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第二章 到着した王都サンドイで
第八話 ディスト、森の調査を終える
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説明文が多い気がする。読みにくい方はさらっとそんなもんだ、くらいに読み流してください!
よろしくお願いします!!
――――――――――
世界の神々は絶対神を筆頭に13柱存在し、その末端が創世神ラヴァムである。
創世神は世界を創造することで力を得、上位の神へと変わっていく。
創世神は一つの世界を創造した。
二足歩行の生き物に、四足歩行の生き物。また、鱗が付いた生き物や、嘴のある生き物がいた。
魔素に満ち溢れる世界は、そんな生き物たちをどんどん増殖していった。
創世神はそんな増えすぎた生き物を管理するために、新たなモノを創造する。『ウル』だ。ウルは生き物を管理し、また世界を円滑に回していくために欠かせない存在だった。
そんな折、見た目に違いはあれど同じ生き物だったモノたちが自分たち以外へと目を向け始めた。
海に想いを馳せたモノはヒレを持ち、幸福に身を踊らせながら泳いでいった。――それを始魚と言った。
空に想いを馳せたモノは翼を持ち、楽しさに身を踊らせながら翔んでいった。――それを始鳥と言った。
大地に想いを馳せたモノは爪を持ち、興奮に身を踊らせながら駆けていった。――それを始獣と言った。
そして、
変化を望まなかったモノは、そんな彼らに裏切りさえ感じる絶望を持ちその場に佇んだ。――それをヒトと言った。
ヒトは自らが気付かぬうちに、内々を侵食していった。
ヒトは脆弱で脆く弱かった。それは心が、肉体が、変わりを望まなかった結果が、世界に遅れを取ったのだ。その代わり、生存本能が高く、種を残すことに長けていたため数だけは増えていった。
――裏切り者には死を。
いつからか、そんな感情に支配されるまま、ヒトは嘗ての同胞たちを蹂躙していった。
いつの間にか絶望は憎悪に変わっていった。が、ヒトはそれだけに止まることを知らなかった。
憎悪という負の感情は徐々に実体化していったのだ。
それがどれほど罪深いことだとは、ヒトは気が付く事が出来なかった。
ヒトの負の感情は『はじまりの魔物』となり、その牙を自分たちへと向けたのだった。
――――――――アースフィア史より
▽
一般的には知られていない歴史があった。それは歴史の中に消えていったのではなく、意図的に隠され今も真実を知る者が限られているだけであり、決して失われた歴史ではなかった。
そんな歴史を知る者は教会――語り部を筆頭に王侯貴族に限られている。下手に広めて混乱に陥らせる必要はないという判断からだ。しかし、御伽噺の中や吟遊詩人が紡ぐ物語に巧妙に織り交ぜられた話としてはよく知られてはいた。
が、それが真実だとは誰も信じてはいない。
ヒトが犯した罪――同胞たちを屠った過去の負の遺産として『魔物』が現れたとは、知るはずのない話だったのだ。
魔物は動物が魔素を摂取し理性を失ったモノという説があった。
ヒトが絶望し、そんな負の感情が実体化した姿『はじまりの魔物』――始祖種という魔物の始祖が存在し、それが元に魔物が生まれ始めたと言う意図的に隠された歴史があった。
ではどちらが正しいのか。
どちらも間違ってはいないのである。
元々この世界には『動物』というものは存在していなかった。魔素に満ち溢れ、魔力を持つ生き物しか存在していなかったと言い変えてもいい。
魔獣も魔物もそしてヒトさえも、基を正せば同じ生き物であったのだ。それが世界の魔素が減ることにより『動物』という存在が現れ始めた。魔力が少ないヒトが現れたのも同じ理由だ。
その結果、始祖種という魔物の始祖から、ヒトの生き物の敵だと言う魔物が生まれ始めたものの、動物という魔力を――限りなく――持たない生き物が魔素の影響を受けて魔物化していくようになったのだ。
そんな魔物は世界に残ったが、魔素が減少したからか始祖種も、そして魔獣の始祖である始鳥も、始獣も始魚も歴史の中に姿を消した。
これに安堵の息を吐きだしたのではなく、何かの前触れだと危惧したのが『語り部』という集団だった。
始祖種は必ず現れる。そう世界を憂いた結果創設されたのが『冒険者互助組合』だったのだ。そして――――――
――SXランク。
SXランクの意味こそが何時現れるともしれない始祖種を殲滅することを目的とした、世界に左右されない位であった。
語り部は常に始祖種が現れても対処できるように世界の動きを監視していた。その筆頭がSXランクであり、語り部の存在と意味を国のSランクになった時点で知らされる。その中からSXランクを選別するのだがら、SランクはSXランクが伝承の類でないことを知っている。
始祖種の痕跡を見つけたディストは通信用に使っている鳥を呼び出した。
人の耳には聞こえない音域を出す笛を吹き、間もなく猛禽類と思わしき鳥の魔獣が飛んできた。見た目は完全に肉食のそれは鷹鷲と呼ばれる魔獣である。基本的に人に懐くことはないとされているが、語り部の人々は何らかの方法で通信用の使い魔にした。足の速さを見込んでである。
ディストの腕――身体強化しているので鉤爪で傷付くことはない――に止まり「クルル」と小さく喉を鳴らした。ディストは嘴に向けて手を翳し魔力というおやつを与えると、小さく書いた語り部宛ての手紙を括りつけ「頼むぞ」と一言言って鷲鷹を空に放った。
「あとは……こっちも報告か」
サティア国のSランクとしての仕事も思い出す。
ディストはSXランクとしては知られていない。なので語り部への報告はサティア国の冒険者互助組合からしてもらわなければならない。しかしいつ始祖種が現れれるともわからない今の現状では、素早さが重要になる。同じ報告がディストからと冒険者互助組合からあがるとは語り部も承知のことだ。それよりも一人では決して討つことが出来ないだろう始祖種を倒すために、はやく他のSXランクを呼ぶ必要があったのだ。
並行して『大規模討伐』のことも考えねばならなかったディストは、誰も聞いていないことをいいことに大きな溜息を吐きだした。
当初国王はマーリルを大規模討伐に参加させるつもりであった。今は指名依頼――国からの指名は勿論出来ないので個人的な依頼として――も出来ないFランク冒険者なため――指名依頼はCランク以上――、大規模討伐に参加させてランクの引き上げをしようと目論んでいたようだ。
ナイティルを助けたことやサンドイまでの道中の小緑鬼の数百体にもなる群れを倒した実績があるため、マーリルは本人の預かり知らぬうちにEランクに上がっていた。
冒険者が所有するギルドカードには魔力探知機能が付いている。そのため魔物を倒すとその残留魔力がカードに記憶され討伐証明をする事が出来るようになっている。討伐依頼の偽証防止と、依頼として受けていなくても戦闘証明になる為冒険者は大変重宝しているのだ。因みに『討伐証明部位』という、依頼で魔物を討伐した場合の証明になるところを持っていかなければ、報酬を支払ってもらうことはできない。
低ランクの冒険者がこれで戦闘能力を証明する事が出来れば、Dランクまでは簡単に上げることができる。とはいえ、冒険者に必要なのはなにも戦闘能力だけではない。依頼を真面目に行っているか、成功率はどの程度か、自分の能力を客観的に見つめることが出来るか、などの適性も判断されるため、Cランク以上になるには試験がある。だから指名依頼をするには最低Cランクは必要だとも言える。
マーリルはうまく国王に乗せられて二人の王子殿下に魔法を教えることになったようだ。それよりも先にナイティルとクルディルに自らが勝手に魔法を使ってしまった自己責任とも言えるが。
マーリルはこの世界の常識を知らない。その勉強を交換条件で教えて貰えるので、これは依頼としてではなくただの頼まれごととしてギルドを通してはいない。
ディストはうまくやれているのか心配になり王族専用の訓練場に足を運び、項垂れたマーリルに遭遇した。どうやら今まで本当に何も考えずに魔法を使っていたらしく、攻撃に関することを魔力が汲んでくれないようだ。
マーリルはどうしてか解っていないようだ――もしかしてくらいは思っているかもしれない――が、ディストには一つだけ心当たりがあった。
サンドイに来る途中に遭遇した小緑鬼を殺したとき、酷く憔悴していたことを思い出す。転移でどこかにいっていたらしく青白くも笑顔を取り戻してきたので深くは追求しなかったのだが、恐らくそれが原因なのだろう。
渡り人――ニホンジンは平和な国から来たのだと言う。戦争も無く命の危険も無く、そして飢餓に苦しむことも無いこの世界の大半の人にしてみれば正に桃源郷のような場所だ。
そんな平和な世界から日々自分の行動が命の危機に直結するような世界に突如として来たとしたら、恐らく自分も何の対処も出来ないだろうとディストも思う。
「じじぃも若い頃は苦労したって言っていたな」
そう言えば、とディストは自らの祖父を思い出していた。
ディストの祖父は落ち人としてこの世界にやってきた。気が付いたら海の中に居たらしく、それを助けたのがディストの祖母だったそうだ。
『はじめは何もわからなくてよぉ。ばぁさんには恥ずかしいところを沢山見られたわい』
そう快活に笑う祖父は戦闘は勿論、自分で生活する事もままならなかったと言う。
『肉と言えば切り分けられたものしか見た事無かったからな。自分で殺して捌くなんて日本人には難しいんだ』
そうしなければ生きていけない状況となり、そこで祖父も漸く慣れたらしかった。開き直りとも言い変えてもいいが、本能のみで行動する魔物、と割り切ったようだった。
マーリルも同じなのだろう。
どんなに自分の命が大事だと言っても、いきなり殺しをしろと言われればこの世界の人間だって始めは躊躇するものだ。それが勿論自分の命の危機に直結するので割り切りは早いが、マーリルはその切り替えが出来ないのだ。
魔法の練習をした時、発現はするが目標物に攻撃する事が出来ないと言っていた。それはまさにマーリルの深層心理そのものなのだろう。
「慣れればいいという問題でもなさそうだしな」
ディストは呟いた。
――ブォォオオオオ!!
その時雄叫びをあげてディストに向かって一直線に走ってくる獣が居た。
ディストは未だ森の中を彷徨っている。他に何か異変はないか見て廻っていたのだ。
ディストに向かってきているのは一目猪という魔物だ。魔物ランクで言えばDランクとそれほど強くはない。
一直線に走ることしか出来ず、口から生えた巨大な牙に気を付けさえしていれば低ランクの冒険者でも狩ることが出来る。
直接対峙しなくても、大きな岩などに誘き寄せてぶつけることが出きれば自重で呆気なく討伐することができ、また魔力操作を行える魔操師であれば、美味しい肉を手に入れることが出来るというわりと冒険者に二重に旨い魔物だった。
そう、誘き寄せて自滅させるのが一般的な討伐方法なのだ。
しかしディストはその場を動こうとはしなかった。
一瞬で身体強化を発動させると、ディストは牙だけに気を付けながら一目猪を正面から迎えた。
――ドガァァァンンンンン!
凄まじい音をさせながら一目猪はディストに体当たりした。
その場に誰かいれば思わず目を瞑っていたであろうその所業は、ディストには何の痛手も与えては居なかった。
一目猪の口から生えたニ本の巨大な牙を両手で掴むと、次の瞬間足をかけてひっくり返した。
先程以上の凄まじい轟音を響かせ一目猪は泡を吹いて気絶した。
「ふぅ」
そんな暢気とも取れる息を吐き出したディストは、一目猪の首筋に手を翳し風を操り大きな傷を作ると、勢いよく血を吹き出させた。
血がかからないように気を付けながら身体強化で腕力をあげて足を持ち上げ、血抜きをしながら一目猪に更に手を翳し魔力を操作していく。魔物の魔力を血抜きしながら操作していくと肉体に魔力が残らず食肉とする事が出来る。操作した魔力は何処へ行くかというと、一か所に固まり『魔石』となるのだ。
こうして魔物の魔力を操作して食肉の魔物と魔石を取ることを生業としている者が『魔操師』だった。ギルドランク以外に魔操師ランクなるものが存在し、A1~A4まである、前にマーリルが「牛肉か!?」と脳内で叫んだあれである。
閑話休題。
魔物を適当にマジックボックスに突っ込んでから漸くディストはサンドイの街に帰還した。
――――――――――
お気に入り800人超えました!ありがとうございます!
800人突破記念にヴィアーナとマヌアーサの出会い短編書いていたのですが間に合いませんでした(泣)1万字近くなってもヒーロー(マヌアーサ)が出てこない。これ短編?とか思いながら書いてます(泣)完結してからまとめて投稿しようと思っているのですがなかなか進まず。読みたいって人居たら書くスピード上がるかも・・・(あざとい)
絶対投稿するので投稿したらよろしくお願いします!
いつもお読みいただきありがとうございます!
よろしくお願いします!!
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世界の神々は絶対神を筆頭に13柱存在し、その末端が創世神ラヴァムである。
創世神は世界を創造することで力を得、上位の神へと変わっていく。
創世神は一つの世界を創造した。
二足歩行の生き物に、四足歩行の生き物。また、鱗が付いた生き物や、嘴のある生き物がいた。
魔素に満ち溢れる世界は、そんな生き物たちをどんどん増殖していった。
創世神はそんな増えすぎた生き物を管理するために、新たなモノを創造する。『ウル』だ。ウルは生き物を管理し、また世界を円滑に回していくために欠かせない存在だった。
そんな折、見た目に違いはあれど同じ生き物だったモノたちが自分たち以外へと目を向け始めた。
海に想いを馳せたモノはヒレを持ち、幸福に身を踊らせながら泳いでいった。――それを始魚と言った。
空に想いを馳せたモノは翼を持ち、楽しさに身を踊らせながら翔んでいった。――それを始鳥と言った。
大地に想いを馳せたモノは爪を持ち、興奮に身を踊らせながら駆けていった。――それを始獣と言った。
そして、
変化を望まなかったモノは、そんな彼らに裏切りさえ感じる絶望を持ちその場に佇んだ。――それをヒトと言った。
ヒトは自らが気付かぬうちに、内々を侵食していった。
ヒトは脆弱で脆く弱かった。それは心が、肉体が、変わりを望まなかった結果が、世界に遅れを取ったのだ。その代わり、生存本能が高く、種を残すことに長けていたため数だけは増えていった。
――裏切り者には死を。
いつからか、そんな感情に支配されるまま、ヒトは嘗ての同胞たちを蹂躙していった。
いつの間にか絶望は憎悪に変わっていった。が、ヒトはそれだけに止まることを知らなかった。
憎悪という負の感情は徐々に実体化していったのだ。
それがどれほど罪深いことだとは、ヒトは気が付く事が出来なかった。
ヒトの負の感情は『はじまりの魔物』となり、その牙を自分たちへと向けたのだった。
――――――――アースフィア史より
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一般的には知られていない歴史があった。それは歴史の中に消えていったのではなく、意図的に隠され今も真実を知る者が限られているだけであり、決して失われた歴史ではなかった。
そんな歴史を知る者は教会――語り部を筆頭に王侯貴族に限られている。下手に広めて混乱に陥らせる必要はないという判断からだ。しかし、御伽噺の中や吟遊詩人が紡ぐ物語に巧妙に織り交ぜられた話としてはよく知られてはいた。
が、それが真実だとは誰も信じてはいない。
ヒトが犯した罪――同胞たちを屠った過去の負の遺産として『魔物』が現れたとは、知るはずのない話だったのだ。
魔物は動物が魔素を摂取し理性を失ったモノという説があった。
ヒトが絶望し、そんな負の感情が実体化した姿『はじまりの魔物』――始祖種という魔物の始祖が存在し、それが元に魔物が生まれ始めたと言う意図的に隠された歴史があった。
ではどちらが正しいのか。
どちらも間違ってはいないのである。
元々この世界には『動物』というものは存在していなかった。魔素に満ち溢れ、魔力を持つ生き物しか存在していなかったと言い変えてもいい。
魔獣も魔物もそしてヒトさえも、基を正せば同じ生き物であったのだ。それが世界の魔素が減ることにより『動物』という存在が現れ始めた。魔力が少ないヒトが現れたのも同じ理由だ。
その結果、始祖種という魔物の始祖から、ヒトの生き物の敵だと言う魔物が生まれ始めたものの、動物という魔力を――限りなく――持たない生き物が魔素の影響を受けて魔物化していくようになったのだ。
そんな魔物は世界に残ったが、魔素が減少したからか始祖種も、そして魔獣の始祖である始鳥も、始獣も始魚も歴史の中に姿を消した。
これに安堵の息を吐きだしたのではなく、何かの前触れだと危惧したのが『語り部』という集団だった。
始祖種は必ず現れる。そう世界を憂いた結果創設されたのが『冒険者互助組合』だったのだ。そして――――――
――SXランク。
SXランクの意味こそが何時現れるともしれない始祖種を殲滅することを目的とした、世界に左右されない位であった。
語り部は常に始祖種が現れても対処できるように世界の動きを監視していた。その筆頭がSXランクであり、語り部の存在と意味を国のSランクになった時点で知らされる。その中からSXランクを選別するのだがら、SランクはSXランクが伝承の類でないことを知っている。
始祖種の痕跡を見つけたディストは通信用に使っている鳥を呼び出した。
人の耳には聞こえない音域を出す笛を吹き、間もなく猛禽類と思わしき鳥の魔獣が飛んできた。見た目は完全に肉食のそれは鷹鷲と呼ばれる魔獣である。基本的に人に懐くことはないとされているが、語り部の人々は何らかの方法で通信用の使い魔にした。足の速さを見込んでである。
ディストの腕――身体強化しているので鉤爪で傷付くことはない――に止まり「クルル」と小さく喉を鳴らした。ディストは嘴に向けて手を翳し魔力というおやつを与えると、小さく書いた語り部宛ての手紙を括りつけ「頼むぞ」と一言言って鷲鷹を空に放った。
「あとは……こっちも報告か」
サティア国のSランクとしての仕事も思い出す。
ディストはSXランクとしては知られていない。なので語り部への報告はサティア国の冒険者互助組合からしてもらわなければならない。しかしいつ始祖種が現れれるともわからない今の現状では、素早さが重要になる。同じ報告がディストからと冒険者互助組合からあがるとは語り部も承知のことだ。それよりも一人では決して討つことが出来ないだろう始祖種を倒すために、はやく他のSXランクを呼ぶ必要があったのだ。
並行して『大規模討伐』のことも考えねばならなかったディストは、誰も聞いていないことをいいことに大きな溜息を吐きだした。
当初国王はマーリルを大規模討伐に参加させるつもりであった。今は指名依頼――国からの指名は勿論出来ないので個人的な依頼として――も出来ないFランク冒険者なため――指名依頼はCランク以上――、大規模討伐に参加させてランクの引き上げをしようと目論んでいたようだ。
ナイティルを助けたことやサンドイまでの道中の小緑鬼の数百体にもなる群れを倒した実績があるため、マーリルは本人の預かり知らぬうちにEランクに上がっていた。
冒険者が所有するギルドカードには魔力探知機能が付いている。そのため魔物を倒すとその残留魔力がカードに記憶され討伐証明をする事が出来るようになっている。討伐依頼の偽証防止と、依頼として受けていなくても戦闘証明になる為冒険者は大変重宝しているのだ。因みに『討伐証明部位』という、依頼で魔物を討伐した場合の証明になるところを持っていかなければ、報酬を支払ってもらうことはできない。
低ランクの冒険者がこれで戦闘能力を証明する事が出来れば、Dランクまでは簡単に上げることができる。とはいえ、冒険者に必要なのはなにも戦闘能力だけではない。依頼を真面目に行っているか、成功率はどの程度か、自分の能力を客観的に見つめることが出来るか、などの適性も判断されるため、Cランク以上になるには試験がある。だから指名依頼をするには最低Cランクは必要だとも言える。
マーリルはうまく国王に乗せられて二人の王子殿下に魔法を教えることになったようだ。それよりも先にナイティルとクルディルに自らが勝手に魔法を使ってしまった自己責任とも言えるが。
マーリルはこの世界の常識を知らない。その勉強を交換条件で教えて貰えるので、これは依頼としてではなくただの頼まれごととしてギルドを通してはいない。
ディストはうまくやれているのか心配になり王族専用の訓練場に足を運び、項垂れたマーリルに遭遇した。どうやら今まで本当に何も考えずに魔法を使っていたらしく、攻撃に関することを魔力が汲んでくれないようだ。
マーリルはどうしてか解っていないようだ――もしかしてくらいは思っているかもしれない――が、ディストには一つだけ心当たりがあった。
サンドイに来る途中に遭遇した小緑鬼を殺したとき、酷く憔悴していたことを思い出す。転移でどこかにいっていたらしく青白くも笑顔を取り戻してきたので深くは追求しなかったのだが、恐らくそれが原因なのだろう。
渡り人――ニホンジンは平和な国から来たのだと言う。戦争も無く命の危険も無く、そして飢餓に苦しむことも無いこの世界の大半の人にしてみれば正に桃源郷のような場所だ。
そんな平和な世界から日々自分の行動が命の危機に直結するような世界に突如として来たとしたら、恐らく自分も何の対処も出来ないだろうとディストも思う。
「じじぃも若い頃は苦労したって言っていたな」
そう言えば、とディストは自らの祖父を思い出していた。
ディストの祖父は落ち人としてこの世界にやってきた。気が付いたら海の中に居たらしく、それを助けたのがディストの祖母だったそうだ。
『はじめは何もわからなくてよぉ。ばぁさんには恥ずかしいところを沢山見られたわい』
そう快活に笑う祖父は戦闘は勿論、自分で生活する事もままならなかったと言う。
『肉と言えば切り分けられたものしか見た事無かったからな。自分で殺して捌くなんて日本人には難しいんだ』
そうしなければ生きていけない状況となり、そこで祖父も漸く慣れたらしかった。開き直りとも言い変えてもいいが、本能のみで行動する魔物、と割り切ったようだった。
マーリルも同じなのだろう。
どんなに自分の命が大事だと言っても、いきなり殺しをしろと言われればこの世界の人間だって始めは躊躇するものだ。それが勿論自分の命の危機に直結するので割り切りは早いが、マーリルはその切り替えが出来ないのだ。
魔法の練習をした時、発現はするが目標物に攻撃する事が出来ないと言っていた。それはまさにマーリルの深層心理そのものなのだろう。
「慣れればいいという問題でもなさそうだしな」
ディストは呟いた。
――ブォォオオオオ!!
その時雄叫びをあげてディストに向かって一直線に走ってくる獣が居た。
ディストは未だ森の中を彷徨っている。他に何か異変はないか見て廻っていたのだ。
ディストに向かってきているのは一目猪という魔物だ。魔物ランクで言えばDランクとそれほど強くはない。
一直線に走ることしか出来ず、口から生えた巨大な牙に気を付けさえしていれば低ランクの冒険者でも狩ることが出来る。
直接対峙しなくても、大きな岩などに誘き寄せてぶつけることが出きれば自重で呆気なく討伐することができ、また魔力操作を行える魔操師であれば、美味しい肉を手に入れることが出来るというわりと冒険者に二重に旨い魔物だった。
そう、誘き寄せて自滅させるのが一般的な討伐方法なのだ。
しかしディストはその場を動こうとはしなかった。
一瞬で身体強化を発動させると、ディストは牙だけに気を付けながら一目猪を正面から迎えた。
――ドガァァァンンンンン!
凄まじい音をさせながら一目猪はディストに体当たりした。
その場に誰かいれば思わず目を瞑っていたであろうその所業は、ディストには何の痛手も与えては居なかった。
一目猪の口から生えたニ本の巨大な牙を両手で掴むと、次の瞬間足をかけてひっくり返した。
先程以上の凄まじい轟音を響かせ一目猪は泡を吹いて気絶した。
「ふぅ」
そんな暢気とも取れる息を吐き出したディストは、一目猪の首筋に手を翳し風を操り大きな傷を作ると、勢いよく血を吹き出させた。
血がかからないように気を付けながら身体強化で腕力をあげて足を持ち上げ、血抜きをしながら一目猪に更に手を翳し魔力を操作していく。魔物の魔力を血抜きしながら操作していくと肉体に魔力が残らず食肉とする事が出来る。操作した魔力は何処へ行くかというと、一か所に固まり『魔石』となるのだ。
こうして魔物の魔力を操作して食肉の魔物と魔石を取ることを生業としている者が『魔操師』だった。ギルドランク以外に魔操師ランクなるものが存在し、A1~A4まである、前にマーリルが「牛肉か!?」と脳内で叫んだあれである。
閑話休題。
魔物を適当にマジックボックスに突っ込んでから漸くディストはサンドイの街に帰還した。
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