詠み人知らず、言わずと知れて。

立花伊作

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適度にテキトーに

頑張り屋さん

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「私は兄弟の中でも一番、出来が悪いもので」

それが、彼女のアイデンティティだった。

僕がバイトしているカフェの正社員として彼女がきて、約1ヶ月。

彼女は物覚えも早ければ、初めてだという接客も笑顔でこなし、ミスもあまりしない万能な人だった。

にも関わらず、彼女は酷く自分に自信を持てずにいるらしい。

バイトに入って半年も経つ僕なんかよりも、ずっと仕事を覚えるのが早いし、バイトの僕なんかよりもうんと愛想のいい接客をする。
相手の些細なところに気づいてフォローし、自分で仕事を見つけることの出来る頑張り屋さんだった。

そして、完璧主義らしいその働きぶりは、店長や他のスタッフにも焦りを覚えさせるほどの、いい意味で、影響力のある人だった。

「手伝ってくださって、ありがとうございます。助かりました。」

「いいえ、とんでもございません。」

「凄いですね、入社されてから1ヶ月しか経ってないのに、僕よりもお仕事完璧にこなしてますよね。尊敬します。僕もちゃんとやらなきゃな」

「あはは、そんなことないです。君は私よりも機転が利いて羨ましいです」


話をしていると、彼女が裏でとても努力をしていることが分かってきた。


1度教えてもらったことをメモして、家に帰って復習するらしい。

教えてもらったことは、決して忘れてはならないからと、そのメモを職場で読み返したり、分からないところは積極的に聞くようにしているのだとか。

「私は兄弟の中でも一番不出来なもので、こうやってメモを取ったりなんども繰り返して覚えないといけないんです。失敗は、してはいけないんです」

人は失敗する生き物だ。

失敗して、覚えるものだ。

失敗しないと、覚えないものだ。

僕はよくそう言われてきた。

周りの大人たちにも、先輩にも、友人にも。

しかし彼女はそうでないらしい。

完璧主義者の親を持つと、
何かと大変そうだな。

失敗が許されない環境で育ってきて、
優秀な兄弟がいて、でも自分は頭も行儀も良くなくて、感性だけは豊かだった。

劣等感だらけの人生だったのだろう。



「大丈夫ですよ、僕なんて失敗ばっかりですから、未だに。店長も、失敗して怒るような人じゃありません。完璧じゃなくても、誰もあなたを責めたりしない。うちは、チームワークが売りなんですよ。うちで働いてたら、自然と機転が利くようになります。慣れですよ、慣れ」


励ましたつもりだった。


すると彼女は涙を零して、
震えた声で僕にお礼を言った。


「はじめて、そんなことを言ってもらいました……ありがとうございます」


僕の言った言葉が、彼女の励みになればいいと。

ひとりじゃない、仲間がいるんですよって、伝えたかった。

僕らがミスをした時、あなたがフォローしてくれたように、あなたがミスをした時、フォローしてくれる人がいるのだと。


「私、頑張ります」


「頑張りすぎないでくださいね」


「はい」


気楽にのんびり、適当に。

そうやって成り立ってる。

やっていけてる。

こんな僕がやってけてるんだから、
あなたは相当頑張り屋さんですよ。


育ちから来てる性格なのだろうから、
今更直すのは難しいだろうけれど。

肩の力くらいは、ぬいてあげられてたらいいな。
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