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33.魔大陸
38.勇者なき一行
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「???」
シキはテーブルの上に置かれたカップを持って混乱している。
『欲しいなら飲む』
「……いいの?」
サヒミサセイは柱に体を預けながら、コーヒーを飲みながら薦めてきた。
『あの子が警戒して飲まないのよ』
サヒミサセイが指を差す先では、柱の陰に隠れながらこちらを窺う少女がいた。ふわふわとしたワンピースドレスを着たその少女には見覚えがある。
「……セルン?」
「ふぇええ覚えているんだァ」
極度の人見知りを発揮するセルンは、覚えられているのが嬉しかったのか、涙目だ。
「……ハッ、そういえば、ここはどこ?」
『……………ここはクリストロって町の外れにある小さな家よ』
「コストイラの家だよ」
「……へ?」
いつも無表情でいるシキがぽかんとした。
ここからどう戻ればいい?
「ご、ごめんなさい。あの勇者の強さは予想外だったわ」
「シキをどこにやったんだ?」
コストイラがカーミラに近づいていく。
「だって、しょうがないじゃない! ここじゃない別の世界から呼び寄せた魔物、しかも結構強い奴だったのに瞬殺って、想定の範囲外なのよ!」
「いや、まぁ、ありゃ別格の強さだけど、結果、どこやったんだよ」
「アンタんち」
「え……」
まさかの回答にコストイラは困った。何で、オレんち?
「だって、咄嗟に飛ばせる場所があそこだったから」
「何で咄嗟がオレの家なのかは突っ込まねェからな」
コストイラは無暗に動かない。
現在コストイラとカーミラの距離は10m程度。コストイラにしてみればすぐに辿り着ける距離だ。まるで蛇に睨まれる蛙。次の行動を読むための手段。
自分の距離を分かっている。完全に膠着状態。勝つためには後出しジャンケンしかない。
そんなこと意に介さず、アストロが魔術を放った。膠着状態など知ったことではない。だってこれは単独ではなく、全員での戦いなのだ。
流石のカーミラも対処の行動に出る。境界を出現させ、その中に入れ、別の場所に飛ばした。
いつの間にかアシドが近づいている。こいつは正直、速さ以外は脅威にならない。
境界を出現させ、土流を生み出し、押し流した。
そこで気付く。コストイラがいない。意識を切らされた。ほんの一瞬で闇に紛れたようだ。
カーミラが魔力探知を行おうとして気付く。ここは魔大陸。魔素が溢れているところだ。
私は何百年とこの地にいるため馴染めているが、まさか、勇者一行はもう慣れたというのか?
「済まんな、姉ちゃん」
その声を聞いたカーミラは、少しだけ安心した。その直後、脇腹に刀の鞘が叩き込まれた。
『ど? 美味しい?』
「美味しい」
シキはサヒミサセイの出してくれたクッキーをリスのように頬張っている。
「だ、大丈夫なんですか? ここにいて」
「……ん。 戻れ、ない」
『まぁ、戻り方分かんないし』
セルンがシキに慣れたのか、隣の席に座ってきた。サヒミサセイはコーヒーを飲みながら、正面の席に座る。
ヴォンと音がして境界が現れた。
「あぁ………………と、迎えに来たわ」
「ム」
カーミラが申し訳なさそうに境界から顔を出してくる。
シキの眼の色が変わる。現在シキの中にある命令の最上位は、寸止めである。もう戦いが終わったことを知らないのだ。
ガタンと椅子が動いた。いや、ガタンという音が聞こえる前に、カーミラに攻撃が届いていた。
『え?』
「ふぇ?」
サヒミサセイは何が起きたのか一切分からなかった。セルンは目で追うことができたが、それ以上の反応は無理だった。
二人はすでに境界内に吸い込まれており、もう境界が閉じかけている。
『……何だったの?』
「……さ、さぁ」
サヒミサセイとセルンは汗を流しながら、コーヒーを飲んだ。
ゴロゴロと二人は絡みながら転がって境界から出てきた。シキはカーミラの頸動脈を圧迫するように掴み、地面に叩きつけ、右腕を引いた。
「チョット待った~~~!!」
シキの動きが止まる。右腕の肘のところはアシドが槍で、圧迫していた左手首をコストイラが掴んでいる。
「もう大丈夫。終わったから」
アストロの言葉を聞き、シキが力を抜いた。そこから、マウントポジションを解いた。
「……行くの?」
「……おう」
シキはテーブルの上に置かれたカップを持って混乱している。
『欲しいなら飲む』
「……いいの?」
サヒミサセイは柱に体を預けながら、コーヒーを飲みながら薦めてきた。
『あの子が警戒して飲まないのよ』
サヒミサセイが指を差す先では、柱の陰に隠れながらこちらを窺う少女がいた。ふわふわとしたワンピースドレスを着たその少女には見覚えがある。
「……セルン?」
「ふぇええ覚えているんだァ」
極度の人見知りを発揮するセルンは、覚えられているのが嬉しかったのか、涙目だ。
「……ハッ、そういえば、ここはどこ?」
『……………ここはクリストロって町の外れにある小さな家よ』
「コストイラの家だよ」
「……へ?」
いつも無表情でいるシキがぽかんとした。
ここからどう戻ればいい?
「ご、ごめんなさい。あの勇者の強さは予想外だったわ」
「シキをどこにやったんだ?」
コストイラがカーミラに近づいていく。
「だって、しょうがないじゃない! ここじゃない別の世界から呼び寄せた魔物、しかも結構強い奴だったのに瞬殺って、想定の範囲外なのよ!」
「いや、まぁ、ありゃ別格の強さだけど、結果、どこやったんだよ」
「アンタんち」
「え……」
まさかの回答にコストイラは困った。何で、オレんち?
「だって、咄嗟に飛ばせる場所があそこだったから」
「何で咄嗟がオレの家なのかは突っ込まねェからな」
コストイラは無暗に動かない。
現在コストイラとカーミラの距離は10m程度。コストイラにしてみればすぐに辿り着ける距離だ。まるで蛇に睨まれる蛙。次の行動を読むための手段。
自分の距離を分かっている。完全に膠着状態。勝つためには後出しジャンケンしかない。
そんなこと意に介さず、アストロが魔術を放った。膠着状態など知ったことではない。だってこれは単独ではなく、全員での戦いなのだ。
流石のカーミラも対処の行動に出る。境界を出現させ、その中に入れ、別の場所に飛ばした。
いつの間にかアシドが近づいている。こいつは正直、速さ以外は脅威にならない。
境界を出現させ、土流を生み出し、押し流した。
そこで気付く。コストイラがいない。意識を切らされた。ほんの一瞬で闇に紛れたようだ。
カーミラが魔力探知を行おうとして気付く。ここは魔大陸。魔素が溢れているところだ。
私は何百年とこの地にいるため馴染めているが、まさか、勇者一行はもう慣れたというのか?
「済まんな、姉ちゃん」
その声を聞いたカーミラは、少しだけ安心した。その直後、脇腹に刀の鞘が叩き込まれた。
『ど? 美味しい?』
「美味しい」
シキはサヒミサセイの出してくれたクッキーをリスのように頬張っている。
「だ、大丈夫なんですか? ここにいて」
「……ん。 戻れ、ない」
『まぁ、戻り方分かんないし』
セルンがシキに慣れたのか、隣の席に座ってきた。サヒミサセイはコーヒーを飲みながら、正面の席に座る。
ヴォンと音がして境界が現れた。
「あぁ………………と、迎えに来たわ」
「ム」
カーミラが申し訳なさそうに境界から顔を出してくる。
シキの眼の色が変わる。現在シキの中にある命令の最上位は、寸止めである。もう戦いが終わったことを知らないのだ。
ガタンと椅子が動いた。いや、ガタンという音が聞こえる前に、カーミラに攻撃が届いていた。
『え?』
「ふぇ?」
サヒミサセイは何が起きたのか一切分からなかった。セルンは目で追うことができたが、それ以上の反応は無理だった。
二人はすでに境界内に吸い込まれており、もう境界が閉じかけている。
『……何だったの?』
「……さ、さぁ」
サヒミサセイとセルンは汗を流しながら、コーヒーを飲んだ。
ゴロゴロと二人は絡みながら転がって境界から出てきた。シキはカーミラの頸動脈を圧迫するように掴み、地面に叩きつけ、右腕を引いた。
「チョット待った~~~!!」
シキの動きが止まる。右腕の肘のところはアシドが槍で、圧迫していた左手首をコストイラが掴んでいる。
「もう大丈夫。終わったから」
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「……行くの?」
「……おう」
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