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31.サディスホユー

1.地底の死海

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「よっしゃ~! 海だァ!!」

 アシドが両腕を振り上げ、思い切り叫んだ。

 青い空、白い雲、心地よい音を響かせる波。今、アレン達は来ていた。

 なぜここに来ているのかと言えば、ディーノイに教えてもらったからだ。森を抜け、湖に沿う祠を通り過ぎ、二つ目の森を抜けると、サディスホユーに辿り着くらしい。
 そのため、森を抜けたのだが、予想通り、アシドがはしゃぎだした。
 もう面倒くさすぎて、皆無視しているが、おそらく海はアシドにとって精神安定剤だ。それだけ、何かに縋っていないとやっていけなくなってしまったのだろう。可哀想なアシド。

 とはいえ、勇者一行は全員が精神安定剤を持っている。アレンを除いて。アレンは基本的な精神安定剤になっていないため、常にネガティブになっている。

「ここ、海じゃないわよ」
「えぇ!? マジで? じゃ、何?」
「湖」
「マジかよ。向こう岸見えないぜ」

 アシドが手で笠を作って眺めているが、霞んでしまっていて、何も見えない。

「あれは向こう岸じゃなくて浮島だしな」
「その浮島、動かなかったか?」

 レイドがスッと目を細め、浮島を観察する。見えない。また置いてきぼりだよ。

「確かに、何か、動いているような、いないような」
「どっちよ」
「動いている」

 シキの言葉で緊張が走る。

「もっと言えば、こっちに来ていやがるぜ」

 コストイラは刀を抜きながら前に出た。

 浮島がこちら側に向かってくる。アレンにもようやく認識できた。

 ドプンと浮島が沈む。

 ボコ、と大きな泡が出てくる。出現する。そう思い、集中力を高めていく。
 ドサパンと巨体が現れた。巨大水妖渦潮カリュブディスだ。

 コストイラがカウンターを狙う。カリュブディスが口元をもごもごとし始める。何かを吐き出す気だ。レイドが楯を持って前に出た。何が出ても、守り通してみせる。

 巨大水妖渦潮カリュブディスがペッと何を吐き出した。カランと鉄剣が落ちた。その後、何の行動もしない。

「は?」

 攻撃してこないのは予想外だ。ずっとこちら側を見ている。何だ? 何がしたいのだ?
 レイドもどうすればいいのか分からず、警戒心を高めていく。
 カリュブディスの綺麗な青の瞳がこちらを射抜いている。

 緊張が走る。しかし、そこにどこか奇妙な違和感を覚えた。言葉にできない、どこか気持ち悪い感覚。いったいこれは何だ?

 穏やかにこちらを見ているカリュブディスが口を開いた。今度こそ攻撃かと警戒し、腰を落とした。
 巨大水妖渦潮カリュブディスが体を縦にして、沈んでいった。

 何もしてこない。

 勝手に緊張し、勝手に警戒し、勝手に敵対した。そして、勝手に疲れた。何をしているんだ?
 様々なものと敵対することで気付いた。アレン達は出会った相手全てが敵対者であると考えてしまっている。

 考え方が変わってきている。自分の感覚が狂ってしまっている。これを自覚するたびに思ってしまう。普通と呼ばれる社会に戻ることができるのだろうか。

「何を置いて行ったんだ?」

 何事もなかったように、コストイラが鉄剣を拾い上げた。

「ただの剣か?」
「そんなわけねェだろ。じゃなきゃ、魚の骨でも引っかかったみてぇに吐きだしただけになっちまう」
「ん? 紋章か?」

 レイドが柄の底についていた彫り物を見つけて首を傾げた。

「これはドレイニ―のものだ」
「ドレイニ―? なんであの帝国の物がここにあるんだよ」
「もしかしたら、この土地はもともとドレイニ―帝国が保有していたのかもしれないな」
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