メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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29.暴霊の傷跡

9.燃え盛る顎

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 頭。そう、頭だ。もっと言えば、ドラゴンの頭。

 アレン達は仮にも勇者である。そのため、幾度とドラゴンと相対していた歴史がある。その経験から言うのであれば、奇妙な光景を目の当たりにしているのは確かだ。
 しかし、これまでの経験を活かすのであれば、もう一つの経験を基にしなければなるまい。

 今まで出会ってきた魔物にも、奇妙な奴は他にもいただろう。それを考えれば、不思議ではないのかもしれない。

 しかし、頭だ。どこからどう見ても頭なのだ。

「魔物だって生き物。食物は消化しなくてはいけないはず。消化系がどこなのか気になるわね」
「どう倒すかの方を気にしろよ」
「いや、でも気にならない?」
「ならない! と言えば嘘になるな」
「でしょ?」

 アストロの熱に圧されそうになるが、コストイラはアストロの頭にチョップを叩き込んだ。これで正気に戻らなければ何も手がない。

「そ、そうよね。倒してからも調べられるものね」

 面倒な研究者の面をするアストロに辟易しながら、燃える顎を見る。口の端から炎を出してくる。どう考えても威圧感がある。

 ヘルフレイムが息を吸い込んだ。

 ブレスか砲か分からないが、最大限に警戒しなければなるまい。レイドも前に出る。

 ヘルフレイムが砲を放つ。いや、放ったのは砲ですらないだろう。ただ息を吐いただけだ。その息に周りの空気とともに炎が巻き込まれ、火球を放ったように見える。

「フン」

 レイドが楯で弾いた。それを見たヘルフレイムが一気に火力を上げる。周囲の温度が一気に上がり、温度が消失する。

 カラッと舌や喉の水分がなくなり、痛みまで走る。早く倒さなければミイラが簡単に完成してしまうだろう。
 アストロが水の魔力を練り上げ、一気に放つ。水滴のような魔力がヘルフレイムに届く。

「これでも行けるのね」
「赤い炎は温度が低いからな」
「へぇ、何度?」
「1530℃」
「低いって何かしらね」

 火のスペシャリストの言葉に、アストロが呆れる。それと同時にシキが走り出した。だって、ここで倒せたら、すごく褒められそうじゃん。

「え。シキ?」

 さて、その考えがあっていたのかどうかは置いておく。しかし、その活躍は異常そのものだった。

 ヘルフレイムの目には映らぬ速さで走り、炎をものともせずに近づく。あのセンテンロールに燃やされながらも攻撃意志が絶えないシキだ。ここで速度が緩むことはない。
 対するヘルフレイムはここで緩まないやつを見たことない。だからこそ、対応に困ってしまった。その隙を縫ってシキが距離を喰う。

 ナイフでうまく炎を散らしながら、鱗ごと断つ。

『グォオオオオ』

 腹も喉もないのに、腹の底から喉を震わせるような声を出した。シキは一応見えないだけで体があることを考慮して、ありそうなところをナイフで切る。

 ナイフが空振りする。本当に顎のみの存在のようだ。

 シキに追従するようにコストイラとアシドが向かう。

 アストロの水魔術ではあと一回テクニカルポイントを貯めなければ、致命的な攻撃を繰り出せない。しっかりと集中して水の魔力を溜めていく。

 炎熱系の近くにいるだけで、体温が上がってしまう。槍で少し遠くから攻撃できるとはいえ、そんなのはただの誤差でしかない。
 アストロに頼りっぱなしという状況を改善したいという思いはあるのだが、それが上手くいかない。
 アストロが魔力を放つ。ヘルフレイムに当たり、うまくテクニカルポイントを貯める。これで強力な魔術を放てるようになった。
 それを察知してシキ達が射線上から外れた。

 アストロが水魔術を放とうとする直前に止まった。魔術を放つ直前の魔力に対してかなり敏感な状態だったからこそ、気付けたのかもしれない。

「伏せて!」

 その言葉を不思議に思うことはせずに、素直に従った。アストロの後ろにいたエンドローゼの尻が高い位置にいる。アストロがエンドローゼの尻を叩いた。

「ひう!?」

 エンドローゼの尻が引っ込んだ。

 ドゴンと腹の底に響くような音が襲う。

 壁が破壊された。その延線上にいた燃え盛る顎ヘルフレイムは崖下に落ちていく。どうやらヘルフレイムは飛翔していたのではなく、ただ浮遊していただけらしい。
 大きく開いた壁の穴から、うぞるうぞると粘液状の物が這い出てきた。

 ゼラチナスキューブだ。

「おい、ここって海賊の居城じゃなかったのかよ」
「魔物いすぎだろ」

 コストイラとアシドが怒りを顕にした。
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