忘却の海辺

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赤い日

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 さて、私のことも話しておこう。私は狭いところで寝るのが好きだったから、毎晩こっそりベッドを抜け出して物置で寝ていたことを伝えておかねばなるまい。普段なら物笑いの種だが、これが私の命を救った。エファイマの蛮族が来た晩も私は同じことをしていた。誰かの叫び声が聞こえた後のことはあまり覚えていないが、気づけば瓦礫の中で必死に息を押し殺していた。私は腕を噛んで必死で声を漏らさないよう努めていたものの、瓦礫の隙間はそれなりに大きかった。本気で見つけようと思えば見つけられただろう。しかし見つからなかった。葬送の準備で忙しかったのだろうな。
 生き残ったのは私と病気がちな村の青年だけで、彼は都市に騎士団を呼びに行くと言っていた。幼心に、気休めだ、と思った。彼とはあまり話したわけではないが、悪い人ではないというのは知っている。嘘をついているだとか、呼びにいかないとか思ったわけではなかった。ただ何となく、彼は生きて帰ってこないだろうなと感じた。
  エファイマの蛮族が引き上げていった後も私は長いこと震えていた。幼かった私にとって、夜明けは決して祝福ではなかった。何もかも奪われつくした冬の村に、子供が一人取り残されている。連なった丘の向こうにはカトブレパスがいて、見つかればまず生きては帰れない。ワイバーンも近いうちに死体の匂いを嗅ぎつけるに違いない。食いつなげる物も少しだけだ。そのような地で生き延びるのは、大人でも難しかっただろう。
 翌日の太陽は気がふれたように光っていた。大地を覆う影さえも赤く染め上げてしまうほどの輝きを放ちながら、怒れる太陽が苦痛と残酷な死に満ちた世界を照らし続けていた。私はまだ蛮族の生き残りが目を光らせているのではないかと思って、瓦礫に隠れてその光景を見ていた。ひたすらに不吉な光が瓦礫の隙間に差し込んで、世界の終わりを告げるようにいつまでも降り注いでいた。実際のところ、本当にそう告げられていたのかもしれない。冬の日陰は凍えるほどに寒かった。私は手を伸ばしてその光に触れたが、指先から血が流れるような感じがしただけだった。温かさは微塵も感じられなかった。
 私は折れた柱の隙間を通り抜けて外に出た。尖った木の針が体を引っかいて至る所に傷を作る。荒い布目の寝巻に穴が開いていた。
 朝日を浴びた途端に吐き気に襲われ、地面に膝を突いて胃の中のものを吐き出してしまった。それでもなお嘔吐感は収まらず、喉の奥からは何か得体の知れないものが出ようとしていた。涙を浮かべながら、私はようやく顔を上げた。そこにはぶよぶよした山があった。しばらくして、私はそれが死体からできているのだと気づいた。全員の手足が絡み合った山で、時折見える顔らしきものは燃え盛っていた。

 騎士団長はここまで話し終えると、すっかり冷めた紅茶を飲み干して大きく深呼吸をした。あまり続けて喋りすぎると、まるで自分があの時に戻ったかのように錯覚しそうだからだ。彼は目頭を強く抑えて、それから気を取り直したように言った。

 確かに、戦場ではあれ以上の死者が出る。しかし凄まじい光景だった。私が見たサラマンダーの炎もあれほどに朱くはない。よくあることなのだ。人間が初めて感じた死は、いつまでもその後の人生を縛り続ける。
 騎士たちはそれぞれ思うところがあるのか大きく頷いた。ただ一人、若い男の騎士だけは強張った面持ちで、いずれ相まみえるだろう死に備えようとしていた。騎士団長はぽつぽつと語り始めた。

 濃すぎるような死の影があって、夢のように赤い光が人々の抜け殻に降り注いでいた。私はそれに背を向け、しゃくりあげた。
 そしてその光景を、ロゲルト・オッリが見ていただろう。彼はまだ生きていた。彼は人々の死体や、役目を終えた木材を掻き分けながら、どこか遠くにいるはずの自分を探し求めていた。彼は自らの体に刻まれた傷跡を確かめるようにして歩き続けた。足取りはおぼつかず、何度も転んでいた。その途中で、彼の視界には私と共に、きっと死体の山も入っていただろう。しかし彼は私と違って何の感慨も抱いていなかった。ロゲルトは何も見てなどいなかった。私の方を向いていたが、どこにも焦点は合っていなかったと思う。彼は足を揃えて立ち止まった。私ははじめ、彼のことを生き残った行商人か何かだと思った。その原因といえば彼が死に装束を着ていたからなのだが、彼はエファイマの蛮族の格好をしていなかった。だが、彼が死体の山に驚かないことに愕然として後ずさった。我々が戦争孤児を保護したとき、その子が死体の山に眉一つ動かさない騎士を悪魔か何かだと思うのと一緒だ。彼はすぐに私の方へ歩いてきた。私は逃げようとしたが、もう遅かった。ロゲルトは私の姿を認めると、ふらつきながら近づいてきた。私が気付いた時にはもう、ロゲルトの斧は私の首目掛けて振り下ろされた。
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