メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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30.月の船

7.狂信者の塔

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 ドンドンと森の方で爆発震動が起きている。コストイラやシキが目を細めて観測している。

「どう? 何か見える?」
「何か戦っているっぽいんだけど、よく分かんねぇな」
「七か所で戦っている」

 七か所と呟きながら、アストロが塔を見ている。

「どうする? 首突っ込むか?」
「いやいやいや。そんなことする必要ないですよね? スルーしましょう」
「それが勇者のすることかー」

 コストイラの提案にアレンが激しく噛みつく。その言葉に対して、アシドが棒読みで突っ込んだ。一切そんなことを考えておらず、ただ面白半分で首を突っ込みたいのだろう。どっちが勇者らしくないのだ。

「私は行きたいわ」
「え?」

 アストロの声音が真剣なそれで、一切悪乗りの要素がない。何か理由があるのだろう。

「どうした? いつになく真面目じゃねぇか」
「あの塔に知り合いの魔力を感じているわ。私と同年代なのに先生をやっていた、天才よ。二年で逃げるように辞めていったわ」
「何で辞めたんだ?」
「確定していないから分からないけど、天才すぎたのよ。周りが理解できずに苦しんだんでしょうね」

 憐みの目を塔に向ける。

「戦いに興味はないけど、パズレイスには会っておきたいわ」
「そんなことさせません」

 アストロ達の前に現れたのは、大鎌を持った青年。綺麗なターコイズの瞳に、アストロが目を細める。

「バビペンズ」
「おや、誰かと思えば、泥棒蛇ではないですか」

 アストロが睨むが、バビペンズは意に介さず煽ってみせた。

「腰巾着の貴方がいるということは、確定ね。あの塔にパズレイスがいる」
「先生をつけろ、泥棒蛇」

 バビペンズが地面を抉った。
 コストイラとシキが前に出ようとするのを遮り、アストロが前に出る。

 バビペンズは笑みを浮かべた。アストロといえば、学舎では有名な女だ。その特徴は全知無能と揶揄されていた。貪欲に魔術を吸収し、自身よりも優秀な者から技を盗んでいた。それに対して体術はからっきし。それがアストロ。狡猾に盗んで自分のものにするから”泥棒蛇”。
 そんな全知無能が前衛で何をするというのだ。

 その時気付いた。アストロには左腕がない。抵抗すら危ういのではないか?

 勝った!

 ピッ。

「あ?」

 大鎌が止まった。アストロは大鎌を、右手の親指と人差し指で摘まんでいるだけ。まさか、それだけで止まっているのか?
 両足で踏ん張って、奥へと押し込もうとするが、進まない。それどころか引き戻すことすらできない。アストロにここまでの力があったのか?

「フ」

 アストロが左脇腹を蹴った。拙い蹴り。何も習っていない素人の、非効率的な蹴り。
 だというのに、骨に罅が入った。バビペンズの目が開かれた。
 思わず大鎌の柄から手を放して、距離をとっていく。痛みで姿勢で崩れて膝を着いた。

 ここで、レベル差について考えてみよう。

 まず、人間の平均的なレベルが50だ。こんなに高いのはレベルが三桁になる化け物が増えたからだ。普通は20,30で終わる人の方が多い。というよりほとんどだ。レベル一桁で死ぬ者も少なくない。
 理由はレベルを上げるための方法にある。レベルを上げるためには魔物を倒さなければならないのだ。
 常に死が隣り合わせなのだ。負ければ死ぬ。それなのに戦い続ける者は狂人と言わざるを得ない。
 だからこそ、レベルが2,30で終わるのが普通なのだ。

 そのため、バビペンズのレベル60はとても高いレベルなのだ。

 レベル2,30で中堅となり、レベル4,50で上級と呼ばれるようになる。レベル100に到達しているサヒミサセイやレンはもはや狂人だと恐れられ、120を超えるシキやアレンは世間では伝説級とされ、800を超える者は確認されていないが、神話の生き物だと言われる。

 レベル60のバビペンズとレベル600越えのアストロでは戦いにならない。

 バビペンズは魔力を固めた塊をアストロの顔面にぶつけようとする。アストロは平然と躱し、拳を固めた右手を腹に叩き込んだ。
 バビペンズの口から胃の内容物が吐き出された。腹を押さえながら、地面をジタバタと暴れながら、海老反りする。口から唾やら何やらが出ているが、ここで意地が出てくる。

 アストロの首を絞めようと手を伸ばす。アストロは右手を伸ばして、顔面を掴んだ。

 瞬間的に死を見た。

「う」

 バビペンズは失神した。




 ドォーン。

「音がすごいわね。戦いの激化を感じるわ」
「何をやっているのか、よく分かっていないけどな」
「助けに行くか?」
「いいえ、行かないわ。パズレイスに会いに行く」
「待って」

 シキがアストロを止めた。なぜ止めるのか、とシキを睨む。シキは意にも介さず、小石を投げた。
 小石が地面にぶつかる。その途端に爆発した。

「あちこちに爆弾」
「知っているわ。あの天才なら地雷として埋める。先回りして仕掛けてくるなんて、らしいわね」

 アストロはどこか納得しているようだが、他六人は訳が分からない。

「何者だよ、パズレイス」
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