メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
40 / 684
3.魔法の森

4.岩と泥

しおりを挟む
 コストイラは顔を真っ赤にしていた。恥ずかしさと怒りが含まれている。



 アシドはコストイラの姿を見て、思い切り笑う。



「コストイラ、お前なんだその姿っ!」



 申し訳ないが、アレンも笑ってしまった。過去に笑われたことへの意趣返しも含まれているが、それがなくても笑ってしまった。



「泥まみれじゃん。ぷっふ、どうしたんだよ、お前」



「普通に泥浴びた」



 アシドはツボに入ったようだ。コストイラはやり場のない怒りに体を震わせる。泥にまみれた瞬間の記憶を思い出し、落胆した。



「くそぉ、もう夜になるし、寝床を見つけなきゃいけねェのに水場も探さなきゃいけねェじゃねェかよ」



 コストイラは舌打ちをすると自身の顔を覆った。顔も手も泥だらけなので気にしない。



「頑張れ」



 アストロが鼻で笑うと、コストイラは小さく息を吐き、近くにあった岩に体を預ける。



「休んでないで探すぞ」



 アシドに半笑いで言われ、コストイラはお前らも泥にまみれろと、怨嗟を心の中で漏らす。



「ぐぅふっ!」



 コストイラの体が吹き飛んだ。コストイラは顔面から着地する。コストイラの顔の泥が削れた。見ると、岩場が動いており、物理的に重い腰を上げていた。



『ゴアアアアアア!!』



 外部からの刺激を受けた岩石のような魔物、ボールダーは眠りから目覚め、邪魔されたことに怒り出す。怒らせたコストイラは全く見ていなかった。



「コストイラさんは僕が見ていますね」



「了解」



 アレンが告げると、アシドは槍を回しながら答える。アレンは叢を抜けると、コストイラが脇腹を押さえながら立っていた。



「またかよ」



 コストイラの目の前にはまたしてもマッドスライムがいた。















 夕方か夜かと言われると夜と答える人が多い時間帯。しかし、まだ太陽光が少しだけ照らしてある。これから徐々に暗くなっていく様に、ボールダーの姿が見えなくなっていた。



「とっととケリをつけなきゃ厳しいか」



「私の魔術で明かりをつけましょうか?」



「森を燃やそうとするな」



 アシドは、張り詰めた空気を緩めようとアストロがジョークを言ったので笑ってあげようとするが、うまく笑えない。さっき笑いすぎて表情筋が痛い。あのアストロが気を遣っている。アレンが少々失礼なことを考えていると、アシドがボールダーに突っ込む。



 ただの牽制のつもりで放った突きは、避けられることなく、無防備な腹に当たる。



「何!?」



 軽い突きだったとはいえ、傷が一切ついていない。



『ゴゥン』



 ボールダーはその岩の腕を横に薙ぐが、アシドは悠々と後ろへ飛び退き躱す。岩に炎も電気も通りにくいと考え、アストロは初めて水魔術を人前で披露する。



 アストロが両手を前に出し、魔法陣が出現し、濁流が飛び出してくる。



「うおっ!あっぶな!」



 アシドは巻き込まれるギリギリで木にしがみ付く。



『ゴゥン!!』



 ボールダーの前傾姿勢となり、流れに抗う。しかし、関節部の隙間に水が入り込み、体が崩れていく。



 アシドが木に摑まりながらギャーギャー言っているが、アストロの耳には届かない。水やら土砂やらの音にかき消されてしまった。まぁ、聞こえていたとしてもアストロに響いたかは別である。















 戦い方は先ほどと同じである。炎で固め、そして叩く。



 マッドスライムは必死に固まっていく泥を剥がし、抵抗するが間に合わない。



 アレンが僕必要ないなと思っているとは夢にも思わず、コストイラはマッドスライムを斬りにかかる。もちろん、先程と同じ結果になる。すなわち、泥が噴き出てくる。すでに泥にまみれているコストイラは気にしない。



「……え?」



 アレンは泥を被るハメになった。



「こっち来なきゃよかったな」



「…………そうですね」



 アレンとコストイラはアストロ達と合流すると笑われた。



 いつか報復してやりたいが、その仕返しが怖いのでやらないようにしよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...