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32.次元の狭間
3.黒炎巨人
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コントをする二匹の視線の先に、黒色の肌をした巨人がいた。赤を煮詰めた際にできそうな黒だ。
何をしているのかよく分からないが、関係性はおそらく主従。もしくは飼い主とペット。
スルトが異常に太い腕を手すりに置き、こちらを窺っている。ここまでされると考えてしまうことがある。もしかして魔物には人間の言外で通じる言語を持っているのではないか。もしくは可聴音を超えたところでの会話をしているのか。
しばらく見つめ合うと、バサリとインフェルノが翼を大きく広げ、フレアドラゴンは口を大きく開けた。
一体何の会話をしていたのかは分からないが、通じ合ったようだ。
インフェルノを乗せたままのフレアドラゴンが勇者一行を無視して塔の中に入っていった。本当に何だったのだろう。無視されるのは屈辱的だが、無駄に追うことはしない。
「おい、コストイラ。追わねぇって顔しながら、何してんだよ」
アシドに言われて状況に気付く。コストイラは塔に入ろうとしていた。
侵入者がいる。それを感じ取った黒炎巨人はフレアドラゴンとインフェルノに伝え、塔内を歩いていた。
一人は男。こちらは正式な客人だ。決して侵入者などではない。休憩をさせてほしい、という要求があり、休ませている。今、確認したが、よく眠っていた。
もう一人が正体不明なのだ。そいつを確認しに向かっている。
スルトが巨体を小さく縮めながら最上階に辿り着く。
小心者である彼は小さく深呼吸をして、扉に手を掛けた。自分の心臓がうるさい。外に聞こえてしまっているのではないかと考えてしまう。この鉄の扉が、熱や電気のように心臓の鼓動まで伝達してしまっているのではないか、と信じてしまう。
もう一度深呼吸をして、心臓を落ち着かせる。大丈夫だ。大丈夫、私は強い。そして、秘密兵器だってある。
秘密兵器は炎竜と蒼炎大鳳が起動しに行ってくれている。
強力な後ろ盾がある。それだけで心がいくらか軽くなった気がする。
よし、行こう。
スルトは短く息を吐くと、戸を勢いよく開けた。戸が壊れてしまいそうな勢いで開けることで、相手を威嚇するのだ。
『ム?』
スルトの目に飛び込んできたのは、口をロゼ色に染まった白黒の妖艶な女だった。
カンジャは不機嫌だった。
急に知らない男に、お前はもう死んでいる、と告げられたのだ。むしろ不機嫌にならない方がおかしい。
カンジャはズボンのポケットに手を突っ込んで、ホキトタシタを睨む。ホキトタシタは何もされていないかのように涼しい顔をしながら、こちらを待っている。
待っているのならば好都合。ゆっくりと相手を殺すための魔力を練れる。
ホキトタシタはカンジャの行動が終了するのを待つ。その方が相手の心が折れるからだ。
ホキトタシタが緑の目を光らせる。カンジャは珍しいという感想しか抱くことはなかった。
この苛立ちを、怒りをすべて目の前の男にぶつけてやる。
ホキトタシタの右眼が閉じた。ホキトタシタの目は魔眼であり、その瞳は魔力を捉えることができる。
その魔力が教えてくれている。カンジャは怒っている。
アンガーマネージメントの観点から言えば、カンジャの行動は間違っている。怒っている時、物に当たることは逆効果だ。
頭に血が上り、つい手元にある物を投げたり壊したりなど、感情の赴くままに怒りを表現し、ストレスを発散しようとするアプローチはあまり良くない。このアプローチの根幹は、胸に怒りを溜め込むのではなく吐き出すことで、幼少期のトラウマや感情の痛みを軽減させることだ。よくされるアドバイスが、枕に攻撃することだ。
有害な怒りを溜め込むくらいなら、憎たらしい相手の顔を想像して枕やバッグを殴り、叫んだり、罵ったりすればいい。
一見、気分的にはスッキリするかもしれない、という気がするが、これは全くの逆効果なのだ。
怒りを直接的にその人に向けたり、間接的にものに当たったりすることで、怒りを表現すると、自身の攻撃性をヒートアップさせることになる。
つまり、今カンジャは冷静ではない。
何をしているのかよく分からないが、関係性はおそらく主従。もしくは飼い主とペット。
スルトが異常に太い腕を手すりに置き、こちらを窺っている。ここまでされると考えてしまうことがある。もしかして魔物には人間の言外で通じる言語を持っているのではないか。もしくは可聴音を超えたところでの会話をしているのか。
しばらく見つめ合うと、バサリとインフェルノが翼を大きく広げ、フレアドラゴンは口を大きく開けた。
一体何の会話をしていたのかは分からないが、通じ合ったようだ。
インフェルノを乗せたままのフレアドラゴンが勇者一行を無視して塔の中に入っていった。本当に何だったのだろう。無視されるのは屈辱的だが、無駄に追うことはしない。
「おい、コストイラ。追わねぇって顔しながら、何してんだよ」
アシドに言われて状況に気付く。コストイラは塔に入ろうとしていた。
侵入者がいる。それを感じ取った黒炎巨人はフレアドラゴンとインフェルノに伝え、塔内を歩いていた。
一人は男。こちらは正式な客人だ。決して侵入者などではない。休憩をさせてほしい、という要求があり、休ませている。今、確認したが、よく眠っていた。
もう一人が正体不明なのだ。そいつを確認しに向かっている。
スルトが巨体を小さく縮めながら最上階に辿り着く。
小心者である彼は小さく深呼吸をして、扉に手を掛けた。自分の心臓がうるさい。外に聞こえてしまっているのではないかと考えてしまう。この鉄の扉が、熱や電気のように心臓の鼓動まで伝達してしまっているのではないか、と信じてしまう。
もう一度深呼吸をして、心臓を落ち着かせる。大丈夫だ。大丈夫、私は強い。そして、秘密兵器だってある。
秘密兵器は炎竜と蒼炎大鳳が起動しに行ってくれている。
強力な後ろ盾がある。それだけで心がいくらか軽くなった気がする。
よし、行こう。
スルトは短く息を吐くと、戸を勢いよく開けた。戸が壊れてしまいそうな勢いで開けることで、相手を威嚇するのだ。
『ム?』
スルトの目に飛び込んできたのは、口をロゼ色に染まった白黒の妖艶な女だった。
カンジャは不機嫌だった。
急に知らない男に、お前はもう死んでいる、と告げられたのだ。むしろ不機嫌にならない方がおかしい。
カンジャはズボンのポケットに手を突っ込んで、ホキトタシタを睨む。ホキトタシタは何もされていないかのように涼しい顔をしながら、こちらを待っている。
待っているのならば好都合。ゆっくりと相手を殺すための魔力を練れる。
ホキトタシタはカンジャの行動が終了するのを待つ。その方が相手の心が折れるからだ。
ホキトタシタが緑の目を光らせる。カンジャは珍しいという感想しか抱くことはなかった。
この苛立ちを、怒りをすべて目の前の男にぶつけてやる。
ホキトタシタの右眼が閉じた。ホキトタシタの目は魔眼であり、その瞳は魔力を捉えることができる。
その魔力が教えてくれている。カンジャは怒っている。
アンガーマネージメントの観点から言えば、カンジャの行動は間違っている。怒っている時、物に当たることは逆効果だ。
頭に血が上り、つい手元にある物を投げたり壊したりなど、感情の赴くままに怒りを表現し、ストレスを発散しようとするアプローチはあまり良くない。このアプローチの根幹は、胸に怒りを溜め込むのではなく吐き出すことで、幼少期のトラウマや感情の痛みを軽減させることだ。よくされるアドバイスが、枕に攻撃することだ。
有害な怒りを溜め込むくらいなら、憎たらしい相手の顔を想像して枕やバッグを殴り、叫んだり、罵ったりすればいい。
一見、気分的にはスッキリするかもしれない、という気がするが、これは全くの逆効果なのだ。
怒りを直接的にその人に向けたり、間接的にものに当たったりすることで、怒りを表現すると、自身の攻撃性をヒートアップさせることになる。
つまり、今カンジャは冷静ではない。
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