詠み人知らず、言わずと知れて。

立花伊作

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愛を育む

執着

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僕は元来、激情型だと思う。

周りにはよく寡黙だとか、
物静かだとか言われるが、
それはその感情の高ぶりを悟られぬよう、堪えて堪えて、我慢して、押しとどめているだけなのだ。

物への執着もそう。

なかなか捨てられない性分で、
家には懐かしいガラクタが溢れている。

もう着ないくせにとってある学生時代のセーターも、
もう動かないスマホの端末も、
度があってない眼鏡、
何の気なしに取ったUFOキャッチャーのぬいぐるみ。

使わないならば、必要が無いのならば捨ててしまえばいいものを、僕は愛着という厄介な情に囚われて捨てられずにいるのだ。

「何かの時に使えるかもしれない」

そんな呪いの言葉を用いて、
その物たちを自分の囲いに捕らえたままでいる。

愛着は、執着だ。

無機物のものたちにすら愛を感じ、
それをずっと手放せないでいる呪いだ。

早く、手放してやればいいのに。

そうしない、そう出来ないのだ。

自分がその一時、僅かに愛情を注いだ何か。

でも確かに、共に時間を過ごした何か。

そういう些細な情に振り回されてしまうほどには、僕は激しい感情を抱いている。


恋人に関してもそう。


「どこか達観しているような、落ち着いた恋愛をする人」

だと言われたことがある。

あながち間違っていないかもしれない。

でも、自分の中では常に感情は忙しい。


恋人が誰かと楽しそうにしている。

それだけでも、心は嫉妬に蝕まれる。

デートをする前日、
楽しみでたまらなくてなかなか寝付けない。

恋人が泣いていれば、
その泣かせた誰かを殴りに行きたくなるほど怒りが湧く。

実際に、そんなことをすれば騒ぎになるし誰かに迷惑をかけることも分かっているから、したくても出来ないのだけれど。

恋人が出来れば、大切にしたいと思うし、相手を愛おしく思うことだってある。

その時、その瞬間感じたものは、
別れた後でもたまに思い出すことがある。

そして、今頃なにをしているのだろう、
と、過去の恋人に思いを馳せるのだ。

世間一般では、こんな感情たちを「重い」と思われてしまうのだろう。

それで嫌われるのも怖かったから、
あまり表に出さないように努力していた。

こんな重い愛情を、恋人に抱えさせるのも申し訳なくて。

でも、セーブしすぎたせいで、
「本当に好き?」と疑われてしまうことも何度かあった。

一言「好きだ」と言葉に出してしまったら、そのセーブしてきたものが全部溢れてしまうから、「もちろん」と答えることしか出来なかったけれど。

僕は小出しにするのがどうやら下手らしい。

結局、毎回振られてしまうのだけれど。


そこには確かに愛はあったのだ。

愛着という名の執着が。

好きという感情が。

確かに、あったのだ。

それが上手く、相手に伝わらないだけで。

1度束縛したら、止まらなくなってしまう。

もっと、もっとと、執着をやめられない自信がある。

でも、そんな感情は、
相手が求めているものではないかもしれない。

嫌がられて離れていくかもしれない。

だから、静かに、穏やかに、
程々の愛情表現をしていた。


くっついたら、離れたくなくなってしまうから。

ずっと、を、願わずにはいられなくなってしまうから。



「好きだよ」

「……びっくりした、どうしたの急に」

「何となく、言ってみたくなっただけ」

「そっか、じゃあ、好きだよ」

「えっ、」

「何となく、言ってみた」

「ふふ、うん。好きだよ、好き」

「うん、好きだよ」




わずかでも愛の言葉を伝えた時、そう言えば誰も同じ言葉を返してくれたことはなかった。

こうやって、オウム返しみたいに、
同じ感情を共有してくれる人はいなかった。

このやり取りで僕は少し、
恋人への執着を許されたような気がした。

いいんだよ、って、言ってくれた気がした。

今度こそ、間違えないように、
そして少し、素直になってみよう。

怖がらないで、ゆっくり、
少しずつ。

そうやって少しづつ、ずっとになればいい。

強かな愛を、君に届けていきたいと思う。

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