メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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30.月の船

8.混沌を喚ぶ

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 パズレイスは天才だ。学舎に六歳で入学し、通常八年間かけて卒業するところを、三年で卒業した本物である。飛び級に飛び級を繰り返し、先生にも気に入られた。
 そのまま最年少で学舎の先生を任された。十歳で先生に選ばれたことからよく舐められていた。

 パズレイスはその性格から、先生を続けることができず、二年で辞めてしまった。

 この二年間、アストロはパズレイスとは時期が重なっている。生徒と先生という立場であるが、会ったことがある。数度、指で数えられるほどしか会話したことがない。
 しかし、会話をしたことがある。その時の印象はやはり天才。そして、社会不適合者。

 アストロは何とか付いて行ったが、パズレイスは会話が上手くできない。頭が良すぎて会話の先読みができてしまう。そして、相手もそれができると考えてしまっており、うまく軽い雑談すら難しい。

 それは戦闘においても発揮される。

 彼の罠は避けるのが難しくなる。




 アストロはフラフラと歩いている。どこか千鳥足で頼りなく見えるが、すべて地雷を躱すための足取りだ。

 シキやコストイラが気を張っているが、アストロは一切踏まない。アシドやレイド達はシキやアストロの歩いた後を歩く。

「何で分かるんだ?」
「あの先生の考えだと、埋めそうな位置が分かるわ。完璧じゃないけどね」
「足取りに迷いがないように見えるんだけど」
「迷いはあるわよ。でも、迷わせる時間を作るのも向こうの手よ。迷っている時点で死の確率が上がってしまうわ」
「とはいえ、もうちょっと慎重に行けよ」

 迷わずに歩くアストロにコストイラが呆れてしまう。

「5,6回くらいなら大丈夫よ」
「じ、じ、自分の体を、犠ー牲にしようと?」

 マズイ。アストロの背に冷たいものが走る。天罰が来る? くる? 大丈夫? エンドローゼの状態によってはフォンの天罰がやってくることになる。

 しかし、それでもパズレイスには会っておきたい。あの天才は放っておくと、碌なことをしない気がする。というか、その結果があの警邏との戦いなのだろう。

「な、何だ、お前等」

 塔の前にいた人の一人が、アストロ達に気付いた。男が目を細める。

「まさか、アストロ?」
「アストロだと?」
「あの泥棒蛇の?」
「そういえば、泥棒蛇ってどういう意味なんだ?」

 眉を顰め始める男達を前に、コストイラが疑問を口にした。

「フン!」
「ブッ!?」

 アストロが聞かれたくないのか、コストイラの脇腹を蹴った。

「へっ。アストロは体術がからっきしのはずだ」
「ペッ! 一気に行くぞ!」
「おう!」

 男の一人が希望を見出し、二人目が唾を掌に吐き、しっかりと大斧を握りしめた。三人目はただ返事をして突っ込んだ。

 アストロは足払いをして、浮いた体の首裏に手刀を下ろした。地面に一回バウンドして俯せに気絶した。
 一発で倒されてしまった。二人の男が動きを止めた。アストロが強すぎる。学舎にいた時のアストロと違いすぎる。学舎にいた頃はスタミナや機敏性がなく、対人戦が弱かったはずだ。
 だというのに、この力。この実力差はどこで生まれたのだ。

「う、うわぁあああ~~!」
「っ!?」

 二人の男が逃げ出した。

「止まりなさい!」

 その声に動きを止める。ギギギと錆びた機械のように首を動かし、声の主を見た。そこにいたのは、レベル57のサンク国警邏実動部隊隊長ティエナ・パラレルだ。

 アレン達は見ても分からない。しかし、男二人は震え上がった。

 アストロは興味を失ったようで、視線を切って塔の方へと歩き出した。

「バルムク達はこの二人を縛ってくれ」
「はい!」

 バルムク達は二人の男の手首を紐で結んでいく。ティエナはアレン達に近づきながら話しかける。

「貴方達は何者? 私はサンク国警邏隊の実動部隊の隊長をしているティエナ・パラレル。あの塔に用があってって、もう近づいてる!?」

 塔の方を見た隊長が目を剥いた。すぐに駆け寄ろうとして、止まった。アレン達の方を見ている。監視という意味では当然の警戒だろう。

 シキが関係ないとばかりに行動する。小石を素早く拾い、アストロに間に合うように投げた。

 小石はアストロの体を抜かし、塔の扉に当たった。

 爆発。

 扉にも爆弾が仕込まれていたらしい。それに気付いていたのか、アストロは堂々と進み、塔の内部へ入っていった。

「わ、私達は少数しか集まれていないが、突入するぞ! ついてこい!」
「はい!」
「オレ達もいくか」

 駆け出すとかきを見て、コストイラ達も走り出した。
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