉︎」
「ほら、次来るよ!」
「は、はい!」

 沙月さんの言葉と同時に、上空から舞い降りる中級マガツキ。思い切って返事をしてしまったが、これをどう殴れと……。
 そう思っている間にも、沙月さんはマガツキに接近していく。僕も後を追いかけるが、重力差で上手く走れない。
 こんな空間で――僕なりの感覚的に――よく沙月さんは走れるなと思う。こんな場所で殴ったら、身体が浮いて空振りしてしまいそうだ。

「大翔くん準備はいい?」
「は、はい!」
「陰陽上級 双牙斬!」

 沙月さんが技名らしきものを発声すると、前宙みたく身体を捻り、2本の牙を思わせる大技を繰り出す。それはとてつもなく身軽で華麗な刀捌きだった。

「敵が怯んだ! お兄ちゃん出番だよ!」
「瑞稀わかった。そこで見てて!」
「うん!」

 僕は全力で駆け抜ける。人を殴ったことは一度もない。まずまず、人を殴ることなんてできない。だけど、マガツキは別だ。
 僕は右手を握り拳にして勢いよく振りかぶる。これが当たればいける。しかし、目の前に映ったのは闇だった。右手を握ったはずなのに……。
 吸い寄せられていくマガツキの呪力。それは僕の身体に流れていく。これが接触による接種? いや、僕の拳はギリギリ届いていなかった。

「マガツキが弱っていく……。大翔くんさすが!」
「こ、これでいいんですか?」
「うんうん! あとはあたしがトドメをさしてっと……。どうやら襲ってきたのはこの個体だけみたいね」
「みたいですね」
「大翔くん。マガノで殴った気分はどう?」
「え、えーと。現実世界よりも素早く動けた感じ? 最初はズーンとしてたけど、走るのは気持ちよかったです」
『ふん!』

 どこからか、聞き覚えのある声が聞こえる。誰なのかはわからない。僕はキョロキョロ見渡すけど、声の主はどこへやら。

「大翔くん。彼女ならあそこにいるよ」
「え?」

 僕は沙月さんが指差す方向を見る。そこには、高級ブティックで買い物をしていた女性が、斧を振り回していた。

「こんなものチョロいですの! ふん!」
「沙月さん。彼女は?」
「陰陽師家の名家【水の家】の末裔、禍火汐梨さんね。ああ見えて結構お嬢様なのよ」
「あ、あれがお嬢様……」
「どうやら、こっそり付いて来たみたいね」

 【水の家】のお嬢様……。にしては、鼻息が荒い気がする。話し方もいちいち……。

「陰陽超級! 水切刃!」

 汐梨さんが技名発声をする。彼女の周りには数十体の中級マガツキ。すると、その周辺が水の壁で見えなくなった。
 水の壁は渦を巻き、ブオンという音がどんどん大きくなっていく。僕は立ち止まり眺めるだけ。汐梨さんが見えない。状況がわからない。

「あの技は?」
「禍火家に伝わる技ね。名家にはその家ならではの陰陽術があるの。雪音家の場合は火属性。確か鳴海家も同じだったはず」
「なるほど……」
「【火の家】が鳴海家だからね」

(僕は火属性なのか……)

 知らなかったことがわかり、少し頭を捻らせる僕。瑞稀と言えば興味津々で沙月さんと汐梨さんを交互に見ている。
 そういえば、汐梨さん。水の壁の内側にいたけど、大丈夫なのだろうか? その答えはすぐに出てきた。
 汐梨さんの周りを囲っていた水の壁は、いつの間にか飛散しており、そこにいたマガツキは全滅。さすがは名家の人間だ。

「あら、貴公達見てた? わたくしの華麗な斧を」
「いや、斧を見ていたわけじゃないんですけど……」

(汐梨さんに声掛けられた……)

 たしかに汐梨さんの技は凄かった。いつまでも見ていたいくらい凄かった。どこからともなく現れた大量の水。それを自在に操っている姿は、水の精でもいるかのような感覚。

「おやおや。これまた悲惨なことを」
「ですわね……」

 誰かの声が聞こえる。誰だろう? 僕らは全体を見回す。そこには筋肉ゴリゴリの、威厳のある2人組のマガツキがいた。

「星熊童子と熊童子じゃないの」
「汐梨さん知ってるんですか?」
「ええ、もちろんよ。けど、ここで話してる暇はないの。もう夕食の時間」
「そうか。なら仕方ないな。そこの男と手合わせ願いたいところだったが」

(そこの少年って僕のこと? 無理無理無理)

「彼を見ていると、どこか懐かしい……。昔お世話になっていた人物によく似ている」
「たしかに、星熊童子の言う通りね」

(僕が誰かに似ている? わけわからないよ)

 すると突然、ポンと背中を叩かれた。そこには、沙月さんと瑞稀が『帰るよ』と言ってる様子で僕を見ていた。
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