ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴

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兎と狼 第1部

第29話 謎多き人②

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 ◇◇◇ヤサイダー陣営◇◇◇


『ヤサイダー番長』
「なにかしら?」
『アリス再拘束作戦が失敗しました』
「そう。想定内ね……」
『と言いますと?』

 今回の作戦はケイらアーサーラウンダーを呼び出して、強制的に紋章を使用させゲームのプレイヤーに浸透させることを目的としたもの。そのきっかけはあたしのギルドの工作員に頼んだ。
 帰還した工作員に聞いたところ、200人近くの人がアリスを見物しに集まり、同時にカケルが彼女の救出のために30分遅れで到着。さらに20分遅れてケイ一行が集結したのだそう。

「それで、紋章の情報は集まったかしら?」
『いえ、今わかっているのは紋章を使用できる人物がケイ含め3人いることだけです』
「ありがとう。3人ね……」

 やはり、大本を戦闘不能にさせるしかないのか。あたしは少しギルド拠点の周辺を歩くことにした。アンデスの街は、紋章を持つ人物が現れたことでまだ恐怖の熱が消え切っていなかった。
 あのあとアーサーラウンダーのメンバーは全員ログアウトしたようで、アリスの消息も絶ってしまった。彼女が
 このアンデス内にいることはわかっている。だけど、彼らの活動拠点がわからない。
 あの子はものすごく素直な子。街で会えばすぐに場所を言ってくれるだろう。それならば、この場周辺で聞き込みをするべきかもしれない。ただ、当てずっぽうに話しかけても悪目立ちするだけ。
 ここは、細部までこだわった作戦を練る必要がある。やはり情報伝達部隊を導入して、団長であるあたしは身を潜めておくことが先決だとしたら。やってみる価値はありそうだ。
 時刻を見る。そろそろ夕食の時間だろうか? あたしはアンデス全体に配置した拠点を一通り見てからログアウトすることにした。ロゼッタヴィレッジの拠点は、アンデスにある建物の7割を効率よく活用している。ギルドメンバーも服装で区分しており、実力者になればなるほどローブが派手になる仕組み。
 ビースト・オンラインでは通常の人型と、ビーストモードがある。ローブは着用していればビーストモード解除後に自動で装備されるので、それを知っている人は防具も持っている。

「さて、今度はどうやっておびき寄せようかしら――」


 ◇◇◇◇◇◇


「――以上が紋章を獲得した時の注意した方がいい部分だね……」
「なるほど」

 俺は結人さんと2人っきりで紋章についてのことを話していた。聞けば紋章はかなり危険なものらしい。だけど、俺の願いに合った紋章も見つかり、結人さんも俺に適合するように微調整してくれると言ってくれた。
 選んだ紋章はかなり身体に負担がかかるそうで。理由を確認すると結人さんが作る紋章は強力なものが多く、それなりの代償を付けた物がほとんどだった。それくらいしないと、バランスが悪くなるとのこと。
 そして、紋章を付与するために使うのも魔法と言われた。このことも外部には話してはいけないようだ。それほどの秘匿情報を手に入れたからには、言いふらさないようにしないといけない。

「説明はこれくらいかな?」
「ありがとうございます。ところで、俺に合うっていう紋章の名前はなんていう名前なのか聞いていいですか?」
「聞かれると思ったよ。でも、今は言えないね。紋章を付与した後に自分で確認してもらった方が早いし。そもそも実験や試験作成を重ねていくうちにどのルーンがどういう紋章の効果なのかわからないんだ」
「魔法使いって大変なんですね……」
「これでも仕事量が減ったよ。数年前は戦闘漬けだったからね」

 きっとこれは俺が生まれる前に起こった"リアゼノン事件"のことだろう。今日昼休みに、過去50年の歴史の本をを片っ端から読み漁った。
 そこにはしっかりと"リアゼノン事件"のことが書かれていた。死者は40万人になったという不可解の連続から始まった事件。それを救った3人の龍の翼を持つ人物。
 今目の前に3人のうちの一人がいる。当時のことを聞きたい。そう思った時。

『夕食できたぞ!』

 1階から誰かの声が聞こえてきた。俺と結人さんは亜空間の外に出る。大樹は景斗さんに連れられてさきに降りて行ったようだ。今日の夕食はどうやらオムライスとのこと。
 かかっているものはケチャップではなく、キノコの入った醤油餡だった。どう見ても天津飯にしか見えない。
 このメニューは結人さんおすすめの料理らしく、とある人がよく作ってくれるのだそう。その人というのは……。

「フォルテいつもありがとう」
「ま、これくらい簡単だけどな」
「本当にありがと」

 フォルテさんが調理担当。というか、リアルのフォルテさんは髪の毛も瞳も神々しいくらいの金色だった。この家庭の中で一番存在感のある人かもしれない。

「結人さん。これは……」
「ひとまず食べてみてよ。翔斗くん」
「はい……」

 オムライスに醤油餡がかかっているのはあまり見たことがない。きっと探せば見つかるのだろうけど、俺は初めて見た。ちなみに大樹はというとライスをおかわりしている。
 それも、肉たっぷりのチキンライス。そこに、醤油餡でひたひたになるまでかけてどんどん流し込んでいく。俺はも遅れて食べ始める。スプーンで餡を全体に塗ってひとかけ掬い口の中へ。真っ先に感じたのはほんの少しだけ甘い餡だった。卵はうっすら塩が入ってるようで、しょっぱさもほとんど感じない絶妙な味付け。
 そして、チキンライスはとても素朴な感じがした。全体的にバランスがとれていて、何度もおかわりする大樹の気持ちもよくわかる。

「今時間は……。20時ね。君たちはこれからどうするのかな?」
「もう一度ビースト・オンラインにログインします。黒白様」
「けいとぉーー」
「ちょっと黒白様ッ!?」

 結人さんが景斗に剣を投げ出した。その剣は真っすぐ飛んで、反転して……。

「そろそろやめてくれ」
「「はーい」」

 フォルテさんの一言で収まる。この家庭はものすごくにぎやかだ。もしも、俺の弟が今も生きていて、病気も完治していれば、こんな会話ができたのかな? そう思うともう一度会いたくなる。
 時間はゆっくり流れていき夕食を終えた俺たちは、再び景斗さんの部屋に戻りゲームにログインした。

「カケル、みんなおかえりなさい……! そしてごめんなさい……!」
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