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33.魔大陸
40.異界の姫
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そこにあったのは寺だった。禍々しい雰囲気の近くにあるものとは思えず、疑ってしまう。
ここはバハムートと戦った場所から、二日ほど歩いたところにある場所だ。いかなる土地よりも魔素が濃く、アレンはもう立っていられない。どうにか適応したらしいアストロ達は、それでもきつそうな顔をしている。涼しい顔の裏で脂汗。かなりの我慢強さだ。
寺の奥には空間の罅割れがあった。濃い紫のような色をした、渦巻きがそこにあった。
それは闇の空間。この先に何があるのか、覗く者の全てを拒む何かで満ちている。
飛び込んだ者が平気でいられるわけがない、と考えてしまう圧倒的な重厚感。だというのに、その中に何とも言えぬ親しみやすさも感じた。
それが何か正確には分からない。この何とも言えぬ感覚を共有しようとした時、家の扉が開いた。寺の脇にあった小屋である、
出てきたのは160㎝あるかないかの少女だ。紅白の巫女服に身を包み、それに似合う黒と茶の中間色のような髪を持つ少女は、こちらを一瞥すると、机を出してきた。
「机?」
「机だな」
「机ね」
澄まし顔の少女は机を複数並べると、それ相応の数の椅子も並べだした。
八つの椅子を並べ終えたところで、少女はこちらを視た。
『話し合いで解決いたしましょう』
それは事実上の降伏宣言だった。
自らの名をブサウと名乗った少女は、どうやらお茶会の準備をしていたらしい。テーブルの上には馥郁たる香りを放つ紅茶と、お腹を空かせにかかってくるケーキセットがある。
「……三段ある」
「何、これ?」
コストイラとアシドは、アフタヌーンティーセットをまじまじと見つめ、どうすればいいのか悩んでいた。
「昔、母や妹がお茶会で使っていたな。私は参加していなかったから、マナーやルールは分からんな」
レイドが眉根を寄せて、アフタヌーンティーセットを睨んでいる。
「わ、わ、私は、ゴー、ル様方が、よ、よ、よくお茶会で使っていらーしゃったので、な、な、何となく」
「私は学舎で生き残るために、貴族とのコネクションを作る必要があったから、必死に覚えたわ」
知っている二人は主人の開始の合図を待っている。
「僕も知らないですね。というか、何で積んであるんですか、三段」
アレンは、アシドやコストイラと同じように、目線の高さを二段目に合わせて、覗いている。
「テーブルに広さがないから。横に置けない分、縦に置いている。私はマナー分かる。アレン、任せて」
意外にもシキは知っている側の人間だった。
『さて、準備が整いました。では、お茶会を始ましょうか』
「頂戴いたします」
「で、何から食べるとかあんの?」
いただきます早々、コストイラが首を傾けた。まず何からすればいいのだろうか。下段のサンドウィッチ? それともスコーン? 上段に佇むフルーツのタルト? パウンドケーキ? もしかして紅茶か? それともこの硬そうな白いバターか何かからか?
「コストイラ」
カチャとかなり小さくソーサーとカップの合わせる音を立てて、アストロがコストイラを見た。
「マナーなんて、あってないようなものよ。食事は楽しむものなんだから」
「え、えぇ……?」
『その通りです。軽くものを摘まみ、軽くお茶を飲み、後は読書したり、音楽を聴いたりすればよいのです』
マナーやルールがありそうだというのに、そんなものないと言われ、コストイラは悩んでしまう。
「このサンドウィッチは?」
「昔、サンドウィッチに野菜を挟んでいたのよ」
「ホン?」
「野菜を挟めるほどの余裕があるっていう、貴族のステータスだったの」
「つまり、塩分」
『ちなみにこれはキュウリではなく、程よい塩味の野菜です』
コストイラは説明を聞きながら、サンドウィッチを口に含む。確かに塩味がある。おやつというより食事な気になってくる。
「次はどれを食べるか」
『次はスコーンですね。手で上下に割って、このクロテッドクリームを乗せて食べます。私の手作りですので、パサパサしていたらごめんなさい』
レイドが恐る恐るスコーンを割り、クリームを乗せる。毒とか入っていないよな。
『最後にケーキですが……』
「甘味が少ない。これはいいケーキ」
三段のアフタヌーンティーセットの最上段に鎮座するケーキを自慢しようとするブサウを差し置いて、シキが感想を述べる。遮られたことで、少しブサウが頬を膨らませる。
「つーか、本題は何なんだ? お茶会の前に話し合いをしようって言ってたよな」
『はい、言いました』
「それって、何の話なんだ?」
『ンン、それでは』
コストイラは舌の中で甘さを探しながら、話し合いを所望した。お茶会が楽しすぎて、八割方話し合いのことを忘れていたブサウは咳払いをし、真面目な顔となった。
『では、まず大事なこととして、一つ』
改まった雰囲気となり、全員が襟を正す。
『私はこの世界のものではありません』
勇者一行と異界の姫による、不思議な話し合いが始まった。
ここはバハムートと戦った場所から、二日ほど歩いたところにある場所だ。いかなる土地よりも魔素が濃く、アレンはもう立っていられない。どうにか適応したらしいアストロ達は、それでもきつそうな顔をしている。涼しい顔の裏で脂汗。かなりの我慢強さだ。
寺の奥には空間の罅割れがあった。濃い紫のような色をした、渦巻きがそこにあった。
それは闇の空間。この先に何があるのか、覗く者の全てを拒む何かで満ちている。
飛び込んだ者が平気でいられるわけがない、と考えてしまう圧倒的な重厚感。だというのに、その中に何とも言えぬ親しみやすさも感じた。
それが何か正確には分からない。この何とも言えぬ感覚を共有しようとした時、家の扉が開いた。寺の脇にあった小屋である、
出てきたのは160㎝あるかないかの少女だ。紅白の巫女服に身を包み、それに似合う黒と茶の中間色のような髪を持つ少女は、こちらを一瞥すると、机を出してきた。
「机?」
「机だな」
「机ね」
澄まし顔の少女は机を複数並べると、それ相応の数の椅子も並べだした。
八つの椅子を並べ終えたところで、少女はこちらを視た。
『話し合いで解決いたしましょう』
それは事実上の降伏宣言だった。
自らの名をブサウと名乗った少女は、どうやらお茶会の準備をしていたらしい。テーブルの上には馥郁たる香りを放つ紅茶と、お腹を空かせにかかってくるケーキセットがある。
「……三段ある」
「何、これ?」
コストイラとアシドは、アフタヌーンティーセットをまじまじと見つめ、どうすればいいのか悩んでいた。
「昔、母や妹がお茶会で使っていたな。私は参加していなかったから、マナーやルールは分からんな」
レイドが眉根を寄せて、アフタヌーンティーセットを睨んでいる。
「わ、わ、私は、ゴー、ル様方が、よ、よ、よくお茶会で使っていらーしゃったので、な、な、何となく」
「私は学舎で生き残るために、貴族とのコネクションを作る必要があったから、必死に覚えたわ」
知っている二人は主人の開始の合図を待っている。
「僕も知らないですね。というか、何で積んであるんですか、三段」
アレンは、アシドやコストイラと同じように、目線の高さを二段目に合わせて、覗いている。
「テーブルに広さがないから。横に置けない分、縦に置いている。私はマナー分かる。アレン、任せて」
意外にもシキは知っている側の人間だった。
『さて、準備が整いました。では、お茶会を始ましょうか』
「頂戴いたします」
「で、何から食べるとかあんの?」
いただきます早々、コストイラが首を傾けた。まず何からすればいいのだろうか。下段のサンドウィッチ? それともスコーン? 上段に佇むフルーツのタルト? パウンドケーキ? もしかして紅茶か? それともこの硬そうな白いバターか何かからか?
「コストイラ」
カチャとかなり小さくソーサーとカップの合わせる音を立てて、アストロがコストイラを見た。
「マナーなんて、あってないようなものよ。食事は楽しむものなんだから」
「え、えぇ……?」
『その通りです。軽くものを摘まみ、軽くお茶を飲み、後は読書したり、音楽を聴いたりすればよいのです』
マナーやルールがありそうだというのに、そんなものないと言われ、コストイラは悩んでしまう。
「このサンドウィッチは?」
「昔、サンドウィッチに野菜を挟んでいたのよ」
「ホン?」
「野菜を挟めるほどの余裕があるっていう、貴族のステータスだったの」
「つまり、塩分」
『ちなみにこれはキュウリではなく、程よい塩味の野菜です』
コストイラは説明を聞きながら、サンドウィッチを口に含む。確かに塩味がある。おやつというより食事な気になってくる。
「次はどれを食べるか」
『次はスコーンですね。手で上下に割って、このクロテッドクリームを乗せて食べます。私の手作りですので、パサパサしていたらごめんなさい』
レイドが恐る恐るスコーンを割り、クリームを乗せる。毒とか入っていないよな。
『最後にケーキですが……』
「甘味が少ない。これはいいケーキ」
三段のアフタヌーンティーセットの最上段に鎮座するケーキを自慢しようとするブサウを差し置いて、シキが感想を述べる。遮られたことで、少しブサウが頬を膨らませる。
「つーか、本題は何なんだ? お茶会の前に話し合いをしようって言ってたよな」
『はい、言いました』
「それって、何の話なんだ?」
『ンン、それでは』
コストイラは舌の中で甘さを探しながら、話し合いを所望した。お茶会が楽しすぎて、八割方話し合いのことを忘れていたブサウは咳払いをし、真面目な顔となった。
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