メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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24.深層の備え

3.幻想のパワー

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ガハハと調子に乗るアシドの後ろで、小さくアレンが拍手する。

「凄いですね。本当に撃破してしまいましたね」
「そうね。でも、あの反応、たぶん本人が一番驚いているわ」

 ガッツポーズをして、長すぎるウイニングランを走るアシドに、冷たい視線を送る。

 ビクリとアシドの背が凍った。アシドが驚いて振り向くと、シキがいる。恐ろしいほどの殺気が叩き込まれる。アシドのマインドがブレイクしてしまいそうだ。

「次は私がやる」
「お?何か燃えてんなぁ。別にいいんだけどよ」

 背後に、真っ赤な炎を携えて、キリングマシーンシキがエントリーした。

「あ、あ、アストロさん。これって」
「えぇ、何があったかは知らないけど、好転したわね」

 乙女の会話に気付かず、アレンが珍しがる。あのシキが自分から行動するなんて。父親との戦いで沈んでいないか心配だったが、問題なさそうだ。

 今度はシキを先頭にして歩く。シキが先頭を行くのはかなり珍しい。というか今までにはなかったのではなかろうか。

 しばらく歩くと、ボッと光っているものが見えた。今度はピンクではなく黄色だ。転移させてきたエンシェントコアの方だろう。

「イク」

 短く言い残すと、すぐに駆けだした。狙いは討伐タイムのアシド越えだ。

 紫紺のナイフと薄緑のナイフを抜き、速攻する。薄緑のナイフで傷を創り出し、その中に無理矢理紫紺のナイフを差し込む。
 内部まで石のようで、紫紺のナイフで切ることができない。

 シキは然の魔剣を恐るべきスピードで振り回し、エンシェントコアをバラバラにした。いつもより多くバラバラにした。

 ムフーとやり切った顔をする。対抗されたアシドはムググと顔を顰めさせている。

「ほら、褒めてあげなさい」

 アストロに背を叩かれたアレンは、少し困りながら褒め言葉を探す。

「凄いですね。シキさんがいればかなり安心できますね」

 シキは相変わらず無表情のままだが、どこか嬉しそうにも感じられた。

 シキが満足したのか、先頭はコストイラになっていた。コストイラはこだわりがないので何も気にしない。

 魔物が出てくることも、床が抜けること等のトラブルが起きることもなく、洞窟の出口に辿り着く。
 光の差すところを目指し、上り坂を歩き始めた。




 カゴメの特選アップルパイ。それはこの世の食べ物とは思えない程洗練された、神の手によって作られたが如き食べ物である。
 生地のパイ部分のサクサク感、中の林檎は甘さを残しつつ酸っぱさもあり、絶妙なマッチングで美味しすぎる。それどころか、外のパイと中の林檎とその餡もマッチしている。

「美味い! 美味すぎて馬になりそうだわ」
「言っている意味が分かんねぇ。つか、歩きながら食うなよ。行儀悪いぞ」
「美味いもんは行儀悪くなっちゃうんだよ」
「お家で食べる分がなくなってしまいますよ~」

 移動販売をしに来たカゴメから購入した特選アップルパイを、カレトワは頬張っている。そのカレトワが発した冗句に、ロッドがげんなりとしている。止めるように言うが、カレトワには効かない。アスミンがおずおずと指摘するが、構わず口に放り込む。

「ん?」

 咀嚼を続けるカレトワがある一点を指差す。指の先には、涙を流す銀の美女がいた。その美女の前にいた男が帽子を深く被り直し、去っていった。

「泣いてる」
「あぁ、そうだな。それと、今の男はアガタだ」

 カレトワの隣で、ロッドは自身の顎を触りながら考える。

「アガタって聞いたことあるけど、誰だっけ?」
「メッセンジャーとなる人材を育成する組織メゼンジャーの長だ。取引がオレ達みたいな魔王軍幹部とか、魔王そのものとか、勇者とか。そういう時に出張ってくんだ」
「ってことはだよ。あの美人なお姉さんは」
「関わるとヤベー系のお姉さんだ」
「とはいえ、関わらないのは無理よね」
「え?」

 ロッドがカレトワの指先を見る。アスミンが美女に話しかけている。

「私の夫が亡くなったのです」

 美女の言葉が重すぎてアスミンでは手に負えない。あれは助けなくては収拾がつかないだろう。

「何があったのか聞かない方がいいか?」

 ロッドの言葉を聞いて、涙を拭った。

「別に構いませんよ。そのカゴメの特選アップルパイでお茶してくれるなら」

 ちょっとした冗句を言える程度には心が壊れていないようだ。最初からこうなるのが分かっていたような対応だ。

「家に上がっていって? 元幹部さん?」

 カレトワとロッドは本気で逃げられなくなった。精神的にも肉体的にも。
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