メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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33.魔大陸

45.撲朔謎離

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 僕の前に立ち塞がったのは、明らかに勇者一行の中でも弱い奴だ。

 150㎝の低身長を丸めて、先に活かせないようにしている。しかし、恐怖のせいか体が震えている。

「僕の相手が君かい? 本当に?」
「こ、これでも僕は勇者一行ですからね」

 強そうなことを言っているが、やはり手足が震えている。

 右目の上には切り傷があり、左目の周りにも傷。右腕には火傷の痕。左腕には貫通痕。右耳はすっぱりと切れており、左耳は無造作に破ったようにボロボロ。
 よくこれで生きているな。ちょっと同情してしまう。

 僕は弱者の味方でありたい。弱い者いじめをしたくない。
 どうしよう、戦う気が引ける。レイヴェニアに助けを求めようにも、相手と楽しそうに戦っている。声を掛けられない。どうしよう。

 え、うわ。

 横から炎がやってきた。全くキスレは周りを巻き込みがちで困る。対処できるから増長するんだろうな。

「うぎゃあ!?」

 獲物のナイフで炎を薙ぎ払ったところ、僕の相手が炎を浴びた。地面をゴロゴロと転がり、火を消している。

 僕、本当にこの人と戦うのか?

 戦いの余波に髪を揺らしながら、相手に憐憫の視線を送ってしまう。

「本当に戦うんですか?」
「言いましたよね。僕は勇者一行の一員なんです。ここで貴方に立ち向かわなくてはいけないんです。僕が、アレンであるために」

 駄目だ。この人は止まる気がない。戦闘は弱いけど、精神は強いんだ。いや、強く在ろうとしているんだ。僕が憐憫を向けるような相手じゃない。向けていいような相手じゃないんだ。

「分かったよ。君がその気なら、僕もその気で行くよ」





 帝国歴2000年。西方の小さな国、ハンブルクにとある事件が起きた。後に”人狼事件”と呼ばれるそれは、人口3000人の国においてはすでに広まってしまった。
 農業や牧畜をしていた、ほのぼのとした国だった。

 そんな国である日、子供がいなくなった。家の手伝いをサボり、余所で遊んでいる子だったため、最初は親も怒っていた。そんな遠くまで行っているのか、と。
 しかし、一日経てば親も心配してくる。たかだか3000人の国では噂の広がりは早いのだ。

 その子を探し始めて四日、ワンチェンピアン山で、決定的な物を発見した。ばらばらになった手足である。
 見つかった左手には行方不明となっていた子の嵌めていた指輪があった。つまり、子は殺されたのだ。

 ハンブルクは一気に恐怖した。何が子を殺したのか分からないのだ。何に対して恐怖すればいいのかが分からないため、より恐怖心を煽られる。

 この事件はチェシバルのベート事件と違うのは、女子供だけでなく、大人の男も被害に遭っていることだ。

 もう一人。もう一人。また一人と消えていく。

 そんな時、一人の女が事件現場を目撃した。

 火の焼き印で付けた屮のような目。この頭なら一口で入るくらいの大きな口。鋭く光り輝く牙。2m50㎝の巨大な身体。月明かりを反射する金色の体毛。
 月明かりが薄暗いせいで、全体がよく見えなかった。それでも分かる。二足で歩く高い異常性イレギュラーの狼だ。

「キャアアアア!!」

 女は走り去る。狼は追わない。気付いていたが、そこに意識を割かなかったのだ。

 その人狼事件の犯人こそがサーシャである。
 サーシャこそが事件の名に冠される人狼そのものなのだ。

 人間としての容姿は本物の少女よりも美少女であり、本物の男子よりも美男子であった。周辺国で一番可愛い子供だった、声変わりをしておらず、ショートカット、起伏の薄い体、一人称が僕。結局、男女どちらなのか、国の人は親以外知らない程だ。

 サーシャはその美しさから国王に子供にならないか、と誘われたことさえある。

 女からはその美貌で妬まれていた。
 男からはその人外じみた強さを嫉まれた。

 人狼は町に紛れるために、外面は人と何ら変わらない。そのため、10歳のこの体で、鉄に穴をあける程のパンチを繰り出せるのは、恐怖の対象だ。
 疎まれ迫害の対象ターゲットにされたサーシャはイジメられた。サーシャは力の制御が上手くできなかったため、反撃をしなかった。いじめっ子は増長した。

 親のいなかったサーシャにとって、心の支えは一つもなく、徐々に心を閉ざしていった。
 自分は強大な力を持っていながら、心は弱者である。
 そう思うと、さらに塞ぎ込んでいった。

 そんな時、サーシャはレイヴェニアと出会った。

「おぉ、面白い童じゃ。戦士の目をしておるのに、弱者の色もしておる。興味しか湧かん」

 子供扱いする女に苛立っていく。一週間も纏わりつかれたことで、限界に達したサーシャはレイヴェニアに力を使った。

 鉄板に穴をあけ、人体を引き千切る拳を繰り出す。大気を引き裂く拳はその威力に耐えきれず、裂傷ができていく。
 レイヴェニアは利き腕ではない左手の、しかも人差し指と中指の二本で挟んで止めた。

「才能はあるが、使い方がなっておらんな。どれ、ヴェーが使い方を教えてやろうか」
「え」

 サーシャがレイヴェニアの色に濡れている瞳を見つめる。

「目的は何?」
「無論、ヴェーにも考えはある。下心と言ってもよい。そうじゃの、夜、抱き枕にでもなってくれれば構わんぞ」

 サーシャは鼻に皺を寄せながら、レイヴェニアの豊満な双丘を見た。

「それが褒美になるの?」
「なる」

 即答され一瞬気圧される。その驚き顔を両手で挟み、上から覗き込んだ。

「で、どうするのじゃ?」

 その瞳に吸い込まれたサーシャはレイヴェニアの弟子となった。




 サーシャは目の前の四つん這いの男を見る。
 やはり戦わない方がいいだろう。気絶でもさせて、戦場の外に寝かせるのが一番だ。

 足の筋肉に神力を流し込む。

 さぁ、スタートを切ろう。
 その時、上から翼の生えた人が下りてきた。
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