旧世界、世界樹の下で

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週末の角合わせ

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 遠い昔、神々が戦争を繰り返していた時代が終わり、人々は急速に繁栄した後緩やかに衰退を始めていた。衰退を始めた人類はいつ来るか分からない終焉おわりに怯えて暮らしていた。そんな中人類の間ではいずれ来る終わりに対抗するために【救済教】と呼ばれる教団が人々の心から不安を取り除いていると言われていた。
 そんな終わりが来る時代にとても大きな木が一本生えていた。それは【世界樹】と呼ばれその付近の村では来る終末を救ってくれる存在だと言われていた。
 今日も一人青年が世界樹の根元で本を読んでいた。少年の髪の毛を遊ぶ様に風がサアサアと通り抜けていく。

「今日もいい天気だね」

 青年は誰にいうわけでもなくその木にそっと身体を預けて撫でる風を心地良さそうに感じている。

「俺しか居ないんだから姿を見せたら良いのに」
「そうですね……今日はきっと貴方しか来ないでしょうから」

 そう女性の声が聞こえると青年の目の前に長い栗色の髪を長く三つ編みに結えた女性が姿を表す。この様子だけでも人ではないと言えるだろうが、それ以外にももう一つ、彼女には人には無いものがあった。それは立派な角を二本頭から生やしていた。
 その女性はゆっくりと青年に近づき彼の隣にそっと腰掛ける。そして角を青年の頭にそっと触れさせふふふと笑う。

「そんなことしても俺には意味ないよ」
「そうかも知れませんが、気持ちです」
「変な龍だな……まぁ君がそれで良いなら」
「えぇ、これで良いんです」

 青年は彼女が会うたびにするこの行為の意味を彼は最近まで知らなかったが、これは彼女——フレースベルグである彼女ともう一匹の龍マスクドワンの間でしか行えない情報共有の行為。仲の良い龍同士でしか出来ないこの行為をなぜか彼女は角の無いただの人間である青年——マルクにも行っている。当然ただの人間なので何の情報も伝わって来ないのだが、じんわりとその温もりだけは伝わってくるので、きっとこれが彼女なりの感情表現なのだろうとマルクは思うことにしている。

「ねぇ、もう一匹……マスクドワンは君のこれを容認しているのか」
「そうね、私が無意味な事をしてしまうのをあんまり良くは思ってないでしょうけど、咎めるほどでも無いと思ってるのかも」
「ふぅん……なら良いんだけど」

 時刻は八つ時丁度マルクの村では子供達が親におやつを強請っている頃合いの時間だ。そして、村の掟ではそろそろ世界樹から帰って来なくてはいけない時間になっている。何故そうなっているのか、その掟が決まったのがかなり昔なので誰もその理由を知らない。

「そろそろ帰るよ。それじゃあ」
「はい、それではまた」

 そう言うとマルクは立ち上がり尻に付いた草を払い落とすとフレースベルグに背を向けて村に帰って行った。

「行っちゃいましたね」
「あぁ」

 陰からぬるりと現れたのはブルー・ニュイの髪を長く揺らしながら現れた男は目元を隠す面をつけている。その人物——マスクドワンはフレースベルグの隣に腰掛けると彼女と角を交わらせる。

「またあの人の子と話していたのか」
「えぇ、あの子凄く面白くて」
「程々にしておけ……人の子と近くなり過ぎると辛いのはお前だからな」
「分かってる……でも、良いの」

 フレースベルグはニコリと微笑むとマスクドワンの手に自分の手を重ねる。そしてそのままギュッと指を絡め握るとまた彼に微笑みかける。
 自分達ドラゴンと人間の寿命の尺度が全く違う事くらいよく分かっている。だが、それでも良いと思える位に人間の事を愛しており、共に寄り添っていたいと思っている。

「そろそろ、日が暮れちゃうわね……」
「あぁ……」
「もう、ねな、くちゃ……ね」

 地平線にゆっくりと日が沈み二人の影が長く伸びやがて重なり一つになる頃にはもうフレースベルグの姿は木の根元には無く、マスクドワンの姿だけがあった。

「おやすみ愛しいヒト……また明日」
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