メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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32.次元の狭間

10.深淵の館

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 ここは塔ではなく館だった。それ自体珍しいことではないため、コストイラ達は何も思わなかった。
 しかし、勇者一行の中で一人だけが違う反応を示してた。

 エンドローゼだ。エンドローゼだけが手足を震えさせていた。感じられる情は恐怖。しかし、恐怖だけではなく、期待や希望が入り混じっている。

「どうした? エンドローゼ」

 コストイラが優しい声を掛ける。しかし、声が聞こえていないのか、エンドローゼはじっと館を見続けている。

 暗い色の多く使われた、昏い印象を与えてくる館だ。石材を多く使う西方の建築には珍しく、煉瓦が多く使われている。
 門や外壁、塀の具合がかなり良く、むしろ、手入れではなく新調したのだと分かる。

「何か貴族の御屋敷みたいね」
「貴族……。あ」

 アストロの感想を聞いて、コストイラが何かを思い出した。

「どうしたの?」
「あのシテリアって、あの時のクソガキが地下道にいた、あの館の主じゃねぇか」
「”あの”が多い気がしますけど、そうですね、あの氷精がいたお屋敷」

 アストロが納得したように頷いた。
 隣でレイドが顎に手を添えている。

「この暗い色の煉瓦には見覚えがある。確か」
「カラカラ邸」

 エンドローゼが詰まりなく、滑らかな声で、その館を口にした。

「そうか。そうだったな。エンドローゼはゴール家と浅からぬ繋がりがあると言っていたな」
「は、はい」

 エンドローゼの目線はカラカラ邸に向いたままだ。

「入る?」
「は、はい」

 今までの傾向を考えれば、おそらく中の者達は魔物となっている可能性が高い。エンドローゼはそれに耐えることができるのだろうか。
 少し仲間が不安になっていることなど気にせず、エンドローゼが門に近づこうとする。その時、ドドドと走ってくる影があった。

 害ある者かと思い、アストロとコストイラとシキとレイドが庇うように前に出た。

 ガシャンと影が扉の鉄格子を掴んだ。ガバッと顔を振り上げた。

『エンドローゼ!』
「め、メザパ、さん!」

 どうやらエンドローゼの知り合いのようだ。

『エンドローゼ……。無事だったのですね』

 鉄格子を壊しかねない程に軋ませながら、妙齢の女が涙を流している。

「ま、まさか」

 エンドローゼが目を剥き、口元を手で覆った。アストロもコストイラも何が”まさか”なのか分からず、ただ見守っている。

『ち、違っ!? 違うわよ! 私だって、それ以外で泣くことがあるんだから!』

 メザパは慌てながらエンドローゼの考えを否定した。エンドローゼはそっと胸を撫で下ろしたようで、自身の薄い胸に手を当て、そっと息を吐いた。

「何も見えねェ」
「何かあるっぽいけど、私も分かんないわね」
「魔眼を使った方がいいですか?」
「いや、あれに水を差すのは憚られる。止めておこう」

 アストロ達の雑談が、高いレベルに至ったことで到達した聴覚で、エンドローゼは聞こえてしまった。他者紹介していないな。

「あ、え、えっと。こ、こ、この方は、メザパ、さんといーいまして、わ、私が、かー、カラカラ邸で働いていた、とーきの師匠せんせいです」
『……どうも』

 エンドローゼが嬉しそうにメザパを紹介すると、女は完璧な所作で礼をした。もしかして、この女も元貴族である可能性すらあるだろう。

「せー師匠せんせいは、ば、死の精霊バンシーなのです」
「バンシー」

 アストロがじっとメザパを見る。
「バンシーと言えば、死の精霊だよな」
「あぁ。我々のような貴族からは、近づかないようにしているような種族だな」
「ち、ち、違います! ば、ば、バンシーはし、死を見ることがでーきるだけで、し、死を操るこーとはできまっせんよ!」

 コストイラとレイドがバンシーについて、間違った認識を披露しているため、エンドローゼはぷりぷりと怒り始めた。メザパはまぁまぁと、宥めるようにエンドローゼの袖を引っ張った。

『入って? ロランド様やニャス様、トレット様も、貴女を望んでいるわ』
『えぇ、そうね!』
「「え?」」
『へ?』

 誰も気付いていなかったが、メザパの後ろに、快活そうな少女が立っていた。

 エンドローゼが何かを言う前に、少女は門の扉を開け、少女の腕を掴んだ。

「あ、え?」
『お仕置き♡』

 一言を残すと、少女はエンドローゼを連れ、屋敷に消えてしまった。
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