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パラサイト豚ねぎそば

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32.次元の狭間

20.紫紺の魔宮

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「あ」

 沈黙を突き通していたコストイラが声を出した。瞳が忙しなく動いている。今、ここにあるすべての情報を自らのものにしようとする動きだ。

 ここには何かある。コストイラの過去に繋がる何か。

 コストイラから見える景色が見えるわけではないが、少しでもコストイラに近づこうと、目の前の屋敷を見た。
 どこにもあるような一般的な石材を使った邸宅。どこにも異常性は見えない。あるのは、邸宅を覆うように張られた薄い結界くらいだろう。しかし、貴族の家に対魔物用の結界や対暴漢用の危機察知系の結界など、何かしらの結界が張られているのは珍しくない。
 外観の中に特異的な部分は見受けられない。

「ねぇ、レイド。これって誰のお屋敷?」
「この外観で思い当たるのは、ファルコン家かサック家かだな。まだありそうな気がするが、時間が欲しいな」
「どっちでもねぇよ」

 そこでようやくコストイラが口を開いてくれた。

「ここはオウディアス家が没落した際、孤児院に改装された場所だ」
「こ、こ、孤児院」
「あの町にもあったのね」
「ばっちりな」

 コストイラが頬を掻く。

「そんな見つめられると困るんだけど、何?」
「こ、こ、コストイラさん、はー孤児?」
「申し訳ねェが親はいたよ。ここにいたのはセルンだ」

 ギッと油のない音を立てて、扉を開けた。

「ん?」

 アストロが眉を顰めた。孤児院の前庭に、謎の布の塊がいくつか置いてある。不審に思っていると、コストイラはズカズカと入り込んでいった。

『バァ!』
『ナァ!』

 布の塊が二つ立ち上がった。塊からは継ぎ接ぎだらけの服を着たピンク色の髪をした少女と、八重歯が特徴的な黒髪の少女だ。

「……はっ?」

 何も付いて行くことができず、アストロは呆気にとられてしまった。

『……あれ?』
『びっくりしてない?』
『あ、あれをやってないからだ!』
『おぉ!』

 驚かした姿勢のまま固まる二人の子供が何かに気付いたように手を合わせた。アストロ達が不思議に思っていると、コストイラが何かに気付いた。

「あ、待」
『そりゃ!』
「……はっ!?」

 コストイラが制止しようとしたが、もうすでに遅かった。少女二人は大胆にもアストロのスカートを捲ったのだ。アストロは捲られて一秒も経たずしてスカートを押さえ、少女二人の脳天に拳骨を落としたが、その一秒にも満たない時間は長すぎた。
 アレンを含めた六人は、アストロの下着をばっちりを目視してしまった。それはもうバッチリと黒レースの下着が。

『お、大人』
『わぉ』

 頭をジンジンと痛めながら、ピンクの少女は口元を両手で覆い、黒髪の少女は頬を赤らめていた。アストロは拳骨では足りなかったと判断し、拳に魔力を纏わせ始めた。

「さっきのじゃ足りなかったようね」
『ほよ?』
『おや?』

 ドスの利いた声を背に受けて、少女二人は互いの顔を見た。

「まずは減刑のための質問をしてあげるわ。この悪戯を仕込んだのは誰なのかしら?」
『えっと~~』
『それは~~』

 少女二人は互いに抱き合い、言い訳を考える。

『えっと、あの人』
『コストイラ』
「は?」

 少女二人が同時に孤児院の前に立っている紅い侍を指差した。アストロは凄まじい形相でコストイラを睨んだ。
 コストイラがビクッと肩を震わせた。そのままゆっくりと目を逸らしながら、左頬を掻いた。

「……オレが昔やってた、悪戯だよ」
「成る程?」

 アストロの威圧がまだ消えていない。

「も、もしかして、お前等、シスターにもやったのか!?」

 コストイラが分かりやすく話題を変えると、少女二人はキョトンとして互いに顔を合わせた。

『もちろん』
『凄く怒られちゃった』
『えぇ、そうね』
「ヒュッ!?」

 頭上から声が降ってきて、コストイラは息を呑んだ。聞き覚えのある声であり、今一番遭遇したくない相手のものだった。すなわち、シスター。
 コストイラが顔を見て確信した瞬間、こめかみに拳が合わせられていた。

「は、はは」

 コストイラの乾いた笑みが響いた。
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