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33.魔大陸
39.幻想の果て
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カーミラと戦っていた時から少し時間が経っていた。時間的にはもう夜なのだが、想定以上に明るい。
星の光が明るいのだ。空を彩る星々が、一種の幻想を創り出していた。
あまり景色に感情を動かされるタイプではないアシドも、今ばかりは感動していた。
そんな時間さえ感動し、進むのが遅れていく中、一人の男が雰囲気をぶち壊した。
アレンである。アレンは大量に舞っている魔素に耐えきれず、吐き気を催しているのだ。
「……大丈夫、じゃなさそうだな」
「……そうでずね」
発言に濁音がついている。もう駄目らしい。
「仕方ねェ、ここらで休むか」
「あの、あぞごに、建物が」
「あん?」
休憩場所を探そうと辺りを見ていると、アレンが指を差した。
そこには、石槍のように聳える塔。遠くからでも分かる巨大な扉。レンガ調の壁。
見覚えのある、魔王インサーニアの城だ。
「何でこんなとこに?」
しかし、全てが一致しているわけではない。周りにあった豊かすぎる程の黒く、死に溢れた森は数を減らしている。ここにあるのは、ただ膨大な、漠然と広がる大地だった。
ギュムギュムと足裏で、この土地の土を確かめる。
「オレはこの土を知っている?」
「土?」
「ここに来たことがある?」
ここ、というかこの城には来たことがある。それどころか、攻略だってした。シキやアストロなら、目を瞑ったままでも謁見の間まで歩けるだろう。辿り着くだけなら簡単だ。
その時、コストイラの脳裏に、黒い鱗と鋭い眼光が過ぎった。
侍が顔を跳ね上げ、城を見た。
訪れることのなかった王室の窓から視線がきている。竜だ。あれは竜だ。先程の一本角のようではなく、誰が見ても分かる竜だ。
『グォオオオオオオオオオオッッッ!!!』
竜が咆哮した。その咆哮に合わせて翼を広げ、城上部を破壊する。
瓦礫が雨のように降り注ぐ。レイドやアストロが独特なステップを踏んで、瓦礫を躱していく。
そんな中、コストイラはその場を一歩も動かず、爽やかな笑顔を竜へと向け、両腕を広げた。
あぁ、帰ってきたぞ、クソ竜。
大きな翼を広げた竜が、二足で降り立った。
足元から頭の頂点まで約3m。角を含めれば、3m20㎝はあるだろう。
上から下、また、尾の先までびっしりと生えているのは黒い鱗。最初はブラックドラゴンかと思ったが、違う。その鱗は黒というより濡れ羽色で、艶やかさがある。
口の端から溢れ出ているのは、紫炎。見たことのない鮮やかな色に、目を奪われる。その美しさを形容する言葉は見つからず、神が本気を出してデザインしたと言われたなら、信じてしまうだろう。
蝙蝠のような尖った翼。その翼の面部分には網状脈のように紫の線が入っている。
全身から発せられるオーラ。全てがこちらを圧倒してくる。あの時は何もできなかった。武器に手を伸ばすことさえ許されなかった。
あの時の威圧感は健在だ。しかし、あの時のような絶望感はない。こちらも十分に強くなったのだ。
『グォオオオオッッッ!!』
再び大声量の雄叫びに、アレンの意識が飛び去った。
雄叫びに合わせて、黒い鱗から、紫炎とは違う光が目映く放出された。魔力ではない、純粋な発光だ。
コストイラはその音と光に冷や汗を流しながら、刀を抜き、構えた。ぺろりと唇を舐める。大丈夫だ、動く。
これは決して理不尽じゃない。ドラゴンが持つ特有の威容威圧はあれど、体が動かなくなるほどではない。アイケルスやヲルクィトゥと戦った時の方が、もっと絶望感があった。
コストイラがサメのような笑みを浮かべる。
黒龍は咆哮とともに、自らを補強。筋力増強、魔力向上、速度上昇《スピードアップ》。
黒龍が消えた。
次の瞬間、黒龍はコストイラの隣にいた。止まることなく、右の凶刃が振るわれる。
コストイラは切っ先を下にするように、刀を縦にし、爪を受け止めた。力では戦闘馬鹿の方が上だ。耐えられる。
鍔迫り合いをしている時に、後から土埃が舞った。それほど早い動きだということだろう。その程度であれば、アストロやエンドローゼでも追い着ける。
左の凶爪が振られる。コストイラは左の凶爪を、右の凶爪ごと円を描くようにして弾いた。
黒龍の両手が弾かれた。しかし、竜には第三の手がある。
尾だ。
黒龍の尾が槍のように伸びる。行動の直後のコストイラはそれを避けきることができなかった。
「チ」
コストイラの脇腹が少し削れた。軽快なステップで後退する。
黒龍はコストイラとの距離を見極め、すぐに口内に魔力を溜めていく。その口から竜巻のような突風が吐き出された。アストロの方に向かって。
アストロは黒龍に牙を突き立てようとして、魔力を練っていったのだ。黒龍はそれに勘づいていた。だからこそ排除しようとしたのだ。
レイドがアストロの前に立つ。大楯で黒龍の突風を弾いた。
とはいえ、レイドの持つ大楯は、魔力を軽減するものであって、無効化するものではない。月天石の楯はかなり優秀だ。龍神よりも強いかもしれないと言われる黒龍の突風さえ、七割から八割も減衰させた。
しかし、それでもレイドの限界を超えた。
「ぬぁ!?」
レイドが後ろに転がる。アストロは「ありがと」と小さく礼を述べながら、魔術を放った。
黒龍は右手の甲で受け止める。鱗に当たり、魔術は霧散し、消えた。
まただ。また魔術があまり効かない相手だ。魔術耐性あるやつが許せねぇ。
アストロの中で、何かが切れた。
ドロリとした感情がアストロの中で流れる。その気持ちを体現するように足元から黒い靄が落ちた。それが黒龍へと向かう。
心がすっきりしている。今まであったズシンと来ていた吐き気が来ない。トラウマがトラウマではなくなったのだ。トラウマを克服したのだ。
魔法が変質した。進化ではなく変質だ。ドロドロとした黒い靄は変わっていないが、おそらく内容も変わっている。
大丈夫か? これは私の思っている通りの魔法か?
不安になるアストロを余所に、コストイラが一気に懐へと入っていく。止まることなく振るわれる刀撃を、黒龍は右の手の甲にある鱗で受け止めた。鱗は硬く、砕けなければ切ることもできない。
コストイラは反撃されることを嫌い、すぐに離れる。
入れ替わるようにアシドとシキが参戦する。
アシドが槍を振り下ろす。黒龍はそれを左の手の甲の鱗で受け止めた。
お返しと言わんばかりに、尾が槍のように突かれる。アシドは腰の動きだけでそれを躱した。
黒龍はそれを読んでいたかのように、尾を薙いだ。
「ぐ!?」
脇を襲撃したそれは、軽々とアシドを持ち上げる。アシドは速さを求めるため、体重を軽くしており、75㎏しかない。
シキはその間に距離を詰め、回転蹴りを繰り出した。黒龍はアシドを止めた左手をそのまま運用する。
黒龍の左手の鱗は散り散りに砕け散り、その下にあった手が折れた。開きっぱなしになってしまい、もう握ることができない。
その威力に竜は目を丸くする。
これを好機だと見たコストイラが一気に距離を消した。
黒龍は×状にして魔力を溜め、一気に解放する。その瞬間、黒龍を中心とした突風が吹き荒んだ。
「ぐぉ!?」
「ム!?」
黒龍の近くにいたコストイラとシキは真正面から、まともに突風を浴びてしまう。
コストイラは耐えきれず、吹き飛ばされる。
シキは体の周りに風を纏い、黒龍の突風を掻き分け、その場に留まった。
黒龍は目を丸くする。これも耐えるのか。
風に髪がはためくのを押さえながら、女が一人、戦闘を見下ろしていた。
破壊された元魔王城内は、足場がないほど瓦礫で埋め尽くされている。斜めとなっている瓦礫に、バランスを取りながら立ち、天井のなくなった王室から覗いていた。
どこの誰が、太古から存在している暴竜に喧嘩を売ったのかと思いましたが、またですか。いつの日にか見た記憶があります。結界を張って助けたような気がしてしまう。
前回は迷惑な魔王様が飛ばしてきました。そのお詫びだと言って菓子折りを持っていらしたのは、記憶に新しいです。
今回はどうもあの方が関わっているわけではなさそうですね。どうやら、迷い込んだのでしょう。
仕方がありません。また助けてあげましょう。
女が結界を設置しようと、予定箇所に手を向ける。
そこで、ピタリと止まった。あれ? 渡り合えている?
結界の発動を躊躇ってしまう。
戦場では血が舞った。それと同時に腕が本体を離れて踊っている。押されているのは黒龍の方?
私がこの世に来る前から存在していらっしゃった、あの暴竜バハムートが押されている。前回動くことさえできなかったあの少女が、仲間とか関係なく、一人で、渡り合っていらっしゃる。この短期間でどこまで成長されているのでしょう。まさか、すでにレベルが四桁に達しているのではないでしょうか。
そこまでされたら、それを見せつけられたら、期待してしまうではありませんか。
私の本懐が遂げられることを。
黒龍が、先をなくした右腕を振り回しながら、左腕を振るう。剛速の左腕も、高速の尾撃も、魔術も、全てを駆使する。
シキは超至近距離ですべてに対処していく。回転するように左腕を回避し、尾撃はナイフで往なし、魔術は風で掻き分けた。
ピシリピシリと脳に刻み込まれていく。死が目前にある。この状況が、シキの成長を加速させていく。
その輪の中にコストイラが入っていく。
コストイラはシキほど完璧に対処できるわけではない。頬や腕に細かい傷を創りながら、それでも致命傷は避けていく。
絶人や壊人ほど壊れているわけではない異人アシドはその輪に入っていけない。
黒龍が左の凶爪をシキに突き出した。シキは後ろに跳び、軽々と躱す。そして、シキは空中で回転し、踏みつけるように足刀を繰り出した。
現代の兵器で言えば、銃や大砲、それ以上のミサイルでさえ弾く竜の鱗だ。しかし、シキの足刀はそんな竜の鱗を砕き、その下の腕は骨を露出させる。
黒龍は痛みに叫び出したくなるが、我慢して尾撃を繰り出した。
コストイラは無視されたことにキレながら、刀を振るった。尾は斬れない。しかし、傷はついた。
来た。オレは成長できている。
それに喜びを覚え、サメのような笑みを浮かべた。
黒龍の意識がコストイラに向く。シキはその隙に喉を切り裂いた。
嗚呼、光が……消えた。
バハムートは手を伸ばす先を失い、そのまま倒れた。
星の光が明るいのだ。空を彩る星々が、一種の幻想を創り出していた。
あまり景色に感情を動かされるタイプではないアシドも、今ばかりは感動していた。
そんな時間さえ感動し、進むのが遅れていく中、一人の男が雰囲気をぶち壊した。
アレンである。アレンは大量に舞っている魔素に耐えきれず、吐き気を催しているのだ。
「……大丈夫、じゃなさそうだな」
「……そうでずね」
発言に濁音がついている。もう駄目らしい。
「仕方ねェ、ここらで休むか」
「あの、あぞごに、建物が」
「あん?」
休憩場所を探そうと辺りを見ていると、アレンが指を差した。
そこには、石槍のように聳える塔。遠くからでも分かる巨大な扉。レンガ調の壁。
見覚えのある、魔王インサーニアの城だ。
「何でこんなとこに?」
しかし、全てが一致しているわけではない。周りにあった豊かすぎる程の黒く、死に溢れた森は数を減らしている。ここにあるのは、ただ膨大な、漠然と広がる大地だった。
ギュムギュムと足裏で、この土地の土を確かめる。
「オレはこの土を知っている?」
「土?」
「ここに来たことがある?」
ここ、というかこの城には来たことがある。それどころか、攻略だってした。シキやアストロなら、目を瞑ったままでも謁見の間まで歩けるだろう。辿り着くだけなら簡単だ。
その時、コストイラの脳裏に、黒い鱗と鋭い眼光が過ぎった。
侍が顔を跳ね上げ、城を見た。
訪れることのなかった王室の窓から視線がきている。竜だ。あれは竜だ。先程の一本角のようではなく、誰が見ても分かる竜だ。
『グォオオオオオオオオオオッッッ!!!』
竜が咆哮した。その咆哮に合わせて翼を広げ、城上部を破壊する。
瓦礫が雨のように降り注ぐ。レイドやアストロが独特なステップを踏んで、瓦礫を躱していく。
そんな中、コストイラはその場を一歩も動かず、爽やかな笑顔を竜へと向け、両腕を広げた。
あぁ、帰ってきたぞ、クソ竜。
大きな翼を広げた竜が、二足で降り立った。
足元から頭の頂点まで約3m。角を含めれば、3m20㎝はあるだろう。
上から下、また、尾の先までびっしりと生えているのは黒い鱗。最初はブラックドラゴンかと思ったが、違う。その鱗は黒というより濡れ羽色で、艶やかさがある。
口の端から溢れ出ているのは、紫炎。見たことのない鮮やかな色に、目を奪われる。その美しさを形容する言葉は見つからず、神が本気を出してデザインしたと言われたなら、信じてしまうだろう。
蝙蝠のような尖った翼。その翼の面部分には網状脈のように紫の線が入っている。
全身から発せられるオーラ。全てがこちらを圧倒してくる。あの時は何もできなかった。武器に手を伸ばすことさえ許されなかった。
あの時の威圧感は健在だ。しかし、あの時のような絶望感はない。こちらも十分に強くなったのだ。
『グォオオオオッッッ!!』
再び大声量の雄叫びに、アレンの意識が飛び去った。
雄叫びに合わせて、黒い鱗から、紫炎とは違う光が目映く放出された。魔力ではない、純粋な発光だ。
コストイラはその音と光に冷や汗を流しながら、刀を抜き、構えた。ぺろりと唇を舐める。大丈夫だ、動く。
これは決して理不尽じゃない。ドラゴンが持つ特有の威容威圧はあれど、体が動かなくなるほどではない。アイケルスやヲルクィトゥと戦った時の方が、もっと絶望感があった。
コストイラがサメのような笑みを浮かべる。
黒龍は咆哮とともに、自らを補強。筋力増強、魔力向上、速度上昇《スピードアップ》。
黒龍が消えた。
次の瞬間、黒龍はコストイラの隣にいた。止まることなく、右の凶刃が振るわれる。
コストイラは切っ先を下にするように、刀を縦にし、爪を受け止めた。力では戦闘馬鹿の方が上だ。耐えられる。
鍔迫り合いをしている時に、後から土埃が舞った。それほど早い動きだということだろう。その程度であれば、アストロやエンドローゼでも追い着ける。
左の凶爪が振られる。コストイラは左の凶爪を、右の凶爪ごと円を描くようにして弾いた。
黒龍の両手が弾かれた。しかし、竜には第三の手がある。
尾だ。
黒龍の尾が槍のように伸びる。行動の直後のコストイラはそれを避けきることができなかった。
「チ」
コストイラの脇腹が少し削れた。軽快なステップで後退する。
黒龍はコストイラとの距離を見極め、すぐに口内に魔力を溜めていく。その口から竜巻のような突風が吐き出された。アストロの方に向かって。
アストロは黒龍に牙を突き立てようとして、魔力を練っていったのだ。黒龍はそれに勘づいていた。だからこそ排除しようとしたのだ。
レイドがアストロの前に立つ。大楯で黒龍の突風を弾いた。
とはいえ、レイドの持つ大楯は、魔力を軽減するものであって、無効化するものではない。月天石の楯はかなり優秀だ。龍神よりも強いかもしれないと言われる黒龍の突風さえ、七割から八割も減衰させた。
しかし、それでもレイドの限界を超えた。
「ぬぁ!?」
レイドが後ろに転がる。アストロは「ありがと」と小さく礼を述べながら、魔術を放った。
黒龍は右手の甲で受け止める。鱗に当たり、魔術は霧散し、消えた。
まただ。また魔術があまり効かない相手だ。魔術耐性あるやつが許せねぇ。
アストロの中で、何かが切れた。
ドロリとした感情がアストロの中で流れる。その気持ちを体現するように足元から黒い靄が落ちた。それが黒龍へと向かう。
心がすっきりしている。今まであったズシンと来ていた吐き気が来ない。トラウマがトラウマではなくなったのだ。トラウマを克服したのだ。
魔法が変質した。進化ではなく変質だ。ドロドロとした黒い靄は変わっていないが、おそらく内容も変わっている。
大丈夫か? これは私の思っている通りの魔法か?
不安になるアストロを余所に、コストイラが一気に懐へと入っていく。止まることなく振るわれる刀撃を、黒龍は右の手の甲にある鱗で受け止めた。鱗は硬く、砕けなければ切ることもできない。
コストイラは反撃されることを嫌い、すぐに離れる。
入れ替わるようにアシドとシキが参戦する。
アシドが槍を振り下ろす。黒龍はそれを左の手の甲の鱗で受け止めた。
お返しと言わんばかりに、尾が槍のように突かれる。アシドは腰の動きだけでそれを躱した。
黒龍はそれを読んでいたかのように、尾を薙いだ。
「ぐ!?」
脇を襲撃したそれは、軽々とアシドを持ち上げる。アシドは速さを求めるため、体重を軽くしており、75㎏しかない。
シキはその間に距離を詰め、回転蹴りを繰り出した。黒龍はアシドを止めた左手をそのまま運用する。
黒龍の左手の鱗は散り散りに砕け散り、その下にあった手が折れた。開きっぱなしになってしまい、もう握ることができない。
その威力に竜は目を丸くする。
これを好機だと見たコストイラが一気に距離を消した。
黒龍は×状にして魔力を溜め、一気に解放する。その瞬間、黒龍を中心とした突風が吹き荒んだ。
「ぐぉ!?」
「ム!?」
黒龍の近くにいたコストイラとシキは真正面から、まともに突風を浴びてしまう。
コストイラは耐えきれず、吹き飛ばされる。
シキは体の周りに風を纏い、黒龍の突風を掻き分け、その場に留まった。
黒龍は目を丸くする。これも耐えるのか。
風に髪がはためくのを押さえながら、女が一人、戦闘を見下ろしていた。
破壊された元魔王城内は、足場がないほど瓦礫で埋め尽くされている。斜めとなっている瓦礫に、バランスを取りながら立ち、天井のなくなった王室から覗いていた。
どこの誰が、太古から存在している暴竜に喧嘩を売ったのかと思いましたが、またですか。いつの日にか見た記憶があります。結界を張って助けたような気がしてしまう。
前回は迷惑な魔王様が飛ばしてきました。そのお詫びだと言って菓子折りを持っていらしたのは、記憶に新しいです。
今回はどうもあの方が関わっているわけではなさそうですね。どうやら、迷い込んだのでしょう。
仕方がありません。また助けてあげましょう。
女が結界を設置しようと、予定箇所に手を向ける。
そこで、ピタリと止まった。あれ? 渡り合えている?
結界の発動を躊躇ってしまう。
戦場では血が舞った。それと同時に腕が本体を離れて踊っている。押されているのは黒龍の方?
私がこの世に来る前から存在していらっしゃった、あの暴竜バハムートが押されている。前回動くことさえできなかったあの少女が、仲間とか関係なく、一人で、渡り合っていらっしゃる。この短期間でどこまで成長されているのでしょう。まさか、すでにレベルが四桁に達しているのではないでしょうか。
そこまでされたら、それを見せつけられたら、期待してしまうではありませんか。
私の本懐が遂げられることを。
黒龍が、先をなくした右腕を振り回しながら、左腕を振るう。剛速の左腕も、高速の尾撃も、魔術も、全てを駆使する。
シキは超至近距離ですべてに対処していく。回転するように左腕を回避し、尾撃はナイフで往なし、魔術は風で掻き分けた。
ピシリピシリと脳に刻み込まれていく。死が目前にある。この状況が、シキの成長を加速させていく。
その輪の中にコストイラが入っていく。
コストイラはシキほど完璧に対処できるわけではない。頬や腕に細かい傷を創りながら、それでも致命傷は避けていく。
絶人や壊人ほど壊れているわけではない異人アシドはその輪に入っていけない。
黒龍が左の凶爪をシキに突き出した。シキは後ろに跳び、軽々と躱す。そして、シキは空中で回転し、踏みつけるように足刀を繰り出した。
現代の兵器で言えば、銃や大砲、それ以上のミサイルでさえ弾く竜の鱗だ。しかし、シキの足刀はそんな竜の鱗を砕き、その下の腕は骨を露出させる。
黒龍は痛みに叫び出したくなるが、我慢して尾撃を繰り出した。
コストイラは無視されたことにキレながら、刀を振るった。尾は斬れない。しかし、傷はついた。
来た。オレは成長できている。
それに喜びを覚え、サメのような笑みを浮かべた。
黒龍の意識がコストイラに向く。シキはその隙に喉を切り裂いた。
嗚呼、光が……消えた。
バハムートは手を伸ばす先を失い、そのまま倒れた。
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