エレンディア王国記

火燈スズ

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第1章

72.正体

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 翌朝。カルネリス行政塔の最上階、議会の大広間には、議員たちが一同に会していた。重苦しい空気の中、リア、ヒナ、アレス、そしてベリックも席に着いていた。

 リアが静かに立ち上がる。

「昨日の出来事を、まず話します」

 短く、だがはっきりとした声。倉庫街での惨劇、奴隷市場の現場、救い出した子どもたち。
 そして、そこから見つかった書類のこと――

 リアの言葉が続くたび、議会の中がざわめきに包まれる。

「まさか、そんな規模で……」

「奴隷市場が、エレニア全土と繋がっているだと……?」

 ざわめきの奥で、ヒナとアレスは互いに視線を交わした。議員たちの顔に浮かぶのは恐怖と驚き、そしてわずかな焦り――。

 リアは一歩前に出た。

「――そして、今回の件の背後には、銀翼がいる」

 会場がピタリと止まった。

「銀翼……?」

「黒蛇、という通名を持つ者だ」

 議員たちは顔を見合わせたが、反応は鈍い。

「黒蛇……? 聞いたことがない……」

「銀翼の名前すら噂程度だ。そんな者、本当にいるのか?」

 会場全体が疑念の色に染まっていく。そこで――

「――正体が、わかった」

 リアの言葉が、静かに空気を切り裂いた。ヒナも、アレスも、はっとしてリアを見た。

(……そんな話、聞いてない)

 二人の視線を感じながらも、リアは一切顔色を変えなかった。

「調査の結果、黒蛇の正体はすでに判明した」

 重く、確信に満ちた声だった。議会の中が再びざわつく。

「だ、誰なんだ! ここで言え!」

「議会として即刻対処を――」

 だがリアは首を横に振る。

「――この場では言わない」

 ヒナも、アレスも、目を見開く。

「リア様……?」

 リアは彼らにも視線を向けず、議員たちを見渡した。

「名を告げるのは、明日行う『町民全議会』の場だ。全町民の前で、正式に告発する」

 広間の空気が、一瞬凍りついた。

「ち、町民全議会だと……?」

「全町民を集めて……?」

 議員たちの間にざわめきが走る。リアは静かに頷いた。

「この情報は、すでにラニア、ケネス両名から確認を取っている。――確かな情報だ」

 その言葉に、議員たちの表情が硬直した。

「……確か、だと?」

「まさか……そんな……」

 ざわめきが徐々に恐怖に変わっていく。

 リアはあえて追い討ちをかけるように、低い声で告げた。

「――明日、すべてが明らかになる」

 その瞳には、疑いも迷いもなかった。

 議員たちの間で交わされる不安の視線。
 そして――ヒナとアレスはまだ驚きの表情を残したまま、リアを見ていた。

(……リア様、本気で――)

 この言葉が、町全体を揺るがす引き金になると、誰もが理解していた。
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