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12 フィッシャー公爵
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「何ここ…」
目の前に広がる景色に、文字通り開いた口がふさがらない。
スコーゼンさんに案内されるまま屋敷の扉を進むと、そこに現れたのはひたすらに金の装飾が施された…なんというかキラッキラの豪邸だった。
柱も梁もキラッキラ。飾られた絵画の額縁…は、まあ、どこも金箔が多いかしら。それが溶け込んでしまうくらいの徹底ぶりに、私は数秒立ち尽くしてしまった。
今日はあいにくの天気なので、窓から差し込む光は決して明るくはないけれど、それでも自然光を十分に反射して光輝く黄金の通路はとんでもないインパクト。
「よくこんな内装にしたわね…」
「ほっほっほ。すべて、我らが主のご指示にございます」
「あ、え、あ、そうなんですねー!」
いけない、勢いで『よく見ると悪趣味ーっ』て口から本音がフォーリンダウンするところだったわ。
そんな落ち着かない廊下を案内されるがまま進むと、一際大きなホールに通された。
「準備は良いな? エミリー」
「え? あ、はい!」
お兄様が微笑みながらも鋭い眼差しをしている。
こういう時のお兄様は凛々しくてかっこいい。
付き従うようにホールに進むと、そこはもう別世界だった。
廊下と同じく金まみれの装飾。張り合うかのように存在感を示す、天使や女神様が描かれた絵画が四方の壁に飾られている。そして天井の中央には、巨大としか言いようがないシャンデリアが設置されていた。
透き通ったガラスがキラキラと光を反射してとても美しい。金ピカの廊下を凌ぐ派手さ、豪華さで彩られた空間だった。
「というか、あちこち派手で落ち着かない…」
あ、いけない。声が出ちゃった。
呆気に取られている場合じゃないわね。軽く首を振ってから周りを見てみると、ドレスやタキシードで着飾った男女が…えーと、50人くらい?
笑いながら会話をしている人もいれば、緊張の面持ちであたりを見回している人もいるわ。
「エミリー、こちらへ」
「はい」
兄に呼ばれ、人にぶつからないようにしつつ奥に進むと、「おお、ビスマルク家の!」と甲高い声が聞こえた。
「お招きいただき光栄です、フィッシャー公爵」
兄がうやうやしく礼をする先には、小太り、小柄の男性がほっほっほっと笑っていた。
ピシッと七三分けの髪、小じわの多いお顔、口髭の毛先は見事にカールしていてまるで付け髭ね。子供の頃に見たサーカス団の団長みたい。
なんだか芸人さんみたいな風貌のこの人こそが、フィッシャー領を治める公爵なのだった。
「いやあ、遠いところをはるばるお越しいただき嬉しい限りですぞ!」
「もったいないお言葉です。末席に加えていただきましたこと、感謝申し上げます」
「ほっほっほ、ビスマルク家の次期頭首ともあろうお方が、謙遜ばかりでは締まりませんぞ!…はて、そちらの女性はどなたかな?」
フィッシャー公爵が私を見つけ、にこにこと声をかけてきた。
私は慌てて姿勢を正し、スカートの両端をつまんで王道のご挨拶ポーズを取る。
「ご紹介が遅れました。我が妹、エミリーにございます」
「お初にお目にかかります、フィッシャー公爵。ビスマルク家長女、エミリー・フォン・ビスマルクでございます。本日はこのような席にお招きいただき大変光栄です」
「ほっほっほ、これはこれは! なんと妹君でいらっしゃったか。実に聡明そうなお嬢さんだ」
勢いに任せた挨拶だったけど、どうやら不快にさせたってことはないみたい。
ここで怯んでは仕事にならないわよね。
あー思い出すなあ、入社して1年目でよくわかんない親睦会に連れて行かれて、ひたすら挨拶して名刺配ってお酌して。
あの時に比べれば全然楽勝よね。だって私は令嬢の一人として招待されてるんだもの。
「侯爵様、そろそろお時間です」
どこからともなく現れたスコーゼンさんが、懐中時計を片手に公爵に耳打ちする。公爵はうむと一言返し、部屋の中央に進んだ。
その動きに合わせて、自然とみんながスペースを空けて、公爵の様子を見守る。
「オホン! えー、本日は我がフィッシャー領、公爵家主催の舞踏会にお越しいただき誠に感謝申し上げますぞ。ここにお集まりいただいたのは爵位を持った方たちばかり。情報交換、縁のきっかけ作り、大いに結構! そして何より、華々しい恋の道! 見知らぬ者同士が、この場で出会い、いつしか情熱の時間を過ごすように…おっといかん、つい熱がこもりそうになってしまった。素敵な出会いが生まれることを願っておりますぞ!」
ホッホッホッと笑うフィッシャー公爵に、みんなが拍手を贈る。
ふむ、今日はここで誰かと仲良くできれば良いってことよね。
「さあ、では乾杯を致しましょう。今メイドたちがワインを––」
バタン!
フィッシャー公爵の言葉を遮るように、部屋の扉が勢いよく開かれた。
驚いた私たちが扉の方に振り向くと、すぐにざわざわと声が上がり始めて、男性や貴婦人たちがあとずさりし、部屋の中央までの道を開けた。まるで萎縮してしまったよう。
やがて、ガチャガチャと金属が細かくぶつかる音が続く。
現れたのは、甲冑を身にまとった兵士だった。
「兵隊さん? この人たちも社交ダンスに参加するの?」
私が首をかしげていると、間もなく、カッカッカッと鋭い足音が、リズム違いで2つ聞こえてきた。
ざわめいたままの人たちの隙間を縫ってスペースに出ると、あの金ピカの廊下を進んでくる2人の人物の姿が見えた。
1人はヨハネス兄さまより高いくらいの身長、スッと伸びた背筋、真っ赤なドレスに真っ赤な髪、真っ赤な口紅。
目つきは鋭くて、とてもクールな印象の女性。
その隣で一歩下がって歩いてきたのは、金髪に蝶ネクタイ、真っ赤な女性と対象的に鮮やかな青のタキシードを着こなした青年。青年ていうか、少年? もしかしてアレクとあんまり年齢が変わらないんじゃないかしら。
女性たちは私の目の前を優雅に歩き去り、ホール中央で立ちどまった。
続いて、兵士二人が剣を胸の高さに掲げて声を上げる。
「「お時間、ご容赦! 我らがデメルダ帝国グランバーグ家第一皇女・エルメイラ様! 皇子・ヘンリー様! ご到着!」」
静まり返ったホールに凛とした兵士の声が響いた。一瞬の間を置いて、わっと歓声が上がる。
集まった人たちは思い思いに拍手をしているわ。隣の人とキャッキャッとはしゃぐ女性や、深くため息をついて緊張している男性もいる。
まるでスーパースターが現れたようなリアクションね。
「おお、ようこそおいでいただきました!」
公爵が二人に歩み寄り、談笑を始めたわ。
帝国の皇女と皇子。あの人たちが、お父様の言ってた来賓の皇族ってことね。
登場シーンだけで迫力ありすぎなんだけど!
目の前に広がる景色に、文字通り開いた口がふさがらない。
スコーゼンさんに案内されるまま屋敷の扉を進むと、そこに現れたのはひたすらに金の装飾が施された…なんというかキラッキラの豪邸だった。
柱も梁もキラッキラ。飾られた絵画の額縁…は、まあ、どこも金箔が多いかしら。それが溶け込んでしまうくらいの徹底ぶりに、私は数秒立ち尽くしてしまった。
今日はあいにくの天気なので、窓から差し込む光は決して明るくはないけれど、それでも自然光を十分に反射して光輝く黄金の通路はとんでもないインパクト。
「よくこんな内装にしたわね…」
「ほっほっほ。すべて、我らが主のご指示にございます」
「あ、え、あ、そうなんですねー!」
いけない、勢いで『よく見ると悪趣味ーっ』て口から本音がフォーリンダウンするところだったわ。
そんな落ち着かない廊下を案内されるがまま進むと、一際大きなホールに通された。
「準備は良いな? エミリー」
「え? あ、はい!」
お兄様が微笑みながらも鋭い眼差しをしている。
こういう時のお兄様は凛々しくてかっこいい。
付き従うようにホールに進むと、そこはもう別世界だった。
廊下と同じく金まみれの装飾。張り合うかのように存在感を示す、天使や女神様が描かれた絵画が四方の壁に飾られている。そして天井の中央には、巨大としか言いようがないシャンデリアが設置されていた。
透き通ったガラスがキラキラと光を反射してとても美しい。金ピカの廊下を凌ぐ派手さ、豪華さで彩られた空間だった。
「というか、あちこち派手で落ち着かない…」
あ、いけない。声が出ちゃった。
呆気に取られている場合じゃないわね。軽く首を振ってから周りを見てみると、ドレスやタキシードで着飾った男女が…えーと、50人くらい?
笑いながら会話をしている人もいれば、緊張の面持ちであたりを見回している人もいるわ。
「エミリー、こちらへ」
「はい」
兄に呼ばれ、人にぶつからないようにしつつ奥に進むと、「おお、ビスマルク家の!」と甲高い声が聞こえた。
「お招きいただき光栄です、フィッシャー公爵」
兄がうやうやしく礼をする先には、小太り、小柄の男性がほっほっほっと笑っていた。
ピシッと七三分けの髪、小じわの多いお顔、口髭の毛先は見事にカールしていてまるで付け髭ね。子供の頃に見たサーカス団の団長みたい。
なんだか芸人さんみたいな風貌のこの人こそが、フィッシャー領を治める公爵なのだった。
「いやあ、遠いところをはるばるお越しいただき嬉しい限りですぞ!」
「もったいないお言葉です。末席に加えていただきましたこと、感謝申し上げます」
「ほっほっほ、ビスマルク家の次期頭首ともあろうお方が、謙遜ばかりでは締まりませんぞ!…はて、そちらの女性はどなたかな?」
フィッシャー公爵が私を見つけ、にこにこと声をかけてきた。
私は慌てて姿勢を正し、スカートの両端をつまんで王道のご挨拶ポーズを取る。
「ご紹介が遅れました。我が妹、エミリーにございます」
「お初にお目にかかります、フィッシャー公爵。ビスマルク家長女、エミリー・フォン・ビスマルクでございます。本日はこのような席にお招きいただき大変光栄です」
「ほっほっほ、これはこれは! なんと妹君でいらっしゃったか。実に聡明そうなお嬢さんだ」
勢いに任せた挨拶だったけど、どうやら不快にさせたってことはないみたい。
ここで怯んでは仕事にならないわよね。
あー思い出すなあ、入社して1年目でよくわかんない親睦会に連れて行かれて、ひたすら挨拶して名刺配ってお酌して。
あの時に比べれば全然楽勝よね。だって私は令嬢の一人として招待されてるんだもの。
「侯爵様、そろそろお時間です」
どこからともなく現れたスコーゼンさんが、懐中時計を片手に公爵に耳打ちする。公爵はうむと一言返し、部屋の中央に進んだ。
その動きに合わせて、自然とみんながスペースを空けて、公爵の様子を見守る。
「オホン! えー、本日は我がフィッシャー領、公爵家主催の舞踏会にお越しいただき誠に感謝申し上げますぞ。ここにお集まりいただいたのは爵位を持った方たちばかり。情報交換、縁のきっかけ作り、大いに結構! そして何より、華々しい恋の道! 見知らぬ者同士が、この場で出会い、いつしか情熱の時間を過ごすように…おっといかん、つい熱がこもりそうになってしまった。素敵な出会いが生まれることを願っておりますぞ!」
ホッホッホッと笑うフィッシャー公爵に、みんなが拍手を贈る。
ふむ、今日はここで誰かと仲良くできれば良いってことよね。
「さあ、では乾杯を致しましょう。今メイドたちがワインを––」
バタン!
フィッシャー公爵の言葉を遮るように、部屋の扉が勢いよく開かれた。
驚いた私たちが扉の方に振り向くと、すぐにざわざわと声が上がり始めて、男性や貴婦人たちがあとずさりし、部屋の中央までの道を開けた。まるで萎縮してしまったよう。
やがて、ガチャガチャと金属が細かくぶつかる音が続く。
現れたのは、甲冑を身にまとった兵士だった。
「兵隊さん? この人たちも社交ダンスに参加するの?」
私が首をかしげていると、間もなく、カッカッカッと鋭い足音が、リズム違いで2つ聞こえてきた。
ざわめいたままの人たちの隙間を縫ってスペースに出ると、あの金ピカの廊下を進んでくる2人の人物の姿が見えた。
1人はヨハネス兄さまより高いくらいの身長、スッと伸びた背筋、真っ赤なドレスに真っ赤な髪、真っ赤な口紅。
目つきは鋭くて、とてもクールな印象の女性。
その隣で一歩下がって歩いてきたのは、金髪に蝶ネクタイ、真っ赤な女性と対象的に鮮やかな青のタキシードを着こなした青年。青年ていうか、少年? もしかしてアレクとあんまり年齢が変わらないんじゃないかしら。
女性たちは私の目の前を優雅に歩き去り、ホール中央で立ちどまった。
続いて、兵士二人が剣を胸の高さに掲げて声を上げる。
「「お時間、ご容赦! 我らがデメルダ帝国グランバーグ家第一皇女・エルメイラ様! 皇子・ヘンリー様! ご到着!」」
静まり返ったホールに凛とした兵士の声が響いた。一瞬の間を置いて、わっと歓声が上がる。
集まった人たちは思い思いに拍手をしているわ。隣の人とキャッキャッとはしゃぐ女性や、深くため息をついて緊張している男性もいる。
まるでスーパースターが現れたようなリアクションね。
「おお、ようこそおいでいただきました!」
公爵が二人に歩み寄り、談笑を始めたわ。
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