95 / 148
目頭が熱い
足のないお前は死んだ。
しおりを挟む
僕は、交通事故で右足を失った。
僕はサッカー部に所属していた。
レギュラーメンバーの一員でもあった。
このまま行けば、全国大会も夢じゃない。
そんな強いチームにいたのに。
見舞いに来る同級生は、
僕のなくなった右足を見るなり
表情を暗くした。
「おぉ………。」
「元気だせよ。」
「助かって良かったじゃねぇか。」
「お大事に。」
きっと、かける言葉も見つからないのだろう。
それは、分かる。
僕も分からない。
慰めの言葉を受けて、
どうやって返せばいいのかが。
なくなった右足が気持ち悪い。
ついさっきまでは、
しっかりとここにあったはずなのに。
膝から下が動かせないどころか、
動かそうとすることすら出来ない。
僕がいなきゃ、あのチームはどうなる。
全国大会だって行けた。
優勝だってきっとできた。
僕がいなくなったFWは、一体誰が守るんだ。
攻撃が最大の防御。
それがあのチームのやり方だ。
最大の戦力であった僕が抜けてしまえば、
その穴は一体誰が埋めるんだ。
最強のFWを失うのは、
チームの攻撃力にも比例する。
「あのチームは…もう、だめだ…。」
サッカーどころか、
歩くことすらままならない。
「くっそ………っ。」
悔しい。
自分が無力だ。
なんかで僕がこうならなければならない。
情けない。
視界が歪む。
息が苦しい。
何かがこみ上げてきて、気持ち悪い。
頭が痛い。
顔が熱い。
足が痛い。
なんで…なんで…。
「ちっくしょ…なんで………。
なんで僕なんだ…!!」
握しめた拳が、
病院のベッドのシーツを巻き込む。
それを思いっきり振り上げて、
ベッドに叩きつけた。
痛い。
けど、足の方がもっと痛い。
けど、胸の方が、もっと………。
「…………っ、うっ……。」
翌日になっても、やっぱり足はない。
もう、なにも考えたくない。
サッカーどころか、走るどころか、
歩くことも、立つことも…。
そんな時だった。
「おい。」
病室の扉を荒々しく開けて、
不機嫌そうな表情をした男が一人立っている。
「………先輩?」
「お前、なんだそのツラは…。」
「仕方がないじゃないですか。
僕はもう、サッカーは出来ない。
それどころか、
自分の足で立つこともできないんですよ。」
ただの八つ当たりだった。
先輩もどうせ、昨日来た同級生のように、
僕の足を見て言葉がでなくなるんだ。
「お前らしくねぇじゃねぇか。」
そう言って先輩は、鼻で笑った。
僕はその態度に唖然としてしまって、
言葉もでなかった。
「なんだ?
慰めの言葉をかけてでもほしかったか?
俺はそんなことしねぇよ。
知ってんだろ?」
そうだ。知っていた。
この人は、そんな慈悲や思いやりなんて、
生まれたその時から
持ち合わせてなんかない。
「うじうじしてるやつ見ると腹が立つ。
だから、今お前は死んだ。」
「は?」
「足がなくてうじうじしてる
しょうもないお前は死んだんだ。」
「え?ちょっと先輩、意味が…。」
「そして、今このベッドにいるのは、
もともと足がなくて、
それでもサッカーが好きで、
俺達のチームを支えてくれる、
そんなお前だ。
…分かったか?」
「先輩…。」
「返事は?」
「………はい。」
どうやら先輩は、
僕を一人で悩ませてはくれないようだ。
「みんな待ってんぞ。早くこい。」
「…………っ、はいっ。」
先輩はふっと笑って、病室を出ていった。
部活をサボってまで来てくれたのか、
病院の窓から見る先輩は、
道をすれ違う人達にぶつかりながら
ダッシュで学校の方へと
向かっていたのだった。
その姿はとっても格好悪くて、可笑しかった。
最後までキマらない先輩だけど、
その方が、先輩らしくて、
なんか、いい。
そんな気がした。
僕はサッカー部に所属していた。
レギュラーメンバーの一員でもあった。
このまま行けば、全国大会も夢じゃない。
そんな強いチームにいたのに。
見舞いに来る同級生は、
僕のなくなった右足を見るなり
表情を暗くした。
「おぉ………。」
「元気だせよ。」
「助かって良かったじゃねぇか。」
「お大事に。」
きっと、かける言葉も見つからないのだろう。
それは、分かる。
僕も分からない。
慰めの言葉を受けて、
どうやって返せばいいのかが。
なくなった右足が気持ち悪い。
ついさっきまでは、
しっかりとここにあったはずなのに。
膝から下が動かせないどころか、
動かそうとすることすら出来ない。
僕がいなきゃ、あのチームはどうなる。
全国大会だって行けた。
優勝だってきっとできた。
僕がいなくなったFWは、一体誰が守るんだ。
攻撃が最大の防御。
それがあのチームのやり方だ。
最大の戦力であった僕が抜けてしまえば、
その穴は一体誰が埋めるんだ。
最強のFWを失うのは、
チームの攻撃力にも比例する。
「あのチームは…もう、だめだ…。」
サッカーどころか、
歩くことすらままならない。
「くっそ………っ。」
悔しい。
自分が無力だ。
なんかで僕がこうならなければならない。
情けない。
視界が歪む。
息が苦しい。
何かがこみ上げてきて、気持ち悪い。
頭が痛い。
顔が熱い。
足が痛い。
なんで…なんで…。
「ちっくしょ…なんで………。
なんで僕なんだ…!!」
握しめた拳が、
病院のベッドのシーツを巻き込む。
それを思いっきり振り上げて、
ベッドに叩きつけた。
痛い。
けど、足の方がもっと痛い。
けど、胸の方が、もっと………。
「…………っ、うっ……。」
翌日になっても、やっぱり足はない。
もう、なにも考えたくない。
サッカーどころか、走るどころか、
歩くことも、立つことも…。
そんな時だった。
「おい。」
病室の扉を荒々しく開けて、
不機嫌そうな表情をした男が一人立っている。
「………先輩?」
「お前、なんだそのツラは…。」
「仕方がないじゃないですか。
僕はもう、サッカーは出来ない。
それどころか、
自分の足で立つこともできないんですよ。」
ただの八つ当たりだった。
先輩もどうせ、昨日来た同級生のように、
僕の足を見て言葉がでなくなるんだ。
「お前らしくねぇじゃねぇか。」
そう言って先輩は、鼻で笑った。
僕はその態度に唖然としてしまって、
言葉もでなかった。
「なんだ?
慰めの言葉をかけてでもほしかったか?
俺はそんなことしねぇよ。
知ってんだろ?」
そうだ。知っていた。
この人は、そんな慈悲や思いやりなんて、
生まれたその時から
持ち合わせてなんかない。
「うじうじしてるやつ見ると腹が立つ。
だから、今お前は死んだ。」
「は?」
「足がなくてうじうじしてる
しょうもないお前は死んだんだ。」
「え?ちょっと先輩、意味が…。」
「そして、今このベッドにいるのは、
もともと足がなくて、
それでもサッカーが好きで、
俺達のチームを支えてくれる、
そんなお前だ。
…分かったか?」
「先輩…。」
「返事は?」
「………はい。」
どうやら先輩は、
僕を一人で悩ませてはくれないようだ。
「みんな待ってんぞ。早くこい。」
「…………っ、はいっ。」
先輩はふっと笑って、病室を出ていった。
部活をサボってまで来てくれたのか、
病院の窓から見る先輩は、
道をすれ違う人達にぶつかりながら
ダッシュで学校の方へと
向かっていたのだった。
その姿はとっても格好悪くて、可笑しかった。
最後までキマらない先輩だけど、
その方が、先輩らしくて、
なんか、いい。
そんな気がした。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる