エレンディア王国記

火燈スズ

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第1章

64.潜入と戦闘

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 殺気が満ちた壇上――。

 護衛たちが一斉に動き出そうとしたその瞬間、ヒナとアレスは一歩も引かず、背を合わせて構えていた。

 ……だが次の瞬間――。

「こっちよ、アレス!」

 ヒナが突如、アレスの手を掴み、逆方向へと跳ねるように飛び出した。護衛たちは一瞬虚を突かれ、反応が遅れる。

「へ、フェイントかよ!」

 アレスは笑いながら少女の手を掴み、ヒナのあとを追った。

「走って!」ヒナは少女の腕を引き寄せ、暗がりへと駆け込む。

 ステージ脇にあった装飾の幕の裏――そこに非常用の出入り口があるのを、ヒナは目ざとく見つけていた。

 扉を抜け、裏通路へ。追っ手の足音が遠ざかり、彼らはひとまず建物の中の薄暗い倉庫エリアへと逃げ込んだ。

 そこは古びた棚が立ち並ぶ資材室のような空間で、埃と鉄の匂いが充満している。

 ヒナは少女を壁際に座らせ、アレスと背を預けるようにして警戒を強めた。

「大丈夫よ。私たちはあなたの味方」

 ヒナの声は静かだが、しっかりと芯がある。

「……ほんとに……?」少女がか細く問いかける。

「ええ、信じて。あなたを、助けにきたの」

 少女は少し戸惑ったようにうつむき、震える声で答えた。

「……ライラ。わたし、ライラっていうの……」

「ありがとう、ライラ。もう少しだけ、頑張って」

 ヒナが優しく微笑むと、ライラの表情がわずかに緩んだ。

 アレスが周囲を見渡しながら言った。

「このままじゃ、また見つかる。裏に回って、内部を探るしかないな」

「ええ。会場の裏側にはまだ何かあるはず。ライラ、ついてきて」

 3人は倉庫の奥へと進み、ついに大きな鉄の扉の前にたどり着く。鍵はかかっていなかった。

 ギィ……という音を立てて開かれた先――

 そこには、無数の鉄檻が並んでいた。

 薄暗い空間の中、数十人におよぶ子どもたちや若者たちが、声もなく閉じ込められている。

「……ッ!」

 アレスが怒りを露わにする。

「ふざけやがって……!」

 彼はその場にあった鉄棒を掴み、思い切り鉄格子に叩きつけた。

 バギィン――!

 一つ目の檻が音を立てて歪み、扉が外れた。

 怯えていた中の子どもたちが顔を上げ、戸惑いの表情を浮かべる。

「落ち着け、俺たちは味方だ。今すぐ全部開けてやるからな」

 そのとき――

 ズズン……という重い足音が、奥の暗闇から響いた。

 現れたのは、まるで岩のような巨躯の男だった。片腕に太い鎖、歪んだ兜をかぶり、片目には包帯が巻かれている。明らかに知性が低そうな顔立ちだが、その分だけ容赦はなさそうだった。

「ダレ……オマエ……檻、アケタ……?」

 低く、怒りと疑念に満ちた声。

「アレス、来るわ!」ヒナが声を上げる。

「任せろ! ヒナ、ライラを頼む!」

 アレスはすぐさま構え、巨漢の番人と向かい合った。

 ヒナはライラの手を握り、走り出す。

「行くわよ、ライラ! ここは任せて!」

「う、うんっ!」

 背後でぶつかり合う衝撃音。檻の鉄格子が共鳴するように揺れ、爆発音のような打撃音が響いた。

 ヒナはその場をアレスに任せ、ライラと走って倉庫を出たのだった。
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