メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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24.深層の備え

4.幻視の夜

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 洞窟を抜けると、日が傾いていた。

「野宿だな」
「そうね」

 コストイラが警戒しながら、ズンズン森に入って薪を拾っていく。アストロとエンドローゼが草を踏んで均していく。レイドとアシドがテント用に長くて太い枝や蔦を探して集める。アレンはそれらを組み立てる係だ。シキは食料を探している。

 もう旅にテントなどの野宿道具を持って歩くのが面倒になったため、もはや持ち歩いていない。現地調達してしまえばいいという考えになってしまっている。

 アレンが全然高い位置に、テント用の蔦が張れない。

「済まん。オレと役が逆だったな」

 コストイラが蔦を受け取り、木を登って結び付けていく。アレンはえげつなく落ち込みながら、枝葉を拾う。

「アレンの役どころに付いて、真剣に考えなきゃね」
「し、し、司令塔じゃないんでーすか?」
「…………それもそうね。アレンに実動させるのは違うのかもね」

 アストロとエンドローゼがアレンについて考える。コストイラとアレンが集めた枝と石で調理の準備をしていると、ドンと空気も地面も震えた。
 アレンがもの凄くキョロキョロしている。

「シキが魔物と接敵したみたいだな。もう決着しそうだけど」

 ズルズルと音が近づいてきた。目を向けると、シキが現れた。何か大きなものを引き摺っている。
 人型をしており、腹の上に木製の靴、ブロンズの剣と楯、頭が乗っかっている。

「ブロンズはいいわね。熱伝導率がそれなりにあるから調理がしやすいわ」

 その後、どう調理するのかで揉めたり、テントが一つしかなかったり、そのテントが壊れたり、いろいろとあったが、無事野宿に成功できたようで、コストイラ達は眠った。

 アストロは新しく作られたテントから這い出る。ぐっと伸びをして、力を抜いた。

「役割、か」
「どうかされたんですか?」

 頭だけを動かして後ろを見ると、アレンがいた。

「どうしたの? 眠れないの?」
「そうですね。未だに狂いきれていない僕には、衝撃的すぎる食事でしたからね」
「そりゃそうね」

 アストロが膝に肘を置き、手に顎を置いた。いまだにパチパチと火の粉が散る焚火を見つめる。

「役割について話していたのよ」
「役割ですか?」
「えぇ、特に貴方のね」
「アハハ……。追放ですか?」

 アストロはアレンの顔を見て、女子組の眠るテントの中を見て、もう一度アレンの顔を見る。アレンもつらてるようにして女子組のテントを見た。テントの隙間からシキとエンドローゼが見える。エンドローゼがシキに絡みついており、シキが寝苦しそうにしている。

「私はね、パーティ編成にテンプレートなんてものはないと思っているわ」
「はぁ」
「アレンはグランセマイユって知っている?」
「いいえ、知りません」

 宙を見つめたままのアストロの疑問に、アレンは素直かつシンプルに答える。

「グランセマイユは魔法使いだけで構成された、都合4人の魔術結社よ」
「僕は魔法使いについて明るくないので分からないのですが、4人ってどうなんですか?」
「異常に少ないわ。普通は100人規模。少なくとも50人はいるわ。でも、4人で成り立った」
「凄い4人ですね。歴史に名を残した人とかいないんですか?」
「そうね。唯一レンオニオールぐらいかしら」
「あの<異世界人>ゴートの遺した辞書の編纂をしたとされている?」
「えぇ、そうね」

 おぉ、とアレンが目を輝かせている。グランセマイユの中で唯一会ったことがないレンオニオールに思いを馳せながら、アストロが口を開く。

「グランセマイユはその4人でダンジョンの踏破とか魔王とやり合ったりとかしたらしいわ」
「魔法使い4人ですよね」
「えぇ。それでもかなりの量の冒険をしたらしいわ。だからこそ、私は」
「テンプレートはない、と」
「そうね」

 アレンが虚空を見ながら、コリコリとこめかみを掻いた。

「貴方にも役割があるわ。きっとね」

 そう言うと、アストロは立ち上がり、テントに戻っていった。




 その魔法使いには夢がある。

 チャラチャラとした見た目をしているが、幼い頃からその夢を追い続けている。

 その夢はいつか憧れた人達のようになるというものだ。

 憧れは、憧れた時点で辿り着けない。それは理解している。憧れた時点で思い出となり、美化され、現実は湾曲されて乖離するからだ。

 それでもその魔法使いは憧れた。
 憧れに近づこうとした。

 だからこそ、今日、この日を待ち望んでいた。
 憧れに手を伸ばす日を。
 憧れに指をかける日を。
 憧れに目を向ける日を。

 テグは今日、グランセマイユに挑む。





「ん」

 チェシバルの街は恐怖に包まれていても、稼働しなくてはならない。生きていくためには余所者を受け入れなければならない。

 消沈する土産屋の前で、妖艶な女が立ち止まった。

「どうしたの? レイヴェニアさん」
「さん付けは要らぬと言うておるのに。タメ語と敬語が入り混じりて、愛い奴め。ところで、ヴェーは花を摘みに行ってこよう」
『分かりました。我々はこの土産屋にしばらくいますので』
「ウム」

 レイヴェニアは優雅に立ち去った。

 キスレとヲレスタは2人並んで、腕組みをして立っている。

「何で花なんか摘むんだ?」
「さぁな。花を土産にすんのかもな」
「違いますよ、お二方」

 2人の元にため息交じりのサーシャがやってくる。

「じゃあどーいう意味なんだよ」
「花を摘むというのは、御手洗いに行くのを遠回しに言う表現ですよ」
「ほぁー、ほぉー? この土産屋にも便所はあんのに、何で外に行ったんだ?」
「え? た、確かに」

 サーシャは指摘に答えられずに戸惑う。

「あの女にもいろいろあんだろ」
『そうですね。あまり詮索しない方がいいですよ。僕でさえ、彼女のことは底知れない恐怖を感じますから』






「懐かしい恰好をした奴じゃな。何十年ぶりに見たであろうか」
「あん? オレは初対面だぞ」
「貴様はな。そのゴテゴテとした装飾に宝石の数々。似たような恰好をしている奴が、ヴェーの古い記憶にあるのだよ」

 テグはアラビアン風の装飾の数々に手を触れる。グランセマイユのメンバーで、似たような恰好をしていると言えば、おそらくグラッセの事だろう。影響されたのは言うまでもない。

「奴はヴェーに届くために道具に頼ったのだ。奴はヴェーが認める程の魔法使いだ。道具に振り回されることなく、従え使い切ったのは、天晴れな事よ。して? 貴様はどうじゃ?」

 最後の一文だけ、威圧感が増した。レベル120に到達しているテグでも、足が震えてくる。
 テグの付けていた恐怖耐性の魔道具が発動する。そして、テグにのみ許された、固有の魔法を発動させた。

「貴様に合わせてやろう。肉弾戦を縛ってやる。魔法のみじゃ」


 ドンと街が揺れた。


「お、花摘みから戻ってきたな」
「予想以上に時間がかかったわ。済まんな」
「結構踏ん張ったのか?」
「そんな下品なこと言わんわ、死ぞ?」

 キッと睨まれ、ヲレスタは両腕を抱いて身震いした。

「いい目つきだな。惚れ惚れするぜ」
「愛の告白なんぞ。愛い童より貰う以外要らんわ」

 適当な会話を続ける3人に、ショカンが近寄る。

『レイヴェニアさんが戻ってきたのでしたら、出発しますよ』

 今日もショカン一行は魔大陸を目指す。
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