メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
573 / 684
32.次元の狭間

3.黒炎巨人

しおりを挟む
 コントをする二匹の視線の先に、黒色の肌をした巨人がいた。赤を煮詰めた際にできそうな黒だ。
 何をしているのかよく分からないが、関係性はおそらく主従。もしくは飼い主とペット。

 スルトが異常に太い腕を手すりに置き、こちらを窺っている。ここまでされると考えてしまうことがある。もしかして魔物には人間の言外で通じる言語を持っているのではないか。もしくは可聴音を超えたところでの会話をしているのか。

 しばらく見つめ合うと、バサリとインフェルノが翼を大きく広げ、フレアドラゴンは口を大きく開けた。
 一体何の会話をしていたのかは分からないが、通じ合ったようだ。
 インフェルノを乗せたままのフレアドラゴンが勇者一行を無視して塔の中に入っていった。本当に何だったのだろう。無視されるのは屈辱的だが、無駄に追うことはしない。

「おい、コストイラ。追わねぇって顔しながら、何してんだよ」

 アシドに言われて状況に気付く。コストイラは塔に入ろうとしていた。




 侵入者がいる。それを感じ取った黒炎巨人スルトはフレアドラゴンとインフェルノに伝え、塔内を歩いていた。
 一人は男。こちらは正式な客人だ。決して侵入者などではない。休憩をさせてほしい、という要求があり、休ませている。今、確認したが、よく眠っていた。
 もう一人が正体不明なのだ。そいつを確認しに向かっている。

 スルトが巨体を小さく縮めながら最上階に辿り着く。
 小心者である彼は小さく深呼吸をして、扉に手を掛けた。自分の心臓がうるさい。外に聞こえてしまっているのではないかと考えてしまう。この鉄の扉が、熱や電気のように心臓の鼓動まで伝達してしまっているのではないか、と信じてしまう。
 もう一度深呼吸をして、心臓を落ち着かせる。大丈夫だ。大丈夫、私は強い。そして、秘密兵器だってある。
 秘密兵器は炎竜フレアドラゴン蒼炎大鳳インフェルノが起動しに行ってくれている。
 強力な後ろ盾がある。それだけで心がいくらか軽くなった気がする。

 よし、行こう。

 スルトは短く息を吐くと、戸を勢いよく開けた。戸が壊れてしまいそうな勢いで開けることで、相手を威嚇するのだ。

『ム?』

 スルトの目に飛び込んできたのは、口をロゼ色に染まった白黒の妖艶な女だった。




 カンジャは不機嫌だった。

 急に知らない男に、お前はもう死んでいる、と告げられたのだ。むしろ不機嫌にならない方がおかしい。
 カンジャはズボンのポケットに手を突っ込んで、ホキトタシタを睨む。ホキトタシタは何もされていないかのように涼しい顔をしながら、こちらを待っている。

 待っているのならば好都合。ゆっくりと相手を殺すための魔力を練れる。

 ホキトタシタはカンジャの行動が終了するのを待つ。その方が相手の心が折れるからだ。

 ホキトタシタが緑の目を光らせる。カンジャは珍しいという感想しか抱くことはなかった。
 この苛立ちを、怒りをすべて目の前の男にぶつけてやる。

 ホキトタシタの右眼が閉じた。ホキトタシタの目は魔眼であり、その瞳は魔力を捉えることができる。

 その魔力が教えてくれている。カンジャは怒っている。

 アンガーマネージメントの観点から言えば、カンジャの行動は間違っている。怒っている時、物に当たることは逆効果だ。
 頭に血が上り、つい手元にある物を投げたり壊したりなど、感情の赴くままに怒りを表現し、ストレスを発散しようとするアプローチはあまり良くない。このアプローチの根幹は、胸に怒りを溜め込むのではなく吐き出すことで、幼少期のトラウマや感情の痛みを軽減させることだ。よくされるアドバイスが、枕に攻撃することだ。
 有害な怒りを溜め込むくらいなら、憎たらしい相手の顔を想像して枕やバッグを殴り、叫んだり、罵ったりすればいい。
 一見、気分的にはスッキリするかもしれない、という気がするが、これは全くの逆効果なのだ。

 怒りを直接的にその人に向けたり、間接的にものに当たったりすることで、怒りを表現すると、自身の攻撃性をヒートアップさせることになる。

 つまり、今カンジャは冷静ではない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...