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33.魔大陸

48.今昔之感

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 紺色のローブを着た長身の者がエンドローゼを見ている。2mを超えたところから見下ろされるのは少し怖い。かか様が見下ろす程の身長があったからだろう。

 しかし、そのローブの者は寡黙だ。まだ一言も発していない。

 ローブの者は右腕を腰元に当て、そのまま腰を折った。

『愛しき者よ』

 はっきりとした声ではない。いくつかの声を束ねて一つにしたようなものだった。

「な、な、何でしょうか」
『私は目的があってここまで来ました。しかし、それとは関係なく、貴女レディに頼みごとがしたい』
「な、な、な、何で、しょうか」

 ローブの者、ネレイトスライは腰を元に戻した。

 ネレイトスライは顔に着けていた仮面を外した。人間の縁日で売られている一般的な仮面の下には、あまり一般的ではない骸骨の顔。
 エンドローゼが少なからず目を張った。しかし、それだけだ。その先の言葉を待つ。

『貴女は回復術士だとお見受けする。そこで淑女レディ
「は、はい」

 二人の周りに炎の絨毯が敷かれていく。コストイラとヲレスタのおかげで、エンドローゼ達の元まで届かなかった。

 ネレイトスライは再び右腕を腰元に当て、左手をエンドローゼに向ける。

『私と手合わせをしてほしい。回復術士あなたというものを教えてほしい』

 骸骨の体であるため、臓器らしい臓器は存在していない。それでも、瞳が力強くこちらを射抜いているように感じた。

「わ、わ、私―も、で、出来得る限りの、こ、事はしましょう」

 エンドローゼは慣れない格闘の構えをした。




 ネレイトスライは敬虔なガラエム教徒の家庭に産まれた。ガラエム教徒の中でも特に多くの優秀な魔術師を輩出している名門だ。

 ネレイトスライも例に漏れず優秀な魔術師であった。人よりも多くの知識を蓄え、人よりも難しい魔術を習得していった。
 その実力を驕ることなく、冒険者をしていた。

 そんなある日、冒険者仲間が怪我をした。仲間を守り切ることができなかった悔しさの他に、それを治すことができない怒りも芽生えた。

 回復を覚えたい。

 聖職者になりたいと願った男は、教会を訪れた。しかし、追い返されてしまった。回復術士としての適性がなかったのだ。

 しかし、その程度で諦める夢など持ち合わせていなかった。
 ネレイトスライは諦めることなく文献を漁った。才能がなくとも、人を回復させる術があるはずだ。
 そこで辿り着いたのが、魔大陸。世界の果て、その始まりの地へ行くと、願いが叶うというものだ。
 もはやどこから根拠を持ってきたのか分からぬ寓話にさえ縋らなければならないところまで来ていた。

 血走る眼のまま、魔大陸へと向かう。しかし、年老いたネレイトスライは力尽き、死んでしまった。
 その無念から、骸骨になり、残り続けることになった。

 そんな時だった。ショカンと出会ったのは。

『君をそうまで動かす執念。いや、ここはあえて信念と呼ばせてもらうよ。その突き動かす信念は、君の中で絶対のものなのかい?』
「信念。つーか、意志強すぎだろ」
「死んでもなおってのはっ、恐ぇなぁっ」
「よい素材なのじゃがな。生に欠けるのぉ」
『言いたい放題ですね』

 肉も皮も失った魔術師は、身分を捨てた侍、強き者を求める拳闘士、世界を変えんとする鍛冶師と見ていき、最後に仮面の大男を見た。

『私はこの信念は絶対のものだと考えております。むしろ、私の全てと言ってもいいでしょう』

 ネレイトスライには目がない。骸骨なのだから当たり前だろう。だというのに、鋭い眼光を受けた錯覚をしてしまう。別段、そこまで強いわけではないのだが、その眼光によってキスレとヲレスタが反応してしまった。




 ネレイトスライは腰を落とし、一気に走り出した。
 エンドローゼが目を張る。ネレイトスライの持つ魔力の流れを見れば、回復術士ではなく魔術師であるのは確定だ。それなのに、前衛のようなことをしようとしているのか?

 エンドローゼはネレイトスライを見ながら、キッと顎を引いた。
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